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義妹のギャルに初恋を奪われた話  作者: 白藍まこと
本編

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13/50

13 理由


「おいおい、どこまで連れてくんだよ」


 私は白花(しらはな)ハルを連れて、空き教室までやって来た。

 人通りがある所で話すには、彼女は目立ちすぎる。


「問題は場所じゃなくて貴女よ」


「はい?」


「どうして恰好を改められないのかしら」


 私は開きっぱなしのブレザー、ブラウスを指差す。


「はは、まあ、あんたには目の毒かもしれないけ――」


「真面目に聞いているのよ」


「――……」


 白花ハルのはぐらかしはもう分かった。

 でも、そればかりを聞いてもいられない。

 もっと根本的な、本質的な理由を聞かないと。

 そうしないと、彼女の問題は解決されることはないだろう。


「そんなに難しいことじゃないでしょう」


「それはあんたの理屈だろ?」


「じゃあ、貴女の理屈って何なのよ」


「あたしはあたしのやりたいようにやるって言ってんじゃん」


「そうまでしないといけない理由を聞いているのよ? そんなに自分を通さなきゃ気が済まない理由ってなに?」


 問題はそこだ。

 どうして白花ハルはそこまで外見の主張にこだわるのか。

 そういう年頃だと言われたらそれまでかもしれないが、白花ハルには確固たる理由があるようにも感じていた。


「そこまで人に話す必要ってなくね?」


 確かにそうだろう。

 そんな深い所まで他人が知る必要なんてない。

 他人なら、だが。


傲慢(ごうまん)ね」


「ああ?」


 白花ハルは眉間に皺を寄せる。

 それは青崎(あおざき)先輩や結崎(ゆいざき)に見せたような反抗的な目つき。

 私も内心たじろぐが、ここで引くわけにもいかない。


「人に理由も説明しないのに、自己主張だけ貫こうだなんて。子供と一緒よ」


「意味わかんねぇ」


「人に理解してもらう努力もしてないのに、反抗的な態度だけとってたら問題が起きて当然でしょって言ってるのよ」


「……ああ、そういうこと。でもあたし別に理解されたいなんて思ってないんだよね。勝手に問題だと思ってる奴がワーワー騒いでるだけじゃん」


「それは矛盾しているわ」


「……なにが?」


 白花ハルは今までそうやって他人を煙に巻いてきたのだろう。

 後は反発だけしていれば他者は諦め、白花ハルは放置されるのだから。

 でも相手が悪かった、今のは私はそれじゃ引き下がらない。


「理解されたくもないのに、自分の姿にこだわるのはおかしいわ。外見にこだわるのは人の目が気になるからでしょ?」


 人の目が気にならないのなら外見を磨く必要なんてない。

 オシャレなるものは人に認められたいがゆえの自己表現なはずだ。 


「……ああー」


 しかし、白花ハルは上目遣いになって口をへの字に曲げる。

 様子を察するに考え込んでいるようである。


 ……あれ、私の指摘はおかしかっただろうか。


「なんかムズイこと言うね」


「……そう、かしら」


「そこまで考えたことなかったなぁ」


 ……なるほど。

 これが白花ハルだったか。

 きっと彼女の奥底に理由はあるのだろうが、それを誰もが言語化できるわけじゃない。

 理屈っぽい私だから、言えるだけなのだ。


「まあ、でも言われたらそうかもね。理由はあんのかもな」


「そう、そうでしょ」


「ああ、何となく思い当たる節はあるよ」


「それを教えなさいと言っているのよ」


 しかし、その理由を語るのに白花ハルは笑みを浮かべる。

 それは彼女が悪だくみをする時によく見せる、口の端を上げるニヒルな笑みだ。


「あんたみたいな奴のためかもな」


「……は?」


 全く意味が分からなかった。


「ほら、こうするとさ」


「え、なにっ」


 白花ハルが近寄ってくるので、距離を取ろうと身を引くが、すぐに壁に阻まれる。

 それでもお構いなしに白花ハルが距離を詰めてくると、今にも体が接触しそうなほどの近さだった。


「ほら、分かりやすいだろ」


「な、なにがっ」


 白花ハルが胸を反らす。

 身長差も相まってやけに胸が近い。


「ほら、こういうのが好きなんだろ?」


「は、はぁ……!?」


 前にもそんなことを言われたが、そんなことはない。

 単純に変なことをされて驚いているだけだ。


「こういう恰好してるとさ、誰が私に興味があるのか分かりやすいだろ。あたし頭悪いからさ、このやり方が合ってんだよ」


 なんだ、その直接的すぎる方法は……。

 もっと他にいくらでもやりようがあるだろ。

 ていうか、雰囲気で察しなさいよ、それくらい。


「私はそういう軽薄な人間は苦手よ」


「いいや、嘘だね」


「はあ?」


「言葉なんかより、あんたの態度見てる方がよっぽど分かるぜ。あんたあたしに興味あるだろ」


「きょ、興味なんかないわよっ。そんな体のことなんて……!」


 私の否定に白花ハルはけらけらと笑う。

 何が面白いのか、意味が分からない。


「体のことなんて言ってない、あたしのこと言ってるだけだ。やっぱあんたエッチじゃん」


「……は? ちがっ……」


 いや、誰だってこうなるでしょ。

 いきなり胸を押し付けられて、そっちだと思わない人がいるだろうか。


 いや、問題は私がどう思うかとかじゃない。

 落ち着け、論点を元に戻せ。


「貴女の理由は分かったわ。でもそれを認めるわけにはいかないの」


「ん……? でも、あんたあたしの体も好きだろ?」


「だから、別に好きじゃないって……」


「家でも足ばっか見てるし」


「……!?」


 バレてた……!?


 いや、待て待て待てっ。

 そうじゃない、そこじゃないっ。

 白花ハルに流されるなっ。


 私が考えるべきは白花ハルを改心させ、行動を正すこと。

 それだけに集中しろ。


「仮にそうだとしても」


「お、認めた」


「そんな事は関係なく、そういう恰好をするのはやめなさい」


「それはどういう理屈?」


「他の誰かに、貴女の素肌を見られるのは不快よ」


 いや、私は何を言っている。

 白花ハルの行動を正そうとしているのに、随分おかしなことを口走りすぎている。

 私の奥深くにそんな感情が根付いていたのだろうか。


「……お、おう」


 そして、私の発言に白花ハルも驚いていた。

 その証拠に、距離を詰めていた白花ハルの方から距離を空けている。

 だから、チャンスは今だ。

 今度は私の方が距離を縮める。


「だから、この体は私のものよ」


 今度は私の方から、白花ハルの胸に触れる。


「え、ちょっと……!?」


「貴女が触らせてきたんだから、今さらでしょ」


 もう後戻りはできない。

 ここまで来たら、やるしかない。


「だから、他の人に見せることも、触らせることもやめてちょうだい」


「なにその謎の独占欲……何様?」


 私のこの感情をどう表現すれば彼女は納得するだろう。

 どうすれば、この話し合いに決着はつくのか。


義姉(あね)の言う事を、義妹(いもうと)は聞くものでしょ?」


 私たちの関係性を言葉にするなら、それ以外の表現が他に思い付かなかった。


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