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おんりーらぶ!?【第二部】  作者: コー
東の大陸『アイルーク』編
9/64

第21話『途絶えない日々』

―――***―――


 灰色の雲が渦巻く低い空。

 地鳴りのような響きが天を震わす。

 そして、壮大な草原を埋め尽くすほどの、膨大な数の敵。


 異形、異形、異形。

 それら総てが狂気に満ちた瞳を携え、その怪異の力を振るうべく、今か今かとそのときを待つ。


 落雷。


 それが、合図だった。

 だがその“刻”は、その異形どものためのものではない。


 その怪異の総てが醜く歪んだ貌で睨みつけている、眼前。

 今まさに剣を振りかざし、大渦に飲み込まれるように飛び込んでいく一人の男のための合図なのだ。


 ザンッ、と血吹雪が舞う。

 こと切れたその異形には、何が起こったか分からなかったであろう。

 曇天の空の元、煌めいた剣の一閃は、すでに次の獲物に向かっている。


 連激に次ぐ連激。

 その行為は、まるで天の色に歯向かうがごとく、オレンジの光をその場に残し続ける。

 踊るように剣は敵を滅し、しかし敵は男に届かない。


 飛び込んだその周囲。

 その場を一掃させた男は、次に手のひらを離れた敵―――魔物に向ける。

 引き起こされたのは、鋭い閃光。

 しかし、剣ではない。

 男の手から放たれたオレンジの一閃は、間合いが十分にあった敵を焼き焦がす。


 草原を埋め尽くしていた異形の数が減る。

 剣が走り、魔術が走り。

 オレンジの力は、総てを飲み込んでいく。


 男に恐れは浮かばない。

 だが、魔物は違った。


 あれだけ数で圧倒したというのに、その勢力が著しく削り取られていくのだ。


 魔物たちは男を襲う。

 挑まれたと認識していたはずなのに、魔物たちは男に挑む。


 しかし、とうとう雨が降り始めた頃。

 その場に立つのは、その男―――ヒダマリ=アキラ。


 “勇者様”だけだった―――


「―――っていう感じ」

「……………………、」


 どこか満足げな目の前の語り手に返したのは、長い無言。

 そして聞き手―――エリサス=アーティは、なんて無駄な時間を使ってしまったのだろうという後悔の念を押し込めつつ、机の上に肘を乗せて一言呟いた。


「却下」


――――――


 おんりーらぶ!?


――――――


「……状況が分かっていないのは私だけか?」

 一応ノックしたつもりだったのだが、恐らく部屋の中にいた二人は聞いていなかっただろう。


 黒髪をトップで結い、特徴的な紅い着物を羽織ったその少女―――サクは、普段は凛々しい顔立ちを怪訝に歪めた。

 それもそのはず。

 朝食を終え、依頼を請けて戻って来てみれば、先ほどまで魔術の教師を務めてどこか満足げだった少女が呆れ返っているのだ。


 宿舎の小さな窓の向こうに見えるのは青い空。

 涼風が舞い込んできているというのに、何故この部屋は、ここまでどんよりしているというのか。


「却下って……、お、お前が聞いたんだろ?」

「あたしが聞きたかったのは、あんたが“具体的にどんな風に戦いたいか”、よ。誰がそんな妄想口走れなんて言ったのよ!?」

 反論しようとした“勇者様”の言葉をぴしゃりと押さえ、向かい合っていたその少女―――エリーことエリサス=アーティは、大きな瞳を鋭く狭めた。

 戦闘中は一本に束ねる長い赤毛を、今はそのまま背に垂らし、まるで親が子供を叱るように口を尖らせている。


 そしてその目の前の“勇者様”―――ヒダマリ=アキラは、困ったように頭をかく。

 どうやら語って聞かせた『理想的な“勇者様”の姿(作・ヒダマリ=アキラ)』を、エリーはお気に召さなかったらしい。


 クンガコングの大量発生という異常事態から早五日。

 アキラたちは未だヘヴンズゲートを目指すべく、リードリック地方と呼ばれる地域を北上していた。

 そろそろ到着するとのことだが、森に散布されている村に代わり映えはなく、『世界を救う旅』は、そんな名前なのに本日も平和だ。


「……てか、なんでそんなこと、」

「久しぶりにあたしの授業だったからね。一応目標聞きたかったのよ。でもまさかどうでもいいこと長時間ぶっ続けで語られるとは思わなかったわ。なに? この前のあの人に影響されたの?」

「どうでもいいことって―――、あ、サク」


 ようやく、アキラは部屋のドアの前に立つサクの姿を認識した。

 剣の方に遅れが出ているとのことで、クンガコングの一件以来アキラを指導し続けていた少女だ。


 アキラと、エリーと、サク。

 この三人が、各々、とある事情で共に“魔王討伐”を目指す“勇者様御一行”のメンバーだ。


「…………ようやく事態が飲み込めた。聞かなかったことにしよう」

 サクはドアを閉め、視線を外してつかつかとエリーの隣に座った。


「ったく、じゃあ、質問に戻るけど、どういう風に戦いたいの?」

 エリーは額に手を当て、どっと疲れが出たような表情を浮かべた。


「いや、聞いてなかったのかよ?」

「あたしもサクさんと同じよ。聞かなかったことにしてあげる」

「っ、お前が語れって言ったんだろ?」


 アキラがそう言っても、エリーは完全に聞き流す。

 別にアキラとて、あんなスペクタクルを語るつもりはなかった。

 ただ、具体的にどうなりたいか聞かれ、何も浮かばなかったゆえに、漠然とした“勇者様”の姿を想像しただけだ。

 それに多大な脚色がついたのは、単なるご愛嬌であったりする。


「は~~っ、ほんっとに成長してんの? あんた。それによく何の恥ずかしげもなくそんなこと語れたわね……」

「……ちょ、止めて。なんか恥ずかしくなってきた」

「そういうところは成長していないな」

 机に突っ伏したエリーと、瞳を押さえて顔を伏せたアキラに代わり、サクが評価を下した。

 だが、その実。

 アキラは確かに成長している。

 本当に大元の基礎部分は剣と魔術は通じるものがあり、剣の鍛錬に没頭したこの五日、アキラの戦闘力は魔術も含め、大きく向上したとも言えるだろう。

 ここまで確かな成長を目の当たりにしたのは、サク個人としても初めてだ。


 そして、その成長が著しく早い。

 アキラが“かつて”、再三口にしていた“ご都合主義”とやらの存在。

 それをある種信じたくもなる。


 だが。

 サクは何故か“ようやく”と思ってしまっていた。


「それで、結局どうなりたいの?」


 気力を取り戻し、復活したエリーの言葉に、アキラはむっと唸る。

 どうなりたいか。

 それは先ほど語った通りだ。

 だが、エリーは本当に、聞かなかったことにしたいらしい。


「……まあ、私も気になるな。“不本意ながらも”、指導している身としては、生徒の目標は知っておきたい」


 後半部分は聞いていただろうに、サクもエリーと同様。

 アキラはもう一度口にしようとし、エリーに睨まれ口を閉じ、今度は簡潔な言葉を返した。


「……まあ、何でもできるようになりたい、かな」

「何でも?」

「いや、まあ……、そう」


 一応、アキラのあの妄想には、根拠がある。

 これは、アキラが自分の属性―――日輪属性のことを知っているゆえの想像だが、アキラは、“如何なることでもできるはずなのだ”。


「ほら、俺らさ、全員近距離戦だろ?」


 アキラの言葉に、エリーとサクの動きが一瞬ピタリと止まった。


「……え? 真面目な話なのこれ」

「なんだよそれ?」

「……すまない。お前からそんな言葉が出るとは思っていなかった」


 二人から返ってきた言葉に、アキラはむすっとした。

 自分だって、考えがあるのだ。


 攻撃力が高い属性―――火曜属性のエリサス=アーティ。

 防御力が高い属性―――金曜属性のサク。


 サクはその属性を前に出して戦ってはいないが、確かにこのメンバーは近距離戦しか行えない。


「だからさ、必要かな、って。何でもできる奴」

「…………、それを、あんたが?」


 アキラは頷いた。

 この先、“そういう存在”が仲間になることは“決まっている”のだが、それがいつかは分からない。

 “記憶”に過剰に頼らないと決めたのだ。


 自分たちだけで、できるところまでは到達しなければならない。


「……“日輪属性”って、そんなことできるの?」

「……さあ?」

「…………はあ、“隠し事”、か。まあいいわ。あたしは忙しくなりそうね……。いろいろ調べなきゃ。そしてさっきの話は意味ないわ」

「意味はあったろ!? だから、」

「いいわよそれもう。あとで口走ったこと後悔するんだから。いつものパターンじゃない」

「剣の方も、“何でも”に含まれているんだろう? それなら私も、考えることが多そうだ」


 とりあえずは、伝わったようだ。

 だが今は、“隠し事”の話題が出ても、誰も席を立とうとしない。


 全員が、踏み込むべき位置と、踏み込むべきではない位置を理解している。


 そしてアキラは目的を志し、エリーとサクがそれを導く。


 それが、三人の近況報告。


 アキラはようやく、本当の意味でこの場所が心地よく思えてきた。


―――***―――


「シーフゴブリン……、か」

「ああ。強欲な魔物なのだが……、最近村に被害が出たらしい。まあ、少し妙なんだが」


 今日も今日とて依頼に向かった三人は、いつものように討伐対象を目指し森の中を歩いていた。

 日は頂点に達し、影が短い。

 森林特有のじっとりとした空気が出てきたのは、季節の移り変わりを現わしているのだろうか。


 ただ気になるのは、サクが請けてきた依頼の内容。


 『シーフゴブリンの討伐』


 それを聞いて、アキラはようやく、記憶の紐に手をかけた。

 あまり使いたくはないのだが、恐らくこれは、特定の“刻”。

 “危険”と承知はしているものの、必ず刻まなければならないものだ。


 だが、


「妙ってなんだよ?」


 アキラは思考を進めようとして、それを止めた。

 どうせ、思い出そうとしても特定の“刻”までは紐解かれない記憶だ。


 諦めて、自然にサクに聞き返す。


 “二週目”の記憶として、“危険な存在との邂逅”はアキラに内在している。

 だが、一歩も動かないわけにもいかない。

 とりあえず、今は流れに身を任せよう。


「……ああ、それが気になって聞いてみたんだが、被害の場所が妙なんだ」

「場所?」

「ああ」


 サクは開いていた依頼書を丁寧に仕舞い、眉を寄せる。


「最初に被害が出たのは、ライナーン地方らしい。ヘヴンズゲートのずっと北だ」

「?」

「それが、段々と南に降りてきて……、つい先日、ウッドスクライナでも起こったらしい」


 ウッドスクライナ。

 その村を、アキラは覚えている。

 この“異世界”に来た“初日”、立ち寄った村だ。

 サクとの出逢いや、“魔族”―――サーシャ=クロラインとの戦闘も、あの場所で発生したこと。

 忘れることもできない。


「みんなその魔物の被害だと思うんだが……、最後に起こったのは私たちが今泊まっている村。昨日のことらしい。……妙だと思わないか? 移動しているのに、また戻ってきている」

「…………、なあ、ちなみに、シーフゴブリンを見たのは?」

「あの村の依頼主だ。それでようやく、シーフゴブリンの仕業だと気づいたらしくてな」


 サクの返答を聞き、アキラの背筋に冷たいものが走った。

 恐らく、シーフゴブリンの初犯は昨日なのだろう。


 アキラの脳裏に、五日前、クンガコングの大群を殴り飛ばし続けた美女の姿が浮かぶ。

 リードリック地方を南下し、ウッドスクライナに向かった彼女―――エレナ=ファンツェルン。

 “仲間”としてどうかと思うが、最初に容疑者としてエレナを思い浮かべたのは自然なことだとアキラは思う。

 やはり彼女は魔物が出現する森の中でも、問題なく進んでいけるらしい。

 もうウッドスクライナに到着したようだ。

 アキラたちの移動速度を大幅に上回っている。


「まあ、倒してみれば分かることだ。数は多いだろうが、クンガコングほどの相手ではない」

「……ああ、だな」

「?」


 サクの視線を交わし、アキラはいつものように先陣を切った。

 せり出した木の根にも慣れてきたが、アキラの足元はおぼつかない。

 自分たちが共に旅をしなければ彼女はこれからも村の財に手を出すだろう。


 とりあえず、エレナのことは置いておこう。

 今はシーフゴブリンだ。


 そして、その先に待ち構える、敵。


 あとは、とある“出逢い”。


「……?」


 そこでアキラは眉を寄せた。

 そういえば、いつの間にかいた“あの少女”。


 彼女とは一体、どこで“仲間たち”と出逢っていたのだろう―――


「……、」


 そんなアキラの背を見ながら、サクもシーフゴブリンの奇行を頭から追い出した。

 もういい加減、アキラの行動から心情を読み取れる。


 彼の中では、この疑問に答えが出ているのだろう。

 恐らく、“隠し事”で。

 ならば、自分が踏み込むべき疑問ではない。


「そういえば、エリーさん」


 ずんずんと進んでくアキラの背を見ながら、サクはただの一言も漏らしていないエリーに声をかけた。


「…………」

「エリーさん?」

「…………」

「? 聞こえないのか?」

「…………、えっ、あ、ああ、なに?」


 エリーはようやく、手に持った資料から顔を上げた。

 この森に入った当初、足場の悪さに随分と足を取られていた記憶があったが、随分と器用に歩いている。


「それは?」

「……え? あ、ああ、これ? いや、別に、」

「魔術の資料か……。今朝の話だな?」

「……、う、うん、まあね」


 エリーが慌てて仕舞った手帳のような資料には、見ているだけで頭が痛くなりそうな文字がびっしりと埋め尽くされていた。

 見たところによると、彼女のお手製らしい。


「あのあと姿が見えないと思ったが……、そんなものを」

「い、いや、違うわよ? これはあたしが魔術師試験のときに作ったやつだし……。ほら、一応いるかなぁ、って思って持ってきて……、ま、まあ、ちょっといろいろ書き込んだけど、」

「…………随分と張り切ってるな」

「む……、」


 エリーの唸り声を聞き流し、サクは再び視線をアキラの背に向けた。

 相変わらず何かを考えながら、しかし器用に歩いている。


「……まあ、生徒がやる気を出したのは喜ばしいが、な。それは、何が書いてあるんだ?」

「い、一応、属性のこと……。ほら、いろいろやりたいとか言ってたでしょ? 日輪属性のことは知らないし……」


 エリーの言葉で、サクはあまり豊富とは言えない自らの魔術の知識を呼び起こした。


 魔術師試験。

 エリーが挑み、受かったというその試験の科目に、五曜属性の魔術、というものがあったはずだ。

 本来の七曜属性から、とある二つの属性を除いた結果らしい。


 そしてその、“例外ゆえに除かれた”二つの属性。


 一つは“月輪属性”。

 その希少性ゆえ、サクもこの属性の使用者をほとんど知らない。


 “不可能を可能にする”―――“魔法”を操る属性。


 通常、不可解な事象を起こす“魔法”というものを、人が扱える“魔術”に解析することが、魔術の学問の第一歩だ。

 しかし月輪属性は、そのプロセスを飛び越え、いきなり“魔法”を扱うことができる。

 魔力のカラーは、シルバー。

 あの“魔族”―――サーシャ=クロラインが操っていた属性だ。


 そして、もう一つ。

 目の前にいる、“勇者様”―――ヒダマリ=アキラの操る、“日輪属性”。


 こちらは、通説さえ知らない。

 何ができるのか、もしくは、何ができないのか。

 その全貌を知る者は、人間界にはいないとまで言われている。


 その日輪属性の指導をするのだから、エリーにとってはかなりの負担だろう。


 だが、


「うーん、」


 気づけばエリーはいつの間にか資料を取り出し、再び目を落としていた。

 随分と、熱心だ。


 自分もうかうかとはしていられない。


「うーん……もう駄目。もっとちゃんとしたところで調べないと……。ねえ、ヘヴンズゲートに着いたらあたし図書館行っていい?」

「……“婚約破棄”の確認が目的だろう?」

「え? ……あ、ああ、そうね。そうよ、そうだわ。……い、いや、違う。あいつを元の世界に戻すのが目的よ……!!」

「……そう、だったな」


 サクは額をこつんと叩く。

 確かに聞いたと思ったのに、そういえば、何か誤認していた。


「……だが、正直、妙だ」

「? なに?」

「いや、アキラのことだ。……あの男は、本当に戻りたいと思っているのか、とな」

「……さあ、そんなようなこと言ってた。でも今は、“魔王討伐”。それでいいでしょ」


 エリーはあまりその話題について話したくないのかもしれない。

 サクはまたも、こつんと額を叩く。


「せっかくやる気出したんだから、協力してあげないとね」

「……私もだぞ、それは」


 サクの口からも、エリーに似た口調の言葉が出た。

 どうやら自分も、この話題について話したくないのかもしれない。


 それを目指して、ヘヴンズゲートに向かっているというのにおかしな話だ。


 だが何故か、漠然と。

 この旅がどこまでも長く続くことを望んでいる。


「っ、」

「……?」


 突如、目の前の男から声が漏れた。

 その先は僅かにでも開けているのだろうか。

 光の差し込める森林の途切れ目。


 そこでアキラは、五日前の“あの出来事”のように呆然と立ち、動きを止めていた。


「? どうしたのよ?」

「まさか魔物か……!?」


 エリーとサクは、無言のまま立つアキラに慎重に近づく。

 まるで蛇に睨まれた蛙のように黙して動かないアキラを挟むように二人は並び、そして固まった。


「……、」


 並んだと同時、二人の耳に届いたのは、水音。

 目の前の小高い岩山から、チロチロと水が溢れ、その足元に小さな湖を作っている。


 そこに、


「……、」


 表情を完全に固めた少女が立っていた。

 青みがかった短い髪に、健康色の肌。

 背丈は、エリーより少し低い程度だろうか、歳も、同じ程度かもしれない。

 僅かに垂れた眼をこれ以上ないほど見開き、じっと三人を見返してくる。


「……」

「……」

「……」

「……」


 四人分の沈黙は続く。

 湖の近くには、それを囲う岩に干された衣服。

 それもそのはず彼女は入浴中。

 一切衣服を身に着けていない。

 足を小さな湖に膝までつけ、流れ落ちる湧き水を頭から被り、きめ細かそうな肌から水滴をこぼれ落としている。


「っ、」


 状況を確認したエリーとサクの行動は早かった。

 エリーは左手、サクは右手。

 それぞれの手のひらで、迅速に中央に立つ男の視界を塞ぐ。


「ぎゃぁっ!?」

「むおうっ!?」


 二人の手のひらが眼球に強く触れたアキラの叫び声。

 その連鎖反応で、正面の少女は奇特な叫び声を上げ、


「きゃふっ!?」


 湖の中、足を滑らせ、後転。

 小さな頭を背後の岩山にゴチンッとぶつけ、ぶくぶくと湖に沈んでいった。


「た、助けるぞ!!」

「え、ええ!!」

「ぎぃぃぃぃああああああーーーっ!? 目がっ、目がぁっ!! 熱っ!?」


 叫ぶアキラより、今は水に沈んだ彼女だ。


 エリーとサクは、必要もないのにその身体で少女の姿を庇いつつ、湖に向かっていった。


―――***―――


「俺は光を奪われた……」

「いやいやいやっ、おっどろきましたっ!! まさかこんな所に人が来るなんてっ!!」


 目頭を押さえ、未だ離れて座り込んでいるアキラ。

 その非難の声を押し潰したのは、目を覚ました少女の大音量。


 その少女の服は若干湿っていたとはいえエリーとサクが着せたのだが、アキラの様子を見るにもう少し乾かしていてもよかったであろう。


「そしてまさかの入浴中のエンカウントッ!! ―――ってやっばーいっ!! 思い出すとめっちゃ恥ずかしいっ!! うぉぉぉおおおーーーっ!! 嫁入り前なのに!? 私は一体どうすれば―――」

「……えっと、」


 エリーは目の前の騒音発生機の声を遮り、額を押さえ、呆れながら一言返した。

 彼女に言葉を続けさせたら、どうも、日が暮れるような気がしてきたのだ。


「あなたは、」

「おおおっ、そうでしたっ!! あっしはアルティア=ウィン=クーデフォン。呼ぶときは、ティアちゃんとか、アルにゃんとか、さらにティアにゃんも取り揃えています!!」

「…………えっと、ティア? あたしはエリサス=アーティ。こっちは、」

「サクだ。ちなみにあの男はヒダマリ=アキラ」

「あれっ!? あっしの声は届かなかったんですか!? 後半部分に赤丸チェック入れて欲しかったんですけど!?」


 届いている。

 それはもう。

 エリーは再度頭を抱え、少女―――ティアから視線を外した。

 初対面にしては格段のスピードで彼女のことが理解できたような気がする。


 非常に、うるさい。


「それで、お前は何をやっていたんだ?」

 エリーの態度をバトンタッチと取ったサクが、一歩前に出た。

 サク自身、極力相手にしたくはないのだが、アキラを一時的に行動不能にした負い目もある。


「……えっと、そだ!! それが聞いて下さいよ~~~っ、」


 ティアの話はこうだった。

 今日の朝、起きるとヘヴンズゲートの自宅にシーフゴブリンが出没したらしい。

 そして、シーフゴブリンの名の通り、その魔物は彼女の家から両親の結婚指輪を盗んだというのだ。

 それを単身探しに来たティアは、見つけたシーフゴブリンの巣に侵入。

 しかし、どうやらその巣に住むシーフゴブリンの仕業ではなかったらしく、未だ盗まれた物の発見は叶っていないらしい。

 そしてその上、間抜けなことにその巣で転び、汚れた身体を洗っていたそうだ。


 要約すればこの程度のことを、ティアは幼少時代に岩山から突如蛇が出てきて驚いたことまで語り、ようやく口を閉じた。

 エリーとサクはどっと疲れが出てきたが、シーフゴブリンの名が出てきた以上、彼女とは縁ができてしまっているようだ。


「……、それで、シーフゴブリン探してんのか?」


 ようやく復活したアキラは、霞む視界の先のティアに近づいた。

 目を擦りながら歩み寄ったティアを覗き込み、アキラはほっと息を吐く。


 誰かに逢うたびに、安堵の息が漏れる。


「あんた、話聞いてたの?」

「俺はお前たちから謝罪の言葉を聞いていないんだが……、」

「はいはい、ごめんごめん」

「っ、」


 いい加減な返答しかないのはエリーの仕様だろう。

 サクは何も口にせず、ただ視線を外している。

 アキラは抗議を、口を尖らせるだけで済ませた。


 だか、このティアとの出逢いでもう間違いはない。

 やはりこれは、刻むべき“刻”だ。


「そだっ、みなさん、旅の魔術師とお見受けしますがっ、」

「ああ、そうだ」

「おおっ!! ここで出逢ったのも運命のお導きっ!! できればあっしと協力していただけたりなぁ~、なんて思ったりっ!!」


 彼女の参加を拒むことはアキラにとってあり得ない。

 エリーとサクが口を開く前に、アキラは頷いた。


 残る問題は、一つ。


―――***―――


「はあ……、はあ……、はあ……、」

「はあ……、はあ……、こほっ、」

「よ……、よう、お疲れ」

「さ……、酸素……、酸素をっ、ギブミー」


 流石に、ティアは騒いでいなかった。


 アキラはサク指導の元の素振りを止め、剣を納める。

 森にできたコブ。

 そこに開いた入り口とでも言うべき穴から這い出たエリーとティアは、座り込んで深呼吸を繰り返していた。


「まあ……、想像通りの中だったみたいだな……。それで、見つかったのか?」

「みうかりまへんでひた……、」


 息も絶え絶えのティアから返ってきたのは、恐らくは否定の言葉。

 最初に見つけたシーフゴブリンの巣は空振りだったらしい。


 ティアと行動を共にしてから、アキラたちはシーフゴブリンの討伐を本格的に開始していた。

 アキラたちは依頼、ティアは両親の結婚指輪の探索と、利害が一致しているのだからその点は問題ない。

 だが、巣に近づくだけで沸くように出てくる異形の魔物たちを討伐したのち、どうしてもその中を探索する必要があるのだ。


 しかし、流石に野生の魔物の巣。

 その中は匂いやら何やらで酷いことになっているらしい。

 アキラを始め全員が入り渋ったこともあり、結局半数が探索役を行うことになったのだった。


「はあ……、はあ……、ごほっ、」

「……おい、大丈夫かよ?」


 これが、即興で作ったくじが生み出す結果か。

 歩み寄っても、エリーは顔さえ上げず、未だ荒い呼吸を繰り返していた。


 アキラも先ほど“二週目”に最初に自分の力で倒した魔物を討ち、いろいろと感慨深かったのだが、こうした姿を見るとそれも薄れてしまう。

 本当に、くじの“外れ”を引かなくてよかった。


「エリにゃん、その……、ありがたい、あーんど、すみません……」

「ついでだからいいけど……、その呼び方は止めて」


 ティアの方は僅かながらに復活はしたようだ。

 何とか立ち上がり、エリーに手を差し伸べる。

 エリーが何の抵抗もなくその手を取る辺り、どうやらティアは面々に溶け込めているようだ。


 だから。

 残る懸念は、あと一つ。


「次は絶対、あんたに引かせるわ……、“外れ”」

「俺だってサボってたわけじゃないし……、なあ?」

「ああ。何にせよ、待ち時間は有効に使った方がいい」


 呪詛のようなエリーの言葉と、短い時間ながらも指導を頼んだサクの言葉を背に受け、アキラは次の巣を目指し歩き始めた。


 視線を上げても、背の高い木々が太陽を遮り、昼だというのに薄暗い。

 そして“問題の岩山”もまだ見えなかった。

 さて、どうすべきか。


「……、」


 アキラは目を閉じ思考を進める。

 ティアと出逢えた。

 それは、この依頼が特定の“刻”であることの証明でもある。


 だがそうだとすれば、この“出逢い”の先に“出遭い”があることにもなるのだ。

 アキラはちらりと振り返った。

 エリーとサクに挟まれ、ティアはにこにこと笑っている。

 女性同士気が合うのか、はたまた記憶の残照があるのか、彼女たちは楽し気にも見えた。


「……、」


 記憶に頼らないとも決めた。

 そして、自分で進む意気もある。


 だが、このような状況―――いわゆる“ボス戦”のときはどうすべきなのだろう。

 恐れていては世界も救えないと思う。

 しかし、あからさまな危険に近づくことは、あのクンガコングの大群の事件から何も学んでいないことになってしまうではないか。


 ならば、どうすべきか―――


「へいへいへいっ、アッキー!!」

「!?」


 即座に出所が分かったとしても、背後からいきなり大声で話しかけられれば身体が跳ねる。

 アキラが目を見開いて振り返れば、エリーとサクから離れてティアが駆け寄ってきていた。


「いっっっやぁぁぁっ、聞きましたよっ!! アッキー“勇者様”なんですねっ!! オレンジの光を見たとき、もしやっ、とは思いましたがっ、」


 久しぶりに聞いたその愛称。

 これは、ティアの仕様なのだろう。

 わざわざ訂正せず、アキラは隣に並ぶティアにため息だけを返した。


「先ほどの戦いも、わたしゃなんにもできませんでした……。みなさんちょーつえぇですよねっ」

「……、お前だって、魔術師なんだろ?」

「え、えへへ、まあそうなんですけど、エリにゃんとサッキュンが速くて速くて……。なんとかお役に立たないとっ!!」


 ティアが狙った相手は、どうやら即座に消滅してしまっていたらしい。

 だが、あと僅かでも同じ時間を刻めば、それが修正されるのは“実証済み”だ。


「……ところで、アッキー」

「?」

 音量が極端に下がったティアの声に、アキラは怪訝な表情を浮かべた。

 しかしティアも、同じように眉を寄せている。


「具合とか、悪かったりしますか……?」

「え、」

「い、いや、私の思いすごしならいいんですが、その、なんか、」

「……大丈夫だ」

「……、」


 ティアに勘づかれたということは、当然エリーやサクも同じ懸念を持っているであろう。

 サクなど、先ほどの指導のときにも似たような表情を浮かべていたほどだ。


 ティアが今ここに来たのも、“隠し事”の手前直接聞き出せないエリーとサクが送り込んだからかもしれない。


「っ、」

「……?」


 アキラは自分の顔を、両手でパンッと叩いた。

 “この件”に関して、不安がらせるわけにはいかない。


 この“刻”を刻み終えているか否かは、自分が判断することだ。


「おや?」

「……!」


 ティアの言葉にアキラは顔を上げ、そしてその眼を見開いた。


 一体いつから自分の足はここに向かっていたのだろう。

 背の高い木の向こう、確かに見えた。


 その、“岩山”が。


「おおっと、あれ巣じゃないですか!! エリにゃん、サッキュン!!」


 まさか二度目で“ここ”を引き当てるとは。


 アキラが動きを止めている中、エリーとサクが駆け寄ってきた。

 二人とも、もう愛称の件については諦めているのか、ティアの言葉に反論せず、ただ鋭く巣を睨む。


「シーフゴブリンの巣だな……。間違いない」

「じゃあ、始めるわよ?」


 二人の即断的行動に、アキラは言葉一つ出せなかった。

 サクがその速力で突き進み、エリーが続く。


 そして、それを察したシーフゴブリンが巣の中からうじゃうじゃと湧き出てきた。


「っ、」


 懸念は後回しだ。

 とりあえず今は、戦闘。

 アキラもそう判断し、二人に続く。


 剣を抜き放った先にいるのは、討伐対象―――


「グ……、」


 紅い体毛、そして猿のような身体つき。

 長い手足を折りたたみ、醜悪そうな表情を侵入者に向ける。


 先ほども見たそのシーフゴブリンに、アキラは迷わず剣を振り下ろした。


 ザンッ、という音と、込めた魔力の爆発音。

 それらが響いたのち、さらに魔物の爆発音まで確認して、アキラは次の標的に剣を向ける。

 巣から這い出たシーフゴブリンの数たるや、数十匹。


 その間をイエローの閃光が縫うように駆け抜け、確実に命を刈り取っていく。

 アキラが二匹目の魔物を討ったときには、スカーレットの光も辺り一帯で爆ぜていた。


 ティアの言うことも分かる。

 エリーとサクは、強い。


 これなら、もしかしたら―――いや、でも、


「っ―――」


 考えながら行動したせいか、はたまたアキラの能力ゆえか、ようやく五匹目を討ったとき、辺りは再び戦場から森に戻っていた。


「はあ……、よし、じゃあ、くじ引くわよ」

「……ちょっと待った」


 結局アキラの結論が出ないまま終わった戦闘。

 だが、エリーが取り出した先ほどのくじを視界に収め、アキラは静止をかけた。


 止められるのは、間違いなくここが最終だ。


「何よ? 今度こそあんたを押し込みたいんだけど?」

「自業自得だったんだから機嫌治せよ。てか、俺が言いたいのは……、えっと、」

「……!」


 言い渋ったアキラを見て、エリーはくじを持つ手を下げた。

 そして表情を険しくさせる。


「―――“隠し事”?」


 エリーのその言葉を聞いて、サクも表情が変わった。

 察してくれるのはありがたい。

 アキラは頷き、エリーとサクを見据える。


「……ここはまずいのか?」

「……まずい。でも、分からないんだ……。だから、どうしていいのか、」

「……、」


 エリーとサクはその表情のまま岩山を眺める。

 森の木の葉で隠されていたその山は、見上げるほど高い。

 苔で入り口が覆われているのは先ほどの巣と変わらないが、確かにシーフゴブリンの巣としては巨大すぎた。


「……なら、どうする?」

「でも、入らないと、ほら、あの子の探し物が……」


 言語化できなかったとはいえ、二人はアキラの心情を察した上での会話を始めた。

 申し訳ない気の遣い方をさせてはいると思うが、アキラも危険に好んで飛び込んでいかせたいとは思わない。


「って、ちょっと待って。ティアは……?」


 エリーの言葉に、アキラは、はっとした。

 あの、いればどこにいるか即座に察せる騒がしい彼女が、いない。


「っ、」

 アキラは即座に周囲を見渡し、最後に巣の入り口を睨んだ。


 今回の戦闘も、彼女は参加しなかった。

 そして、彼女の性格上、それをよしとしたままにはできないだろう。

 なにしろ、巣の探索をする必要があるのも、彼女の探し物があるゆえだ。


 ならば、戦闘後、彼女が思いつきそうなことは―――


「っ、」

「ちょっ、」


 アキラは巣に向かって駆け出した。

 今、この中に一人で入るのは自殺行為。

 それなのに、ティアは間違いなく中に入っている。

 恐らく、巣の探索経験者として率先しようとした意味も込めて。


 だが、ここは、今までの巣とは格が違うのだ。


 うだうだと考えている場合ではない。

 一刻も早く、彼女を探さなければ。


「……、―――、」


 入口に駆けながら、アキラは言い表せない空気を感じた。


 自分は今、あの入り口に向かっている。

 自分が、向かっているのだ。

 それなのに、何故。


 “吸い込まれている”と思ってしまうのか―――


「!?」

「ちょっと!!」


 松明を点けることもなくアキラが暗い洞窟に飛び込んだそこには、足元が“無かった”。

 ティアもそうだったのだろう。

 悲鳴さえ上げられない。


 視界は暗転し、身体はゴツゴツとした坂を転がり落ちていく。


 思考から切り離され、落ちていく最中、アキラの中にある感覚が浮かんでいた。


 今、自分が転がり落ちていくのは重力の影響。


 だが、それを超越した何かに、引きずり込まれている。


 無心で歩いていたとき、この岩山の巣に辿り着いたのもそう。

 そして、今、ティアを追って身体が勝手に動いたのもそう。


 恐らくこれは―――“刻”の引力。


―――***―――


 目が覚めたとき、最初に映ったのは鮮やかな光だった。


「……?」


 蒼の光が闇を照らす、その景色。

 目を完全に開いたとき、アキラはようやくその正体がつかめた。


「おおっ、目を覚ましましたか!?」

「ちょ……、頭に響く」


 蒼の光が、淡くなって消えた。


 ごわんごわんと音が反響するその世界。

 アキラは目の前の音源に、顔をしかめた。


「大丈夫ですか……?」

「……、なんとか」

 アキラは、右の壁に―――ティアが外したのであろう、自分の剣を見つけると、立ち上がってそれを背に担ぐ。


 蒼の光の残照が照らしたそこは、落下した者が辿り着く小部屋のような場所だった。

 広さは、五人も入れば窮屈になるだろう。

 その先には、天然の岩をそのまま掘り進んだかのような通路も見える。


 そして、ぼんやりとした空間で僅かにティアの輪郭が浮かび上がっている程度だが、ここにはティアしかいない。


「……、あの二人―――」

「ほんっとうにすみません!! せめて探索ぐらいはお力にならなければと……、」

 アキラの言葉を遮ったティアは、分かりやすいほど直角に腰を折って頭を下げた。


「いや……。てか、俺を治療してくれたの、お前なんだろ?」

「え? あはは、そうですっ。こう見えてもあっしは水曜属性!! 治癒ならぽぽんっ、とね!! ……かすり傷くらいだったんですけど、大丈夫ですか?」


 ティアに言われて認識した自分の状態に、アキラは僅かに目を見開いた。

 下手をすれば、落ちる前よりもコンディションがいい。

 大分長く治癒魔術を受けていればこうなるだろう。

 そして、彼女が水曜属性―――“通常魔術師と聞いて連想できる力を持つ属性”であることは、当然知っていた。


「助かったけど……、そんなに俺気を失ってたのか?」

「え? ま、まあ、ちょびっと長かったです」

「……、」

「…………い、いや、しょうがないですよ!? いきなりドバーってなったら誰だって、」


 ティアのフォローに、アキラは耳を傾けていなかった。

 確かに落ちる前に気を失うというのも格好はつかないが、もっと気になることがある。

 落ちる直前味わった、あの、“物語に引き込まれる感覚”。

 一体、なんだったのだろう。


「……でも、どうします?」

「……、だよな」


 アキラは一旦、頭からその感覚を追い出した。

 そんなことは、今は重要ではない。

 現時点をもって、あの“出遭い”はほぼ確定されているのだから。


「とにかく先進みましょうか? ここで待ってても、」

「……、」


 かつてはそれを、アキラは選択した記憶がある。

 “二週目”も、逸れたあとうろつき回ったのだ。

 そして、恐らく“一週目”も。

 先ほどのショックで、アキラの記憶の封は解けかけていた。


 確かに自分は、ティアと共にこの“巣”の探索を開始したはずだ。


 だが、それでもその“ゴール”。

 そこにむざむざ、近寄っていくべきなのだろうか。


「……、」


 アキラは退路を確認した。

 自分たちが落ちてきた穴は、傾斜が酷い。

 自力で登るのは無理であろう。


 だが、進むというのも、


「……そうだ。二人は?」

「え? い、いや、降りてきてないです」


 ティアが暗闇の向こう、首を振ったのが分かった。


 エリーとサクは降りてきていない。

 二人の性格からすると、どちらか片方くらいは降りてきそうなものだというのに。


「もしかしたらあれじゃないですか? ほら、落下中に、いろいろ脇道的なものがあったじゃないですか」


 どうやらあの落とし穴の道は一本ではないらしい。

 アキラは初めて得た情報に、素直に首を振った。


 自分が意識を手放したのは穴に落ちた瞬間。

 ティアが言うような脇道は、アキラの意識の埒外だった。


「……!」


 そこで、アキラは気づいた。

 あの二人なら、どちらかくらいはこの穴に、


「……! そ、そだ、エリにゃんとサッキュン、そっちの方に、」

「……っ、」


 ティアも気づいて慌ただしい声を上げる。

 だが、アキラが恐怖を覚えたのは、この“巣”に二人が入っていることそのものではなかった。


 何だこの状況は。

 自分たちは、“探索を開始せざるを得ない”ではないか。

 あの二人を放ってここで待機するのは危険極まりない。

 情報があろうとなかろうと、アキラたちはここで“刻”を刻むことになる。


 先ほど置いておこうとした懸念。

 それが、あまりに黒くアキラの脳を侵食し始めた。


「ど、どうします……!?」

「……行こう。行くしかない」


 打算的な決定だが、アキラは唯一の道に視線を向けた。

 今さら後悔してももう遅い。

 状況が、それを許さないのだ。


「で、でも、灯りが……、私、どっかに落としちゃいまして、」

「……、」


 アキラは目を瞑り、手を突き出した。

 恐らくそちらも、


「おおっ、」


 やはり。

 洞窟内を照らすオレンジの光は、ノッキングするようなものであったが、“十分に進める”。


「アッキー!! マジすごいじゃないですかっ!! ちょー“勇者様”って感じです!!」


 オレンジの光に照らされたのはティアの笑顔。

 アキラは自分では不出来な照明を見ながら、ため息を吐いた。

 彼女はこの状況でも、楽しそうににこにこと笑っている。


 だが、自分はそうはいかない。

 自然と険しくなった表情をさらに引き締め、アキラは一歩踏み出した。


 どうするか―――


「……あの、アッキー?」

「ん?」


 アキラが手を伸ばして一飛びすれば天井に手がつくほどの通路。

 満足に動けない左右の壁も手伝って圧迫感が支配する空間。

 背後のティアが、珍しく小声で語りかけてきた。


「ものすごく失礼なこと、聞いてもいいですか?」

「……なんだよ?」

「いや、その……、そうだ、とりあえず、私とどこかで会ったことありません?」

「…………、ない」


 僅かな思考ののち、アキラはきっぱりと返した。

 かつて、すがったその残照を、今は掴む気にもなれない。


 大きな問題が、目の前にあるのだ。


「い、いや、私の勘違いならいいんですが、ま、まあ、置いておきましょう」


 背後の気配で、ティアがわざわざ大げさなジェスチャーをしているのを察したが、アキラはオレンジの先の通路のみを睨んでいた。


「でまあ、失礼なのはこの次なんですが、何か、その、お悩みがあるのかなぁ、とか、思ったりして、」

「……、」

「い、いやっ、何か、その、あはは、」


 茶化すような笑い声は、アキラは遠くに聞こえていた。

 間違いなく、ティアは自分の“異常”に察している。

 これでなかなか勘のいい彼女は、それに違和感を覚えているのだろう。

 それとも、自分の接し方が、不躾だったのだろうか。


 彼女のことを―――いや、彼女だけではなく、“総てを規定事項”と捉えているアキラの態度は、それだけ分かりやすいのかもしれない。


 “一週目”にも、“二週目”にも頼らないと決めた、正しい“刻”の刻み方。

 だが、踏み出した足は、あまりに不確かだ。


「……相談、とか」

「……え?」

「いや、私なんぞで恐縮ですが、相談とか、承っております!!」

「……、」


 洞窟に反響した声は、今度は不快ではなかった。


「助かる。……でも、今はまだ、な」

「おおっ、分かりました!! 今は脱出に全力を注ぎましょう!!」


 本当に、不快ではない。


―――***―――


「…………二分の一で外したな」

「“四分の一”よ。サクさんは上に残って欲しかった……」


 エリーは煌々とした光をその手に纏い、洞窟内でため息を吐き出した。

 照明用のスカーレットの光が照らすその先では、サクが同じように肩を下ろしている。


 現在、エリーたちがいるのはシーフゴブリンの巣の内部。

 アキラが落ちていくのを視界に収め、救出のために同じく滑り降りていたのだが、トラップとでも言うべき落とし穴は途中で大きく二手に分かれており、結局勘で選んだ道は違ったらしい。

 ここには、エリーとサクの二人しかいない。


「それで、どうやって登る?」

「……先に進むしかないな。エリーさんも降りてきてしまっては、ここで待っていても救助は来ない」

 サクのどこか疲れたような声を聞き、エリーは再度息を吐き出す。

 やはりお互い、相手が上に残ると思って飛び込んでしまったようだ。


「……いがみ合ってても仕方ないわ。とにかく、あの二人探さないと」

「……まあ、そうだな」


 どちらかが上に残ってロープか何かを持ってくるのがベストだったのだが、今さら後悔しても仕方ない。

 エリーは光源を突き出し、歩き出した。

 落ちてきた坂はあまりに急で、昇ることもできそうにない。

 ならばとにかく先に進み、出口を見つけ出さなくては。


「……、」


 エリーたちが歩き出したそこは、“通路”と表現するのが相応しい空間だった。

 通常の洞窟通りに自然物に覆われた周囲からは圧迫感を覚えるが、それでも十分に“歩ける”。

 明らかに、“加工”というものがこの洞窟にはあった。


 シーフゴブリンの仕業だろうか。

 自分の巣ならば、確かにそうするかもしれない。

 だがどうも、妙な胸騒ぎもするのだ。


 やはり、早くアキラたちに合流する必要がある。


「……エリーさん、気づかないか?」

「え?」

「いや、“匂い”だ。ここは確かにシーフゴブリンの巣のはずなのに」

「……!」


 エリーが持っていた感覚的な懐疑心を、サクが形にした。


 そうだ。

 確かにここが巣ならば、先ほどのように汚臭が満ちているはずなのだ。


「それにアキラの言っていたことも気になる。奴は“ここに何かがある”と確信していたような気が、」

「……確信してたわよ、あれは」


 背後のサクの声に、エリーは振り返りもせずに応えた。

 うねった洞窟内の“通路”が、直角に曲がるようにもなってきている。

 “加工”の度合いが、歩を進めるごとに増してきていた。


「あいつの“隠し事”。そういう類のものらしいわね。“危険”が分かる、っていうか」


 そういう視点でこの洞窟を見れば、エリーもここの“異常”が伝わってきた。

 ここがシーフゴブリンの巣というだけではない根拠が、形として現れているのだ。


「……それだけじゃない」


 だが、後ろから返ってきた声は、エリーの意見を消極的に否定した。


「アキラは、確かに“危険”が分かるようだ。だが、もう一つ。“それに飛び込まなければならない”とも思っている」

「……、」

「私にも経験があるんだ……。そういうことは、な」


 薄暗い洞窟内。

 やはりどこか不安な部分があるのだろうか、サクは初めて、身の上話を語り出した。


「“やらなければならない”。だけど、“やりたくない”。私はかつて……、きっと、あのときのアキラのような表情を浮かべていたのだろうな」


 その、矛盾。

 言い換えれば“どうすべきか分からない”、だろうか。

 確かにここに落ちる直前、アキラは葛藤そのものを表情に出していたようにも思える。


「…………あいつ、あたしたちのこと信用してんのかな……?」


 エリーの中からそんな言葉が自然と口を伝って出てきた。

 アキラの“やりたくない”の温床は、きっと、自分たちへの不安だったのだろう。


 “魔王討伐”を目指す自分たち。

 これから危険なことにいくらでも飛び込んでいくことになるだろう。

 だが、“危険”が分かってしまえば、踏み出す足は止まってしまうのだ。


 そうしたとき、人は、きっと失うことを恐れるのだから。

 そしてその被害が、他人を襲うとなれば、


「……いいのにね、そんなこと」


 アキラがいない今、エリーは逆に、“彼に伝えたいこと”がそのまま口から出てきた。

 受け手のサクは、ただ黙す。


「あんたの“危険”なんて、いくらでも解決する。弱いくせに、人のこと気にしてんじゃないっての、ってね」

 適当に蹴った石は、壁に当たって転がっていく。

 止まった石に追いついて、再度蹴る。

 いつしかエリーの足元から離れなくなった石は、徐々に形が小さくなっていった。


「信用、か」


 ようやく口を開いたサクの言葉で、エリーは僅かに振り返った。

 サクの顔は珍しく曇り、過去との邂逅を現わしているようにも見える。

 ここまで旅して、彼女のバックボーンをエリーは知らない。

 分かっているのは、今話した、彼女がその経験者だということだけだ。


「そういえば、サクさん」

「ん?」

「サクさんは、“そのとき”どうしたの―――」

「……!!」


 エリーは即座に口を塞ぎ、腰を落とした。

 正面の曲がり角から、スカーレットの光に惹かれるように小さな三体の影が近づいてくる。


「一応、シーフゴブリンの巣で“も”あるようだな」

「ええ」


 話は終わりだ。

 エリーは目つきも鋭く速度を増した影を睨む。

 隣に並んだサクも、腰の刀に手を当てた。


「私は、逃げた」

「……?」


 シーフゴブリンが現れる刹那、サクはぼそりと呟いた。


「わけが分からなくなって、旅に出たんだ。清算できなかったことは、それが初めてだったよ―――」


 足場が悪くとも、その神速は衰えない。

 瞬時に切り伏せられた紅い体毛の魔物が爆ぜるまで、エリーは照明具の役割しか果たさなかった。


―――***―――


「美しい……、」


 その言葉を届けた対象は、生物ではなかった。


 うず高く積れた“財”。


 一言で表現するならその物体に、“その存在”は言葉を発していた。


 赫に彩られた、その広大な空間。

 その最奥、その赫にすら対抗するように、大量の金銀の光が存在を主張していた。


 何故、赫になるべきそれは、自己の光を保ち、煌々と輝けるのか。

 何故、この光は、ここまで魅力的なのか。

 そして何故、理想や理念を超越したこれに、誰しも目を背けたがるのか。


 “その存在”は僅かな思考ののち、自らの言葉遊びに気づき、小さく微笑んだ。


 だが、否定するつもりは微塵もない。


 結局は、“財”なのだ。

 何を言っていても。


 自分の理念を通すのも、自分の理想を叶えるのにも、絶対的に“財”は必要である。

 それなのに、“理解がない者たち”は、それをしばしば疎かにするのだ。


 “財”の持つ力は、時には時代さえも操作するというのに。


「美しい……、」


 もう一度、呟く。

 今度は、その“財の機能”に対してではなく、“それそのもの”の輝きのためだけに。


 不思議だ。

 “財”には、その機能以上に、魅力があるのだから。


 これぞ、“財”が“財”になった理由とも考えられる。

 誰かがこの光景を前にして、“財”に機能を付けたくなったのかもしれない。


 いずれにせよ、“財”こそが、総ての始まりにして終着点。


 これはまさしく、“真理”。


 だから、これではまだ足りないのだ。


 そして―――


「……、」


 悦に浸っていた表情は、途端険悪なものに変わる。

 視界の隅に見える、二つのもの。


 その二つは、輝きを持っていない。


 “片方は仕方がないとして”、もう一つは遥か昔からこの壮観な光景を汚す汚物としてそこに在る。

 だがどうしても、手放す気にはならなかった。


 これは、“ここになければならない”、と。


 だが、何故、“財”にしか興味のない自分が、これを廃却せずにいるのか。

 それは、自己の“真理”を持ってしても、究明できない謎だ。


 一体、何故―――


「……おっと」


 思考を進めようとして、即座に振り払った。

 そんなことをしているくらいならば、この光景を目に焼き付ける時間がなくなってしまう。

 自分の“欲”は、そんな謎かけを解くところにないのだから。


 そんなものに“欲”を捧げているのは―――


「―――ガバイドよ。お前ならばこの思考に幾千も時を費やすのだろうな」


 赫い部屋。

 巨大な空間。


 そこで、今は遠く離れた場所にいる“同種の存在”に、“その存在”は小さく呟いた。


―――***―――


「……!」


 赫い。


 アキラとティアの二人が最初に浮かべた感想は、それだけだった。


 シーフゴブリンに襲われること数回。

 未だムラのあるオレンジの光に目が慣れかけた頃、アキラたちは洞窟の奥から伸びてくる“赫”に足を止めた。


「ア……、アッキー……、あれ、何でしょう?」

「っ、」


 ギリと噛んだ奥歯が震え出す。

 その振動は身体に伝わり、頬を汗が伝っていく。


「もしかしたら、エリにゃんたちでしょうか!? あれ、火曜属性の光ですよね?」

「違う」

 ティアの推測に、アキラは即座に否定を返した。


 エリーのスカーレットは、あんな色を創り出さない。


 彼女の鮮やかなスカーレットとは違い、目の前のそれは、邪悪な感覚しか届けてこないのだ。


 赤という色の、終点。

 だから、“赫”。


 それは濁り、洞窟総てを支配しているようにも思えた。

 “いや、事実しているのだ”。


「ど、どうします……?」

 ティアも流石に現状理解はしたようだ。


 この光源は、出遭う前から分かる。


 “敵”だ。


「っ、」


 分かってはいたが、やはりそうだったのか。

 アキラは必要のなくなったオレンジの光源を消し、さらに奥歯を噛む。

 限界ぎりぎりまで持っていた“出遭わずに済む”という希望は、今度こそ完全に消し去られた。


 アキラはティアを横目で盗み見る。

 この二人が、現時点での総戦力だ。


「マジで……、どうすりゃいい……!?」

「アッキー……?」


 アキラは身悶えるように頭を抱えた。

 何が正しいのか、何が正しくないのか。

 何をすべきか、何を避けるべきか。


 自分の足で一歩踏み出したというのに、“二歩目”を踏み出せない。


『ここまで来たんだ、行くしかない。そうだろう?』


―――その、アキラの背を、そんな言葉が強制的に押した。


「!?」

「っ、ち、知恵持ちですか!?」


 洞窟内の赫から、底冷えするほど低い声が届いた。


『“知恵持ち”……? “そういう枠組み”で捉えようとするのか? 私を?』


 間違いなくこちらを認識している、その低い声。

 まるで心外だとでも言うようなその言葉は、“その存在”の沸点の低さを感じ取らせた。

 どの道逃げても、追ってくる。


「…………行くしかない。ティア、ここに残っててくれ」

「……?」

 “その存在”を知るアキラは、一歩進み、ティアに告げた。


「じきに、あの二人もここに来るかもしれない。それまで、」

「だ、駄目ですよ!! 私だって、」

「“そういう次元”の相手じゃないんだよ……!!」


 アキラとて、策があるわけではない。

 確かに宿っている、“二週目”の記憶。

 そのとき、アキラは“策”などという存在を一笑に付す、超越した力を持っていた。


 だが今は、それがないのだ。

 そんな“危険”に、挑ませるわけにはいかない。

 エリーやサクでさえも、だ。


 “一週目”の記憶の封は、まだ解けない。


「っ、」

「……!」


 まだ何か言い出しそうだったティアに睨みを利かせ、アキラは赫の世界に向かっていった。

 ゆっくりと、一歩ずつ。


 自分の動きは、こんなに緩慢だったろうか。


「……!」


 最後の曲がり角を曲がってアキラが踏み込んだ、そこ。

 そこは、赫だけの世界ではなかった。


 この岩山の地下の一段総てがこのホールで満たされているのではないかと思うほど巨大なホール。

 その奥に、金と銀の財貨がうず高く積まれていた。

 シーフゴブリンに集めさせたものだろう。

 これだけで、一国を買えそうなほどの、“財”。

 そして、それだけに留まらず、精緻な武具も、ぞんざいに転がっていた。


 その、見た者総てを魅了するであろう、空間。

 だが、その空間で最も注目を集めるのは、そんな財ではなかった。


「どうだ。美しいだろう?」


 先ほど低く響いたその声が、財の手前―――“目の前の存在”から発せられた。

 当然のように語り始めたその横顔は、財の山を眺め、光悦の表情を浮かべている。


 赫いマントを羽織った、“その存在”。

 大柄なその体躯は、黄金の鎧に守られている。


 ようやく振り返って見せたのは、尖った耳と、黒で塗り潰したような眼。 

 そして、純金髪の髪以外、身体の色は赫で構成されていた。


「っ、」


 ドンッ、と身体中に何かがぶつかった。

 その発生源は、目の前の外敵。


 その重圧は、総てを押し潰す。


「……、」


 自分がかつては通った道。

 いや、通り過ぎた道。

 だが今は、この足で、それに踏み込んでしまったのだ。


 目付きも口元も釣り上がった、人ならざる“その存在”。


「よく来た。魔王様直属―――」


 それは、アキラにとって初めての―――


「―――リイザス=ガーディランの第七十二番宝物庫へ」


―――“分かっていながらのボス戦”だった。


「ぅ……、」


 赫の魔族―――リイザスに睨まれ、アキラの身体中に痺れが走った。

 眼前で不敵に笑われるだけで、臓物が絞り切られるような感覚に襲われる。


 こんな相手だったというのか。


 “二週目”。

 自分は怒りに任せて、ただの作業のように目の前の敵を瞬殺した。

 そのときはリイザスに対し、異形の存在だという“程度”の感想しか抱かなかった。


 だが今、この“三週目”。

 アキラの身体中が、全身全霊をもってこの場からの逃避を叫び続けている。

 相手が、完全に上位の存在である、と。


 少しでも考えれば、分かることだった。

 相手はあの、ウッドスクライナで出遭った“魔族”―――サーシャ=クロラインと同じ地位の存在。


 “チート”と呼ばれる力があって、初めて渡り合える相手なのだ。


「……、っ、」


 息が詰まる。

 身体が震える。

 リイザスの重圧が、アキラの小さな世界総てを押し潰す。


 認識が甘すぎた。

 正直なところ、アキラは心のどこかで、どうにかなると思っていた。

 かつて瞬殺した相手なのだから、最悪の事態にはなり得ない、と。

 だが、それはそもそも“記憶”に頼ったものだとアキラは気づいていなかった。


「そう構えるな。私は“平和的”に解決しようとしているだけだ」


 リイザスが途端襲いかかって来なかったことに、アキラは心の底から安堵した。

 あの赫い魔族―――リイザスが動き出せば、アキラなど瞬時に無に帰してしまう。


 アキラは棒立ちのまま動けない。


 そして必死に、“生存”だけを考え続ける。


 記憶に頼らない。

 そう決めた。

 だが、今はなりふり構っていられない。


 頼らないと決めた記憶に爪を立て、今すぐ封を開けろ、と。


 今すぐ思い出せ。

 さもなくば―――死ぬ。


「……どうも理解が浅いようだな。硬くなるな。私の前で剣など意味を持たないのだから」


 リイザスはアキラが背に負った武具を小馬鹿にするように笑い、両手を広げて振り返り、財の山を見上げた。


「どうだ、素晴らしいだろう?」

「……!」


 感想を聞かれたその言葉で、アキラの記憶の封が僅かに解かれた。

 自分は確かに“一週目”、リイザスの言葉を聞いている。


「金、銀、財宝。それらは美しい。シーフゴブリンなどという下等な存在にも、その尊さが分かるほどに」


 “一週目”も、同じ恐怖をアキラは覚えた記憶がある。

 リイザスの演説が、まるで襲いかかる序章にしか聞こえなかった。


 解かれた記憶は二重になり、アキラの心を蝕んでいく。


「下等な者は、感情にすがろうと下らんことを言う。あらゆる感情は、必ず裏切る。“財欲”こそ、あらゆるものが最後に到達する真理」


 振り返ってきたのは、私欲一色に染まったリイザスの貌。

 首を縦に振ることしか許さないその言葉に、アキラは思わず頷きそうになった。

 そうでもしなくては、今すぐ戦闘が始まってしまうかもしれない。


 何か、何か見つけなければ。

 今気づいたことでも、記憶に頼ったことでも何でもいい。


 とにかく、今、


「……、」


 リイザスはただその場から動かず、仰々しい演説を続けている―――


「……!」


 記憶の封は、未だ解けない。

 だがアキラの脳裏に、“答え”が掠めた。


 もし。

 もしもそうならば、活路がある。


 だがそれは、本当に正しいのだろうか―――


「さて……。そろそろ分かるな? 私の言う、“平和的”の意味―――」

「どうしましょうアッキー、あっし、お金持ってないです」

「……!?」


 後ろからの声に、アキラは漏れそうになった叫び声を必死に押さえた。


「っ、っ、お、おまっ、何して、」

「あはは、冗談ですよ?」

「そっちじゃねぇよ!!」


 アキラが気づかなかっただけで、彼女は最初から自分についてきていたのだろうか。

 そもそもそうだ。

 彼女は、巣に落ちたときのように、ただ待っていることができる人間ではない。


 “魔族”という存在の危機感すら覚えていないかのように振る舞うティアは、リイザスの重圧の中でも自由に動き、前に出た。


「…………無礼な子供だ。口を慎むことを覚えた方がいい」


 そのティアを睨むリイザスの貌は、その赫い皮膚をさらに充血させていた。

 ティアを差したその指も震えている。

 あまりに近すぎる臨界点間際なのは、誰の目からでも見て取れた。


「アッキー、あんなカツアゲ野郎の言うことなんて聞いちゃダメですよっ」


 わざとやっているのか、それとも素なのか。

 判断がつきかねるティアの態度だったが、彼女が口を開くたび、リイザスが震えているのだけは分かる。

 感情など無に等しいと言い放ったリイザスだが、完全に自分の感情を制御できていない。


「……倒しますよ。“魔族”は初めてですけど、問題ないです……!!」


 彼女は、この危険信号一色の空間で、“彼女だった”。


「……、はあ、お前は……、」


 思い出した。

 “一週目”。

 恐怖に潰されそうになった自分は、無垢さゆえの彼女の言動に、救われた気がしたのだ。

 彼女は、世界を知らない。

 だから何が起きても、“魔族”を前にしても、そう言い放てるのだ。


「……、」


 アキラは剣を抜き放った。

 震えていた身体が、僅かに収まる。

 きっと、ティアは、今の自分に欠けているものを持っているのだ。


 子供の愚かさとも言える、それ。

 だが失っていては、この足はそもそも動かないではないか。


 ごちゃごちゃとした思考が支配していた頭はクリアになり、かえって自分が馬鹿に思えてきた。


 ティアの考えはいたってシンプル。

 何があろうと飛び込んで、解決策を探すだけ。

 楽天的に、前に進み続けるのだ。


「……、」


 過去の記憶は関係ない。

 いかに相手が強大だろうと、それに抗う旅をしているのだ、自分は。


「やるぞ……!!」

「おうさっ!! 私にっ、ま、か、せ、と、けぇぇぇええええーーーっ!!」


 ティアの絶叫と、筋力を肥大化させたリイザスの金色の鎧がはじけ飛ぶのはほぼ同時。


 あとは、この“刻”を刻むだけ。


「ギ……、ギィィィィィァァァアアアーーーッ!!!!」


 対するは、“財欲”を追求する“魔族”―――リイザス=ガーディラン。


 赫の部屋で響いたその雄叫びが、開戦の合図だった。


―――***―――


「これは……?」

「さ、さあ……?」


 エリーは眉を寄せ、サクと二人並んで天井を見上げていた。


 アキラとティアを探索すること数時間。

 シーフゴブリンの巣と“思わしきもの”の中を進んでいたおり、二人は、先に“もう一つの探索物”を探し当てていた。


「何で……穴が?」

 そこには、エリーが手を伸ばせば掴めるほどの位置に、人一人分は通れるほどの小さな穴が空いていた。

 エリーはスカーレットに輝く自分の腕を下ろし、天井から差し込める日光に目を細める。


 大分長い距離滑り降りて巣に入ったと思ったのだが、いつしか元の高さまで昇っていたらしい。

 僅かにでも跳ねれば、外の地面が目線と同じ位置に来るだろう。


「……とりあえず、“出口”は確保できたな」

「……そう、ね」


 出口が見つかったことは、喜ばしいことなのだろう。

 だが、それ以上の不気味さが、その穴からは感じられた。


 なにしろ、今まで歩いてきた“加工された道”とは違い、その穴は単純に“壊れて空いている”のだ。

 足元には岩山を構成していたと思わしき岩が転がっている。

 何者かが外からこの分厚い岩盤を撃ち抜かなければこうはならない。

 もともと大穴が空き、崩れてこの僅かな隙間が生まれたと考えた方が自然であろう。


 そしてその大穴が空いたのは、ここに来る直前。

 エリーたちも、何かが崩れた音を聞いてここに向かったのだ。


「……誰かがここに入ってきた、とか?」

「……いや、しばらくは一本道だった。そうであるなら、私たちも出遭っているはずだ」


 確かにその通り、エリーたちはしばらく道を曲がっていない。

 ここは、元は完全な行き止まりだったのだろう。


「それじゃなに? その“誰か”は穴だけ空けて去っていった、ってこと?」

「そう考えるしかないだろう。案外、魔物同士の争いで空いたのかもしれないしな」


 それならそれでもっと騒がしいはずなのだが、エリーは口を噤んだ。

 サクとて、口に出したことが正しいとは思っていないのだろう。


「まあ、とりあえず今は事実だけを受けとめよう。出口は見つかった。あとはあの二人を探すだけだ」

「え……、ええ」


 後ろ髪を引かれる思いだったが、エリーとサクは来た道を戻り始めた。

 どちらかが出るべきであるのだろうが、お互いにその選択肢は消えている。


 入り口の、トラップのような落とし穴。

 異常なほど規模のあるシーフゴブリンの巣。

 “加工”された洞窟。

 そして、僥倖とはいえ不自然な今の出口。


 この洞窟は、奇妙なことのオンパレードだ。


 その上、アキラの“隠し事”の一つがここにある。

 離れるわけにはいかない。


「……そうだ。サクさん、この場所覚えられる?」

「ああ、問題ない。一応旅は長く―――」


 太陽の光と別れを告げ、エリーがスカーレットの腕を突き出した、そのとき。

 洞窟の不気味さに押し潰されないように声を出した、そのとき。

 サクが、僅かに得意げになって言葉を返してきた、そのとき。


 洞窟全体が、振るえた。


「―――!?」

「今の……、叫び声……!?」

「“雄叫び”、と言った方が正確だろうな……!!」


 二人はそれを合図として、即座に駆け出した。


「……、」

 先陣を切って洞窟を照らすエリーは、未だに身体を震わせていた。

 あの、底冷えするような太い雄叫び。

 それが耳に残って離れない。


 そして。


「……、」

「……、」


 ちらりと振り返ったエリーに、サクが頷き返してきた。

 二人とも何故か確信している。


 あの雄叫びが響いた、その“刻”。


 そこに、間違いなく、あいつがいる。


―――***―――


「―――!?」


 ぎらつくような金と銀。

 それが“赫”に照らし出された巨大な宝物庫の中。


 避けたはずの“赫い球体”が、アキラを追尾してきた。


「っ、」


 体勢の崩れたアキラは、自らの身の丈ほどのそれに、思わず剣を振り下ろした―――


「―――づ!?」


―――瞬間、目の前が赫一色に染まった。


 魔力を込めた剣が触れた瞬間、その球体が爆ぜ、身体が真後ろに吹き飛ばされる。


「ぐっ!?」

「アッキー!?」


 吹き飛ばされた身体は、洞窟の壁に背中を打ち付けようやく動きを止める。

 人間の身体がここまでやすやすと飛ぶというのはにわかには信じ難いが、身体を襲う激痛が現実に引き戻す。


 今の、攻撃は。


「っ、」

 アキラは強引に身体を起こし、立ち上がる。

 睨む先は、たった今、“赫の球体”を打ち出した存在。


「ふん、芸のない」


 赤色の身体に、肥大化した強固な筋肉の鎧。

 沸点の低さを象徴するような怒りに燃える、異形な貌。


 赫の魔族―――リイザス=ガーディラン。


「その程度、満足に受けられんのか……!?」


 言葉こそ冷静だが、その貌は相手への殺意が滲み出ていた。


「アッキー、大丈夫ですか!?」

「ティア、あいつを見てろ!! また来るぞ!!」


 ティアが自分にかけようとした治癒魔術を振り払って叫ぶと、アキラは足元に転がった剣を拾い、再び構える。

 服の袖は腕ごと焼け爛れていたが、幸い身体は何とか動くし、剣も壊れていない。

 魔術の鍛錬をしていなければ、アキラの身体も剣もここで“終わっていた”だろう。


「次は、防げるのだろうな―――」

 リイザスが手を天井にかざすと、その隣に再び赫い球体が浮かび上がる。


 先ほど、身を持って体験したその魔術。

 だがそれ以前に、“二週目”。

 アキラはその魔術を、知っていた。


「―――アラレクシュット」


 赫の球体が、アキラとティアを目指して放たれる。

 その速度は、あくまで人が走る程度。


 だが、その球体には、特殊な能力が付与されている―――


「っ、」

 アキラは再び駆け出した。

 しかしその球体は、即座に軌道を変え、“アキラに向かってくる”。


 速度は、自分と同程度。

 しかし、この狭い洞窟内。


 逃げ切れるものではない―――


「っ、」


 アキラは逃亡を諦め、その球体と正面から向かい合った。

 身体中に魔力を張り巡らせ、それに剣を再び振り下ろす―――


「っ!?」


 その瞬間、やはり爆ぜる赫の球体。

 万全の状態で迎え撃っただけはあり、流石に身体ごと吹き飛ばされはしなかったが、手に重い衝撃と痛みが残る。


 アラレクシュット。

 リイザスが使う、火曜属性の魔術だ。

 有するのは、二つの特殊な能力。


 一つは、“追尾能力”。

 もう一つは、ウッドスクライナで戦った魔族―――サーシャ=クロラインと同じ、“起爆能力”だ。


 エリーに習った魔術の知識が呼び起こされる。

 通常、魔術攻撃というものは破壊そのものの力しか持っていない。

 当然その分、遠距離になれば威力も低下する。

 だが起爆能力は、攻撃時のみに魔力を爆ぜさせるため、威力が衰退しにくい。

 この狭い空洞程度、どれほど距離を取ってもリイザスは近距離攻撃と同等の威力を保てるのだ。

 サーシャの“魔法”のように途端出現しない分身切りやすいが、問題となってくるのはリイザスの属性―――“火曜属性”。


 すなわち。


 他の属性に比し攻撃時の威力が著しく高いその力が、威力を衰えさせずに追尾する。


 これが、アラレクシュットの危険性。


「やはり、オレンジ……。だが、駆け出しか? “詠唱”も知らんと見える」

「……!」


 憤怒の表情で不敵に笑うという器用なことをするリイザスは、その赫い眼をアキラにまっすぐ向けてきた。

 今の二回の魔力の使用で、当然アキラの属性は認識されたようだ。


 そして、その実力も。

 自分の属性なのに、アキラが知っている日輪属性の魔法など、“たった一つの特例”を除いてないのだ。


「“勇者”かどうかは知らんが……、これで私にも“殺す理由が合法的にできたな”」

「っ、」


 “魔王直属”たるリイザスは、再び天井に手をかざす。

 その隣。

 今度は二つ、赫い球体が浮かび上がった。


「今度は二つだ。さあ、どうする?」


 怒りも徐々に収まり始めたのか、赫い魔族は相手をいたぶるような表情になった。


 だが、まずい。

 剣の攻撃しかできないアキラでは、どうあっても対処できない。

 近距離攻撃では、アラレクシュットには分が悪すぎるのだ。


 この攻撃に、対抗できるのは―――


「アッキー、今、治療を、」

「っ、いや、ティア!! 攻撃してくれ!!」


 目の前の怪我人に一直線に駆け寄ることは美点かもしれないが、彼女にはまだ、最も防がなければならないものが見えていない。

 あのリイザスの攻撃を防げるのは、ティアしかいないのだ。


「アラレクシュット」

「頼む……!!」

「はい!!」


 彼女にしては短い返事を叫び、ティアは両手で銃のようなポーズを作った。

 その二つの人差し指が向くのは、迫りくる赫い球体―――


「シュロート!!」


 ティアと、リイザスの中間地点。

 二つの赫の魔術が、二つのスカイブルーの閃光に触れた瞬間、爆ぜた。


 鼓膜を揺るがす振動の中、アキラは僅かに息を吐く。

 いくら威力が違っても、触れた途端に起爆するなら遠距離攻撃はアラレクシュットと相性がいい。


「やっ、やりました!!」

「っ、撃ち込み続けろ!! 俺らの敵はあの攻撃じゃないんだぞ!!」


 熱風を身体に受けながら、アキラは叫んだ。

 彼女がいればあの攻撃は防げるとはいえ、それではただ均衡するだけ。

 ティアの余力とリイザスの余力では、隔絶した差がある。

 限界を先に迎えるのは、間違いなくこちらだ。


 だが、近づくことすらできない―――


「……、っ、今は、その男と“交渉中”だ……!!」


 爆風で巻き上がった土煙が晴れ、現れたのは膨大な財を背にして立つリイザス。

 その貌は、水を差されたことに対し、再び憤怒の色に変わっていた。


「ふんっ、」


 リイザスはまたも手をかざす。

 次に現れた球体は、三つ。


 クリアするたび数を一つずつ増やすのは、こちらの限界を探るためだろう。

 すなわち、“どの程度ならば死なないのか”。


 リイザスの“財欲”。

 それは、相手から財を奪うこと。

 怒り狂っていても、相手をいたぶり、財を差し出させることを念頭に置いているのだろう。


「アラレクシュット!!」

「み、三つも!?」


 ティアの限界値は、やはり二つのようだ。

 三つの球体は、左右中央と分散し、挟み込むように二人に迫る。


「―――、一つはこっちに任せてくれ!!」

「!?」


 じり貧の状態を脱するべく、アキラは即座に足元の石を拾い上げた。

 一応、確認したいことがある。


「シュ、シュロート!!」

 ティアの攻撃が、二つの球体を撃ち抜く。

 そして、残りの一つは変わらず突き進んできた。


「っ、」

 アキラは、それに拾い上げた石を投げつける。

 これも一応、遠距離攻撃だ。


「―――!?」

 投げつけた石は、赫い球体に飲み込まれ、ジュっと音を立てただけで終わった。


 やはり、無駄か。

 アキラは観念して、剣に魔力を込めて振り下ろす。


「づ、」

 ズンッ、と重い衝撃を受けるも防ぎ切ったが、腕の方は限界だった。


「アッキー、今、」

「今度は頼む……、」


 ティアのスカイブルーの光がアキラの腕に冷気を届ける。

 そんな中、リイザスは未だ不敵に笑っていた。


「……、」

 アキラはそれを睨みながら、頭で条件を整理していた。


 アラレクシュットが起爆する条件は、魔力に触れたときのみだ。もしくは、生物に触れたときも含めて、か。

 これでは、逃亡しても洞窟内で赫い球体が追尾してくる。

 その場で起爆でもされようものなら、洞窟が崩れてしまうだろう。

 流石に宝物庫と言うだけはあり、この広い空間は丈夫に造られているようだが、他の場所で爆発させるわけにはいかない。


「準備は整ったか……? 次は四つだ」

「っ、」

 気づけば、すでに四つの球体がリイザスの隣に隊列していた。

 ティアもアキラの回復を止め、リイザスに向き合う。

 どうやらようやく、彼女の中で優先順位の認識が固まってきたようだ。


 だが、アキラが一つ、ティアが二つでは数が足りない。


 どうする―――


「……ティア。お前、どれくらい連発できる……?」

「ふ、二つが限度です。で、でも、時間があれば、」

「……、」


 危機に直面し、アキラの頭はかつてないほど高速で回転していた。

 三つを処理した直後、残る一つが無防備な状態のどちらかを襲ってしまう。

 魔力による防御膜を通してあの威力なのだ。

 下手に受ければ、先ほど焼けた小石のように身体が焼かれる。


 だが、時間があればティアが対処できるはず―――


「アラレク―――」


 追尾する魔術。

 それに対して時間を稼ぐ方法は、アキラが思いつく中では一つだけ。

 逃げ続けることだ。


 だがあの速度は、アキラと同程度。


 ティアの時間が稼げない―――


「―――シュット」


 リイザスが四つの球体に二人を襲わせる。

 二つはアキラへ。もう二つはティアへ。


 先に危険になるのは、攻撃回数の少ないアキラだ。


「ア、」

「自分のだけ何とかしろ!!」


 一瞬、ティアの動きがアキラへ向かう球体に向いたように見え、アキラは叫んだ。

 この期に及んで、ティアは自分よりアキラの方が急務だとでも思っている。


「でも―――」

「信用しろ!!」


 アキラはそれだけ叫んで駆け出した。


 時間がない。

 赫の球体は目前だ。


 背後でティアが魔術を詠唱するのが聞こえた。


「―――、」

 アキラは振り返りもせずにひたすら駆ける。

 背中に、二つの熱気を感じた。

 ティアの時間を稼がなくては、命はない。


 どうする―――


「……?」


―――来た。


 駆け続けて、ついに行き止まりに到着しかけたとき―――いや、“刻”。


 アキラには、総ての光景がスローに見えた。


 世界が勇者の“応え”を待つ、この瞬間。

 いつまで経っても、正体不明のこの感覚。

 この洞窟に引きこまれたときの感覚も、これに近い。


「―――、」

 駆けながら、アキラは僅かに振り返った。

 感じた熱気通り、身体ほどのサイズの赫い球体が迫ってきている。

 その向こうのリイザスは不敵に笑い、ティアは必死に準備を整えようとしていた。

 正面には、ゴツゴツとした壁。


 だが、この窮地を脱する応えは、必ずある。

 その確信だけが、アキラの身体を支配した。


 “何でもできる”、と。


「―――、」


 アキラはこの感覚に、身を委ねた。


 今必要なのは、何か。


 遠距離攻撃だろうか。

 確かに、必要な力だ。

 だがこの近さでは、撃ち抜いたところで被害を受ける。


 ならば、速度だ。

 この球体から逃げられるほどの、“身体能力”。


 アキラが最初に思い浮かべたのは、サク。

 だが、彼女の速度は月日を費やし得たものであり、現段階で真似できない。


 ならば、魔術だ。


 アキラは浮かぶ選択肢を、次々と取捨する余裕ができていた。


「……、」


 アキラの頭に、先日見た光景が呼び起こされる。

 あの、クンガコングの大群。

 囲まれても、“彼女”は機敏に動き回っていた。


 必要なのは、単純な魔力によるものではなく、“魔術”によるもの。


 例えば、そう―――


「―――、」


―――エレナ=ファンツェルンのような“圧倒的身体能力向上”。


「っ、」


 アキラは正面の壁を、まるでただの坂のように駆け昇り、強く跳躍する。

 赫の球体の背後を取ったアキラは、驚愕するリイザスの貌を視界に収め、ティアに向かって駆け戻った。


「ティア!! 頼む!!」


 準備は整ったようだ。

 ティアははっとした様子で、二本の指を構えると、アキラの背後の外敵を捉えてスカイブルーの魔術が射出する。

 爆音が響き、背後から熱風が届く。


 アキラもティアも、無傷だ。


「アッ、アッキー、今のは、」


 ティアは目を丸くしている。

 いきなり人が加速して、壁を駆け上がった光景を見れば誰だってそうなるだろう。

 実際アキラも、満点をつけられる自分の行動に心拍数が著しく上がっていた。


 また、できた。

 精度はまだまだ低いとはいえ、エレナの力を再現できたのだ。


 アキラは思う。

 本当に、“不可能などない”、と。


「貴様……、“木曜特化”か!?」


 “四つ”を攻略したアキラたちの耳に、リイザスの怒号が届いた。

 先ほど僅かに取り戻していた平常心をかぐり捨て、憤怒の表情でアキラを睨む。

 やはり、沸点は低いようだ。


「っ、」


 アキラは、これを機と見てリイザスに駆け出す。

 アラレクシュットは攻略した。

 だがそれは、所詮相手の攻撃が防げるだけ。


 やはり、リイザス=ガーディランそのものを倒さなければならない。

 ようやく、攻撃に転じられる―――


「アラレク―――」

「……!!」


 財を背にして立つリイザスの、左右。

 まるで財に近づく者を排除する門番のように、赫い球体が出現した。


 左右に三つ、計六つ。


 “五”を飛ばしたことから考えて、あれがリイザスの限界数だ。


「―――、」

 アキラは向上した身体能力に任せ、リイザスに向かっていく。

 先ほど覚えた絶望感はなりを潜め、代わりに浮かんできたのは全能感。


 そんな攻撃―――


「シュロート!!」


―――ティアが、十分に防ぎ切れる。


 リイザスの攻撃が放たれる前に、スカイブルーの魔術が待機中の球体を撃ち抜いた。

 ティアだって学習している。

 出現させてから放つのなら、その前に打ち抜けばいい。


 その分、二撃目も放ちやすくなる。


「―――、っ、シュット!!」


 数の減った四つの球体。

 だが、アキラの方が遥かに早い。


 十分に―――


「―――!?」


 走り回って巻こうとしたアキラは、球体の軌道に目を見開いた。

 四つの球体はアキラを避けるように飛び、総てがティアに向かって飛んでいく。


「っ、」


 これはまずい。

 アキラを追尾するのならば魔力の続く限り逃げられるが、そもそもティアを狙われては状況が変わらない。

 リイザスも、憤怒の表情を浮かべているとはいえその辺りの戦略は持っているようだ。


「―――、」


 アキラは強引に球体に跳びかかり、魔力を込めて一つを両断した。

 ティアが対処できるのはぎりぎり二つ。

 残る球体は三つ。


 リイザスは目前。

 しかし、戻るしか―――


「―――行きなさい!!」


―――その声に、アキラは振り返りもしなかった。


 “随分と状況把握が早いものだ”。

 そしてアキラもそれに倣い、“自分の役割”を認識する。


「―――、」


 着地と同時、アキラは前へ駆けていく。

 ぎらつく財の前。

 立ちはだかるは、“財欲”を追求する赫の魔族。


「シュロート!!」

「スーパーノヴァ!!」


 背後から、その声と爆音が聞こえる。

 もう完全に、リイザスの攻撃は攻略可能だ。


「っ、」

 リイザスの怒りの眼が一瞬背後を捉え、再びアキラに戻ってくる。


 やはり、間違いないようだ。

 それだけ怒り狂い、凶暴そのものを象徴するかのような巨大な身体を持っているのに、何故リイザスは“その場から動き出さないのか”。


 そんな理由、アキラは一つしか思いつかない。


 動けないのだ。

 “とあるアイテムの制約”によって。


「―――、」

 アキラは剣を振り上げた。


 放ったばかりでは、アラレクシュットは間に合わない。

 リイザスを攻撃するチャンスは、間違いなく今だ。


「っ、」


 身体能力にあかせて、アキラはリイザスに詰め寄った。

 近づくと威圧感がさらに増したリイザスの体躯。

 アキラの頭など、その胸ほどにまでしか達しない。


 だが今は、この存在に襲いかかることが“自分の役割”だ。


 リイザスは誤解した。

 アキラを“木曜特化”だと。


 だが違う。


 アキラは、攻撃時に最大級の威力が出る、“火曜特化”だ。


「っ、」

「―――、」


 アキラは全力で剣を振り下ろした。

 袈裟切りのその攻撃は、赫いリイザスの肩でオレンジの魔力が爆ぜる―――


「…………“火曜特化”だったか」

「……!?」


 まるで岩石でも殴りつけたような衝撃に、アキラは剣を砕かれた。

 剣の半分が飛んでいく。


 オレンジの光の向こう、怒りを増したリイザスの表情と、剣の跡を残しただけの筋肉の鎧。

 今のアキラの全身全霊を込めた一撃でも、この程度しかダメージを負わせられないらしい。


 リイザスが腕を振り上げる。

 だがアキラは、その場から動かなかった。


―――もう、勝負はついている。


「私は“これ”を切っているばかりな気がするな……」

「―――!?」


 背後の声に、リイザスが即座に振り返る。

 徐々に輪郭がぼやけ始めたその魔族越しに、アキラは財の山の麓に立つ女性を見ていた。


 彼女は巨大な空洞の反対側に現れた仲間―――エリーと同時にここに来たのではないのだろうか。

 もうすでに、“ゴール”にいる。


「貴様……、」

「目はいい方でな。“二つ”も奇妙な物体があったから迷ったが……、当たりを引いたらしい」


 “足止め”という自分の役割を果たしたアキラは、彼女―――サクの足元を確認した。

 よくもまあこれだけ光る財の中、あれだけ離れた所から、“その小さな石”を見つけられたものだ。


「“リロックストーン”を……!!」


 消えゆく“魔族”に睨まれるのは、何度経験しても慣れないものだ。

 だが、相手に“制約”があったとはいえ、勝ちは勝ち。


 自分たちは、この外敵を退けたのだ。


「っ、」

 リイザスは憤怒の表情を絶やすことなく全員を睨みつけ―――


―――この洞窟から姿を消した。


「―――、」


 赫の世界は終わりを告げ、代わりに世界を照らしたのはスカーレットの鮮やかな光。

 身体に、急激な安息感が襲ってきた。


「……、」


 膝から崩れたアキラは、財の山の前で倒れ込んだ。


 流石に、身体能力向上の魔術はまだまだ慣れない。

 そのリバウンドか、身体中が軋みを上げる。

 回復も不完全に動き回ったせいで、焼け爛れた手は握ることもできそうになかった。


 だが、それ以上に、アキラは爽快感を覚えていた。


 自分の力も増したし、何よりこの仲間たち。

 途端現れたというのにここまで息が合うのだから、文句のつけようもない。

 遠距離攻撃を行える、ティアもいる。


 万事上手くいく。

 恐れることなど、なかったではないか。


 最高だ。


 いかに恐怖が襲おうと、自分たちは“ずっと”―――


「―――、」


 アキラの頭に、“とある前提”が浮かんだ。


 そうだ。

 自分には、


「―――、」


 “その前提”に心を蝕まれる前に、アキラは頭から強引にそれを追い出す。

 そして、襲いくる眠気に身を委ねた。


「……?」


 そのアキラの、閉じかけた目に奇妙なものが映った。

 砕けた自分の剣の向こう、神々しい光を放つ、金銀財宝。


 歩み寄ってくる、恐らくはサクの足元に、その場に相応しくない錆び付いた物体が見える。


 アキラは思わず腕を動かし、


「―――、」


 そこで意識を手放した。


“―――*―――”


 遠征。

 そんなわけの分からないものがあるとは、流石の“彼女”も知らなかった。

 何でも、“中央の大陸に所属する魔道士”は、定期的に各地の“神門”に赴き、様子を見るという“しきたり”があるそうだ。

 それはある意味、他の四大陸の魔術師隊を信用していないことにもなるのだが、“しきたり”の名目上、誰からも文句が上がっていない。


 本当に、面倒だ。

 仕事をするということはあるいはこういうことなのかもしれないが、無為な行動というものはやはり苦痛。

 実際に今も“神門”の安全の確認を終え、気分転換に町から外れて散歩していたところだ。


 小さく唄を口ずさみながら、とぼとぼと。


「……、」

 集合時刻まで、もう間もない。

 それなのに、大分町から離れてしまった。

 気づけば、所属大陸の大樹海には満たないとはいえ、背の高い木々に周囲を囲まれている。

 ここの森も、大層に深いらしい。

 近くに見える岩山も、大自然のそれだ。


 戻ろう―――


「……?」


―――として、足を止めた。


 今感じた、妙な気配は一体何か。


「……、」


 瞳を“さらに狭め”、神経を張り巡らせる。


「グ……、」

「……! ……?」


 一瞬、自分の疑問が解決したと思った。

 しかし、それは即座に腑に落ちなくなる。


 出現したのは、クンガコング。

 だがそれも、一頭ではない。

 どこに潜んでいたのか、緑の体毛の巨体が森の木々に代わり、彼女の周囲を囲み始めた。


 二十、いや、三十。


 醜悪な顔を歪め、筋力を肥大化するクンガコングの群れを見て、彼女が思ったのはその程度の感想だった。

 そんな“些細なこと”より、自分が今感じた妙な空気の方が問題だ。


「―――、」


 瞬時。

 彼女が小さく呟けば、総ての魔物が魔力の矢に貫かれた。

 悲鳴さえ聞こえない。

 断末魔の代わりに戦闘不能の爆発音が響き、彼女はその被爆地を、“空から見下ろしていた”。


「……!」

 ふわふわと浮かびながら、彼女はまたも、瞳を狭めた。

 そして困ったように、眉も下げる。


 考え事をしながら放った魔力の矢の一本は、近くの岩山を撃ち抜いたらしい。

 外壁が崩れ、大きな穴が開いている。

 自然物の破壊は極力避けたいところだったが、あれだけの数の魔物に襲われたのだから不可抗力と言うべきだろう。


 だが、


「……!」


 そこで、ようやく自分の覚えた違和感の正体がつかめた。

 あの岩山だ。

 あの岩山から、何か奇妙な気配を感じる。

 小さな矢一つで大穴が簡単に空いたということは、中は空洞。

 岩山そのものが、何かの巣のようだ。


「……、」

 空からそれを注視し、彼女は岩山に背を向けた。

 興味はあるが、流石に集合時間だ。


「―――、」


 彼女はまたも小さく呟き、町に向かって飛んでいった。


 シルバーの軌跡を描きながら。


―――***―――


「……あんた、ここにいたの?」


 エリーが宿舎のドアを開けると、先ほどまで部屋にいたはずのアキラが門前の壁に寄りかかっていた。

 夜空には、綺麗な空気のお陰で、星が煌めいている。

 こうした涼やかな空気の中では、あの洞窟内のことが嘘のようだ。


「……、」

 アキラはそれを、ただただ見上げている。


 彼はここで何をしているのだろう。

 夜空を見上げるロマンチストでも気取っているのだろうか。


「ティアも今日、泊まってくってさ。あとでお礼言っておきなさいよ? あんたの治療、ずっとしてたんだから」

「……、ああ。目が覚めたとき、会ったよ」

 アキラは空を見上げたまま、小さく呟いた。

 エリーは僅かに息を吐き、アキラの隣に寄りかかる。


「……、」

「……、」


 しばし、無言。

 エリーは空気に耐えきれず、隣で黙り込んでいる男の腕を軽く小突いた。

 反応は、薄い。


「…………しっかし、驚いたわ。また“魔族”がいるなんてね」

「……ああ、そうだな」


 何故かまた、反応が薄い。

 というより、上の空。

 この男ならば、もっと有頂天になっているかと思っていたというのに。


 結局、リロックストーンを破壊するというサーシャ=クロラインと同じ方法で“魔族撃退”を果たした四人。

 倒れた切り動かなくなったアキラを運び出す作業はかなりの労力を伴うことになったが、出口を確保していただけはあり、思ったよりも早くあの“巣”を抜け出せた。


 不気味と言えば不気味だが、あの山の中ではリイザス以外の問題はなかった。

 出られた以上、幸運としてしか受け取る他はない。

 気になると言えば―――こちらは俗物的な考えだが、あの財の山。

 旅というものの必要経費を考えると後ろ髪を引かれるものもあったが、元は盗品。

 運び出すのも困難の上、あの赫の魔族をさらに刺激するのは避けるべく、手はつけなかった。


 たった一つの物品を除いて。


「そだ。あんたが掴もとした剣、持って帰って来たわよ?」

「剣?」


 アキラが初めて顔をエリーに向けた。


「……ちょっと、あんたが欲しそうにしてたから運んで来たのよ?」

「……、」


 どうやら、アキラは無意識に手を伸ばしていたようだ。

 てっきり“隠し事”か何かと思い、気を遣ったつもりだったのだが、特に意味はなかったのかもしれない。


 エリーはあの、“錆び付いた剣”を思い起こす。

 そういう表面に関心の強いサクは貴重な物のように見ていたが、エリーの眼には使い道のない粗大ゴミにしか見えなかった。

 といっても、あの煌めく財の中にあったとあっては、確かに気になる物体だ。


「……まあ、いらないなら捨てましょうか?」

「……いや、いい。持ってこう」


 剣が壊れた直後からだろうか。

 アキラも錆び付いた剣に関心があるようだ。


 鍛え直せば使えないこともないだろうが、どうせ―――


「……?」


 エリーの頭に何かが掠めた。

 何故か、自分は“それ”を探していたことがある、と思ってしまう。


 最近よくある、頭を流れる奇妙なノイズ。

 もしかしたらアキラの“隠し事”に関係あるのかもしれない。


「……あのさ」

「ん?」

 アキラを見ると、再び空を見上げていた。

 エリーは構わず言葉を続ける。


「なんとか、なったじゃない」

「…………、」


 アキラは目を細め、なおも星空を見上げ続ける。

 当てずっぽうに言ってみた言葉は、どうやら的中したようだ。


 アキラはずっと、あの洞窟を避けたがっていた。

 だが、結局は“魔族”を退け、幸運にも出口が見つかり、四人とも五体満足で帰ってきている。

 この男が感じていた“危険”を、確かに超えていけたのだ。


「……、」


 エリーがサクと共にあの赫の間に辿り着いたとき、すでに“空気”ができていた。


 行ける、という確信。

 それが“魔族”を見ても震え上がらず、即座に行動できた要因。


 温床は、間違いなくこの男だ。


 “総て上手くいく”、と。


「あんたも、信用してくれたじゃない」


 エリーが伝えようと思っていた言葉は、かけるまでもなかったようだ。


 彼はあのとき、自分たちへ向かった魔族の攻撃を任せてくれた。

 サクが動くことを前提に、リイザスの身に切りかかった。

 少しいいように捉えすぎかもしれないが、彼は自分のことに集中できたのだ。


 だから、“勝てる空気”があの赫の空間にできていた。


 エリーの見える小さな世界では、この四人ならばできないことはないとまで思える。

 “魔族”さえも、条件付きとはいえ退けられた。


 きっと、アキラも自分と同じような感覚を味わっていると思ったのだが―――


「……、」


―――何故こうも気力がないのだろうか。


 また、“隠し事”でも抱えているのかもしれない。


「……少しは元気出しなさい。ちょっとだけなら悩み事とか聞いてあげるわよ?」

 エリーは小さな声で呟いた。

 信用された今なら、“隠し事”は聞けなくとも、彼の覚える“恐怖”くらい軽減できるかもしれない。

 何せ自分たちはあの脅威を前に、“終わらなかったのだ”。

 ずっとずっと、続いていく。


 この日々は、続くのだ。


「今日はよくそう言われるなぁ……、」

「なに? サクさん?」

「いや……、ティア」

「ふーん……、」


 エリーは僅かにジト目になり、しかしアキラの口が軽くなったことに安堵を覚えた。

 せっかく勝ったのだから、やはり、今くらいは自分と同じように浮かれていて欲しい。


「……なあ、」

「ん? なに?」


 早速悩み事の相談だろうか。

 エリーは小さく微笑み、空から戻ってきたアキラの視線を受け、


「やっべぇ……」

「?」


 固まった。


 途絶えない日々。


 その確信が、エリーの中に在る。

 それなのに、何故彼は、そのただ中にいて“泣きそうな表情”を浮かべているのだろう。


「…………楽しくなってきちまったんだ」


 そんな悩み事を聞いたのは、初めてだった。


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