39☆つまり、そういう事っすよね!?《ラザロの場合》①
☆
「ラザロ様」
朝。自室から出たところで、声を掛けられた。
振り返ると、そこに立っていたのは銀髪の聖女リリィ・ハルモニアだった。
「………おはようございます、ハルモニア様」
張り付けた笑みを浮かべつつ、ラザロは心の中だけで舌打ちした。
昨日、突然呼び出されたスカーレット公爵邸。そこでラザロは、公爵令嬢ベアトリーチェ・スカーレットより《スキルと神聖力の診断》を依頼された。そのため、ラザロは神殿に帰院後、さっそく必要とされる物品を集め、鞄におさめると、朝一番でスカーレット公爵邸に向かうべく支度を済ませ、今さっそく向かおうとしている最中だったのだ。
昨日の今日なのでスカーレット邸にアポイントメントは取っていなかったが、あの令嬢の事だ。仕事が早い分には問題ないだろう、と踏んでいたのだが――ほかならぬ、《彼女》に悟られないよう神殿を出ていくつもりが、先手を打たれた気分だ。
「こんな朝早くからお出かけですか?」
「ええ。ハルモニア様も、こんなところでどうしました?」
「昨日ラザロ様とお会いできなかったので、心配になって……」
「心配?」
「はい。ベアトリーチェ・スカーレット様に呼び出されたとお聞きして……」
聖女は、右手を品よく頬に添えて、上目遣いでうかがうようにこちらを見た。
「大丈夫でしたか?」
「……ええ、特になにも」
あったとしても神官には《守秘義務》があるんだって事忘れてるのか?
どうも探りを入れられているような気がしてならないラザロは、早々に目線を外して先を急いでいると言わんばかりに時計を見る。
「……もしかして、お急ぎですか?」
「ええ」
「お仕事ですか?」
「そんなところです」
「……ラザロ様、お一人で全てを抱え込まないでください」
急いでいるというオーラを全身から出していたというのに、聖女はラザロの腕に手を絡めて、豊満な身体を押し付けてきたのでぎょっと目を見開いた。
何を考えているのだ、この女は。
「――私も何か手伝えることがあれば……ラザロ様の御力になりたいのに、自分が情けないです」
はぁ、と悲し気にため息をつくリリィ。以前はそんな彼女の姿を見ると、自分も何かしてやれることはないかと、気に掛けることも何度かあったが。
なんだろう。ベアトリーチェ・スカーレットに会った後から、この聖女に関して今まで霧がかっていた視界が急に晴れたかのように、不信感を持ちはじめた。
しかし、今はまだその感情を彼女に悟られるのは得策でない気がする。
そう考えたラザロは「お気持ちだけで十分ですよ」とできる限り優しい声を出して、そっと腕に絡みつく聖女と距離をとった。
「リリィ様は帝国の正式な聖女ではないのですから。むしろ、手伝わせてしまったら私どもが皇帝陛下からなんとお叱りを受けるか」
正式な聖女ではないとの言葉に聖女がわかりやすく顔をしかめたが、続く《皇帝陛下》にリリィが頬をうっすらと赤らめる。
「……そうですね。皆さんの足手まといにならないためにも、早く皇帝陛下にも、《帝国の聖女》としてみとめていただきたいものです」
「…………」
彼女は本気で皇帝陛下を狙っているのだろうか。
たしかに、あの気難しく感情の読めない――というより、感情が死滅しているかのような御方が、この聖女に関しては色々と気にかけて、神殿にもちょくちょく足を運んでいるようだが。
それが噂されているような、恋愛感情めいたものなのかと問われるとラザロにはよくわからなかった。
聖女と二人でいるところを見たこともあるが、話しかけているのは決まって聖女の方で、皇帝陛下が関心を持って彼女を見ているようには微塵も見えなかったからだ。
むしろ、目が死んでいた。
死んだ魚の方がもっと生命の残滓的なものがあるだろうというくらい、皇帝陛下の瞳に光が見えなかった。
なのに、なぜ神殿にきては聖女を確認するのだろう―――もはや、監視に近いのでは、と思ったところで、目の端に何かが見えた。
「…………ハルモニア様、それでは私は先を急ぎますので、これで」
「ああ、そうでしたね。お引止めしてしまいすみませんでした」
「いえ、それでは」
聖女に別れを告げて、足早に前へ進む。すると、目の端の影も動いた。
☆
「ラザロ様!! ラザロ様!!!」
聖女の気配が完全に消えたくらいのところで、その影が小声で焦ったように話しかけてくる。空気の読める影だ。
振り返ると、そこにいたのは昨日ラザロを叩き起こした若い神官だった。
昨日は投稿できず申し訳ありませんでした…続きは今夜21時投稿します。
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