14 王子様の助け
この学院でリリアナを呼び捨てにできる人物は一人しかいない。案の定、リリアナが視線を向けた先には白皙の美青年がいた。艶やかなプラチナブロンドに紫の瞳。その立ち姿には、どこか辺りを払う威厳がある。
(この人、邪神騒動に巻き込まれて死んでしまう王子様よね……?)
リリアナの異母兄に当たるユージィン・エイルズワースは、『リリアナ王女はくじけない!』においてさほど重要な人物ではない。リリアナが王立学院に転入した数か月後に「留学先から帰国した」という形で物語に登場するものの、顔を合わせれば「王族らしくない」とリリアナに小言を言うばかりで、作中の見せ場は少なかった。というか唯一の大ゴマが死体になったときくらいなので、あまりクローディアの記憶に残っていない。
しかしこうして本物を前にすると、実に印象的な青年である。
「人に強要するのはやめなさい。彼女らは迷惑がっているんじゃないのか?」
ユージィンの叱責に、リリアナは困ったような笑みを浮かべた。
「まあお兄様ったらなにを言ってるの。私は強要なんてしてないわ。お友達をお茶会に誘っているだけよ?」
「私には相手が迷惑がっているように見えたよ。そもそも彼女らはお前の友人なのか?」
「もちろん私のお友達よ。だってクローディアさんとルーシーさんはお友達の大切な婚約者だもの。お友達の大切な人はお友達みたいなものでしょう?」
ユージィンはリリアナの謎理論に答えることなく、クローディアたちに問いかけた。
「失礼だが、君たちはリリアナの友人なのか?」
「いいえ、滅相もございません。リリアナ殿下とお友達だなんてそんな恐れ多いこと、考えたこともありませんし、考えたくもありませんわ!」
クローディアが即答すると、ユージィンは「分かった」とうなずいた。
「リリアナ、やはりお前の独りよがりのようだな。お前はまだ市井の娘でいるつもりなのかもしれないが、今のお前は王族だ。お前が誘えばすなわち命令となる。そのことを自覚して、慎重に行動するように」
「私、そんなつもりじゃ……」
「そんなつもりはなくても、結果としてそうなれば同じことだ」
びしりと言われたリリアナは、ただ無言で目を潤ませた。傍から見ると、まるで意地悪な兄にいじめられている可憐な妹そのものだ。
ユージィンはため息をつくと、クローディアたちの方に向き直った。
「――君たちはもう行きなさい」
「はい。ユージィン殿下、困っているところを助けて下さって、本当にありがとうございました」
クローディアはさりげなく「リリアナのせいで困っていた」ことを強調しつつ、ユージィンに恭しく頭を下げた。





