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ひどい男

「おい、ハル、いい加減にしろよ」

「あ……悪い……」

 

 何を思ったのかハルは、せっかく俺が分けておいた屑石の山を、魔石の山にぶち込んでいる。

 ずっとこんな調子だ。

 ドジじゃ済まされないし、ブランクとかいうレベルも超えている。

 

「悪い、やり直す」

「いい、ハルに任せてたら日が暮れる」

「悪い、ユーリ……」

 

 どうせまた、ビアンカと何かあったんだろう。

 

「だから、俺の話を聞いておけば良かったのに」

「何がだ」

「ビアンカのことだよ」

 

 別に、二人がこれ以上親しくなろうがなるまいが、どっちでも良い。

 どっちにしたってハルはビアンカの命の恩人で、それはこの先も変わらないのだ。

 温かい場所で、シオンの言葉に踊らされているハルを見ているのだって、悪くない。

 でも、なんだってシオンの言葉は信じるのに俺の言葉は全く信じようともしないんだ。それが癪に障る。

 

「……ああ、そうだな、悪かった」

「本当に悪かったと思ってるのか」

「ああ」

「ふーん。じゃあビアンカは、やっぱり照れてたんだろ?」

 

 鼻で嗤って返すと、ハルは一瞬渋面を作って固まった。

 

「……ユーリはなんでそう思ったんだ?」

「だって、俺はいつもビアンカを見張ってたけど、男とイチャイチャしているのを見たことがない。多分、人目のない場所でイチャイチャしたいタイプなんだろ」

「……ビアンカは好色家じゃない」

「あー、ハルは、好きな女が他の男とイチャついているのを信じたくないタイプか」

「ビアンカは、本当に違う」

「あっそ。どっちでもいいけどさ。好きな女が初心うぶだと信じてたくせに、俺の言うことは信じなかったんだな。ひでー話だ、俺にとっても、ビアンカにとっても」

 

 ガーシャンと音を立てて石を詰め込んでいた箱が倒れた。

 鮮やかな石とくすんだ石くれがぐしゃぐしゃに混ざり合って床にぶちまけられる様が、視界に広がる。

 

「はあ!? ハル、わざとやってんのか!?」

「わ、悪い……!」

 

 ハルは焦ったように屈んで、馬鹿力でその箱を立て直した。

 立ち上がった箱は、勢い余って、中に残っていた石をあちこちに飛び出させている。

 

「おい、またやってんのか……」

 

 振り向くと、ルドがいた。

 騒ぎを聞きつけたのだろう。

 ルドは、その惨状を目にしても特段責めたりはしなかったが、屈んで石を拾い上げているハルを難しい顔で見下ろしている。

 最初の頃こそ、仕事の仕方忘れちまったか、がはは、と笑っていたが、今では完全に駄犬を見る目だ。

 

「ハル……」

「ああ、すまないルド、すぐ戻す」

「いや、いい。お前は屋敷に戻れ」

 

 ハルが、はっと顔を上げた。

 

「いや、俺は……」

 

 同意とも反対とも取れない言葉を口にして、ハルは固まった。

 

「いいから、一旦戻れ。発電所に行くついでに、送って行ってやる。お前は疲れてる。ドクターストップだ。帰って休め」

 

 ルドの渾身のギャグらしきものは誰にも拾われず、ただハルが「わかった……」と言って頷いた。

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