第13話 仕事依頼
デバイスの完成まであと2日となった朝、事務所に電話のベルが響き渡った。
花がにこやかに受話器を取る。「はい、こちら便利屋サブローです」
しばらく話を聞いてから、「少々お待ちください」と言い、保留ボタンを押してからジンに向かって尋ねた。
「ねえ、ジンって狩猟免許持ってたわよね?」
雑誌を読みながら、ジンは気のない声で返事をする。「あぁ、持ってるけど」
花は微笑みを浮かべてから、保留ボタンを再度押し、「お待たせしました!大丈夫ですよ!」と、明るい声で相手に伝えた。
電話を切った後、花はジンの方を向いて言った。「ジン、隣の山を越えた集落まで行って、熊の駆除してきてくれる?」
ジンは雑誌から目を離さず淡々と返答する。「ああ、わかった」
それを聞いていたカイが驚いて花に駆け寄った。「花さん!また妙な仕事を引き受けて!熊の駆除って、本当に大丈夫なのか!?」
花は冷ややかな笑みを浮かべてカイに言い返す。「ジンなら大丈夫よ」
その視線に少し怯えながらカイは答えた。「わ、わかってますけど…ジンじゃなくて、俺の方がやばいじゃん!もし襲われたら俺、死ぬじゃん!」と不安げに頭をかきむしる。
そのやり取りを見て、ルシアがカイに興味深そうに問いかけた。「熊ってなんだ?それに駆除ってことは、そんなに恐ろしい生物なのか?」
リンが小さな絵を描いてルシアに見せると、そこには可愛らしいクマのイラストが描かれていた。ルシアはそれを見て、カイをからかうように言った。
「カイ、お前はこんなに可愛いものが怖いのか?」
カイは震え上がるように言い返す。「そいつは人を襲って、生きたまま土に埋めて、殺した後で食べるんだぞ!」
ルシアはその言葉に顔を青ざめさせた。「人を襲って、土に埋めて、殺して食べる…こんなに可愛いのに、なんて残酷な…なんて気味の悪いやつなんだ…」
ジンが雑誌を閉じてテーブルに置き、席から立ち上がった。「カイ、行くぞ」
カイは顔を背けて、拒否するように答える。「俺、今回の仕事はパス!」
花は冷たい笑みを浮かべ、じっとカイを見据えた。「本当にそれでいいの〜?」
その視線に怯えたカイは、ルシアに手を合わせるようにして頼んだ。「頼むぅ〜…ルシアも一緒に来てくれぇ〜…」
ルシアは眉をひそめ、冷ややかにカイを見て言った。「嫌よ!あんなわけのわからない生物と戦うなんて冗談じゃないわ」
「おい、行くぞ」ジンはカイの襟元を掴み、引きずるようにして玄関へ向かう。
「いってらっしゃい〜!」花とルシア、リンは笑顔で手を振りながら二人を見送った。
翌日が迫る夕方、薄暗い空の下、ジンとカイは山のふもとの神虹村に到着した。車を止めて外に出ると、山奥ならではの冷たい風が二人を迎える。
村の中心にある小さな古民家が村長宅だった。ジンたちが玄関の前に立つと、中から朗らかな中年の男が出てきた。
「おー!便利屋さんかな?」村長らしき男が、にこやかに手を挙げて声をかけてくる。
「ああ、依頼主か?」ジンが軽くうなずいて答えた。
「そうだ。私は志村と言う。この村の村長をやっている。さっそくだが、現場を見てもらいたい。」志村村長が手招きし、二人を案内し始める。
歩いてしばらくすると、広がる畑が見えてきた。そこには無惨に荒らされた作物が散乱し、土には深い足跡が残されていた。
カイが疑問の声をあげる。「これ…本当に熊か?こんな食い散らかすのって、イノシシかシカじゃないのか?」
村長は少し口ごもりながら答えた。「いや…畑だけならまだしも、あれを見てくれ。」
村長が指差した先には、小さな鶏小屋があった。ジンとカイが近づいて覗き込むと、そこには何羽ものニワトリが無惨に引き裂かれた跡が残されていた。カイは息を呑み、恐る恐るつぶやく。
「これは確かに肉食動物の仕業だ…しかも、ここには爪の跡も残ってる。」
ジンが鶏小屋をじっと観察しながら答えた。「ああ…だが、熊の爪跡は通常4本なのに、これは5本ある。熊だと断定するのは早計かもしれん。」
その時、カイが何か光るものを見つけた。「ジン、これ見てくれ!なんだ、このデカいウロコみたいなやつ!」
カイからそれを受け取ったジンは、不思議そうにじっとそれを見つめる。「なんだか爬虫類のウロコみたいだが…こんなに大きいのは見たことがない。」
「外来種の仕業か?」カイがさらに問いかける。
ジンはしばらく考え込み、「その可能性もあるが、大きさが異常だ。巨大化した外来種か、それともそもそも規格外の種か…ただ、俺も爬虫類には詳しくないからな。まぁ、そいつが現れるまで見張るしかなさそうだ。」
そして、二人は大量の肉を畑の中心置き、隠れるように夜通し見張ることにした。