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義妹のギャルに初恋を奪われた話  作者: 白藍まこと
本編

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16/50

16 名前


 学校を後にして、住宅街へ。

 自然と家に向かうその足を止めて、考える。

 どうしてこんな事をしてしまったのだろう、と。

 あんな別れ方をしては、あの空間に不満があったと思われて当然だ。

 もっと、上手く誤魔化すべきだった。

 いつもならそれが出来ていたはずなのに。

 自分の何かが狂い始めている、その正体が分からず心の奥に暗い感情が沈殿していく。


「はあ……」


 吐き出そうにも、出るのは溜め息ばかりで。

 らしくない自分に辟易(へきえき)する。

 ただ、起きてしまったものは変えられない。


「帰るしか、ないわね」


 家に帰る以外に選択肢なんてない。

 同居人がいる場所を目指すと、少しだけ足が軽くなったような気がした。



 

        ◇◇◇




「……あれ、早くね?」


 玄関の扉を開けると、廊下に白花(しらはな)ハルがいつものラフな格好でこちらを振り返っていた。

 自室で着替えて、居間に行く所だったのだろう。


「そういう日もあるわ」


「昨日もそうだったじゃん、なにケンカ?」


 若干、嬉しそうにする白花ハル。。

 仮に喧嘩だったとして、それの何が面白いのか。


「そんな事しないわよ」


「つまんな」


 他人の揉め事に面白いも、つまらないもないだろうに。

 まあ、実際は喧嘩とまではいかないまでも、不和が起きていたのは事実で。

 それだけにこの会話は早々に打ち切りたかったのだけれど。


「まあ、いいや。今日のご飯なに?」


「……あ」


 向こうから都合良く話題を変えてくれたと思ったら、別の問題が浮上する。

 食材がないから帰りにスーパーに寄ってから帰る予定だったのだ。

 イレギュラーが起きて、予定が頭から抜け落ちていた。

 らしくないことは連鎖していく。


「忘れてたから、今から買いに行ってくるわ」


 とは言え、時間ならある。

 いつもの生徒会の時間を丸々放棄してきたのだから、今から戻って買い物をしても余白は残る。


「あ、じゃあ私も行こっかな」


「……え?」


 予想外の返答に、思わず聞き返す。

 白花ハルも私同様に、不思議そうに首を傾げる。


「なんか変なこと言ったか?」


「あ、いえ……その意外だと思って」


「あたしも家と学校の往復ばっかで飽きるし、この辺の地理も疎いからちょうどいいかなって」


 確かに白花ハルは家にいる事がほとんどだ。

 休日も出かける事はない。

 親の再婚による引っ越しで、友人がいないからだ。。

 これのどこが素行不良で問題児なのか、教えて欲しい。

 ……いや、話が逸れている。

 生徒会での事は、今は忘れよう。


「いいけれど、面白くないわよ」


「それはあたしが決めることだ」


 ……まあ、それもそうか。







 住宅街を歩く光景の隣に白花ハルがいる。

 こうして目の当たりにすると違和感がすごい。

 彼女は黒のキャップを被り、白のTシャツ、デニムのショートパンに、白いサンダルという姿になっていた。

 シンプルではあるが、それだけに彼女の素材の良さが浮かび上がる。

 ちなみに私は着替えるのは面倒で、制服姿のままだった。


「なんか二人で出掛けるのって初めてじゃね?」


 白花ハルは今気づいたかのように口にする。


「そうね」


「どーする? 誰かに会ったりしたら」


 確かに、それは少しだけ面倒な気もする。

 私と彼女は明らかにタイプが違うし、一緒にいるような仲とも思われていない。

 説明しようがないし、そもそも陰で見られたりしたら弁明の機会すらない。


「たまたま居合わせたって事にするしかないわね」


 幸いと言うべきか、私は制服を着たままだ。

 偶然会ったと言えばまだ言い訳が聞く、私服同士であれば偶然と言い張るのは格段に嘘くさくなる。


「そこまで隠したいかね」


「……そう言われると反応に困るわね」


 彼女と距離を取りたいほど、毛嫌いをしているわけではない。

 一緒に住んでいるのだし、他のクラスメイトよりも仲は良いだろう。

 それでも自然と距離をとりたくなるのは理由がある。


「あれか、生徒会の束縛か」


「……まあ、そうなるのかしら」


 生徒の模範であるべ生徒会、その副会長が素行不良で名を知られている転入生と仲良し。

 というのはやはり抵抗感がある。


「別にあたしは義妹(いもうと)だろうが、同居人だろうが言ってもいいけどね。パパが配慮しなさいって言うから、そーしてるけど」


 白花ハルのお父さんが常識人で助かった。

 それよりも気になる事が一つ。


「貴女、お父さんのことをパパと呼ぶの?」


「すっげえ、どーでもいいこと気にするじゃん」


「意外だと思って」


「そーやって型にはまることばっかり気にしてるから、アレもコレも気にして身動きが重くなるんじゃね?」


 それは否めない。

 だが、そっちはそっちで気にしなさすぎだとも思うけれど。

 両極端すぎて、どちらも参考にならない気がする。


「そうかもね」


「はぁー。あんたは自分の意見ってもんがないのかい。たまには何か主張してこいよ?」


「……そうね、意見ね」


 確かに。

 私は自分の意思というのが薄弱(はくじゃく)だ。

 規則に乗っ取っているだけで、それは自分の意思からのものではない。

 その方が楽だからだ。

 だから、今の私は自分の意志と、規則との間に揺れているのかもしれない。


「まず、その“あんた”呼びを止めてもらおうかしら」


「え、あ、そこ?」


「いけない?」


「あ、いや、いいんだけど。話が飛んでビックリ」


 そんなに飛んだだろうか。

 自分の意思に基づいた発言だったのだが。


「まあ、確かにいい加減、名前で呼んでもいいかもな」


「……名前なの?」


「そこで引っかかるなよ。どうしたいんだよ」


「あ、ごめんなさい」


 そうよね。

 同い年で姉妹同士で、いまさら苗字呼びもおかしい。

 自分から言い出しておいて、何を言っているのだろう。


「それじゃ行こうぜ(みお)


 目指す先は何の洒落っ気もないスーパーなのだけれど。


「ええ……ハル」


 名前を呼び合った感触を確かめる。

 そうして分かった事が一つだけあった。


「……思ったのだけれど」


「なに?」


「やっぱり名前呼び、やめるべきかしら?」


「なんでだよっ」


 思った以上の声量で聞き返される。

 反応から察するに、私の意見には否定的らしい。


「何故か分からないのだけれど、羞恥心が勝っているわ」


「それを言葉にする方が恥ずかしいんだよっ、ずっと言ってりゃ慣れるだろっ」


「そうかしら」


「そうなのっ、言わせんな恥ずかしい」


「貴女も恥ずかしいの?」


「だから言わせんなっ!」


 大きな声を出されるが、やはり納得いかない。


「胸は触らせるのに、名前で呼ぶのは恥ずかしがるって羞恥心の基準が分からないわね」


「まだ言うのか!?」


 うん、名前呼びくらいで言い合いになる関係というのは果たして仲が良いのか悪いのか。

 よく分からなくなってきたけれど、彼女……ハルがそう言うのなら大人しく従うことにしよう。


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