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20 主人公リリアナの実力

 今日のテーマは火魔法である。これまでの授業では結界魔法や探索魔法、身体強化といった比較的危険の少ない魔法が扱われていたが、今日はいよいよ攻撃魔法の華とも言うべき火魔法を学ぶとあって、教室内には静かな緊張が漂っていた。

 まずはモートンの指導に従って、火球を作って空中に浮かせたり、大きくしたり小さくしたりといった基本操作が行われた。すんなり成功する者もいれば、うまくいかずに四苦八苦する者もいて、両者の比率はおよそ半々といったところか。

 クローディアは自宅で教科書を丹念に読み込んでコツを頭に叩き込んできたので、見事に課題をクリアすることができた。ユージィンやルーシーはもちろん、ライナスも当然のように成功している辺り、彼も成績優秀者なのかもしれない。


 モートンは教室内を回りながらそれぞれの火球をチェックして、ノートに平常点を書き込んでいったが、途中でふと足を止めた。


「上手くいかないんですか? リリアナ殿下」


 見ればリリアナが火球を作れずにとまどっているようである。その両隣にはお馴染みのアレクサンダーとフィリップが陣取って、それぞれ気遣うようにリリアナの手元を覗き込んでいる。


「だって先生、こういう細かい作業って頭が痛くなるんだもの」


 リリアナが口をとがらせる。


「仕方ありませんね。もう一度説明するから良く聞いていてください。いいですか。まずは魔力を指先に集めて――」


 モートンが懇切丁寧に指導すると、リリアナの手元にようやく火球が出現し、「あ、出来た! 出来たわ先生!」というはしゃいだ声があがった。


「今のコツをよく覚えておいてくださいね」

「分かったわ。ありがとう、先生」


 笑顔で礼を述べるリリアナに、モートンは「まあ仕事ですからね」と軽く肩をすくめて見せた。

 そこだけ切り取れば実に微笑ましいやり取りなのだが、他の生徒は上手くできなければ平常点を引かれるだけだったことを思うと、白けた気分にさせられる。


 その後モートンは淡々とした採点作業を再開したが、唯一クローディアに対しては「たまたま成功したことに浮かれて、火球を周囲の人にぶつけたりしないように気をつけなさい」と厭味ったらしく注意してから立ち去った。

 クローディアの火球は特に注意が必要なほど不安定だったわけではない。むしろクラスの平均よりは上手くいっていた部類である。それなのに、この言いよう。


(本っ当に鬱陶しいわね、あの眼鏡男は)


 クローディアは心の中で毒づきながらも反応せずにやり過ごした。


 授業は着々と進行していき、やがて火炎を的にぶつけるという攻撃魔法の段階に入った。

 モートンはやり方を口頭で説明したのち、「では私が結界を張りますので、一人ずつ前に出て、この的にぶつけてみてください」と持参した的を宙に浮かせて固定した。

 モートンの言葉に、生徒たちから「え、みんなの前でやるの?」「そんな……いきなり言われても」などと不安の声があがる。


「はい、文句を言わない。最初は……そうですね。アレクサンダー・リーンハルト君。皆にお手本を見せてください」


 呼ばれたアレクサンダーは階段を降りて最前列まで進み出ると、先ほどモートンが説明した通り、的に向かって右手をかざした。そしてすうと息を吸い込んだ次の瞬間、彼の手のひらから紅蓮の炎が噴き出して、的を見る間に焼き尽くした。

 その鮮やかさに、生徒たちからほうと感嘆のため息が漏れる。


「結構。さすがですね、リーンハルト君」


 モートンの賛辞にアレクサンダーはすまして一礼すると、胸を張ってリリアナの隣の席へと戻って行った。

 その後、モートンに指名された生徒たちが順番に攻撃魔法を披露していったが、そのほとんどがアレクサンダーの威力には遠く及ばない代物だった。

 この手の攻撃魔法は技術よりももって生まれた魔力量がものを言う。一般に高位貴族ほど魔力が多い傾向があるうえ、リーンハルト公爵家は代々火魔法を得意とする家柄だ。アレクサンダーが人並み外れた実力を発揮したのも当然のことといえるだろう。


 侯爵令息のフィリップ・エヴァンズはアレクサンダーよりは小さいが、他の生徒たちの平均よりは大分大きな火炎を披露した。同じく侯爵令息のライナス・アシュトンも同程度。

 唯一アレクサンダーよりも大きな火炎を作ったのはユージィン・エイルズワースで、さすがは王家の血筋といったところか。

 一方ルーシー・アンダーソンは用意された的に焼け焦げを作る程度にとどまった。座学や繊細な魔力操作はトップクラスである反面、この手の力技はあまり得意ではないのかも知れない。

 そしてついにこの世界の主人公、リリアナ・エイルズワースの名前が呼ばれた。


「はぁい、先生」


 リリアナは元気よく返事をすると、弾むような足取りで階段を一気に駆け降りて、最前列へと進み出た。


「リリアナ殿下、教室内で走らないでください」

「ごめんなさい先生、だって待ちくたびれちゃったんだもの」


 リリアナは茶目っ気たっぷりに舌を出すと、「それじゃ、いきますね!」と的に向かって右手をかざした、次の瞬間。これまでの誰よりも大きな――ユージィンの倍近い大きさの火炎が勢いよく噴き出して、的に向かって襲い掛かった。

 その凄まじさに、教室内からどよめきが上がる。

 ようやく火炎が収まったときには、用意された的は跡形も残っていなかった。


「あれ、私、なにかやっちゃいました?」


 こてんと首をかしげるリリアナに、モートンはやれやれとばかりにため息をついた。


「なにかやっちゃいました? じゃありませんよ。ご自分のとんでもない魔力量を自覚なさってくださいよ。本当に仕方のない王女殿下ですね!」


 そこにお調子者のフィリップが「すげぇなぁ、さすが我らがリリアナ殿下だ!」と歓声を上げ、アレクサンダーも「やっぱりリリアナ様は規格外だな!」と高揚した面持ちで賞賛する。

 他の生徒たちもこぞってリリアナの火炎を褒め称える中、ひときわ大きな声が教室内に響いた。


「いやはや全くすさまじいね。この魔力量からしても、やっぱりリリアナ殿下は誰よりもアスラン王の血を色濃く受け継いでいるに違いないよ」


 その科白は、リリアナのいた席の後ろに座っている薄茶色の髪の美青年から発せられたものだった。


「クレイトン、軽々しくアスラン王の名を出すな、不敬だぞ!」


 すかさずライナスが怒りの声をあげるが、彼は「いやだなぁ、アシュトン君、いくら僕が気にくわないからって、ただの軽口に目くじらを立てないでくれたまえよ」とからかうように言うばかり。

 柔らかそうな薄茶色の髪といつも笑っているような柔和な顔立ち、そしてクレイトンという呼び名、そのいずれもがクローディアにとっては転生前から既知のものだ。

 侯爵令息オズワルド・クレイトン。

 宰相の一人息子にして生徒会書記。そして作者公認の「腹黒キャラ」だ。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
もしかして、リリアナはノーコンで、ユージィンはきっちりコントロールしてただけじゃ?クローディアはどう出るのかな…
>>母校の家庭科を担当するおばさん先生 うちの母校にも違う面で厄介な家庭科のおばさん先生がいました モートンを見て、思い出してイライラしました
リリアナよりデカいだけじゃ芸が無いからリリアナのよりめっちゃ高温の火球出してやれ
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