オマケ-1/コンビニ飯デート
「久世サン、昨日ポストに入ってたコンビニのチラシ見た?」
「あ。ちゃんとは見てない。何か載ってた?」
「パスタがめちゃくちゃうまそうだった!!」
「……」
「和風カルボナーラとかマイルドペペロンチーノとか、あと新商品のスイーツも、草だんごパフェとか」
「なかなかなインパクトだね、草だんごパフェって」
定時きっかりに仕事が終わった金曜日。
野宮は特に約束もしていなかった恋人に今から食事でもどうかとメールを送ってみた。
(かなり突然だし、久世サンにも職場の付き合いとかあるだろうし、もしかしたら残業に追われてるかも、つまりダメ元なんだけど)
あれ?
実はなかなか失礼だったりするか?
(気分上がって勢いのまま誘っちゃったけど「いきなり何だコイツ、非常識か」とか思われたらどうしよ……)
ヤキモキする野宮を余所にすぐに既読になったメッセージ。続いて「ウチで待ってる」とスマホ上に久世からの返信が表示された。
一日の業務をスムーズに捌き切れずに残業しがちな日々にある野宮は、久し振りの定時退社、恋人からのメールにすっかり舞い上がって、スキップしたりなんかして、危うく足首を捻りそうになった……。
「何か作ろうかと思ったけど、そこまで言うならコンビニまで買いにいこうか」
マンション二階の自宅をスルーして三階の久世宅へ直行し、いきなりコンビニチラシの話題を振ってきた野宮に久世が提案すれば。
「じゃあ俺買ってくる!!」
野宮は来た道を引き返し、チラシが入っていたコンビニで買い物し、笑顔で戻ってきた。
「野宮さん、相当買い込んできたね」
「ストロング系とロゼも買ってきた! コンビニ最高!」
すでに普段着に着替えて出迎えた久世は微笑んだ。
ノーネクタイでスーツ姿の野宮はスーパーで買い物してきたかのような大荷物をこどもみたいに両手に抱え込んでいた。
アラサー男子らしからぬ振舞につられて「おつかい、ありがとう」と頭をポンポンしてやれば、嫌がるどころか嬉しそうに頬を染めるものだから。
「うわ、ぁ、ちょっと、久世サン……?」
玄関でハグされてさすがに野宮は驚いた。
「本当、可愛い人なんだから」
「えぇぇえ? 荷物は酒とツマミばっかで少しもかわいくないし?」
「よしよし」
「久世サン、先に飲んでた? 酔ってる……?」
「残念ながら素面です」
「えぇぇえ……」
ダイニングテーブルに広げられた世にもジャンクなフードの数々。
「うわぁ、草だんごパフェうっま」
「野宮さん、甘いものから先に食べてるの」
「久世サンも一口、ほら、あずき乗ったウマイとこ食べてみて」
「ん。そうだね。甘すぎなくて食べやすい」
自宅とは言えナチュラルに「あーん」をやってのけるアラサーリーマンカップル。
「でもストロングには合わないなー」
「からあげ、今こんなに種類があるんだね、バジルに甘辛チーズにワサビ」
「あれ、パスタ意外と辛っ、辛うまっ」
「カロリーすごそう」
「俺等もうコレステロール気にしちゃうお年頃だよな」
「ロング缶飲みながらそれ言う?」
「はぁ、定時終わりで飲む酒サイコー過ぎる」
「それはよかった」
「久世サンゾーンもサイコー」
「光栄です」
「ストロング系からのロゼ、なんかまったりするなぁ~」
「見事に緑がない食卓だよね、適当にサラダ作ってこようか」
「えっ、もういいよっ、ここいてよっ、いっしょに飲んでよっ」
「うん、じゃあそうする」
「凛一はやっぱりロゼが合う~」
「……ずるいよ、野宮さん、最近酔ってるときしか名前呼んでくれない」
「だって恥ずかしーし。でも凛一にはいつだって紘って呼んでほしーし」
「……可愛くてずるい人だな、紘は」
「むにゃむにゃ……なんでこの店では、ペイ、使えないんだよ~……」
久世は思わず吹き出した。
真夜中、テーブルに突っ伏して寝とぼけている野宮の締まりのない顔を肴にしてロゼを傾けていた彼は、おもむろに立ち上がる。
スーツを脱いでワイシャツ一枚だった野宮の背中にブランケットをそっとかけた。
「紘の隣、僕にとっても抜群の居心地だよ」
翌朝、というか昼寸前、野宮は久世宅のソファの上で毛布に包まった状態で起床した。
「ふぉっ……もう昼……あ、シャワー入ってない……ハミガキしてな……」
二日酔いにまでは至っていないものの、ソファで寝具に塗れてもぞもぞしている野宮を久世は覗き込んだ。
「おはよう、野宮さん」
「あ……おはよ、久世サン――」
「まさかこんな時間まで熟睡されるなんて思ってなかったな」
「あ……俺もまさか……ここまで爆睡するなんて……」
「とりあえずハミガキしてシャワー浴びようね」
「あ……ハイ……」
「で、野菜を食べて。カロリー消費のため今日は一日しっかり運動しなきゃね」
「あ……運動……ですか」
公園で散歩とか、屋内でボーリングとか、健全な想像を巡らせた野宮に久世はほんのり笑いかける。
「野宮さんが泣いて嫌がっても続行、腰がへろへろになってもやめないからね?」
穏やかに柔和に脅され、ワイシャツ下から覗いていたお腹をつねられて、寝起き早々野宮は赤面する羽目に。
「……とりあえず準備体操がてらに、体、慣らしておこうか」
「わぁぁっ、だめっ、一先ずシャワー浴びさせてっ、自分自身が体たらくすぎて久世サンに顔向けできないっ」
「嫌がってもやめないって、僕、言ったよね?」
熟睡されての放置っぷりに呆れる反面、ありのままの体たらくっぷりを曝してもらえる悦びに目覚めた久世は、より毛布に包まってガードに徹底する野宮を抱きしめた。
「一日お風呂に入ってない野宮さんの匂い、癖になりそう」
「か、嗅いだらダメだって、ストップストップ! こんなの拷問だーーー!」
ちょいMな野宮の悲鳴はちょいS?(ドS?)な久世の悪戯心を却って大いに刺激するのだった……。