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7★悪女様は神殿へ行きたい

 神殿に行きたい。


 しかし、悪女ベアトリーチェ・スカーレットの輝かしい功績により、その言葉を真正面からそのまま伝えるのは憚られる。シンプルに周囲に怪しまれるからだ。怪しまれると、行動が制限される恐れがある。行きたいところは神殿だけではないのだ。ここは穏便に済ませたい。

 そのため、こう言った。



「皇帝陛下の生誕記念パーティーに備えてドレスを仕立てる前に、街へ行くわ」



 今期の流行を確認するのよ。

 ベアトリーチェの意思を承った侍女らは速やかにその旨を公爵へと伝え、迅速な対応で多額の支度金とともに街へ行く許可が下りた。

 口実を得ると、ベアトリーチェは真っ先に自分の持つドレスの中から一番動きやすく、かつフォーマルなドレスを選び――それでも、皇帝陛下の瞳色をイメージして仕立てたのであろう、深碧色のマーメイドドレスは一目で公爵令嬢だとわかる上質な物であることに変わりはないのだが。

 それに着替え身支度を整えると、さっそく馬車に乗り、街へと繰り出した。



「ベアトリーチェ様?! これは一体……!!」


 そして、馬車から降り、ベアトリーチェは父がつけた護衛騎士とともに路地裏へ向かうと―――護衛騎士に《金貨》を握らせたのだ。



「――お前、病気の妹がいたわね?」

「なぜ、それを……」



 ベアトリーチェの顔半分を覆い隠すほど、(ふち)が幅広く垂れているスラウチハット。その隙間から、怪しげな笑みを浮かべて囁く内容に、屈強な護衛騎士の表情が強張る。

 その図は、完全に金にものを言わせて脅迫する悪女の図。妹を人質に取られた護衛騎士の背中に脂汗が浮かぶ。

 戸惑う護衛騎士に、ベアトリーチェは妖艶にほほ笑みかけながら「これで薬を買いに行きなさい。その代わり、ここからは別行動よ。意味はわかるわね?」と囁く。まるで悪魔の声だ。

 


「で、ですが公爵様の命に背くなんてことは……それに貴方様に何かあったら」

「わたくしが問題を起こさなければよい事」

「そ、それは……」


 そうですが、と言いたげな護衛騎士。

 ベアトリーチェは街へ出ると必ず問題を起こす。そのため、父がつけた護衛騎士の役割は《彼女を暴漢から守る》というより、《厄介ごとを起こす前にベアトリーチェを止める》という監視的な役割が強いのだ。



「わかったのなら行きなさい」

「は、はい……ありがとうございます!」



 躊躇しながらも、護衛騎士は金を握りしめて雑踏へ消えていった。

 護衛騎士の中でも比較的見た目がよく、屈強な体格をもつ彼の情報はきちんとベアトリーチェの脳内に刻まれてあった。病弱な妹の薬代を稼ぐために、普段の護衛騎士の給与に加え、別途インセンティブがつく自分(ベアトリーチェ)の護衛に無理してついてきていることを知っていたのだ。

 護衛騎士が雑踏の中に消えていく姿を見届けると、ベアトリーチェは華やかなショーウィンドウに目もくれず、まっすぐに神殿へと向かい歩き出した。


 







「――ここね」



 溢れる神聖力。鼻から通り抜ける、澄み切った空気。

 まるで宮殿のような荘厳な《神殿》が、そこに立っていた。


 帝国の神殿となると、かなり大きな力を持っているようだ。以前、自分が住んでいた神殿とは比べ物にならないほど大きい。

 

「まずは、この体に宿るスキルの確認かしら」


 以前、神が神聖力に似たような力を使うことができる、と言っていたが、ベアトリーチェの記憶を探るにそれらの情報が少ない。他に気を取られていたのか、考えたくなかったのか。神の悪戯で転生したこの身体には、どのような力が秘められているのか――ワクワクしながら、期待に満ちた瞳で一歩踏み出し、神殿へつながる橋を渡ろうとした時だ。



「――ッ!?」



 踏み出した足先に猛烈な痛みを感じて引っ込める。

 見ると、ベアトリーチェの紅いヒールのつま先が焼け焦げていた。この光景に、見覚えがある。昔、聖女であった自分が張った結界内に、魔獣が侵入しようとして弾かれた時と同じ――つまり。




「……神殿に、入れない?」


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