29★嵐の前の静けさ①
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《何アレ。人間面白~~!!》
「何がです?」
覗き見に盗み聞ぎなんて趣味が悪いですよ。重罪です、とベアトリーチェが言うと、窓ガラスが真っ白に曇るほど唇を押し付けてハァハァしていた神が《さっそく波乱の幕開けね?!》と叫んでいる。
改める気は毛頭ないようだ。
「そういえば、《神》の移動はずいぶんと自由度が増したようですね」
唇の裏側なんて初めて拝見しました、と生肉色の後ろ姿を一瞥しつつ、ベアトリーチェは猛烈な速さで手元の書類と自身の書く手紙を見比べながらペン先を動かす。
「最初はわたくしの影だけにしか生えないのかと思っておりましたが、帽子やテーブルなどの無機物に加え、先ほどはラザロの近くにまで移動されてましたね」
《生える、って表現止めてくんない?草だわ》
っていうか随分忙しそうね、何書いてんの? と神が唇を尖らせる。
「これは解雇予定の侍女たちに持たせる《推薦状》です。お父様から頂いた貴族の資料を基に、貴族側が提示する求人の条件と侍女たちのスキルや経験年数を照らし合わせて、性格や出身を加味した上で適切な家に紹介し、転職させようと」
《ふーん。めちゃくちゃ嫌われてたのにそこまでする必要ある?》
「当然です。わたくしの都合で一方的に解雇するのですから、次の職場では長く働いていけるよう最大限配慮し手助けするのは元雇用主として当然のこと」
《あいかわらず責任感だけは強いのね》
「一から新しい職場で働きだすということは、それだけでとても大変なことなのです。それに、前世ではよくしていたことですからそれほど苦でもありません」
《あぁ、鑑定スキル使って孤児院の子供達の就職サポートもしてたんだっけ? それって大聖女の仕事なの?》
「どうでしょう? わたくしが好きでしていた事ですから」
神と話しつつも、手の速度は止めない。
実際、この推薦状を書くことで自分も政治的に力を持った貴族を知る事にもなるし、今後社交界で役に立つ。ベアトリーチェも貴族の情報は割と頭に入れているようであったが、《容姿》に重きを置いていたようで、情報に偏りがあったのだ。
「彼女たちのおかげで、今後はわたくしも有利に動けそうですわ」
《貴族は特に色々としがらみがあって大変ね》
「そうですね。ところで、話が逸れましたがなぜ神の自由度が増されたのですか?」
先ほど、わざと話題をそらしましたよね? とベアトリーチェが神をみる。
神は、唇を蠱惑に吊り上げ「《あら、そうだったっけ?》」と嘯いた。
「えぇ、何かのきっかけがあって自由度が増したのか、それとも最初から動けていたのにわざと動かなかったのかが気になりまして」
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