第8話 ルシア・フェルディナンド
突如、扉を強く叩く音が響き、部屋の中に緊張が走った。ジンとカイは即座に身構え、互いに短い視線を交わす。だが、吉野は落ち着いたまま、ゆっくりと扉の方に向かい、静かにドアノブを回した。扉が開かれると、そこに立っていたのは16歳ほどの少女。青い髪が冷たい風に揺れ、黒いコートを羽織っている。その鋭い視線には、急いできたような焦りが少しだけ浮かんでいた。
吉野は扉を開けるなり、彼女を見て微笑んだ。「ルシアか、戻ってきたんだな。でも、毎回言うが、ノックはもう少し静かにできないのかね?」
ルシアは軽く肩をすくめ、「このスマホっていう機械、本当に便利ね。連絡するのがすごく楽だわ」と冷静に答えた。
吉野は軽く笑い、「まぁ、現代技術も捨てたもんじゃないだろ」と言いながら、ジンとカイに向き直った。「紹介しよう。彼女がルシア・フェルディナンドだ。異世界から来た魔法使いで、私の護衛役でもある。」
ルシアはすかさず吉野に指摘する。
「魔法使いじゃなくて、魔導師ね。」
吉野は少し照れくさそうに頭を掻きながら
「すまんすまん」と謝った。
ジンとカイは一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに冷静を取り戻す。ジンが先に軽く頷き、「島津仁だ」と簡潔に自己紹介し、カイも続けて「俺はカイ。よろしく」と笑顔を見せた。
ルシアは二人を一瞥し、「彼らは信用できるの?」と吉野に尋ねた。
吉野はすぐに頷き、「大丈夫、彼らは信頼できる」と断言した。
ルシアは少し考え込むようにしてから、「まぁ、いいわ」と軽く言い、視線をジンからカイに移した。
その瞬間、カイが興奮気味に前に出てきて、「えー、ってことは魔法使えるんだよな? 魔法使えるってことだよな? 魔原核くれよ! 魔法使いたいんだ!」と勢いよく言った。
ルシアは一瞬驚いたようにカイを見たが、すぐに冷静に突っ込みを入れた。「いきなり何? 魔法をそんな簡単に教えられるわけないでしょ。しかも魔原核をあげるなんて、馬鹿じゃない?」と冷たく返す。
カイは苦笑いを浮かべ、ジンが軽く咳払いをして場を和ませる。
その瞬間、吉野が口を開いた。「ちょうど良かった。今ここでUSBに入っていたデータの話をしよう。リンのことも含めてね。そして、君たちには協力してもらいたいと思っている。」
ルシアは少し顔を引き締め、「協力するわ。私も自分の世界に戻りたいしね」と静かに言った。
吉野は、ジンとカイに向けて静かに語り始めた。「リンは、この異世界転移装置の精度を上げるための鍵だ。彼女には、異世界を覗く力、移動する力、そして異世界に適応する能力が備わっている。これらの力が、装置の正確な制御には不可欠なんだ。」
「彼女も能力を持ってるのか?」とカイが驚いたように反応した。「ただの普通の女の子じゃないってことか…」
「そうだ」と吉野は頷き、「ただ、彼女は最初からそのために人工的に作られた存在だ。笹川夫妻が、異世界転移装置の精度を上げるために、リンを設計したんだ。」
ジンが眉をひそめ、「人工的に…」と呟きながら吉野の話に耳を傾けた。
「彼女の力を使えば、転送装置の精度は格段に向上する。だが、そのためにはリンを装置と一体化させて使うことになる。」
カイが驚きの表情を浮かべた。「装置と一体化って…それって、まるで彼女を道具みたいに使うってことだろ?それ、残酷すぎるだろ…」
吉野は静かに頷いた。「確かにそうだ。それが、笹川夫妻にとっても受け入れがたいことだった。彼らはリンをただの装置の一部として扱うことに耐えられなかった。だからこそ、彼女に親心を抱き、最終的には逃がすことを決意したんだ。」
ジンは無言で目を細め、考え込んだ様子を見せる。「つまり、リンを助けるために、夫妻はファントムセクターを裏切ったってわけか。」
吉野は頷きながら、「その通りだ。彼女を守るため、夫妻はリスクを冒して彼女と共に逃亡した」と静かに答えた。
カイはその話を聞きながら、呟くように言った。「それで、リンが今こんなに追われてるんだな…。装置の一部にされるなんて、あんまりだ。」
吉野は続けて話した
「このUSBには、笹川清司が設計したリンを異世界に安全に転送するためのデバイスの設計図が入っている。このデバイスは異世界転送装置の小型版だ。一度に一人しか飛ばせないが、非常に精密で、正確な場所に送ることができる。リンの能力はまだ未熟だから、このデバイスが彼女の力をサポートする形になるんだ。」
カイが興奮した様子で吉野に問いかけた。「じゃあ、それを使えば今までよりも安全に転送できるってことか?」
吉野は落ち着いた口調で頷く。「その通りだ。リン自身の能力はまだ完全には制御できていない。だから、このデバイスを使って彼女を安全に転送することが必要だ。これがあれば、彼女の力を安定させて、正確な異世界へ送り出すことができる。」
仁は腕を組んで吉野を見つめ、「2週間でデバイスが完成するって言っていたが、その間、リンの安全はどう確保する?」と冷静に問いかける。
吉野は少し間を置いてから、ルシアに目を向けた。「ルシア君、君が仁たちに同行するんだ。君がいれば、リンの安全を守れるだろう。リンの力が不安定な時にもしっかりサポートできる。」
ルシアは短く頷き、仁とカイに向き直る。「分かった。私が同行する。何があってもリンを守る。」
仁はルシアをじっと見つめながら、「なら安心だ」と短く返した。カイはそのやり取りを眺めながら、「まあ、これで少しは安心できるな」と小さく笑う。
吉野は資料を片付け始めながら話を続ける。「デバイスが完成したら、計画の全容もその時に話す。今は詳細を伝える時期じゃないが、完成したら君たちに全てを説明するつもりだ。」
「どれくらいで完成するんだ?」仁が確認するように尋ねる。
「約2週間だ。その間、君たちは油断せずに動いてくれ。ファントムセクターの動きも活発になっている。常に警戒を怠るな。」吉野は慎重な表情を崩さず、部屋を見回した。
「2週間か…。了解した。俺たちはその間、何か動きがあれば対応する。」仁は腕を組んだままそう言い、決意を示した。
カイは苦笑いを浮かべながら「2週間も待たなきゃならないのか、気が抜けないな」とぼやく。
「そのために私がいる。安心しろ。」ルシアは冷静に答えた。
吉野はデバイスの設計図を片付けながら、再度確認するように話をまとめた。「完成したらすぐに知らせる。その時に、今後の計画の詳細も話そう。リンは君たちと一緒にいれば、とりあえずは安全だろう。」
仁は頷き、ルシア、カイとともに立ち上がる。「分かった。何かあれば連絡してくれ。」
「気をつけろ、ファントムセクターはいつ動き出すかわからない。2週間後に再び集まろう。」吉野はそう言い、仁たちを送り出す。
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