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二.未知の出会い

どのくらい時間がたったであろうか。フユマルはふっと目を開いた。先程までのときの声が、うそのように静かだ。


(終わったのか・・・)


フユマルは後ろ足を見た。血がにじんではいるものの、傷は浅いようだ。ほっとしたフユマルは、体を起こして立ち上がろうとした。しかし、思うようにいかない。全身にしびれるような痛みがはしる。


(仕方ない。少し休んでいよう・・・)


重く感じる頭を上げ、フユマルは辺りを見渡した。ぼんやりとしたフユマルの目に、景色が映った。


(!?なんだ!?)


フユマルが倒れていたのは、石造りの階段だった。もちろん、ネコの国の階段ではない。あの高い高い城壁も見当たらない。そこにあるのは、眼下に広がる、まばゆいばかりの光を放つ青い海だ。


「ここは・・・どこだ・・・?」


フユマルは思わずつぶやいた。


「ここ?ここはヒカリの国よ。」


ふいに、澄んだきれいな声が聞こえた。フユマルは声のした方を見た。フユマルの倒れていた石段の、三段ほど上に、その声の主がいた。真っ白な猫だ。しかし、見たことのない顔だ。空のような透き通った青い目が、じっとフユマルを見つめている。


「ヒカリの国・・・?」


あえぎながら、フユマルが聞く。


「そうよ。あなた、初めて見る顔ね。どこから来たの?」


白猫の無邪気な話し方に、フユマルはとまどった。王家の一族であるフユマルに、ネコの国の猫達は皆、敬語だったから。


「あら、怪我をしているじゃない。こっちにいらっしゃい。」


白猫は、ひらりと身をひるがえし、石段を上がっていく。


(冗談じゃない!何で命令されなきゃいけないんだ!)


内心むっとしたフユマルだったが、なぜか声が出ない。それどころか、さっきまで動かなかった体が、勝手に白猫を追ってしまう。



白猫は、時々フユマルの方を振り返りながら、軽やかな足取りで石段をトントンと駆け上がっていく。フユマルはよろよろと、必死に後をついていった。 石段を上り切ったとき、フユマルはギョッとした。そこには一軒の家があった。見たことがある。かつてフユマルがヒトの国に攻め込んだ時に見た、家の造りにそっくりだ。


(しまった、ヒトの国だったのか!)


が、あの白猫は、何のちゅうちょもなくその家の門を入っていく。そして、フユマルもなぜか足が止まらない。はうようにその門をくぐったフユマルは、またもやゾッとした。大きな茶色の犬が寝そべっていたからだ。


(イヌの国?)


だが、やはり白猫は、全く変わりのない足どりで犬の前を通り過ぎる。フユマルもついていくしかない。気配を感じたのか、犬が頭をもたげ、フユマルを見た。フユマルは身構えようとしたが、犬は興味ない、といった様子で、再び頭を下ろした。


(何がどうなっているんだ?)


訳が分からず、フユマルは白猫を見つめた。


「ニャーオ」


白猫が家に向かって鳴く。すると、戸が開いた。中から出てきたのは、まぎれもなく人だった。フユマルは逃げようとしたが、どうしても体が動かない。


「ハルミ。おかえり。」


その人は、白猫に優しく声をかけた。上品な感じの老婦人だ。


「どこに行っていたの?ハルミ。」


老婦人は白猫を抱き上げた。ハルミ、と呼ばれたあの白猫は、いやがる様子もない。


「ニャーオ」


ハルミが再び鳴いて、頭をフユマルの方へ向ける。つられるように、婦人も顔を上げた。その目がフユマルをとらえる。フユマルが見たこともない、優しい目だ。


「あら。どこの猫かしら。」


婦人が近づいてくる。フユマルはやはり動けない。いや、動きたくなかった。なぜか白猫がうらやましく見えたのだ。


「まあ、けがをしているわ。かわいそうに。」


婦人はハルミを下ろすと、フユマルに手を伸ばした。その手がそがそっとフユマルを抱き上げる。フユマルはおとなしく、その手に抱かれた。むしろ、抱かれたことがうれしかった。

ふと下を見ると、あの茶色い犬が、婦人を見上げながらしっぽをふっている。


「ハルミ、おいで。」


婦人はフユマルを抱いたまま、家に入っていった。フカフカのタオルをしいて、フユマルをその上に寝かせると、婦人は姿を消した。が、間もなく、水と食べ物の入った皿と、薬箱を持って、婦人が現れた。婦人はフユマルのそばに座り、そっとフユマルの後ろ足に手をふれた。そして、傷口に薬をぬり、包帯を巻く。それから、こわばったフユマルの体をやさしくなで始めた。次第に痛みが消えていくのがフユマルにも分かった。同時に眠気がさしてくる。いつしかフユマルは、静かな寝息を立て始めた。   

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