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57☆あなたはわたしの光①《エミリー・ウォルナット視点》



――アジュール公爵家・別邸。




「ベアトリーチェ様……」




 ご無事かしら、とエミリー・ウォルナットは別邸にあてがわれた自室の窓から、不安げに青空を見上げた。

 先ほどまで、自分の兄だというグイード・アジュール卿と朝食をとっていた。

 


 グイード・アジュール卿。

 突然薬局に訪れて、自分の兄だといった彼は、自分に衣・食・住を与えてくれた優しい人だ。

 しかし、その優しい人は、ベアトリーチェ様を『悪魔のような女』だと(ののし)り、私が彼女に『(だま)されている』と(あわ)れんだ。



 清潔で綺麗な新品のお洋服に温かいご飯。ひろいお風呂に、ふかふかのベッド。

 話しかけてくれる人はみんな優しくて、グイード様も何かと気にかけてくれるけど、心の奥底では「幻想のような生活だな」と感じていた。

 夢のような生活、ではない。夢だったら、この生活が希望通りで、期待に満ちているかのように聞こえてしまう。



 でも、私はこの生活がずっと続くことを望んでいる訳でも、望んでいたわけでもない。

 さびれた薬局でも、生活はできた。ほぼ自給自足で、その日の食事にも困る生活だったが、オーナーのカッシオによるいびりすらなければ、理想の拠点だったのだ。



 ベアトリーチェ様は《(やと)う》とは言っても、無理に私の生活を変えようとはしなかった。

 私に、全ての《決定》を任せてくれた。

 それが、どうしようもなくうれしかった。


 ベアトリーチェ様は私の『光』。

 先の見えない泥沼のような生活で、一本の糸を垂らしてくれた神様のような存在。


 

 よくしてくれるグイード様にも感謝しかない。

 でも心の中では、どうしてもベアトリーチェ様が心配で仕方なかった。



 私ばかりが恵まれて、罪のないベアトリーチェ様が苦しい思いをしているなんて耐えられない。

 だから、グイード様にも泣き縋ってしまった。本当は私がお助けしたいけど、私にはそんな力ないから。




「あぁ……ベアトリーチェ嬢、ご無事かしら……」



 さきほどから何度もつぶやいている言葉。何回呟いたって事態が変わるわけでもないのに、呟いてしまう。

 というのも、そんなグイード様との朝食の席で、ベアトリーチェ様の監視を任されていたらしい騎士の報告により、令嬢が牢屋ではなく、皇帝の自室で一晩明かしたという衝撃的な事実を聞いたばかりだったからだ。

 なので、この「ご無事かしら」には二重の意味が含まれている。




「いわれのない罪に問われ、苦しい胸中でしょうに―――高貴なベアトリーチェ様が、陛下から無体(むたい)なことをされていないかのほうが心配になるなんて!」




 エミリーはかぁああっと指先まで真っ赤にしながら、両頬を冷やすように指を添えた。

 頭の中で、高貴なベアトリーチェの姿と、女性に関心をもたなそうな皇帝陛下の両者を思い浮かべては、《皇帝の自室で一晩過ごした》という強烈なワードで頭の中はぐちゃぐちゃだ。



 ―――もちろん、その『皇帝の自室で悪女が一晩過ごした』という衝撃的ニュースは、皇帝がベアトリーチェに伝えた「あとはうまく誤魔化しておいてやるから」の結果なのだが―――事情を知らないエミリーらは、それが嘘か誠がなんて知るよしもない。



 ちなみに、報告を聞いたグイードは椅子を素手で破壊しつつも、事実確認のためといい鬼の形相で馬を飛ばして皇宮へと向かってくれた。

 先ほど以上に、グイードの背中を頼りがいがあると感じたことはない。




「グイード様が、ちゃんと調べてくださるわよね………」




 また、不安に胸が押しつぶされそうになって空を見上げる。 

 新緑の木々の葉をみて、ベアトリーチェの若葉色の瞳を思い起こす。




「どうか……どうかベアトリーチェ様、ご無事で……」

「呼んだかしら?」

 



 見上げていたはずの空。

 幻聴が聞こえて視線を下ろすと、窓越しにベアトリーチェらしき美貌の女性が「やっほー☆」と言わんばかりにこちらに手を振っていた。


 エミリーのいるこの部屋は確か、2階。

 よくみると、ベアトリーチェの瞳を想像していた木の枝に、ベアトリーチェご本人が登ってこちらをみていたのだ。



「べっっっっ…………!!!!!!!」


次は20時ごろ更新予定です!

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