その日
「つまんねえ」
ぼそりと呟くと、シオンがこちらを睨んできた。
でも、ハルとガロは否定しない。
ほら、だから、言わんこっちゃない。
何が祝賀会だ、誕生日会だ、立食パーティーだ、ガーデンパーティーだ。
こんなもの、俺たちにとっては、何も楽しくない。
イライラする。あいつにも、こいつにも。
「ハルだって、そう思ってんだろ?」
「……別に。そもそも、俺たちが楽しむための誕生日会じゃないだろ」
「あっそ。でも、好きな女の誕生日当日に、その女が別の男と喋っているのを眺めているのって、どんな気持ちなんだ?」
「……」
ハルは何も言わずに、半眼で睨んできた。
「そもそも、誕生日当日は先約があったはずだろ? その約束していた相手も、簡単に約束を反故にしちゃうんだから、本当に人が良い馬鹿だよな」
「もう、いい加減にしてよ、ユーリ!」
良いところでシオンが割り込んできた。
せっかくハルの表情が崩れかけて、興が乗ってきたところだったのに。
「仕方ないじゃん、昨日は、仕事の急なトラブルだったんだから!」
「にしたって、普通翌週とかに回すだろ」
「食材がもう届いていたから、そんなに後ろ倒しにはできなかったんだよ。それに、当日におめでとうって言えて良かったと思おうよ」
いかにも、今僕は良いこと言いました! というような顔をされて、盛大にため息をつく。
「だからさ、ハルも今日は楽しもう? あっちに美味しそうなクッキーもあるし、ケーキもあるよ。ハルはケーキ、食べたことある?」
「ケーキ……」
かわいそうなハルは、ビュッフェカウンターの上に並ぶケーキ群を親の敵のように見つめた後、ぷいとそっぽを向いて「いや、俺はいい……」と答えた。
かわいそうなハル。馬鹿なハル。全部、ハルの自業自得だ。
ビアンカの誕生日当日は先約がある、と聞いた時、あからさまにほっとした顔をしていたくせに。
良かった、自分との約束は忘れられていなかった、と顔に書いてあるかのようだった。
なのにハルは、マルセルに約束を譲ったのだ。
そんなの無視して、さっさと二人で出掛ければ良かったのに。
そうしていれば、今頃笑顔でケーキをつついていただろうに。
俺のその考えを裏付けるかのように、いつの間にか傍に来ていたビアンカが、沈んだ声でハルに「ごめんね」と耳打ちしていた。
その声は俺たちには丸聞こえだったけれど、そのことに全く気付いていない様子のビアンカは、幾分明るい声音で俺たちに話しかけてきた。
「参加してくれて、ありがとう。立食とかビュッフェとか、慣れないと思うけれど、好きなだけ食べてね。他の人達にもそうするように言ってあるし。今日は、みんなの慰労会でもあるから」
「うん、ありがとう、ビアンカさん。それから、お誕生日おめでとう」
「ああ、おめでとう、ビアンカ」
「……おめでとう」
「……おめでとう」
誕生日おめでとう、なんて言葉を口にしたのは初めてで、変な気分だった。
ビアンカを喜ばせたい気持ちはあるけど、どんな口調で言えば良いのか、俺たちにはよくわからない。
ビアンカもビアンカで、困ったような顔で「ありがとう」と返してきた。
やっぱりビアンカも馬鹿だ。
そんな顔をするくらいなら、大人しくハルと二人で過ごせば良かったのに。
そうすべきだったって、なんで誰一人気付かないんだ。
不幸そうな二人も、向こうで幸せそうに笑っている奴らも、全部むかつく。




