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その目と髪に透けて見えるもの

「今日からお世話になるマルセルです。宜しくお願いします」

 

 背筋を伸ばし、僕の方を真っすぐに見つめる青年の隣で、ビアンカがちょっと困ったように微笑んでいた。

 僕が、宜しくお願いします、と返して会釈すると、ビアンカが「急でごめんなさいね」と言う。

 それから、「マルセルは鉱山の経営の見習いだから、同僚として、よろしくね」と付け足した。

 それで僕は、ようやく合点がいった。

 新しい使用人の紹介をしたい、と言われた時、何で僕に? と少し不思議に思っていたけれど、その答えはどうやら、僕と一緒に働くかもしれないから、ということらしい。

 

「そういうわけで、今から少しマルセルと打ち合わせしてくるから、悪いけど、シオンは自習して待っていてもらえる?」

 

 僕は頷いて、部屋へと向かう。

 でも多分、勉強に集中はできないだろうな。僕の頭の中では今、さっき見た光景のリプレイが繰り返されている。

 

 マルセルは、僕を見ても嫌な顔をしなかった。

 ビアンカの前だからそう装っているのかもしれないけれど、もしかしたら本当に僕の耳やしっぽを受け入れてくれているのかもしれない。

 僕がそう考えるくらいには、マルセルもかなり特徴的な見た目をしていた。

 僕は、あんなに真っ赤な瞳の人を他に知らない。

 そこまで多くの人と交流してきたわけではないけれど、フィクション小説の登場人物でさえ、あれ程鮮やかな赤は持たない。せいぜい赤褐色、と表現されるくらいのものだ。

 ただ、神話の悪魔の中には――いや、こんなことを考えるのは失礼か。

 

 マルセルは今日、何の前触れもなく――ビアンカはいつから知っていたのかわからないけれど、少なくとも僕にとっては今日まで何の知らせもなく――突然やって来た。

 彼も、色々あって、ビアンカに拾われてここに来たのだろうか。

 でも、それにしては、何か変な感じがした。

 一体何だろう、と名探偵さながらに、顎に片手を当てて考える。

 

 まず、ビアンカだ。僕たちが働き始めた時、あるいは、僕たちの後輩にあたる人が鉱山にやってきた時、ビアンカはあんな風ではなかったはずだ。

 もっとボスらしい雰囲気で「色々と教えてあげてね」みたいなことを言っていたと思う。

 だけど今日のビアンカは――いや、僕が彼に教えられることなんて何もない、ということなのかな。

 僕だって少しは勉強している。でも、マルセルもどこかで勉強してきたのかな。

 思えば、なんだか妙に落ち着いていて、謎めいた雰囲気がある人だった。

 年はいくつなんだろう。僕とハルのちょうど中間くらいに見えたけれど。

 身長も、僕とハルの中間くらいだった。その年齢にしては――僕の見立てが合っていればだけど――どちらかといえば小柄な方かな? ビアンカの隣に立っていると、結構バランス良い感じ――

 と、そこまで考えてから、頭をぶんぶんと横に振る。

 ビアンカの隣が一番似合うのは、ハルだ。ハル以外ありえない。

 それに、バランスで言うならば、二人の髪色はバランスが良い気がする。

 ビアンカは艶々の黒。ああいうのを濡羽色って言うんだと思う。

 対してハルは、もうちょっと色が抜けたグレーっぽい黒。人間ではあまり見ない色だけど、ビアンカの隣にいると、なんだか妙に調和が取れているように見えて、すごく良い感じだ。

 マルセルは、瞳の色こそ特徴的だったけれど、髪はかなりありふれた茶色だったな。

 というか、僕とすごく似ていた気がする。僕と同じ、茶髪としか言えないような茶髪で、多分結構細め。いわゆる猫っ毛。雨の日に苦労しているクチだと思う。

 

 ――とまあ、僕が今推理できることは、こんなところだろうか。

 種明かしは、多分、しばらくは望めないだろうな。

 見るからに苦労をしてきたような人にあれこれ尋ねる程、僕は無神経にはなれそうにない。

長らくお時間いただき申し訳ございません!

三章は、結末を考えながら、結末と整合を取りながら、少なくとも週に二回は更新したいなーという感じです。

お付き合いいただけますと幸いです。

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