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引き続き憂鬱

 庭で四人の獣人が、大して面白くもなさそうにキャッチボールをしている。

 ――俺は何を見せられているんだろうか。

 眉間をつまみため息をつくが、一向に気分が晴れそうにはない。

 

 どうしてこうなったのだろうか。

 ビアンカは遂に、彼らが自由に庭に出ることも許してしまった。

 

「それで、明後日から鉱山で働かせるということですね」

 

 俺と同じく庭の片隅にいながら、俺とは違い満足そうな表情を浮かべているビアンカに尋ねた。

 

「ええ、そう、でも二人ずつ行ってもらいましょう。四人の獣人と同室なんてのは、さすがのルドにとっても負担でしょうから。そうね、二人で五日間働いてもらって、週末の二日間はこちらで過ごして、その次の五日間はもう二人に働いてもらう、っていうサイクルにしましょう。組み合わせは、ハルとユーリのペアと、シオンとガロのペアが良いかしら」

 

 二人ずつか……とそっとため息をつく。いっそのこと四人全員で行って欲しかった。

 二人がここに残るということは、引き続き、商館での監視を続けなければならないということだ。

 どうしても監視の継続が必要と言うなら、せめて優秀な部下がいれば、と悔やむ気持ちになる。

 獣人を過度に怖がらず、抑止力になり得るような威圧感を漂わせている人物を、きちんと育成していれば――。

 今のところ、そういった監視官としての資格を持つのは、俺とビアンカだけだ。

 ビアンカはそれとなく俺に暇を与えようとするが、目の下に隈をこしらえたこの女性を一人にする気にはどうしてもなれなかった。

 

「それでビアンカ様、彼らは今一体何をしているのです」

 

 俺は眉間を再びごしごしと擦り、ビアンカに尋ねた。

 

「あら、ライアン、キャッチボールを知らないの?」

「いえ、そうではなく……。いえ、そもそもあのボール、昔私とビアンカ様でキャッチボールした時の物でしょう」

「あら、思い出した? じゃああなたもわかるでしょ、若者は、外に出て遊ぶべきなのよ」

 

 彼女はおそらく、半分は本気で、半分は冗談で言っているのだろう。

 たしかに、狭い部屋に籠り切りで過ごすのは、どう考えても不健康ではある。

 この凡庸な庭でできることなど限られているので、彼らに無理やりボールを押し付けた、ということなのだろう。

 

「若者って……。シオンはともかく、他の三人はビアンカ様と同じか年上くらいに見えますが」

「まるで私が若くないかのような言い様ね」

「いえ、そうではなく……」

「うそうそ、冗談よ。ま、私が適齢期を過ぎているのは事実だものね」

 

 ビアンカは、機嫌が良さそうに言った。

 その眼差しは、大切なペットを見守る飼い主そのものだった。

 ペット――それは安直な比喩ではあるが、言い得て妙でもあった。

 ビアンカはただ彼らを甘やかし、楽し気にしている。

 対して俺はというと、何かと用事を押し付けられたり、煩げな顔を向けられたり、相変わらずそんな調子だった。

 ビアンカは俺を頼りにしてくれているし、気安く接してくれている。そう思えば誇らしい気持ちもなくはないが、それ以上に、なんて損な役回りだろう、と嘆かずにはいられなかった。

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