31★陰謀の緊急三者面談
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「おお!! よく来たベアトリーチェ!!」
「ごきげんよう、お父様……」
数刻後、ベアトリーチェはスペクトル帝国の太陽たる皇帝陛下がおわす《スペクトル城》内にある、宰相室にいた。
スペクトル城の外壁は高い要塞のような塀で囲まれており、その広さは城内の移動に魔法の馬車を使用するほど。その中で、皇帝と共に政治的な業務を担っている皇宮内に、宰相である父ダリ・スカーレットの《宰相室》がある。
広々とした空間。父の執務机にも、両サイドに置かれた補佐官の机の上にも、無数の重要書類らしきものの山がある。なのに、その空間でベアトリーチェは父と二人きりで向き合っていた。
アネモネ組の仕事ぶりはさすが、といえるもので。侍女が5~6人いるかのような素早さと目まぐるしさだった。
下位の侍女もべそをかきながらも、ちゃんと上位の侍女のサポートができていて、案外いいペアじゃない、と感心したのだが、その分ベアトリーチェが疲れてしまった。
本日のベアトリーチェ・スカーレットの装いは、大輪の薔薇のような深紅のドレスにアクセントとして瑞々しい若草色の宝石が美しいイヤリングにネックレスを身に纏い、ドレスのドレープ部分にも同色の宝石をちりばめている。
そして、肩から下に流れる黒のレースのマントを身に着け、腰まである長い紅髪は「美しいのでサイドの編み込みだけで勝負しましょう!!」という侍女の言葉に従って、おろしたままにしている。
鏡で見た第一印象は、『全方位絶対的悪女ベアトリーチェ・スカーレット』。
美しく気品もあるが、それを上回る毒々しさで周りの者が自然と道を開けたくなるそうな存在。
事実、ここに来るまで何人もの人間がひれ伏していた。
冗談ではなく、兵も侍従も心底怯えていた。
《悪女補正》の恐ろしさを実感するとともに、ベアトリーチェのマントの裏でゲラゲラ笑う神にほんの少しだけ、怒りを覚えた。
「体の調子はどうだ?」
「はい。おかげさまで調子は良いです」
「まだ少し顔色が悪いのではないか?」
「そうですわね……身支度に時間がかかりましたので……」
ですが、ラザロ高位神官様の祈祷を受けましたので、もう大丈夫です。お気遣いありがとうございます。そう返すと、父ダリ・スカーレットは少し物足りない、といった顔で、伺うようにこちらを見、「あぁ、そうだったな……ところで、どうだ? 久々の王子は」と尋ねられた。
「……はい?」
「お前は幼い頃、ハーレクイン卿の事を『王子様だ』と好んでいたではないか」
「…………はぁ」
まさにその事で文句を言いに来ましたのよお父様、と切り出したくなったが、父ダリの邪気のない、純粋な瞳に毒気が抜かれる。本当に、父なりの娘の淡い恋心を思っての配慮だったのかもしれない。
「……そうですね、久しくお会いしておりませんでしたので。お元気そうで安心しました」
「そうか! ……それで、やはり皇帝陛下へのお気持ちは変わらないか?」
「……お父様?」
まさか、娘の恋心を確認するためだけに、恋人がいるハーレクイン家にまで釣書を送り付けたのだろうか。そうだとすると、さすがに身勝手が過ぎる。ハーレクイン卿の気持ちも考えてください、と抗議しようとした時だ。
「久しぶりだね、ベアトリーチェ嬢」
背後から突如かけられた温和な声に、驚いて振り返る。
親子二人きりだと思っていた宰相室内に、いつのまにかもう一人、壮年の男が立っていた。
「大きくなったねぇ。それにお母様に似て、とてもお美しくなられた」
「―――ハーレクイン公爵様?!」
「おお、きてくれたかパオロよ!!」
どうして父の執務室に、と驚きのあまり硬直していると、父ダリに名を呼ばれた《パオロ・ハーレクイン公爵》は、大手を広げて「おお! ダリ!! 相変わらず気難しい顔してるなぁ!!」とその肩を叩くため、父の横へと移動した。
パオロ・ハーレクイン公爵。
彼は言わずとしれた、ルカ・ハーレクイン卿の父であり、《帝国の医療》を担う、《稀代の名医》。
四角いべっ甲の眼鏡をかけており、正装の上から白衣を身に纏い、首からは聴診器をぶら下げている。
髪は、ルカと同じペールグリーンで同じように腰まであるのを一つに結んでまとめている。父ダリとはまた異なった、ふさふさと生い茂ったペールグリーンのウォルラスタイプの口ひげがよく似合っている。
ルカが40~50代になったらこんな感じだろうという、全身から穏やかさが溢れているダンディな御方だ。
「今日はうちの息子が令嬢の様子を見に行ったようだが、どうだったかね?」
「………大変、よくしていただきましたわ」
だいぶ間を設けてしまったが、穏やかに返せた。パオロ公爵はベアトリーチェの反応をまじまじ見つめつつ。
「あらら? 『僕には心に決めた恋人がいるんだ~~!!』とか令嬢に失礼な事をわめいておられませんでしたかな?」
―――は?
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