第17話 ヴァレリア
地下2階に到着すると、ジン、カイ、ルシア、リン、そしてヨシノは、目の前に広がるシフターたちの収容エリアを見渡した。薄暗い照明が一列に並ぶ檻をぼんやりと照らし、異様な静けさが周囲を包んでいる。
カイがその光景に圧倒され、小さく声を漏らした。
「うわ…すごいところだな…。」
ルシアが冷静に説明を始めた。「ここはファントムセクターが協力的でないシフターを収容する場所。ここにいる者たちは、自由を奪われて力を封じ込められているのよ。」
「…酷いな。」カイが眉をひそめ、目の前のやつれたシフターたちに視線を向けた。
一つ一つの檻の前には小さなプレートが貼られており、それぞれのシフターが出身である世界線や属性が記されていた。カイはそのプレートの一つを覗き込むと、驚いた表情でジンに声をかけた。
「ジン、これを見てくれよ。『魔法世界線』の…『獣神の人狼』だって…。」
ジンもカイの指差す方向に目を向けると、そこには痩せ細った女性が檻の中に佇んでいた。ぼんやりとした光の中で、その女性はやつれながらもどこか威厳を感じさせる姿だった。カイの言葉に反応したのか、彼女はふと顔を上げ、ジンたちに近づいてきた。そして震える声で問いかけた。
「あなた…島津ジンを知ってるの?」
ジンは一瞬戸惑ったが、真剣な表情で答えた。「ああ、俺が島津ジンだけど…なんで俺の名前を知ってるんだ?」
女性の目が潤み、声を震わせながら呟いた。「…本当に良かった…生きていてくれて…。」
「あなた、誰なんだ?」ジンが慎重に尋ねると、女性は涙を浮かべながら答えた。
「私は、ヴァレリア…あなたの母よ。ずっとあなたが殺されたと思っていたわ…。」
ジンの表情が強ばる。「…母さん?でも、母さんは俺が生まれる前に…」
「そうね、そう聞かされていたのね。けれど、本当は…」ヴァレリアは声を震わせながら続ける。「哲也…あなたの父が、私をここから逃がそうとしてくれたの。だけど、逃げきれずに、ここに閉じ込められてしまった…」
ジンは愕然とし、握りしめた拳に力がこもる。そんな彼を見つめながら、ヴァレリアは懐かしむように彼の顔を見て、手を伸ばそうとしたが、途中で止めた。
「ごめんなさい…あなたを残していくしかなかった。あなたに触れることも、育てることもできなかった。だけど、こうして会えるなんて…」ヴァレリアは涙をぬぐいながら、震える声で続ける。「ジン…あなたがこんなに強く、立派に成長してくれたことが、私には何よりも嬉しい。」
ジンはヴァレリアの姿をじっくりと見つめた。彼女の痩せた体には無数の手術痕が残っており、それが彼の目に痛々しく映る。怒りを抑えきれないまま、低い声で尋ねた。
「その傷…一体どうしたんだ…?」
ヴァレリアは苦笑しながら、肩をすくめた。「これは…ファントムセクターの連中が、私を実験材料にしてつけた傷よ。彼らは異世界の力を研究するために、何度も私を…」
彼女の言葉に、ジンの拳が震え始めた。怒りが込み上げ、抑えようのない感情が彼の中で煮えたぎる。彼の目は鋭く、まるで燃えるような光を宿していた。
「…奴らが、こんなことを…」彼は低く、しかし怒りを含んだ声でつぶやく。「お前を道具のように扱いやがって…」
ヴァレリアはジンの怒りを感じ取り、かすかに微笑みを浮かべた。「ジン、私のことはもう大丈夫よ。でも、あなたにはこの場所で戦う理由があるわね。」
ジンは彼女を見つめ、静かに頷いた。彼の中に燃える復讐の炎が、今や一層強く燃え上がっていた。「ああ…奴らにただでは済ませねえよ。」
ジンの頭の中で様々な思いが渦巻く中、ヨシノが一歩前に出て制止するように声をかけた。「待て、ジン。この檻を開けるとセキュリティが作動する。」
しかしジンは母親を見つめながら、檻の扉に手をかけた。「…関係ない。俺が出してやる。」
その瞬間、檻が「ガシャーン!」と音を立てて開くと、警報が鳴り響き始めた。
警報音が鳴り響き、ルシア、ジン、リン、カイ、ヨシノ、そしてジンの母ヴァレリアは一斉に身構えた。遠くから足音が聞こえ、武装した警備兵たちが5人ほど近づいてくる。
「どうする?」カイが不安そうに囁くと、ジンは静かに答えた。
「牢屋の影に隠れてろ。リン、ヨシノ、お母さん、カイもだ。」
彼らが素早く牢屋の影に身を潜めると、ルシアが魔法を唱え始めた。「アンミパルス!」ルシアの手から放たれた波動が警備兵たちに広がり、一瞬で全員がその場に崩れ落ちるように眠りについた。
「お前の魔法、便利だな」とジンが言うと、ルシアは少し誇らしげに微笑んで「そう?」と答えた。
しかしその瞬間、重い足音とともに新たな気配が現れた。現れたのは、4人のシフターたち──
ブラッドベアは、巨大な熊のように全身が分厚い毛で覆われ、血のような赤い模様が浮かぶ筋肉質の体を揺らしながら立っている。鋭い牙と爪が獲物を狙うかのように光っている。
その隣にいるシャドーブレードは、黒装束に身を包み、闇に溶け込みそうな細身の姿。顔は仮面で隠れ、腰には二本の刀を携えている。その冷たい眼光が周囲を鋭く見据えている。
タウスハウルは砂のような乾いた肌を持つ人型で、動くたびに体から砂が落ちていく。彼のひび割れた肌は荒涼とした砂漠そのもののようだ。
最後にストームクロウは、黒い翼を広げたカラスのような姿で、羽根が静電気に包まれている。目は鋭く、体を覆う羽根の隙間から青白い雷光が時折ほとばしり、不穏なエネルギーを漂わせていた。
それぞれが圧倒的なオーラを放ちながら、ジンとルシアに向き合った。
ルシアは冷静にタウスハウルとストームクロウに向き直り、準備を整えた。一方でジンは、ブラッドベアーとシャドーブレードの気配を鋭く感じ取り、拳を固めた。
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