表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“デッドライン・シフターズ”  作者: オタ ナオカズ
第二章 転移者(シフター)
9/17

第9話帰路

車のエンジン音が静かに響く中、ジンは助手席に座り、カイが運転席でハンドルを握っていた。ルシアは後部座席に座り、窓の外をじっと見つめていたが、突然、彼女が静かに口を開いた。


「あなた…ジンって言ったかしら?」


ジンは振り向かずに軽くうなずきながら、「ああ、そうだ」と返事をする。


「一つ聞きたいことがあるんだけど…」ルシアの声にはどこか探るような鋭さがあった。


「なんだ?」


「あなた、なぜ魔力を持っているの?」


その質問に、車内の空気が一瞬凍りついたかのように静まり返った。カイが驚いたようにルシアを振り返りながら、「え、ジンが魔力を?普通の人間じゃないって思っていたけど、魔力まで持っていたのか?」と興奮気味に言った。


ジンは少し間を置いてから、冷静に答えた。「そうなのか。今日は自分の事を知ることが多いな。俺の父親が研究者だってことも知らなかったし、そもそも父親の顔自体も写真でしか見たことがない。俺は物心着く頃には祖父母に育てられたからな、どうして魔力を持ってるのかなんてわからん。」


ルシアは短くうなずきながら、「そう…でも普通の人間じゃないってどういう意味?」と続けた。


ジンは窓の外を見つめたまま、重く口を開いた。「俺は再生能力がある。普通の人間なら死ぬような怪我を負っても、俺は死なない。時間が経てば治るんだ。」


ルシアは驚いた表情を見せた。「再生能力…私の世界ではそれを持っているのはモンスターぐらいよ。人に似た形の亜人や獣人でも再生能力は持っていないはず。あなたの存在、ちょっと…おかしいわね。もしかして、あなたは魔法世界でも別の魔法世界から来た存在かもしれないわ。」


ジンは少し考え込みながら、「そうなのか…だが、なんでお前が俺に魔力があるってわかるんだ?」と疑問を口にした。


ルシアは微笑んで、「私はスキルを持っているの。『視魔眼 (アークサイト)』という能力よ。魔力の流れや強さが見えるの。だから、あなたが魔力を持っているのもすぐにわかるわ。」


カイがそれを聞いて、振り向きながら少し興奮気味に言った。「じゃあ、俺も見てくれよ!俺も魔力持ってるかもしれないじゃん!」


ルシアはカイに一瞥をくれ、冷静に言い放った。「いいえ、あなたには魔力はないわ。」


カイはショックを受けたように「え…」と口をぽかんと開けた。


ルシアはジンに向き直り、「あなたが魔力を持っているなら、少し魔法を教えてもいいわ。あなたなら信用できそうだし。」と続けた。


ジンは静かにうなずき、「ぜひ頼む」と短く答えた。


その瞬間、カイが茶化しながら言った。「確かにその方がいいかもな、ただの拳で殴るぐらいしかできないし。」


ジンはちらりとカイに冷たい視線を送る。「黙れ。」


ルシアがふとため息をつきながら言った。「ところでカイ、さっきから思ってたんだけど…」


カイが後ろを振り返り、「ん?なに?」と聞き返す。


ルシアは真顔でカイを見つめ、「前を見て運転しなさい。危ないわよ。」


カイは笑って「大丈夫だって。俺、運転には慣れてるからさ!」と余裕の表情を見せる。


ルシアはジンに目をやり、再びカイに向き直って冷静に言った。「慣れてる時が一番危ないのよ。」


カイは振り返りながら「えー、でもさー…」


その瞬間、ルシアは無言でカイの頭をつかみ、ギギギッと力強く前に向けた。


「だから!前見なさいって言ってるでしょ!」


カイは驚きながら「痛い痛い痛い!首が折れる、首が折れる!分かった、分かったから!」と慌てて叫ぶ。


ルシアは満足そうに彼の頭を手放し、「それならいいわ」と冷静に返す。


カイは首をさすりながら、「へい…分かりましたよ…」と小声でつぶやいた。



ジンがふと視線を前に向けたまま、静かに口を開いた。


「ルシア…お前はなぜ俺たちに協力するんだ?さっきも、吉野のおっさんのとこで、元の世界に帰りたいと言っていたが、向こうの世界だとモンスターとかがいるんだろう?こっちの世界の方が安全に過ごせるんじゃないか?」


その問いかけに、ルシアは一瞬黙り込み、少し考え込んだような表情を浮かべた。そして、静かに口を開く。


「確かに、そうね。こっちの世界の方が安全かもしれない。でも私は、向こうでやるべきことがあるの。」


「やるべきこと?」ジンが問いかける。


ルシアは少し頷き、真剣な表情で答えた。「そう。私はね、向こうの世界では『魔王』という存在と戦っていたの。昔からずっと、魔王と呼ばれる存在と人間の間で争いが続いていてね。私は、自分の国の王から命じられたの。魔王討伐をね。」


カイが後ろから驚いた声で口を挟む。「魔王討伐?まるでゲームみたいだな。RPGの話かよ!」


ルシアは答えた。「RPGっていうのはよくわからないけど、これが私の現実なの。私の世界では、勇者と一緒に魔王を討伐しに行くことになっていた。でも…その旅の途中で魔王軍幹部と戦っている最中、気づいたらこっちの世界に飛ばされてしまったの。」


ジンは黙って彼女の話を聞いていたが、静かに「なるほど」と頷いた。「だから、お前は早く向こうの世界に戻りたいってことか。」


「そうよ」とルシアは静かに答えた。「私はあの世界でやるべきことがあるし、人々を守らなきゃいけない。だから、ここに留まるわけにはいかないの。」


ジンは少し考え込んでから「そうか。お前にはお前の使命があるんだな…」と静かに呟いた。



カイがルシアに言った。「魔王討伐?それにしても、魔王と戦うのに選ばれるってすごいじゃん!向こうじゃ、めっちゃすごい人だったんだろ?」


ルシアは自信に満ちた表情で軽く笑いながら答えた。「そうよ、私、こう見えても天才なのよ。向こうでは偉大なる大魔道士様って言われているんだから。」


カイが感心した様子で、「マジかよ、それはすげぇな。まさに選ばれし者って感じだな!」と続けた。


ジンはそのやり取りを無言で聞きながら、窓の外を見ていたが、ルシアの自信満々な様子に軽く鼻で笑い、「それは頼もしいな」と短く言った。


ルシアは少しムッとした表情で、「いや、本当にすごいのよ!」と突き返す。


ジンは、「そうだよなぁ自分で天才って言っちゃうくらいすごいんだよなー」とからかうように言うと、ルシアはさらに熱心に言い返す。


「そうよ!私って本当にすごいのよ!信じてないかもしれないけど、本当にね!」


ジンは軽く笑みを浮かべながら「わかった、わかったよ、少しふざけただけだ。」と応じ、カイも笑いながら「ま、頼りにしてるぜ」と返した。


車内には軽い笑いが広がり、少し重かった空気が和らいだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ