最適な救出劇
「前号にて、東第四発電所の事故に関して報じた。その後、本紙は停電による大型印刷機の停止の為、二日間休刊していたが、電力復旧の目処が経ったため、続報を刊行する。
事故翌日、東第四発電所は事故の原因及び停電の原因調査を開始した。事故の原因は、発電所内での魔石運搬時の人的過誤が一因であった。発電所では、更なる調査と対策を講じているところである。停電の原因は、前回報じた通り、送電装置の一部損傷によるものであった。現在修復工事中であり、二、三日以内に復旧する見込みである。
また、事故発生当時キーリー男爵は意識不明の状態であったが、その翌日意識を取り戻した。現在も病院にて治療中であるが、快方に向かっている。男爵の側には常に従者の獣人の姿があり、泊まり込みで献身的な看病を行なっているという。
キーリー男爵と言えば、鉱山の所有者であると共に、携帯型電化製品を取り扱う商会の会長でもある。その商品の中には電動式ランタンもあった。男爵が意識を取り戻した後一番最初に行ったことは、他地域に身を預けられる親類縁者がいない世帯への、電動式ランタンの無料貸与であった。ランタンの配布はヘレンキース伯爵の助力のもとで行われ、併せて、ヘレンキース伯爵から保存食等の無料配布も行われた。
町では、両氏への感謝の声が絶え間なく聞こえてくるようである。また、素晴らしき男爵を救った獣人への称賛も声高に叫ばれている。
次回の刊行は、電力復旧後となる見込みであるが――。……このくらいでいいだろ」
次回の刊行云々なんて、誰も興味がないはずだ。ビアンカさえ戻って来たら、もう新聞を読むことなんてない。
そう決めつけて、新聞をテーブルの上に放ると、正面に座っていたガロが、その紙面にじっと目を落とした。
ガロは相変わらず、文字が読めない。だから多分、挿絵を見ているのだろう。
そこには、片手で松葉杖をつきもう片方の手にランタンを掲げて微笑む女性と、それを支える獣人が描かれている。
「ビアンカは目を覚ましたけど、脚を怪我しているのか……?」
ガロが眉をひそめて尋ねた。
ガロは、松葉杖の絵が気にかかるらしい。
「知らねーよ。新聞なんて当てにならないって言ってるだろ」
「ライアンは何か言ってなかったの? まだ、わかってないのかな……」
横から、シオンが口を出した。
「ライアンからは、ビアンカもハルも元気だと聞いてるが……」
ガロが、ぼそぼそと返す。
「じゃあ、元気なんだろ」
「でも、ライアンも二人とは会えていないらしい」
「そっかあ……」
ガロとシオンが、それぞれ陰気そうな声で返してきて、内心で舌打ちをする。
ハルとビアンカがいなくなって急におどおどし始めたガロも、いつにもましてうじうじとしてるシオンも、鬱陶しい。
ライアンも肝心な時に頼りにならない。
だけど、俺は今、機嫌が良い。何故なら、ハルだけは、よくやってくれたからだ。
ヘレンキース伯爵を含め、愚図な人間達は、ビアンカを助けられなかった。馬鹿げた美談を新聞に載せて、あたかも仕事しているかのように振舞ってるだけだった。
その中で、ハルだけが、ちゃんとビアンカを助けた。
最初に事件のことを知った時こそ、ビアンカを守れなかったハルを軽蔑したけど、今は違う。ハルは抜群のタイミングでビアンカを助けたのだと気付いて、鳥肌が立った。
その時、ビアンカは炎の中ですごく苦しい思いをしていて、そこにハルが現れたのだろう。しかも、ハルはそれで、大怪我を負った。
もう少し遅ければビアンカは死んでいただろうし、早ければ感謝の気持ちが薄れていたと思う。
でもハルは最善を尽くしてくれた。だから、ビアンカはもうハルを捨てられない。
ハルが捨てられないなら、俺だけ捨てられるなんてこともない。
早く、二人の顔が見たい。早く帰って来てほしい。




