出会い
新選組の沖田総司。
幕末の世、若くして隊を任され、その剣技は新選組のなかでも群を抜いていた人物だったというのはある程度認知されているのだろうか。
僕はそんな彼の愛刀、加州清光の付喪神だった。
ある時、僕は折れた。
刀が折れれば役目はない。
鍛冶屋で治して使ってもらえたらよかったのだが、あいにく僕の付喪神としての人生?神生?はここで途切れた。
神のくせに永遠の生ではないことに皮肉を覚えたのは忘れることのない衝撃だ。
長い眠りから目が覚めて、最初に視界にとらえたのは茶色の毛玉だった。
何事かと思ったが、その毛玉は絶妙な温かさとモフモフ具合で、起きて早々、すぐに眠りに誘われた。
しばらく経ち、自分で動くことが出来るようになっていることに驚いた(四足歩行だったことにさらに衝撃をうけた)。最初に見た毛玉は母親らしい。周りには同じような小さな毛玉が3つ。おそらく兄弟であろう。自身も同じような見た目なのかと思うと、何故かくすぐったかった。
どうやら今の僕は、「はむすたぁ」という生物らしい。
陽が高い時間はやたらと眠く、暗くなってから目が覚める。これは刀時代も似たようなものだったのですんなり受け入れられた。ご飯だ、と出された穀物は何だかわからなかったが何故か嫌だとは思わなかった。
そんな生活を過ごしたある日、ヒトに鷲掴みにされ、何やら小さな箱に入れられた。僕1人だ。
真っ暗闇の中、やはり何事かと焦りはしたが小さい体ではどうしようもない。しかも体内時計というのはこんな時でも正確なもので、きっと陽が高い時間なのだろう。眠い。
とりあえず寝た。
で、だ。
「かしゅー。家についたよー」
微睡の中、久々に聞いた単語だった。暗かった世界が明るくなる。見慣れない風景だった。
のそのそ箱から顔を出してみる。
今まで共に育った毛玉たちはいなかったからなのか、そこは今まで育った住処よりは幾分大きく感じた(後々知るが、やはり元の住処より大きかった)。
回る滑車は今までのものより大きく、見たことのない木造建築がその横に鎮座している。
とりあえず一周するかと思った矢先、視線を感じなんとなく顔を上げた。
……知らない女。
これが、今の飼主との初対面だった。