かわいい駄犬
とんでもないものを押し付けられたと思った。
獣人なんて、得体の知れない、危険なものだ。
獣人と同室で過ごせと言われた時は、言うなれば、呪われた人形を枕元に置いて寝ろと言われたような、もしくは、鋭いつららの下での作業を強いられているような、そんな気持ちだった。
ビアンカとの付き合いはそこそこ長い。彼女には恩がある。彼女が悪い人間ではないと知っている。
それにしても、この所業はひどい、と思わざるを得なかった。
それが今はどうだろう。
得体の知れなかった男と暮らすうち、だんだんと、犬を飼っているような気持ちになってきていた。
もっとも、実際にはこの男――ハルの飼い主は、俺ではない。ビアンカだ。
ビアンカがこの鉱山にやってくると、ハルは誰よりも早く気が付く。何を言うわけでもないが、何か良いものを聞きつけたように、その耳がぴょこんと動く。
ビアンカが近くにいると、作業を続けながらも、そわそわと様子を疑っている。
そんな様子を見ていると、ついつい苦笑がこぼれてしまう。
不機嫌な時も、もちろんある。
今がちょうど、その時のようだった。
ハルは、耳をぴくりと動かした後、苛々とし始めた。多分、俺たちが思っている以上に、狼の獣人は耳が良いのだろう。口さがない陰口でも聞こえたのだろうか。
俺は消灯して寝ようとしていたが、なんとなく気になって、「何か聞こえたのか?」と聞いてみた。
ハルは、「いや……」とだけ答え、むっつりと黙った。
まあ、そうだよな、と思い、明かりに手を伸ばした時、ハルが再び口を開いた。
「なあ、ルド。ビアンカはなんであんなに評判が悪いんだ?」
ははあ、もしかして、獣人の悪口ではなく、ビアンカに対する陰口だったのか、と得心する。
「そりゃあ、あの商館には、俺たちとか、商人とか、あとお前らとか……とにかく得体の知れない男ばかり出入りして泊っていくからな。周りからしたら侍らせてるように見えるんだろ。でもあのねーちゃんはそんなこと気にしないから、お前が目くじら立てることじゃねーよ」
そう言って笑ったが、ハルは全く納得していないようだった。
まあ、俺も悔しい時はある。俺たちみたいなはぐれ者を雇ってくれた恩人だというのに、そのビアンカをこき下ろす馬鹿がいるなんて、受け入れがたいよな。




