どこかずれた男たち(1)
外でからヴーーンという音が聞こえる。その音でさえ、懐かしく感じた。
だが、聞き入っている場合ではなかった。
慌てて部屋を出て庭へ向かうと、ちょうどビアンカが屋敷から出てきたところだった。
ビアンカはシャツとズボンを着ている。鉱山に向かう時の服装だった。
俺が駆け寄るとビアンカは、足を止め、「ガロ? どうしたの?」と尋ねた。
「鉱山に行くなら、俺も行く」
そう言うと、ビアンカは、怪訝そうに「何故?」と返した。
「ルドと話したい」
「ルドと? 伝言があるなら、私が伝えるけど」
「直接会って話したい」
「そう……でも、次の機会でも良いかしら?」
ビアンカの言動には、どうあっても俺を連れて行きたくない、という意思が滲んでいた。
でも俺も、引き下がるつもりはなかった。
「今日が良い。宿舎に行くだけで、外に出たりしない。何か問題があるのか?」
「問題というより……私は仕事をしに行くのよ。個人的な事情で、ガロを連れて行ったりできない」
「俺は鉱夫だから、ビアンカの仕事について行ってもおかしくはないはずだ」
「そうだけど……。ああ、もう悩んでいる時間もないわね……。わかったわ。ちょっと、ライアンに言伝だけしてくるから、先に車に乗ってて」
そう言うと、ビアンカは駆けて行った。
俺はほっと胸を撫でおろし、車に乗り込んだ。
昨日聞こえてきたビアンカとライアンの会話によれば、今日は鉱山に調査員とやらが来る日らしい。
だからビアンカには、獣人を外部の人間の目に触れさせたくない、という気持ちがあるのだろう。
でも、それだけが原因で俺を退けようとしていたわけではない。
ビアンカは、「鉱山に行くだけだから、一人で大丈夫よ。さすがにこの状況で、彼らを鉱山に連れて行く気にはなれないわ。危ない目に遭わせられないもの」と言っていた。
ビアンカの中では何故か、自分よりも獣人の方がか弱いもの、と認識されているようだった。
いかに優しい言葉と言えども、さすがにそれは心外だった。
しばらく待っていると、ビアンカが戻ってきて、間もなく車は動き出した。
「……体の調子はどう?」
ビアンカは座席にもたれかかると、どこかうろんな表情でそう尋ねた。
「良い」
「そう。どう良いの?」
「耳が聞こえる」
「火傷は?」
「治った」
「そう……伯爵の薬のおかげね」
「……」
「さっきまで随分と饒舌だったのに、また無口になるのね」
ビアンカはあきれたような声で言った。
「怒っているのか?」
そう尋ねると、ビアンカは、「え?」と言って小首を傾げた。
「怒ってるわけではないわね……。ただ、男同士なら、ガロの考えていることもわかるんだろうなーって思っただけ、ね」
ビアンカは、自らの心の内を探るように、難しい顔をして言った。
「……それは違うと思う」
「そうなの? ヘレンキース伯爵は、男同士だからわかる、みたいなことを言ってたわよ」
「……それは嘘だ」
ビアンカがヘレンキース伯爵の名前を口にすると、どこか落ち着かない気持ちになる。
ヘレンキース伯爵はどうにも胡散臭い男だった。
俺が考えていることなど、同性だからわかる、なんてことは決してない。
ハルでさえ、「ガロが何考えているかわからない」と時々こぼすのだから。
あの薬を飲んだことは決して後悔していないが、こういう場面に出くわす度に、自分が誤った選択をしたような気がしてしまう。
あの一連の出来事のせいで、ビアンカは完全にヘレンキース伯爵への警戒心を解いてしまったように思えてならない。
「ふうん……まあ、いいわ」
そう言うと、ビアンカは視線を逸らした。
それから鉱山に着くまで、つまらなそうな顔で窓の外を眺めていた。




