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義妹のギャルに初恋を奪われた話  作者: 白藍まこと
本編

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19/50

19 本音


 休日の学校は当然、人気(ひとけ)は少ない。

 閑散とした空気は、どこか別の空間のような錯覚をもたらす。

 グラウンドから聞こえてくる部活の掛け声や、体育館で鳴っているボールの反響音が、いつもの学校だと教えてくれる。

 そんな中、私は生徒会室へと足を運んだ。


「こんにちは、(みお)


「こんにちは、青崎(あおざき)先輩」


 いつもの柔和な笑顔で青崎先輩が出迎えてくれる。

 その表情に何度平常心を失ったか分からないが、今日は自然と落ち着いていた。


「ごめんね、休日に呼び出したりしてしまって」


「いえ、それは構いませんが……何の用でしょうか?」


 休日に呼び出される事は滅多にない。

 強いて言えば学校行事の準備などで多忙を極める時くらいで、ここ最近はそんな事もないはずで用件の見当はつかなかった。


「最近、叶芽(かなめ)と上手くいってなかっただろ? ちょっと心配になってね。平日だとどうしても全員集まってしまうから、こうして個別に話を聞こうと思ってさ」


「そういう事でしたか……」


 青崎先輩に気を使わせてしまったらしい。

 確かにここ最近は結崎と上手くいっていないし、生徒会活動そのものに消極的になっている自分がいる。


(みお)も叶芽も真面目だからね。それだけに衝突するんだろうけど、私としては仲良くやってもらいたいんだ」


「まあ……突っかかってくるのは結崎の方なんですけど」


 私は穏やかに解決しようとはしている。

 それに波風を立てるのは結崎の方だ。


「彼女なりに一生懸命やってるだけさ。それだけに同級生の澪には強く当たっちゃうんだろうね」


「そうでしょうか……」


 結崎は純粋に生徒会活動を進めているだけとは言い難い。

 私を執拗に追及してくるのには、彼女なりの理由がある。

 副会長として存在している私が、結崎には目ざといのだ。


「原因は白花(しらはな)ハルだろうからね。彼女が手に負えないなら、深追いはしなくていいと思うんだ。二人ともそれで不仲になるのは本意じゃないからね」


「先輩としては、それでいいんですか……?」


「手に負えないのなら仕方ないさ。先生方にお願いするしかない」


 ……それも、どうだろう。

 青崎先輩もサジを投げたとなれば、先生方のハルに対する注意はより厳重になるかもしれない。

 それは私の望む所ではない。

 生徒会の範疇でも、私がカバーすればハルの実害は少なく済むのだから。


「大丈夫です、私が注意しますから」


「でもそれだと叶芽も口を出してしまうだろう? それで衝突し合うと思うんだ。恥ずかしながら、私も力不足だしね。ここは素直に先生にお願いするのが無難だと思うんだ」


「いえ、結崎にも何も言わせないように上手くやるので大丈夫です」


 ハルとも最近は打ち解けあってきている。

 以前よりももっと目立たず行動させる事が出来ると思う。

 だから、もう少しだけ猶予が欲しい。


「……最近少し感じてたんだけど、澪は白花ハルの事になると主張を曲げない傾向にあるよね?」


 青崎先輩が首を傾げる。

 その違和感の正体を、先輩には突き止めてほしくなかった。


「いえ、生徒会として正しく活動したいだけです」


「そうかな、それなら会長の私の意見を聞いてくれる方が自然じゃないかな?」


「あ、いえ……そうかもしれませんけど」


 生徒会の活動を重んじるのであれば、会長の意見を尊重するべきだろう。

 自分で言っておいて、早くも矛盾を生んでしまう。


「きっと澪は、白花ハルの事でなければ私の意見を尊重してくれる気がするんだ。今までもそうだったしね」


「それは、そうかもしれないですが……」


「私個人の人間性に意見をする事はあっても、生徒会としての私の決定に意見するのは初めてなのは気付いているかい?」


「え……」


 言われてみれば、そうかもしれない。

 私は青崎先輩を尊敬している。

 そんな先輩の決断を私なんかが否定していい訳が無いと。

 今まではそう思い続けてきたから、彼女の意見も尊重していた。

 その姿勢を私は崩してしまったのだ。


「きっと澪のその姿勢が、叶芽の衝突にも繋がっていると思うんだ」


 それも、当たっているのだろう。

 私が素直に青崎先輩なり結崎の話を受け入れていれば、ここまでの反発はなかっただろうから。


「だから、澪の考えを教えてくれないかな? どうしてそこまで白花ハルにこだわるんだい? 」


 今までの私は規律を義務として生徒会の活動を続けてきた。

 だから、その反対の位置にいる白花ハルとの関係を明らかにするのを嫌ったのだ。

 この関係性が知られてしまったなら、私が副会長として正しい位置にいられなくなるような気がしたから。


 でも、今はどうだろう。

 生徒会としての役割を、きっと私は重視していない。

 それよりも、ハルとの関係性を重んじているようにすら思える。


「何か隠し事でもあるのかい? 良かったら私に相談してくれないかな?」


 青崎先輩が心配をしてくれている。

 少し前の私ならそれも喜んだ事だろう。

 でも、今は――。


「私は、生徒会として純粋に正しいと思える行動をしているだけです。もし本当に私がお役に立てなかったのなら、先程仰っられたように先生方にお願いして下さい。それまでは私のやれる事をやってみますから」


 ハルの為と言ったら大袈裟かもしれないけれど、私は彼女を守るためにこの立場を使いたい。

 それは模範的でもなければ、かつての理想も捨て去る事を理解しているけれど。

 それでも私はそうしたいと思ってしまった。


「あ、えっと、澪……? 私はそうじゃなくて、そこまでする理由を聞いてるのであって……」


「理由は副会長として、先輩の補佐を務める者としての責務のため。それ以外は有りません」


 嘘を吐いた、自分の意志で。

 かつての理想、その憧れの対象に砂をかけてしまった。

 私は私を裏切ったのだ。


「……澪がそこまで言うなら、信じて、もう少し待つことにする……かな」


 青崎先輩は腑に落ちていない。

 賢い先輩だから、私が何かを秘めている事は察しているのだろう。

 それすらも踏み込めないように、私は蓋をしてしまった。


「ありがとうございます。用件はこれで大丈夫でしたか?」


「あ、うん。この事を話したかったからね」


「分かりました。それでは今日はこれで失礼しますね」


「そう、だね。また月曜日に」


 そうして生徒会を後にする。

 そこに後悔はなかった。



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