21 宰相の息子オズワルド・クレイトン
少女漫画『リリアナ王女はくじけない!』の記憶によれば、オズワルド・クレイトンはなんでもそつなくこなせる天才肌ゆえ、あらゆることに興味が持てず、ただへらへらと笑って日々をやり過ごしていたのだが、リリアナに「オズっていつも本気で笑ってないでしょ」と見抜かれて、初めて他人に興味を抱く。そして「私、いつかオズの本当の笑顔を見てみたいな!」と言うリリアナのことを心から愛するようになっていく。
そんなオズワルドがアレクサンダーたち他の主要キャラクターと一線を画しているのは、リリアナを異性として愛するのみならず、仕えるべき主君としても心酔している点である。
彼は物語の序盤から「僕が宰相として仕えたいのはリリアナ殿下だけだよ」と繰り返し公言しており、そのたびにリリアナが「もう、オズったら冗談ばっかり! 私は女王なんて堅苦しいもの柄じゃないって言ってるでしょ!」と笑い飛ばすまでがお約束だが、彼の発言がけして冗談などではないことを、読者はみんな知っている。
先ほどのアスラン王の血を「誰よりも」色濃く受け継いでいるという発言にしてみても、「理想の王」「王の中の王」というアスラン王の位置づけを踏まえてみれば、言外に「ユージィンよりもリリアナの方が次期国王に相応しい」という意を含んでいるのは明らかだ。
「アスラン王か……確かになぁ」
「アスラン王が邪神を倒した魔法ってこんな感じだったのかも」
生徒たちの囁き声に、ライナス・アシュトンがぎりぎりと奥歯を噛みしめる。
ちなみにアシュトン侯爵家はかつて宰相職を務める名門中の名門だったが、数代前に政争でクレイトン侯爵家に敗れて以来、斜陽気味だと言われている。先ほどの「いくら僕が気にくわないからって」という科白にはそういう揶揄が含まれているわけだが、ライナスがオズワルドを毛嫌いしているのは、ことあるごとに「ユージィンよりもリリアナの方が次期国王に相応しい」と周囲に印象付けようとするオズワルドの強引なやり口ゆえだろう。
(今回なんかユージィン殿下のいるところでやるんだものね。ライナス・アシュトンが怒るのも無理ないわ)
しかし「興奮してつい言ってしまった」ていをとっているため、あまり咎めだてし辛いし、しつこく騒ぎ立てればかえってユージィンとリリアナの魔力量の差を周囲に印象付けてしまう。オズワルドにしてみれば、まさに「してやったり」といったところか。
ただひとつ、彼に誤算があるとすれば――。
「次は私にやらせてくださいませ!」
まだ教室内の興奮冷めやらぬ中、クローディアがぴしりと右手を上げた。