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“デッドライン・シフターズ”  作者: オタ ナオカズ
第一章 はじまり
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第6話 吉野 茂

静かな夜、ジンとカイは車を降り、目的地である吉野の倉庫にたどり着いた。倉庫は古びた外観で、長い間使われていなかったような雰囲気が漂っている。周囲には他に建物もなく、静寂に包まれた場所だった。


「ここか…」ジンが低い声で呟きながら、倉庫の扉を見上げた。


カイは軽く肩をすくめ、少し不安そうに周囲を見渡す。「思ったよりボロいな、こんなとこに住んでるなんて、なぁ…変わり者だろうけど、信頼できるんだろ?」


「信頼できるかどうかはわからん。ただ、知ってることがある。それだけだ」とジンは冷たく答え、手を伸ばして扉をノックした。


鈍い音が静かな夜に響いた。中からの応答はない。


カイはジンを見やり、「もしかして、いないんじゃねぇか?」と冗談交じりに言った。


「いるさ。用心深いだけだ」ジンはそう言いながら、もう一度扉をノックし、今度は少し強めに叩いた。


しばらくして、倉庫の中から重い音が響き、ゆっくりと扉が開かれた。そこには、疲れた表情を浮かべた中年の男、吉野茂が立っていた。彼の目には、どこか鋭い光が宿っている。


吉野はジンとカイの姿を一瞥すると、軽く目を細めた。彼の疲れ切った表情と無精髭が、長い間外部との接触を避けてきたことを物語っていた。


「こんなところに…何の用だ?」吉野は低く静かな声で問いかけた。


ジンは無言でカイと目を合わせた後、静かに口を開いた。「俺たちが持っているUSBについて話がしたい。」


「ここじゃ話せない。中に入れ」


吉野は短く言い放ち、無言で二人を中へ招き入れた。倉庫の中は広く、散らばった機材や古い箱が無造作に積まれている。どこか湿った空気が漂い、寒々しい雰囲気が辺りを包んでいた。


ジンが周囲を見渡しながら、静かに口を開いた。


「俺は島津仁だ、こっちはカイ、俺たちは…USBを持ってきたんだが、その前に少し説明がいる。」


吉野が無言でジンを見つめる中、ジンはポケットからUSBメモリーを取り出し、テーブルの上に置いた。


「昨夜、俺たちはリンっていう少女と出会った。彼女は何者かに追われていたんだ。俺が偶然助けたとき、彼女は震えながらこのUSBを持っていた。彼女の両親がこのUSBを彼女に託したあと行方不明がわからなくなったらしい」


カイが補足するように口を開いた。「その追ってきた奴は普通の人間じゃなかった。化け物みたいな力を持っていて、俺たちも一筋縄じゃいかない相手だった。だが、なんとか奴を撃退して、リンを守ったんだ」


ジンが再び言葉を引き継いだ。「リンの両親が何をしていたのか、俺たちにはまだ詳しいことはわからない。でも、彼女の両親はUSBをあんたに届けろと言っていた。」


吉野はその話を黙って聞いていたが、ジンがUSBメモリーを差し出すと、それを受け取り、じっと見つめた。


「そうか…」


吉野は言葉少なにデスクに向かい、パソコンを起動する。画面に表示されたパスワードの入力画面を素早くクリアすると、中のデータが表示された。吉野は画面をスクロールしながらデータを確認し、眉をひそめた。


しばらくの沈黙の後、彼はジンとカイに向き直り、静かに問いかけた。


吉野は少し沈黙を挟んでから、重い口調で話し始めた。


「笹川夫妻は…もう死んでいる可能性が高い。昨 夜、遅くにメールが届いたんだ。

 『私たちはもう終わりだ。あの子にUSBを持たせた。今は事情を知っている君にしか頼れない。あの子を頼んだ。』と書かれていた。彼らは追われていたんだ。そして、もうこれ以上、逃げられなかったのだろう…。」


吉野は続けて言った。


「君たちが関わろうとしていることは、命を危険を伴う、それでも巻き込まれる覚悟があるのか?」


吉野の言葉は重く、冷たく響いた。彼の目は、二人の反応を探るようにじっと見つめている。


カイはいつもの軽い調子とは違い、明らかに落ち込んだ表情を見せていた。彼は拳を固く握りしめ、俯き深いため息をついた。「…俺、全然守れてねぇじゃねえか…」


ジンはその言葉に反応し、カイの方に目を向けた。普段、カイは冗談や明るい言葉で場を和ませていたが、今はその余裕が全く見えなかった。



「リンの両親を助けられなかった…それに、リンのこともどうなるかわからない。あの子は何も知らないで、親も失って…俺たちは何ができるんだ?」


カイの声には、珍しく自分に対する苛立ちと無力感が混ざっていた。彼の握りしめた拳は震えており、感情を抑えるのに必死な様子だった。


ジンはしばらくカイの様子を見つめていたが、言葉を選びながら静かに話し始めた。「俺たちはまだ何も終わっちゃいない。確かに守れなかったかもしれない。でも、これからどうするかが大事だ。」


カイはその言葉にゆっくりと顔を上げ、ジンの真剣な表情を見て少しだけ目を細めた。「…わかってるよ。でも…怖いんだよ、ジン。俺たちで本当にリンを守れるのかって。自分が信用できねぇ。」


ジンは無言でカイを見つめ、そして短く頷いた。「俺たちがやるしかないんだ。お前が信用できなくても、俺はお前を信じてる。リンを守るのは俺たちだ。だから、今は前に進もうぜ。」


カイはしばらく黙ったまま壁を見つめていたが、やがて深く息を吐き出し、少しだけ顔に力を取り戻した。「…わかった。お前がそう言うなら、信じてみる。」


二人の間に沈んでいた重い空気が、少しだけ和らいだ。吉野はその様子を黙って見守っていたが、ジンは静かに口を開いた


「俺たちは覚悟を決めている。リンを守るためなら、何だってやる」


カイも黙って頷き、ジンの言葉を支持するように吉野を見つめた。


吉野は深く息を吐き、「そうか…ならば話そう。だが、これは空想の話ではない。君たちが思っている以上に信じがたい話だ。」



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