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義妹のギャルに初恋を奪われた話  作者: 白藍まこと
本編

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23/50

23 試着だけ


「でも服のお店なんて、私どこにあるか分からないのだけれど」


 最寄りの店なら分かるが、街まで来て買う事はないからよく分からない。

 だから諦めよう。


「検索すればすぐでしょ」


「……」


 ハルはスマホを取り出して淡々とタップする。

 当然だ、現代人なのだからそれですぐに把握できる。

 私が逃げ出す口実を作りたかった、無意味だったけれど。


「あ、こっちだな」


 ハルに手を取られ、案内される。

 その行為に違和感を抱く。


「ん、どした?」


 ハルはいつものニヤニヤ顔でこちらを見る。

 また良からぬ事でも考えているのだろうか。


「いえ……これだとどっちが案内しているのか分からないと思って」


「なんか期待してた反応とちがう」


「え?」


 ハルはげんなりとした表情を滲ませる。

 こうして手を引いて道を案内されるなんて、まるで子供の頃のようではないか。

 その事に気恥しさ覚える。


「まあ、いいや」


 そうして街の雑踏をかき分けるように、ハルの背中を見つめながら未だ知らぬ店を目指す。







 ビルの中のフロアの一角に洋服屋さんを訪れた。

 色に富み、ハルが着ているような身軽な服装が多い印象を受ける。

 私が好むようなモノトーンの色合いは少なく、軽快な音楽は落ち着かない。


「場違いだから外で待っていてもいいかしら?」


「いいわけねぇだろ」


 グイっと更に力強く腕を引かれて店の中へ。

 私の意志なんて、ハルの前では意味を成さない。

 ハルはキョロキョロと当たりを見回しながら、目的の物を見つけたのかすぐに足を止める。


「どれがいい?」


 そこはパンツやスカートが陳列されているコーナーだった。

 なるほど、やはり話は逸れることなく続いていた。


「じゃあこれで」


 私はサラサラとした素材の黒のワイドパンツを指差す。


「話し聞いてた?」


 ハルが私を睨む。

 もちろん、話を聞いた上での選択だ。


「何だったら、もっと普通のが欲しいわ」


「これめっちゃ普通だと思うんだけど……」


「裾の幅が広すぎるわね、さすがに足が太い私でもこんなに過剰じゃないと入らないと思われるのは不服よ」


「そういうデザインだろっ」


 知っている。

 こういう大きなパンツを好んで履いている人が多い事を。

 しかし、私は落ち着かない。

 今私が実際に履いているような足に沿ったストレートのパンツくらいがちょうど良い。

 可もなく不可もないのが、私らしさだと思っている。


「よし、(みお)に聞いたあたしがバカだった。あたしが選ぶ」


 するとハルが手に取った物を私に見せる。

 黒のショートパンツだった。

 何考えてる。


「私を晒し物にする気?」


「いや、そんなつもりないって」


「こんなの履けるわけないでしょ」


 さすがに足が見えすぎる。

 誰もが許される格好ではない。

 お見苦しいものを他人に見せてしまう事になってしまう。


「あたしは見てみたいなぁ?」


「嫌よ、コンプレックスを見せたがる人なんていると思う?」


「考えすぎなんだって、やってない事には挑戦しないと」


「……えー」


 シンプルに嫌がる声だけ出た。

 プライベートとは困ったもので、断るのに値する決め手というのはあまりない。

 学校なら規則、モラル、大衆心理、通例、その他諸々。

 とにかく他人を納得させるだけの理由がそこにはある。

 しかし相手は白花(しらはな)ハル。

 そういったものを寄せ付けない人物で、これは尚且つプライベート。

 断るのには相当なハードルがあった。


「さあ、さあ……!」


「……うう」


 そして、なぜだかさっぱり分からないが、ハルは非常に楽しそうなのだ。

 今にも小躍りしそうなテンションでキラキラした瞳をこちらに向ける。

 こんな姿は学校では一切見た事がない。

 同時に、それを裏切りたくないという気持ちも沸いてきてしまう。

 もっと、そんな姿を見ていたいと。

 私の服装一つでそんなに楽しいのなら、自分のコンプレックスくらい我慢すればいいかと。

 天秤にかけて【コンプレックス<ハル】になっている事に気付く。

 困ったものだ。


「……はぁ。試着だけよ」


「うんうん、似合ってたら欲しくなるぜ」


 話を聞け。


「どうぞ、こちらをご利用下さい」

 

 店員さんに案内され、ハルと一緒に試着室へと向かう。

 試着室に上がり、着替える。

 姿見に映る自分を見て、思った。


「……色んな意味で、キツイわね」


 正直、直視したくなかった。

 黒歴史はこうして生まれるのかと理解した。


「えっと……ハル?」


 私はカーテンから顔だけ出して、ハルに問いかける。


「お、どした。サイズが合わなかったか?」


 なんかムカつく第一声だった。

 自分のウェストくらい把握してるし、ちゃんと履けている。

 そうではない。


「やはり人様の目に耐えられるものではないわ……」


「だから、それはあたしが判断するって言ってんじゃん」


 ハルが唇を尖らせる。

 今にもブーイングを起こしそうだった。


「それでもこれは耐えられないわ」


 【コンプレックス+羞恥>ハル】という構図が生まれた。

 さすがにこのダブルコンボでは、見せる事を許容できなかった。

 履いただけでも褒めて欲しいくらいだ。


「うっせ、ダメだ」


「え、ちょっ……!?」


 しかし、ハルはそれを無視する。

 何と試着室に直接乗り込んできたのだ。

 カーテンも閉め切り、二人で個室にいるような状態になる。


「あ、貴女ね……! 店員さんに怪しまれるでしょ」


「店員は遠くに行ったし、しかも女同士で怪しいも何もないでしょ。(みお)がそんな事ばっか考えてるからだよ」


「そ、そういうわけには……!」


 だが、ハルはお構いなしに歩み寄る。

 逃げようにも後ろは壁で、逃走路はない。


「そんな事より、さ」


「ちょっ、ちょっと……!」


 ハルは私の足に触れていた。

 すーっと流れるように、太腿の上をハルの手が滑っていく。


「しーっ。大きな声出すと逆に怪しまれるぜ?」


 怪しまれるも何も、怪しい行為をしているのはハルの方だ。

 この環境のせいで余計に声を上げられない事に私は困惑するしかなかった。


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