第7話 World Lines(ワールドライン)
吉野は静かに立ち上がり棚から古びたアルバムを取り出し、ページをめくり始め、ジンとカイに見せた。
そこには研究者たちの古い集合写真があった。
吉野は写真の一角を指で差し示した。「彼らがリンの両方の笹川夫妻だ、その隣が私だ。」
「これがリンの両親か…にしても吉野さん若いなぁ〜」写真を見てカイは答えた。
「まぁ30年以上前に撮った写真だからね。」
そして吉野は写真の中央に移動し、ジンに向かって静かに言った。「これが君の父親、島津哲也だ。」
「彼らは『クロノス・バイオテック』という企業である研究していた。」
「…親父がこんなところに…?リンの両親も…
あんた達は一体何をしてたんだ?」仁は驚きと疑問の表情を浮かべていた。
吉野はジン見つめて静かに口を開いた
「異世界、マルチバースの研究だ」
ジンはその言葉に驚きを隠せなかった。
吉野は仁の表情を見ると、アルバムを閉じ、棚から古びたファイルを取り出した。その表紙には「World Lines」という文字が刻まれていた。
「世界は一つじゃない。この世界の他に、無数の世界、ワールドラインが存在する。その一部を、お前たちは既に目にしているだろう。」
「世界は分岐し、異なる法則や力を持つ世界が存在する。そこから来た者を転移者と呼ぶ。お前たちが目にした傷の男も多分転移者だろう」
ジンはその言葉に深く眉をひそめた。「シフター…それに親父が異世界の研究をしていたって…」
「そうだ」と吉野は頷き、別のファイルを取り出して開いた。「彼らの研究の中核にあったのは、異世界転移装置だ。装置の名前は「異世界転移装置(ディメンショナル・トランスファー・デバイス)」これは異なるワールドライン、つまり並行世界に存在する異世界へと人や物を転送する装置だ。」
吉野はファイルの中に描かれた設計図や図解を見せながら説明を続けた。「この装置は、物理的な現実を超えて、別の次元にある異世界へと繋がるものだ。君の父親は、異世界からの技術をこの世界に持ち込むことで、人類の進化や新たな可能性を見出そうとしていた。しかし、それを利用するために手を伸ばす者たちが現れたんだ」と吉野は答えた。
カイは疑問を抱いた表情を浮かべ、興奮気味に問いかけた。「じゃあ…その異世界があるなら、魔法の世界とかもあるってこと?もし俺たちがその世界に行ったら、魔法が使えるようになるってことか?」
吉野はカイの質問に対して冷静に答えた。 「ある世界の転移者が魔法が使えることが確認されてる。魔法の世界は存在する。だが、魔法の世界に行ったとしても魔法を使う事はできない。そもそも、この世界の人間には魔力を生み出す器官が存在しない。魔法を使うには、その『魔力』を生成する特別な器官、魔原核が必要だからだ。」
「じゃあ…無理なのか…俺は魔法とか使ってモンスター倒したり、冒険するのが夢だったのに…」カイがやや落胆した表情を浮かべた。
「ただ完全に不可能ではない」と吉野は答えた。「理論的には、その器官を移植するか、異世界転移者のDNAを使って人を生み出せば、魔法を使える可能性はある。」
カイは驚きの表情を浮かべた。「ってことは、その実験は成功してるってことか?」
吉野は少し言葉を選びながら答えた。「確かに、DNAを使って魔原核を持った人を生み出す実験自体は成功している。しかし、それだけでは魔法は使えない。そもそも魔法の世界でも、魔力を火や水などの他のエネルギーに変換するためには、知識や訓練が必要だ。だがそれを学ぶ術がこの世界には存在しない。つまり、魔力を生み出せても魔法を使うための技術や知識が完全に欠けているというわけだ。だから、魔法の力を使いたければ、魔原核を備えた上で魔法世界から来た転移者に学ぶか、魔法世界に行くしかないが、指定した世界線に行く方法が現在も確立されてない。」
カイは少難しい様子で答えた。
「話が難しくてよくわからなかったけど、とりあえず魔原なんちゃらを体に入れて魔法少女を探し出せば良いってことだな!!」
吉野は今までの冷静だった顔から笑いがごぼれる
「ガハハ!!まぁ簡単に言ったらそういうことだ。」
部屋が和やか雰囲気に包まれるのをジンは感じたが冷静に言った「そんな事はどうでもいい、でその異世界転移装置を手に入れようとしてるのは何者なんだ?」
「ああ、すまない話が脱線してしまった」と吉野はいい話しはじめた。
「“ファントムセクター”という組織だ。彼らの目的は世界の支配し統一すること異世界転移装置を手に入れようとしているってのは間違いだ。 彼らはもう手にしている」
彼は少し間を置き、声を低くして続けた。「ファントムセクターは、製薬を表看板に掲げている巨大企業『クロノス・バイオテック』の軍事開発部門を担う組織だ。だが、彼らの目的を果たすためには、異世界の力を使って世界を支配するための核兵器や化学兵器などの通常とは異なる武器や兵器を製造、開発することだ。だから、彼らが欲しているのは、異世界から得られる技術と、超常的な力なのだ。」
吉野は目を細め、続けた。 「想像してみろ、もし魔法の力や、超能力を自在に操れる兵士を持つ国が他国に戦争仕掛けたら、戦車の砲弾を素手で受け止め、無数の火球を街に降らせ、 ましてや核兵器すら無効にする存在が現れたら、この世界の軍事バランスは一瞬で崩れる。ファントムセクターは、まさに異世界転移装置を使って、その異世界の力を『武器』として利用しようとしている。だが、その力が機械じゃなく人となると、核兵器よりも制御が難しく、もっと不安定だ。誤れば、世界そのものを破壊しかねない力だ。」
「だが、ファントムセクターはそんなことに構わない。連中は、異世界から得た力で自分たちの野望を遂げようとしている。」
ジンが吉野に冷静に問う。
「じゃあ、異世界転移装置を手に入れているのに、なぜリンをねらう?」
吉野は答えた。
「彼らは考えたんだ。武器や兵士を作る上で、重要なのが指定した異世界から技術や資源を引き出すことだ。だか、異世界転移装置には欠陥があった。ランダムに異世界の人物やモンスターを引き込むだけで、制御ができなかったんだ。
無論、こちらから人を送ったところで帰ってはこれない。」
吉野は、資料のページをめくり、異世界転移装置の図を見せた。「リンの存在が、ファントムセクターの計画にとって重要な鍵なんだーー」
ゴンゴンゴンッ
吉野の言葉を遮るように倉庫の扉を誰かがノックする音が部屋中に響いた。