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2★グットラック・ティータイム

「というわけで、アナタには下界で悪女(あくじょ)になっていただきます!!」




 神が高らかに宣言したと同時に、神聖力で茶器を浮かせたままの聖女の背後に《悪女》という文字がドドンと背負わされた。



「……んん?」

「おわかりいただけたかしらぁん?」

「あの………なんて?」


 

 齢120歳を超えた大聖女は、そこそこ耳が遠かった。

 右耳に右手を添え、左手で「もう一回」のジェスチャーをつくり、真剣な面持ちで「はい、どうぞ」と促すと、さすがの神も同じように口元に手を添えて「もーーーしもーーーーーし!!」と叫びだす。



「あなたには~~~!! 悪女に!!! なってもらいまーーーす!! きこえますかーーー!?」

「聞こえますよ~~………え!?! わしがですかぁ!?」



 思わず口調まで老婆に戻ってしまった。

 しょぼしょぼの瞳で神を見ると、神はいよいよ嬉しそうに口角を吊り上げて嗤った。



「そうよ! 虫も殺さない人も憎まない!! 魔王を浄化し、魔獣は飼いならされた犬のように手懐ける猛獣使い系聖女でありながら恋愛万年乾燥肌の大聖女様には!! 極悪非道冷酷無慈悲の好感度マイナススタートの悪女になっていだきまぁす!」



「お断りします」

「判断がお早い!!」



 さすが百戦錬磨の大聖女!!

 神がその場に崩れ落ちる。巨体の異形がぐしゃあと崩れ落ちるさまは圧巻だった。おとなしくなったので、大聖女は茶器らをそっとテーブルの初期位置へと戻した。



「即決は……およしになってもろて……」

「それはこちらのセリフですじゃ、神よ。道楽が過ぎますぞ」

「も~~違うのォ! アタシはアンタに人並みに恋してもらいたいだけなのぉッ!」

「それはもう、お気持ちだけで十分………」



「だからそこがおもしろくねぇんだって!!」



 再び神が拳を固く握りしめ、雄々しく立ち上がる。



「生涯独身を貫いた純真無垢な身体! 知性、意志、感情ともに完璧であり神に近い大聖女サマ(アダム・カドモン)が!! 若返りし肉体と乙女心を取り戻して!! 恋に恋して甘酸っぱい青春に身も心も乱れ狂う姿が!! 見たいんですのよアタシは~~~ッ!!」



 それも特等席(VIP席)でッ!!

 何度でも立ち上がるその勇ましい姿は聖書に記しておきたいほどの御姿にも関わらず、肉厚な唇から紡がれるお言葉はどれもこれも不謹慎で身勝手だ。




「よくそれで神を名乗れますな……」


「アンタも今の1000倍生きるとこうなんのよ、覚えときなさァい」



 ドン引きする大聖女を前に、魅惑的な唇をセクシーにとがらせながら、ダイナミックに身体を捩らせポージングを決める神。顔半分を覆う王冠(ケテル)でその表情の全てはうかがい知れないが、おそらくその顔は、これから起こる奇想天外な恋物語に期待をはせているのだろう。


 そんな神を横目に、何事もなかったかのように異国のお菓子に手を伸ばす大聖女。


 雪の如く白い見た目に、舌触りも蕩けるようなやわい皮につつまれた小豆餡。《饅頭(まんじゅう)》というらしい蒸し菓子を手にティータイムを再開させようとした大聖女の額に、繊細なネイルアートがほどこされた神の指先が触れる。




「んん?」

「と、いうわけで、さっそく()ってらっしゃい♡」




 瞬間、大聖女の心臓を中心に、10の球体(セフィラ)と3本の柱。その間を22の(チャネル)で図式化した生命(セフィロト)の樹。

 その図面が黄金色に展開され、身体が光に包まれた。


 まさか、こんないきなり。

 せめて饅頭を一口だけでも――と、目の前の饅頭に手を伸ばしながら神を見ると、ハンカチをひらひらと振りながら。




「寂しいと思うから、アナタが活躍した時代に生きていた魂も何人か転生させてあげとくわね~~~!!」




 健闘を祈る!

 その言葉を最後に、目の前が真っ白な光に包まれた。



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