19☆侍女選抜試験の行方
★
ピ――ッ!!
「そこまで!」
ウォルター執事長の厳格な声と、ヘラ侍女長の吹く笛の音が響き渡り、試験終了を告げる。
「お疲れ様。全員素晴らしい仕事ぶりだったわ」
それと共にベアトリーチェが席から立ち上がり、極度の緊張感で疲労困憊の侍女らへおしみない拍手を送る。
ベアトリーチェとしては奮闘した侍女らを心から労っての拍手なのだが、見方によっては侍女らをいびりたおして大満足な悪女にも見えるので、侍女らの瞳は濁り切っていた。
「――ベアトリーチェ様、この試験に何の意味があるのでしょうか」
一人の勇気ある侍女が声を出す。
その場にいた者全員が、その勇気ある侍女に黙祷をささげていたが、対するベアトリーチェは「待ってました!」と言わんばかりにほほ笑んだ。
「ウォルター、試験結果を読み上げて」
「はっ」
ウォルターは手元の書類に目を通し、5名の侍女の名を呼ぶと前へ並ぶよう指示した。
「上位者は、ここにいる5名です」
「なるほど、50人中5名ね」
選ばれた者たちは、意外にも「当然」といった堂々とした顔をしていた。
ベアトリーチェはその者たちの顔をじっとみて、次にその他の《選ばれなかった者たち》をみた。
「――では、次に下位5名。ここに集まりなさい」
ベアトリーチェの言葉に、試験内容で全く成果を出せなかった者たちが震えあがる。
まだメイドになったばかりの新人だったり、物覚えが悪く、あがり症でミスをしやすい子だったりと、見ただけで下位の者たちだと納得できる年若い娘ばかりだった。
なので、周りにいた侍女らはそれまで恐怖していた顔を引っ込めて、若干の嘲笑をうかべていた。
あーあ、やっぱりね。
よかったー、あのどんくさいの、絶対解雇でしょ。
せいせいした。
微かな笑い声とともに壇上にいるベアトリーチェには聞こえない程度にひそめられた声。
名指しされた娘たちは、泣きそうな顔でベアトリーチェの前に集まると、罪人のようにその場にひざまづいた。
すると。
「なぜ、膝をつく? 命令した覚えはないわ」
ベアトリーチェが片眉を訝しそうに上げ「立ちなさい」と指示する。
「……え?」
「もう一度言うわ。立ちなさい。そして、顔をお上げ」
ベアトリーチェの「何してんの?」という顔に、全員が虚を突かれた顔をする。
顔色を一切変えず、涼しい顔をしているのはベアトリーチェの横に待機する執事長と侍女長だけだ。
ベアトリーチェは成績上位者と下位の者を交互に見て、「改めてお疲れ様」と声を出す。
「お前たち下位の者は、今日から1か月間。この上位5名にきっちり付き添い、仕事を覚えなさい」
「は……?」
「そして、残りの40名」
ベアトリーチェがうすら笑っていた中間層40名を見る。
「お前たち、今すぐ荷物をまとめなさい」
「え?」
「《解雇》よ」
「?!?!」
全員が呆気にとられたかと思うと、次の瞬間にはとんでもない騒ぎになった。
「どうしてですか」
「なぜ私たちが!」
「何をしたというのです!」
「あんまりだわ!」
口々に叫び、中には失神する者まで現れる中、みかねたウォルターが「静まれ!!」と一喝し、やっと一同押し黙った。
「………人の話は最後まで聞くことね」
ベアトリーチェの冷たい目線。凍てつく眼差しに騒ぎ立てた者たちが口ごもる。
「安心なさい。解雇と言ってもお前たち全員、一人一人に《推薦状》を書くわ」
推薦状、その言葉に侍女らが顔を上げる。
すると、ベアトリーチェはウォルターからそれぞれの試験結果を記載した羊皮紙を受け取り、ぱらぱらと目を通しながら「わたくしは、お前達全員の特性を理解している訳ではないから、推薦状を書くのにスキルの確認が必要だった」と続ける。
「人には得手不得手があるもの。どうせ推薦状を書くのなら、それぞれの得意を前面に押しだした推薦状の方が、次の職場も希望する人員を確保しやすいだろうし、お互いに長続きしやすい」
「で、ではベアトリーチェ様付き侍女は……新しく採用を……?」
「いいえ。新規雇用はしないわ」
「で、ですが、10名では数が足らない……」
「10名もいらない。私付きの侍女は《5名》で結構よ」
5名。その数字に、全員が驚愕する。
「上位者5名にも、1か月後に追加賞与を与えた上で推薦状を書くわ」
ベアトリーチェの言葉に、それまで得意げな顔をしていた上位者は呆気に取られ、放心状態であった。
つまり――ベアトリーチェは抜き打ち試験までしておいて、浮き彫りになったうだつの上がらない下位5名のみを残し、全員に推薦状をかいて他の貴族の家へやるというのか。
「な、なぜ……?」
意味が分からないといった侍女らに、ベアトリーチェはこれ以上ない慈愛の笑みを浮かべながら「なぜ?」とオウム返しのように尋ね返す。
「なぜ、わたくしの意図を、全てお前たちに説明しなければならない?」




