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13★首筋にくすぶる熱

テオ(アレ)は私の意思なくして姿を現すことはない。何をした?」



 神獣・テオスカトリ。

 平時(へいじ)にその気高き存在が顕現(けんげん)する事は、とても珍しい事――という情報が、ベアトリーチェの記憶の片隅から引き出せたのは、もはや奇跡に近い。


 それというのも、まず通常時の神獣を《視る(みる)》事ができるのは、神獣に《認められる力》を持った存在のみ。この世界でいうならば、カドニウム皇家に加えて、三大公爵家の当主のみが着けることが許される《当主の指輪の持ち主》だけ。

 例外として、戦闘時や降臨時であったり、神獣が自身の威厳を人々に知らしめる時にオーラを纏った際は、力を持たない人間でも目にすることができる、と言われているらしいが。



 総括して、《神獣》は当主でも何でもないベアトリーチェが、まず視る事すらできない《尊い存在》ということだ。


  つまり、この問いの最適解は。

 



 

「何のことでしょう?」 





 しらばっくれる。

 これに限る。


 

「………何だと?」

「わたくしは皇帝陛下の偉大なるお姿と、聖女様の尊い御姿を拝見し感嘆(かんたん)しておりましたので……その、《てお》という者はみておりませんわ」



 軽く扇を仰ぎながら、強い目線でこちらを射抜く皇帝陛下に負けず劣らずの眼力で微笑みかける。

 その実、首から下の部分は大量の汗がにじんでおり、扇で隠した唇は歪んでいた。


 大体、なぜ神獣がベアトリーチェの目の前に顕現し、かつ、襲い掛かってきたのか原因がわからないのだ。

 さらには、睨みつけられた挙句、なぜか舐められるという始末。これが何を意味するのか。答えが見えない以上、迂闊に反応すべきではない。


 

「わたくしが何か粗相をしたとしましたら、帝国の太陽である陛下より先に、聖女様にご挨拶を申し上げてしまったことでしょうか」

「………」


 

 お詫び申し上げますわ、と再度謝罪の意を込めて伝えると、皇帝は言葉を見失ったように黙り込んだ。




「この件に関しましては、どんな処遇もお受けいたしますが……」

「いや、構わない」

「寛大なご配慮、痛み入ります」




 よし、言質(げんち)をとった。これで(ゆる)された。

 ひとまず、直近の死亡フラグは回避できたようで肩の荷がおりる。その喜びから、爽やかな笑顔で伏せていた顔を上げた時だ。



「……ここに」




 皇帝陛下の少しかさついた男らしい長い指先が、ふっとベアトリーチェの細い首筋に触れる。





「アイツが口づけていたように見えたが」

「………」

「気のせいならば、それでいい」




 すり、と指先が意味深に薄い皮膚をなぞる。

 ベアトリーチェが、あまりの事態に真正面の皇帝陛下をみつめたまま硬直し、呼吸を止めていることを知ってか知らずか、ちらりとベアトリーチェの右手にも目線を下ろし、男らしく凛々しい柳眉をひそめた。


 


「――右手の傷には、あとでいい傷薬を」

有難(ありがた)きお言葉ですが、御心配には及びませんわ!」




 風のような速さで一歩下がる。

 まるでダンスのステップを踏むかのようなかろやかさだ。身のこなしに皇帝も民衆も呆気に取られていると、ベアトリーチェは流れる様な華麗な動きで、神獣の威圧により後方に飛ばされていた帽子を手に取り、深々とかぶりなおした。




「これ以上、帝国の太陽と聖女様のお時間を頂くわけにはいきませんので。わたくしはこれにて失礼いたします」



 

 恭しくカーテシーをしてから、ベアトリーチェは皇帝らの返事も聞かずに「では!」と踵を返した。不遜な態度をとがめる声は聞こえない。それくらい、鮮やかな引き際だった。


 目の端に、苦々しく歪められた聖女の顔が見えたような気がしたが、今はそれどこではない。

 背中に突き刺さる視線を振り払うように、ベアトリーチェは颯爽とその場を後にし、神殿とは逆方向へと歩みだした。







☆☆☆






《ちょっと!!》


「――神よ、お静かに」


《聞いてない!!! アタシきいてないわよ!!!!》




 アンタ、皇帝陛下(元魔王)と【恋仲】だったの?!?!?!


次の更新は本日22時です。


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