表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/139

一寸先の地雷

「お前たちみんな、力も強いし、働き者だし、助かるなあ」

 

 宿舎の部屋の一角で、ルドが、がははと笑っている。

 改めて、ルドは豪胆な人間だと思った。

 目の前で、ユーリがあからさまに苛立っているのが、まるで気にならないらしい。

 

「しかしあれだな、ユーリもやっぱり耳が良いのか?」

「別に、ハルとかガロ程は良くない」

 

 ユーリがむすっとした表情で答える。

 初めて顔を合わせた時はユーリも大分警戒していたが、もはやどうでも良くなってきたと見える。

 ルドに対しては、無視するでもなく、嘘をつくでもなく、ぶっきらぼうながらも受け答えするようになっていた。

 

「お前たち揃って不機嫌そうな顔しているなんて、どうせあれだろ、またビアンカ嬢の悪口でも聞こえたんだろ」

 

 得意げな表情のルドを、ユーリがうろんな目で見ていた。

 実際のところルドの言うことは――全くの見当はずれだった。

 確かに、ビアンカに対する謗りはそこここから聞こえてくるが、ユーリは多分、そんなこと歯牙にもかけないだろう。むしろ、満足そうに聞いているようにすら見える。

 ユーリは単純に、今の状況が不本意なのだろう。

 

 ユーリが鉱山に行くことを拒んだのは、人間と働くことを嫌がっているのか、もしくは、どうしても魔石掘りを受け入れられないためだろう、と初めは思っていた。

 だが、どうもそれだけではないらしい。

 どうやら、ユーリはビアンカに相当懐いているようだった。たしかに、ビアンカに害がないことをユーリにもわかってほしい、とは思っていたが、今の状況は、俺の望んでいたものと似て非なるものだった。

 ビアンカの傍を離れたくない、と言えば聞こえは言いが、ユーリのそれはもっと危ういものに見えた。

 ユーリはきっと、裏切られたと感じた時に、自分を抑えることができないだろう。俺はそれを、身をもって知っていた。

 

「まあでも、お前たちがこんなに慕ってくれるなんて、ビアンカ嬢も幸せだろうな。あの人も天涯孤独だから、お前らみたいなかわいいわんこに慕われて、内心喜んでいるんだろうよ」

 

 ルドがうんうん、と頷きながら続けた。

 その言葉に、ユーリがぴくりと反応した。

 

「家族がいないのか? 恋人は?」

「恋人ー? そんなもん、お前らの方が良く知ってそうなもんだけど……俺はよく知らねーよ」

 

 その答えを聞いて、ユーリは「ふうん……」と興味を失ったようにそっぽを向いた。

 ルドはそれに気が付かないのか、尚も楽しそうに話し続けている。

 

「でもまあ、噂さえ無ければ良い女だし、もうそれなりの年だし、そろそろプロポーズを受けてても不思議じゃないよな。まともな男と結婚して子供でも産めば、おかしな噂も消えるだろうしな」

 

 そう言って、ルドはまた、がははと笑った。

 ユーリの目がギラリと鈍く光ったのを見て、俺はひやりとしたものを感じた。

 

 ルドがユーリを怖がるならまだしも、俺がルドを怖がる日がくるとは思わなかった。

 お願いだから、ユーリを刺激するようなことを言わないでほしい。

 まともな男ってなんだよ。世間が言うところのまともな男が、俺たちの存在を許すわけがない。

 考えているうちに、段々と俺も不愉快な気持ちになっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ