すれ違う浮雲
二週間近く、ハルとまともに話していない。
ハルと揉めた日の翌日には、ハルとガロは普通に会話していた。ガロは無口だから、ハルの方から話しかけたのではないかと思う。
でも、ハルは私には話しかけてこなくなった。
私から話かけようにも、何を話そうか迷っているうちに、ぷいと顔を背けられてしまう。
本当は最初の一週間でどうにかするべきだった。でも、その機会を逃し、ハルはまた鉱山へと行ってしまった。
仕事にもなんとなく身が入らなくて、ちょこちょことミスをしてしまっている。本当に良くない。
「終わった」
ふと気が付くと、目の前に、芝刈り機を掲げたガロがいた。
「ああ、ありがとう。おつかれ様。ガロ、……ちょっと隣に座ってくれる?」
「……」
「……隣に座ってくれる?」
私がかけた長椅子の隣をぺしぺしと叩きながら催促すると、ガロはほんの少し面倒臭そうに座った。
それが少し意外だった。
「そんな面倒臭そうにするなんて珍しいわね。疲れた?」
「……」
「もしかして、今から何を聞こうとしているか、わかる?」
「……ハルのことか?」
「……ガロって本当に何でも知ってるのね……。もしかして、ハルのことを聞かれるのがわかって、面倒臭いと思った?」
「……」
「……ガロは何でも知っているのに、何も教えてくれないのね……」
「……ハルのことはハルに聞けば良い。ハルにも同じことを答えた」
ガロは、今度は心底面倒臭そうにそう答えた。
冷たい声で真っ当な指摘をされると、いい年して私は何をしているんだろう、と急に恥ずかしくなってきた。
何か秘密を探ろうとか、そういう気持ちではなかった。ただ、ハルがまだ怒っているか、知りたかった。だけど、それをガロに聞いたところで、何がどうなるわけでもないのだ。
「ごめん、ガロの言う通りだわ。……ああ、こんなことなら、一度ライアンと喧嘩して、仲直りの方法を勉強しておくべきだったわ……」
「……」
「あ、芝刈り機戻したら上がって良いから」
ガロは立ち上がり、何とも言えない表情でこちらを振り返ったが、特に何を言うでもなく、そのまま芝刈り機を持って立ち去った。
私はしばらくぼんやりと、風に煽られながらくっついては離れていく雲たちを見ていた。
――さっき、ガロが変な顔をしていた。もしかして、私はまたガロに変なことを言ったのだろうか。
喧嘩の仲直り、なんて考え方がいけないのだろうか。
なんとなく気安い関係になった気がしていたけれど、私たちの関係はただの雇用主と被雇用者だ。
よく考えれば喧嘩などではなく、叱責だった気がする。もっと言えば、私の一方的な癇癪だった気さえする。
さっきのガロのあの表情は、ひょっとしたら呆れ顔だったのかもしれない。
なんだかちょっとやるせない気持ちになってきた。




