様子のおかしい二人
第二鉱山は、今日も何一つ問題なさそうだ。
悪戯されたりはしていないし、測定器も岩肌にきちんと張り付いている。
今のところ、私が何かを心配する必要はなさそうだ。
それよりも、とぼとぼと後ろを歩く男の様子の方が心配だ。このところ、ずっと何かがおかしい気がする。
「どうかしら、第二鉱山は」
「……どうかしらって?」
「だって、来たかったんでしょ?」
「まあ、そうだな」
ハルは、煮え切らない返事をした。
私は決して、嘘をついてるわけでも、誇張しているわけでもない。
ハルが、「次に第二鉱山に行く時は、俺も連れて行ってくれ」と言ったから、連れてきたのだ。なのに、ハルは覇気のない表情で私の後ろをついてくるばかりだった。
「あー……ランタンの仕分けで、疲れちゃった?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
けど、の先は何なんだろう。
最近のハルは、わかりにくい。まるでガロみたいだ。
でもそれも私のせいかもしれない、と思うと、どうして良いかわからない。
人間社会ではあれこれすべきではない、と言い過ぎてしまった気がする。
それを気にしすぎて言葉少なになってしまったのかもしれないし、それともそういう社会が面倒になってしまったのかもしれない。
ハルの話しぶりから察するに、獣人社会はもっとオープンで、楽そうだ。
それから、ハルの周りにはどうやら、そういうオープンな獣人の女性がいたらしい。
それを聞いた時、何とも変な気分になった。勝手ながら、ハルは傭兵として男集団の中で生活してきたのだろう、と思い込んでいた。
だけど、鉱山でのあれは何だったんだろう。突然手を握られて――もちろん嫌なわけではない。嫌なわけではないけれど、不可解な出来事だった。あえてユーリとガロの目の前で手を握って、ハルは一体何がしたかったのだろうか? 獣人の女性なら、どうしていたのだろう?
うんうん、と悩み込んでいると、ふっと視界が陰った。
見上げると、眉尻を下げたハルがこちらを覗き込んでいる。
「ビアンカ……体調でも悪いのか?」
「そんなことは全くないけど……どうして?」
「いや、急に俯いたから……それに、なんだか苦しそうな表情をしている……」
「そう?」
どうやら知らぬ間に、随分と険しい顔をしていたようだった。
眉間を揉んで刻まれた皺を伸ばしていると、再びハルと目が合った。
「頭が痛いのか?」
「いいえ、大丈夫よ」
「そうか? でも体が冷えるようなら、すぐ言ってくれ」
そう言ってさっとしっぽを持ち上げるハルを見ていると、自然と口元が緩んでしまう。
ハルはどう見たって何かに疲れているような様子なのに、そんな中でも私のことを良く見ていて、私に懸命に仕えてくれる。主君冥利に尽きるというものだろう。
「ありがとう、でも今は大丈夫。歩きづらくなっちゃうしね」
「そうか? ……やっぱり歩きやすさは大事なのか?」
「え? まあ、それなりには……」
「そうか……歩きやすさか……」
ハルは一人で納得した後、また私から少し距離を取った。
一体ハルが何を思っているのか、よくわからない。
もしかしたら、また何か認識の違いがあるのかもしれない。
とは言えハルは、護衛として適切な距離を保って歩いているだけなのだ。
これ以上、私があれこれ言うべきではない気がした。




