34★生き別れの兄妹
「お前が、エミリーの《兄》だというの?」
あまりの衝撃に、敬称もつけずに吐き捨ててしまった。
いや、敬称は割と最初から忘れていたのだが。
「そうだ。彼女は俺の《腹違いの妹》で、ずっと探していたんだ。今回の件で、取引現場との疑いがある薬局へ向かったみたら、あの子はボロボロの服で、手を緑塗れにさせて働いていたんだぞ!」
「…………」
エミリー、あの子。あの金で新しい服は買わなかったのかしら。
いいえ、一人で生活することの大変さを知る彼女なら、あのお金は無暗に使わず、慎重に使い道を考えるでしょうね。
「貴様……今、嗤ったな?! 俺の妹を!!」
金貨を渡した時のエミリーの驚いた顔。それを思い出し微笑ましく思っていたベアトリーチェの顔を《嘲笑》と捉えたらしいグイードが、その瞳に怒りを滾らせる。
「あの子は! エミリーは騙されていたともしらずに公爵令嬢はそんな人ではないと涙を流していたんだぞ?! 純粋な娘に付け込み、悪事の片棒を担がせるとは……ッ!」
いよいよ我慢ならないといった様子で、再度グイードが蒼剣を手にしようとした時だ。
「それで?」
「…………何?」
「エミリーを泣かせて、どうしたの?」
「泣かせたのはお前の方だ!! この俺が妹を傷つけるとでも!? あの子は被害者も同然だ!! しかるべき場所で保護している」
悪女と接触され、証拠隠滅を図られでもしたら困るからなと続けるグイードに、ベアトリーチェは「……そう」とだけ言った。
「あの子が無事ならいいのよ」
それ以上話す気はない、といった様子でベアトリーチが歩き出すのを、グイードが「………言うことはそれだけか」と尚も引き留める。異様な団長の様子に危機感を感じたのか、何人かの騎士らが「き、騎士団長! そろそろ……!!」と引き留めるが、聞く耳を持たない。
「貴様が前店長のカッシオを使ってエミリーを孤児院から買い取り!! 何年もただ働き同然でこき使ってたのだろう!! あの子の青春を踏みにじっておいていうことはそれだけなのか!!」
「………あの子が、そういったの?」
「言うわけないだろう!! エミリーは……お前のような女をずっと心配している子なんだぞ!」
「では、今の発言は全て《お前の妄想》なのね?」
「………!!」
「憶測で物事を語るのはおやめなさい。言ったでしょう? わたくしは逃げも隠れもしない、と」
わたくしの罪を問いたいのなら、裁判所で確固たる証拠を持って来なさい。
そこまで言うと、今度こそベアトリーチェは後ろを振り返ることなく歩き出した。
★
「言い過ぎだったでしょうか?」
《悪女しては満点なんだけどね》
でも、ハンサムボーイの【絶殺ランキング】は独走してるんじゃない?
神の言葉に、やはりやりすぎたか、と少しだけ反省した。
《アンタにしてはえらく辛辣だったじゃない。しかも彼、年上でしょう?》
「そうでした。アジュール卿は確か19歳でしたね」
《年上じゃん。ガッツリ、””お前””呼びしてたわよね》
「申し訳ありません………あの顔をみるとどうしても《昔》を思い出してしまい……次は相応の対応を心がけます」
あまりにも最近、連続して《昔よく見知った顔》がでてくるので、今と昔を混同させてしまっていた。
あの騎士団長も、前世などは覚えていないだろう。そう考えると、自分はかなり高圧的な態度をとってしまった。今度会うことがあれば、態度に関しては詫びをいれよう。
「ですが、エミリーがアジュール公爵家の庇護下にいるだろう状況を知れたのは僥倖です。罪状が《違法薬物》関連なら、彼女が一番に巻き込まれると思ってましたので」
グイードは《しかるべき場所》と言っていたが、あの様子だと十中八九《アジュール公爵邸》で間違いないだろう。
あそこなら、グイードの父であり、帝国の防衛機関のトップである《クロセット・アジュール公爵》がいる。パオロ公爵とは異なり、アジュール公爵は催事の際に遠くから見た記憶しかないが、その庇護下にエミリーがいるのなら安心だ。
自分の身の心配だけすることができる、と安心したベアトリーチェは「よっこいしょ」と、ドレス姿のまま、ややぬるつく地面に寝転がった。
《―――え、ヤバ。アンタ何してンの?》
「見てお分かりになりませんか? 寝ます」
《「寝ます」?!?!!?》
次の更新は20時頃です。




