You would become..
ワンピースを着た女性が、耳としっぽを生やした男のエスコートのもと、車へと乗り込む。
二人は、特段、めかし込んでいるわけでもない。
にもかかわらず、燦燦と降り注ぐ日差しの下で二人の衣装はやたらと白っぽく、まるで神聖なもののようにすら感じられた。
もちろん、実際の状況は、神聖とは程遠いところにある。男の腕に目を向ければ、それは火を見るよりも明らかだろう。様々なものを詰め込んでボコボコに膨らんだ袋を抱えている。
これから二人は、その平鍋やら何やらを使って、貴族には似つかわしくない――いや貴族どころか、街の人間すらそうそう実行しない、野外活動をするのだという。
「二人は結婚するのかなー?」
眩しさに目を細める俺の横で、シオンが言った。誰に言ったわけでもないのだろうが、
「できねーだろ」
と、ユーリが返す。
「わかんないよー? だってビアンカさんだもん」
シオンは絶対的な信頼のようなものをその声に乗せて、笑った。
それから、表情はそのままに、今度は俺の方に向き直って口を開く。
「ね、ライアンさんは、結婚しているの?」
キラキラ、を超えて、ギラギラと感じられる程の笑顔を浮かべている。
これだから、子供ってのは……。適齢期を迎えれば、全員が全員、結婚して子を儲けるとでも思っているのだろう。今でこそ擦れてしまったビアンカでさえ、昔はそういう面倒な一面を持っていた、と思い出す。
何とも言えない苦い気持ちを噛みしめているうち、ふふ、とまた別の笑い声がした。
「ライアンさんも、私も、パートナーはいませんよ」
マリーが、口を挟んだ。
それは、フォローのように聞こえた。
マリーは「でもね、」と話を続ける。
「私達にも、家族はいますよ。ほら、ライアンさん。今、娘を嫁に出すような気分でしょう?」
やはりフォローなどではなかったか……、とおかしな落胆が頭をもたげる。
娘を嫁に出すような気分、などと言われても、そもそも娘を嫁に出す気分というものを知らないのだ。今の気分がその気持ちと似ているかだなんて、俺にわかるはずもない。
「話が飛躍しすぎだろう」と返すと、マリーは「そうですか……」と言って首を捻った。
「じゃあ、息子を婿に出す気分ですか?」
それこそ全くもって、しっくりとこない。
眉間を揉みながら、はあ、とため息をついた。
「……マリー、ビアンカ様に似てきたな……」
と言うと、マリーは「そうですか?」と嘯いた。
「まあ、ビアンカ様は私の主人であり、大事な妹のような人でもありますから、そういうこともあるのかもしれませんね」
マリーは勝手に納得しているようだった。
最初に質問したシオンは、きょろきょろと俺達の顔を見回しながら、何も納得していないような顔をしていた。だが、唐突に「あ!」と声を上げて、俺達から完全に視線を外した。
「今、車の中でキスしてた! 何話してるのかな!?」
子供は……何故だか他人の恋愛話も大好きだ。
何の話をしているかなんて、俺達は知りようもないが、例え聞こえたとしても子供には教えないだろう。
「何でもいいだろ。戻るぞ」
俺の気持ちを代弁するかのように、ガロが言った。
「なんだ、二人のイチャイチャ話を聞いて、恥ずかしくなってんのか、ガロ」
「え! そんなにイチャイチャしてたの!」
「いい、聞くな」
三人の獣人の会話は、おかしな盛り上がりを見せている。
「ふふ、娘や息子が独り立ちしても、ライアンさんには、まだ可愛い息子が沢山いますよ」
マリーはまだそんなことを言っていた。
息子だとか娘だとか、そんなものはよくわからない。
けれども、俺達は皆してビアンカとハルを見守り、めいめい笑顔を浮かべていた。
これにて、本編完結です!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




