45★《過去》と風呂
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「最年長組は俺らだけなんだろう?」
じゃあ、俺らでガキを見るしかないだろう。
険しかった目線を悪戯に細めながら、彼はそう言った。
そうやって彼は、気が付けばいつも自分の負担を半分肩代わりしてくれていた。
だから、周りは全く性質の異なる自分たち二人の事を、《兄弟》ではなく《熟年夫婦》のようだとよく例えていた。
「……凄い、そしたら僕ら本当に夫婦みたいだね」
「実際《夫婦》みたいもんだろ」
何を今更、と。年頃のはずなのに、照れもせず当然だと言わんばかりの顔でこちらをみる男に、逆に笑いが込み上げてくる。
「僕、男なんだけどね」
「当たり前だ。女だったらとっくに俺の子を産ませている」
「……君ってたまにすっごいこと平気で言うよね」
「文句あるのか?」
俺はそういう男だ、と真顔で言われて戦慄する。
出会ったばかりの頃は、無理やり孤児院に連れてきた自分に対して「お前は偽善者だ」「考えなしだ」なんだと言われ、同じ空間にいても一方的に《一年以上》も無駄に距離を置かれていたというのに。
「人って変わるもんだよね~」
「なんか言ったか?」
「いや?」
「言っておくが、ガキ見るときは俺もお前の部屋で寝るからな」
「え! なんで!?」
「同じ部屋でないと、なんかあった時わからんだろ。俺だってあんな小せえガキなんかみたことねぇ」
ダンテの至極まっとうな意見に、「でもそれは困る!!」と叫びたくなるのを、寸でのところで堪えた。
孤児院では《最年長組の特権》という名目で、自分とダンテだけは個室を使わせてもらっていた。
あとの小さい子供たちは大部屋で過ごしてもらっていたのだが、それは幼い子供たちが寂しがって皆と一緒に寝たがったからで、他にも空き個室はあった。
なので、自分は《自室》とはいいつつも、夜泣きの激しい子がいたら他の子を起こさないように、個別に一緒に寝る用の《避難部屋》という使い方をしていた。
つまり、基本は誰かと一緒に寝ることがほとんどだったのだが、当然それは《小さい子供限定》。
幼い子供達には、自分の胸に巻いてある《さらし》の意味を知る由はないだろうし、深く考えないだろうが、察しのいい彼と同室で夜を過ごすとなると、不安しかない。
下手すると、《さらし》を見られただけで、悟られる可能性だってある。
そうでなくても、彼は稽古後に自分が子供達と一緒に温かい大浴場に入らず、夜中に一人で水浴びしている様子に疑念を抱いているようなのだ。
一人で水浴びする理由としては、『小さい頃の事故で胸に大きな傷があるから、子供たちを怖がらせたくないから裸になりたくない』といい、月に一度の月経時も『傷口が痛んで出血する時があるから、みんなが入る湯を汚したくない』と言い、なんとか誤魔化してこれている。
近所に医者も薬師もいない辺境の地だからこそ貫ける嘘だ。
「――それとも、俺に何か隠していることでもあるのか?」
ダンテは当初からその事に懐疑的だったが、一応は信じてくれている素振りを示している―――が、年齢をかさね、距離が近づくにつれ、どんどん突っ込んだ話をするようになってきた。
そして、嫌がる自分を少し愉しんでいるようでもあった。
案の定、自分より少し高い位置から、愉し気に顔をのぞき込まれて「ぎぎぎぎ」と歯ぎしりする。
自室で寝るときだけさらしを外せるのが開放的で好きだったのに。しばらくは、それすら厳しそうだ。
「わかったよ……でもあの子がまとまって寝られるようになったら、自分の部屋で寝てくれよ」
「それはどうかな。お前は秘密主義だからな。部屋に一人にしておいたらちゃんと寝るかあやしいしな」
「…………」
「そうだな。お前が一緒に風呂に入るなら」
「いいから剣術教えろよ!!!!!!」
あと風呂には絶対に一緒に入らない!! いつもいってるだろ!!!
そう、つっぱねた懐かしい記憶が蘇る。
なぜ、よみがえるかというと。今、絶賛風呂に入れられているからだ。
「どうしてこうなりましたの……?」
ぴちゃーーーん、と絵画が描かれた豪華な天井から垂れたらしい水滴が床に落ち、浴室内に水音が響く。




