22★ラザロ・サチェルドーテの受難②
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「スカーレット公爵令嬢、ご無礼をお許しください」
「ゆるしましょう」
「そこをなんとか…………え?」
は?
ラザロは呆気に取られて、目の前で優雅に席に着くベアトリーチェ・スカーレット公爵令嬢をみた。
「改めてはじめまして、ラザロ・サチェルドーテ高位神官様。わたくしが、ベアトリーチェ・スカーレットですわ。突然の御呼出しにも関わらず、こころよくご対応いただきありがとうございます。お会いできて光栄です」
ここは先ほどと同じ、スカーレット公爵邸の応接間。
とんでもない暴言を聞かれたにも関わらず、いつの間にかいた侍女は平然とティーセットを並べ、紅茶を淹れだし、ここまでラザロを案内した老執事は素知らぬ顔で扉の所で立っている。
とりあえず、保身のために心にもない謝罪を口にしてみたらあっさり受け入れられる始末。
あの血濡れの悪女が?
本当に気が触れたのか?
噂と異なりすぎる対応に、信じられないような目でベアトリーチェをみるラザロ。その視線を受けたベアトリーチェは、魔女のような装いであるにもかかわらず、にっこりと微笑んでいた。
もしかすると、噂とは違い、心の広い御方なのか――?
「―――本当に、よろしいのですか?」
「ええもちろん。そのかわり、公爵令嬢を侮辱した対価はきっちり頂くわ」
「ぎっ……」
前言撤回だ。この女狐、あなどれん。
ラザロが改めて警戒心をあらわにベアトリーチェを見るにもかかわらず、ベアトリーチェの笑みは深まるばかり。
「面白いくらいに顔に出すわね? ラザロ神官」
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「面白いくらいに顔に出すわね? ラザロ神官」
この、権力を毛嫌いする顔に、夜勤明けのクマ。
神経質そうなメタルフレームの眼鏡、丁寧な言葉使いにもかかわらず、心を許した相手と心から嫌悪した相手にだけ漏らす暴言。
――エミリーから高位神官二人の名前を聞いた時、まさかとは思ったが。
前世で右腕だったラザロを再び前にし、ベアトリーチェは上機嫌だった。
対する、ラザロは「やべー女相手にしちまったな」と言わんばかりに、顔に嫌悪が出まくっているのが更に愉快だ。郷愁からしばらくラザロを見つめていると、ラザロはごほんと、居心地悪そうに咳払いし、侍女長ヘラの出した紅茶を「失礼、いただきます」と一口含んだ。
「どうぞ? 毒は入ってないわ」
「あなどらないでください。すでに鑑定済です」
「まぁ、さすがラザロ様。優秀でいらっしゃるのね」
「――私の眼からは、どう見ても公爵令嬢がご病気、もしくは気が触れたようにはみえませんが?」
《優秀である》ということに対し、微塵も否定しない所が彼らしい。
「そうね。違うからね」
「はぁ?!」
ベアトリーチェの言葉に、ラザロは頬をヒクつかせ、こめかみには血管を浮かび上がらせて彼女をみる。
暴言を吐く手前で、飲み込んだというところか。
「――『からかってんのか、このクソ女』今、そう思ったわね?」
「からかッ…いやそんな、おふざけも大概にしてください令嬢」
図星だったようだ。
硬質な眼鏡フレームをかちゃかちゃとさせ、明後日を見るラザロ。
「ふふ、動揺しているわね」
「……」
「失礼。遊びすぎましたわね。小娘の戯れと許してちょうだい」
「………ベアトリーチェ様」
ラザロがまっすぐにこちらを見る。
その眼鏡の奥に光るのは、真実を追求するスカイブルーの瞳。
「我々は以前、どちらかでお会いしたことがございますか?」




