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49★私に触れないで④

「ただし、私を(あざむ)いた時は………わかっているな?」

「もちろんでございま――」




 す、と最後まで言えなかった。

 目の前。テーブルの上に、音もなく神獣テオスカトリが顕現(けんげん)していたからだ。




 無視しなければ。



 

 それはもう、本能的な直感だった。

 神殿前で出会った時と変わらない、体長3メートルはありそうな大型の獣。

 ソレは皇帝とベアトリーチェの間にあるテーブルの上で静かに鎮座しており、神殿前で出会った時のような唸り声は上げていなかったものの、黄金色の瞳でこちらを伺うように見つめていた。

 

 黒曜石のような輝きをもつ黒毛に金の斑紋をもち、山羊のような金の角が威厳を示す黒豹(ジャガー)。神殿前では威嚇するように広げられた太陽色の翼も、いまは大人しく閉じられている。


 帝国の王たる《カドミウム家》を守護する《神獣・テオスカトリ》。

 顕現(けんげん)する前兆がまるでなかった。

 皇帝が自分を試すために出現させたのだろうか?



『………グルルルル………』



 何の音だ?

 神獣から聞こえる音。黄金色の瞳に敵意はないようだ。つまり、威嚇ではない――まさか、喉を鳴らしている?



 

「……もちろんですわ。陛下を欺くなど、そのような命知らずではございません」



 

 気にするな。

 神獣越しに皇帝陛下へ笑みを作るも、神獣が邪魔で皇帝陛下の表情がうかがい知れない。早く消えてくれ――と、思う前に神獣がのそりと動いた。



 テーブルからベアトリーチェの膝上に、大きな手をのせる。爪は立てていないようで、痛みはない。神獣だからだろうか、重さは感じない。

 そのまま、テオスカトリは黒豹を思わせる大きな鼻を、クンクンと鼻を鳴らしながらベアトリーチェの首元を嗅いだ。


 背筋に、つうっと冷たい汗が流れる。

 噛みつかれたら、おしまいだと息を飲んだ瞬間、目の前の神獣が瞳をまん丸にさせながら大きな口を開け、口腔内に白く輝く鋭い牙が光ったかと思うと、べろんと首筋を舐められた。



「―――………!」

「おい、()めろ」



 

 いつの間にか隣に移動していたらしい皇帝が、ベアトリーチェと神獣の間に手を差し込み、そのまま大きな手で神獣の口を覆うと、ぐぐぐぐっとベアトリーチェから引き剥がすように押しのけた。


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