一寸先の地雷
「お前たちみんな、力も強いし、働き者だし、助かるなあ」
宿舎の部屋の一角で、ルドが、がははと笑っている。
改めて、ルドは豪胆な人間だと思った。
目の前で、ユーリがあからさまに苛立っているのが、まるで気にならないらしい。
「しかしあれだな、ユーリもやっぱり耳が良いのか?」
「別に、ハルとかガロ程は良くない」
ユーリがむすっとした表情で答える。
初めて顔を合わせた時はユーリも大分警戒していたが、もはやどうでも良くなってきたと見える。
ルドに対しては、無視するでもなく、嘘をつくでもなく、ぶっきらぼうながらも受け答えするようになっていた。
「お前たち揃って不機嫌そうな顔しているなんて、どうせあれだろ、またビアンカ嬢の悪口でも聞こえたんだろ」
得意げな表情のルドを、ユーリがうろんな目で見ていた。
実際のところルドの言うことは――全くの見当はずれだった。
確かに、ビアンカに対する謗りはそこここから聞こえてくるが、ユーリは多分、そんなこと歯牙にもかけないだろう。むしろ、満足そうに聞いているようにすら見える。
ユーリは単純に、今の状況が不本意なのだろう。
ユーリが鉱山に行くことを拒んだのは、人間と働くことを嫌がっているのか、もしくは、どうしても魔石掘りを受け入れられないためだろう、と初めは思っていた。
だが、どうもそれだけではないらしい。
どうやら、ユーリはビアンカに相当懐いているようだった。たしかに、ビアンカに害がないことをユーリにもわかってほしい、とは思っていたが、今の状況は、俺の望んでいたものと似て非なるものだった。
ビアンカの傍を離れたくない、と言えば聞こえは言いが、ユーリのそれはもっと危ういものに見えた。
ユーリはきっと、裏切られたと感じた時に、自分を抑えることができないだろう。俺はそれを、身をもって知っていた。
「まあでも、お前たちがこんなに慕ってくれるなんて、ビアンカ嬢も幸せだろうな。あの人も天涯孤独だから、お前らみたいなかわいいわんこに慕われて、内心喜んでいるんだろうよ」
ルドがうんうん、と頷きながら続けた。
その言葉に、ユーリがぴくりと反応した。
「家族がいないのか? 恋人は?」
「恋人ー? そんなもん、お前らの方が良く知ってそうなもんだけど……俺はよく知らねーよ」
その答えを聞いて、ユーリは「ふうん……」と興味を失ったようにそっぽを向いた。
ルドはそれに気が付かないのか、尚も楽しそうに話し続けている。
「でもまあ、噂さえ無ければ良い女だし、もうそれなりの年だし、そろそろプロポーズを受けてても不思議じゃないよな。まともな男と結婚して子供でも産めば、おかしな噂も消えるだろうしな」
そう言って、ルドはまた、がははと笑った。
ユーリの目がギラリと鈍く光ったのを見て、俺はひやりとしたものを感じた。
ルドがユーリを怖がるならまだしも、俺がルドを怖がる日がくるとは思わなかった。
お願いだから、ユーリを刺激するようなことを言わないでほしい。
まともな男ってなんだよ。世間が言うところのまともな男が、俺たちの存在を許すわけがない。
考えているうちに、段々と俺も不愉快な気持ちになっていった。




