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おんりーらぶ!?【第二部】  作者: コー
中央の大陸『ヨーテンガース』編
49/68

第55話『下らない世界(後編)』

―――***―――


「……ひっ」


 エレナ=フェンツェルンは、自分らしからぬ声に僅か赤面し、周囲を警戒する。

 どうやら誰にも聞かれなかったようだ。


 エレナが西部の護衛地点で待機してしばらく経った頃、シンと静まり切った樹海の闇の中から、まるで海底に潜む深海魚のようなゆっくりとした挙動でひとりの男が現れたのだ。

 好みの顔立ちではなく、お金も持っていなさそうだったので、エレナはまさしく幼い頃に連れて行ってもらったことのある水族館の客のように悠然と眺めていたのだが、今は依頼中であり、さらに男の服装が依頼主のサルドゥの民であることに気づき、ようやく我が目を疑った。

 男を半ば強引に捉え、事情を聞いてみると、儀式を目前に控えたサルドゥの民たちは、旅の魔術師たちだけに任せてはおけず、自らも巡回を始めたと言う。


 不審に思ったエレナは、殊勲にも男の身を案じて元の場所に戻るように懇願した。

 身近にあった大木の一部を握り潰し、転がっていた男の身体ほどの丸太を踏み砕き、これ以上面倒事を増やすんじゃねぇというささやかな想いを冷め切った瞳に宿し、愛くるしくお願いしたところ、エレナの誠意が届いたのか、男は我に返ったように瞳を開き切り、逃げ出すように中央の儀式の地へ戻って行った。


 そして再びひとりに戻ったエレナだったが、珍事があったせいで集中力を欠いてしまった。

 不可思議なことにこの樹海では、自分が頼りにしてきた魔力の気配や直感というものがどうにも鈍くなる。

 周囲の気配を探ろうにも何も感じられず、メラメラと揺れる焚いた火の前にポツンと座っていると、自分だけが世界に取り残されているような感覚がした。

 何らかの攻撃を受けている可能性が高い中、じっとしているとどうにも落ち着かない。具体的に言えば苛立ちを隠せなくなる。


 一応護衛地点であるこの場所に留まることに意味はあるのだろうが、護衛対象であるサルドゥの民があんな勝手な行動を取っていては最早この護衛の位置的な意味は無いかのように思われた。

 そして、先ほどのサルドゥの民が言われた通りに元の場所へ戻ったのだろうかと思いつき、男の身を案じ、エレナはしばしこの護衛地点を離れることを決意したのだ。

 もし途中で再びあの男と出会ったら、驚きのあまり、誤って魔物に遭遇したときの対処をしてしまうかもしれない。


 そして、辿り着いた中央の地。ここでは儀式の準備がある程度進んでおり、矢倉のような建物が中央に鎮座していた。

 夜明け頃に行われるらしいバオールの儀式とやらのときは、あの矢倉を中心にサルドゥの民が集い、エレナにはまるで興味の無い何らかの術式を組み上げて、盛大に行われるのだろう。

 今と違って。


 そこは閑散としていた。

 人の気配がまるで無い。あれだけ乞うようにお願いしたというのに、先ほどの男すらいなかった。

 それどころか野営するためのテントはいくつかは組み立て途中で、用途は分からないが中央の矢倉から少し離れた場所に突き立てたれた妙な柱も、装飾品もそこそこに柱の根元に転がっている。

 儀式の準備も住んでいないのに奴らは一体どこに行ったのか。

 この緊急事態にエレナは焦り、とりあえず金目の物でもないかと順々にテントに顔を覗かせていると、天罰が当たったのか、テントに入ってすぐに、膝を抱えた姿で微塵にも身動きしない生命体に迎えられた。


「は、え、なに、こいつ」

「…………ふえ。んー。…………ん、あれ、エレ、お姉さ、ま?」


 微動だにしなかった奇妙な生命体が目を覚ましたようだった。

 エレナの冷静な思考はこの場からの離脱を強く訴え、即座にテントから外に出ようとしたのだが、遅かった。

 目を覚ましたアルティア=ウィン=クーデフォンは、眠気眼のままエレナの袖をがっちりと掴み、エレナに引きづられるようにテントから這い出てくる。


「ちょ、服伸びるでしょ、離してよ!」

「あはは、幸せな夢ですね、エレお姉さまに会えるなんて。いいですよ、身長でも胸でもどっちでもいいです」

「おい、お前、起きてんだろ!?」


 怒鳴りつけると、ティアは目を何度も擦り、若干据わった目をエレナに向けてきた。いつもの満面の笑みを見てからだと、夢遊病者のような引きつった笑いを浮かべている今はシンプルにホラーだ。しな垂れ掛かられている自分の方が殺傷能力が高いとは誰も思うまい。


 そういえば、このガキは中央で待機するのが仕事だったと今更ながらに思い出した。

 それだというのにサルドゥの民はひとり残らず消失し、このガキはこの場所で眠りこけているとは。

 エレナは必要以上に身体をゆすり、覚醒させると、ティアはようやく自分の足で立った。


「…………あれ。エレお姉さま。どうしてここにいるんですか?」

「どっかの誰かが眠りこけているからでしょ」

「んん……。ええっ、あっし、寝てたんですか!? すみません、なんか、休まなきゃ!! って思ったんです」


 このガキが訳の分からないことを口走るのは今に始まったことではないが、今はどうやら異常と捉えた方が良さそうだ。

 この樹海全体で何かが起こっている。

 ティアも何らかの攻撃を受けたのかもしれない。


「それよりあんた。あの連中は? 人っ子ひとりいないじゃない」

「え? あれ。わ、わわっ、皆さんはどこに!?」


 期待はしていなかったが、やはりティアの寝てる間に皆どこかへ行ってしまったようだ。

 先ほど会ったあの男のように、周辺を見回っているのだろうか。

 ヨーテンガースの樹海だ。確かに警戒し過ぎるということはない。だが、それで儀式の準備が疎かになったら本末転倒ではないか。


「あ、あ、あ、あっしのせいです!! 探さないと! あれっ、カーリャンもいないです!! まだ戻ってきてないんでしょうか!?」


 慌てた犬のように儀式の地を駆け回るティアを尻目に、エレナは空を見上げた。

 断片的な情報を思い起こすと、確かあの気にくわない大男の一派のひとり、召喚獣使いの女もこの場所の護衛をしていたはずだ。

 もし彼女もこの辺りの巡回をしているのであれば、召喚獣で空を飛び回っているかもしれない。


「……雨?」


 見上げた頬に、ポツリと何かが当たった。

 水滴のようにも思えたが、頬に染み入っていく雪のようにも思え、エレナの意識は徐々に覚醒していく。

 覚醒して、初めて自分の目が霞みがかっていたことに気づいた。

 晴れた視界の先、不気味なほど巨大な満月が浮かんでいる。そして、どうやらその雨とも雪ともつかないそれは、満月の中央、ポツンと浮かぶひとつの陰から降り注いでいることに気づいた。


「ん。あ、あ、あ、あれ、いましたエレお姉さま! カーリャンです!! 見つけました!」


 このガキは一体どういう視力をしているのだろう。エレナには相変わらず小さな粒にしか見えない。

 視力とて身体能力の一部である。ティアによもや自分を超えている身体能力があるとは衝撃だった。


 小さな身体で両腕を存分に振り回し、奇怪な愛称を口走りながら駆け回る姿は、この聖地とやらで行われる怪しげな儀式を先取りしているようにも思えた。


「あれ、あんたの知り合い?」

「何言っているんですか! カーリャンですよ!!」


 しばし見ていると、ようやくエレナにも確認できた。あの“もうひとり”の一行にいた、いかにも口煩そうで、自分とは馬が合わないであろうとエレナが感じていた女が、召喚獣なのだろう透き通るような青の体をした巨龍に乗って夜空を旋回していた。

 そしてその身体から、星々に紛れるようにスカイブルーの粒子が樹海中へ降り注いでいる。


「……どうやら、この異常はあっちに任せたほうがいいみたいね」


 ようやく思考がクリアになってきた。

 おそらく、何らかの魔術あるいは魔法がこの樹海全体に発動していたのだろう。あのサルドゥの民の男の妙な挙動もそのせいか。

 意識をある程度コントロールする類のもので、これほどの広範囲となれば至ってシンプルな操作となるであろう。


 となれば。


「いつまでも遊んでないで行くわよ」

「へ、あ、そ、そうでした! み、皆さんを探さないと……!!」

「大方この樹海をうろつき回るようにでもされたんでしょう。とっとと見回って、全員この場所に連れ戻すわよ」


 もしこの状況が、なんらかの意思の元行われているとなれば、狙いは陽動の可能性が高い。

 しかし乗らざるを得なかった。あの空の召喚獣使いが気づいているということは、“もうひとり”の面々もこの事態に動き出しているのだろうが、樹海に散らばったサルドゥの民を全員連れ戻すとなると圧倒的に人手不足だ。


 エレナはこの樹海中に厄介なことをした、どこにいるとも知れぬ相手に聞こえるように大きな舌打ちをすると、今度は手元に持ってきていた信号弾を空に掲げた。


 信号弾は、所有者の魔力に反応して光を帯びるという。

 話に聞くタンガタンザの戦場のような砲撃音が、樹海の夜空に轟いた。


――――――


 おんりーらぶ!?


――――――


 カイラ=キッド=ウルグスは、自分が大変な辱めを受けているような気分になっていた。


 カイラたちの前に現れた魔族―――サーシャ=クロラインは、樹海中に魔術をかけたという。

 魔族の魔術など、どの次元の力なのかほとんどピンと来ていないが、修道院を離れて旅に出てから、サーシャ=クロラインの噂は幾度か聞いていた。

 その魔族は、人の思考に囁きかけ、人を意のままに操るという。

 町や村を瞬時にかき消すとまで言われる魔族だ、聞いた程度では小さい話だと思いがちだが実のところそうではない。

 人間によって成り立つ社会に、魔族の思想が入り混じれば、町や村どころか国家ですら没する可能性があるのだ。

 現に、修道院で幾度か聞いた事件の中にも、サーシャ=クロラインが介入していると思われる事件があった。

 それどころか、“サーシャという魔族が存在していること自体”が社会規模の問題となっている。


 ある国家で内乱が起こったことがあった。内政に自信のあった国王はその内乱をいぶかしみ、サーシャに囁かれたと思われる者たちを強引に投獄したという。

 それに触発され、内乱は勢いを増し、他の国の魔術師隊でも抑えられないほどの武力抗争にまで発展したらしい。

 事後調査では、サーシャに囁かれていたのは実は国王の方で、内乱自体も国王自身が手引きしていたのだという。

 以後、秩序が保たれていた近隣の人々は疑心暗鬼になり、結果として滅んだ町や村は両手では数えきれないほどに登った。


 その全てにサーシャが関わっていたかは定かではないが、神の名の下に団結していた人間たちの結束を容易く崩壊させたのは、サーシャが人々の心に影を差したからに他ならない。

 存在しているだけで、目の前の人間を、あるいは自分自信すら信じられなくなってしまう。

 ここまでの広範囲に被害を撒き散らすあの魔族は、人間にとって害悪そのものだった。


「ワイズ。次は東へ向かいましょう」


 青い巨龍が喉を鳴らす。

 カイラの使役する召喚獣ワイズは、こと移動においては同種から頭ひとつ抜けた存在だった。

 満月に迫るほど空へ高く舞い上がり、樹海の空を悠々と飛び回る。


「バーディング・レプルス」


 ワイズの背に乗るカイラが呟くと、ワイズは青白く発光し、身体中から小さな光の粒を樹海へ落としていく。


 サーシャはこの樹海中に魔術をかけたらしい。実際にかけられた人を見たところ、どうやら簡単な意識操作をされている様子だった。

 大方、樹海中をうろつき回るように仕向け、こちらの陣形を崩すのが狙いなのだろう。

 意識を操作するなど最早魔法の領域だ。汎用性に富んだ水曜属性のカイラですら人の操作などまともに使えない。


 だが、カイラにとって未知の力は得意分野だった。

 正面から挑んでくる相手より、搦め手で攻めてくる相手の方が対抗しやすい。

 先ほど見た、被害に遭ったサルドゥの民もサーシャの影響は浅いようだった。そんな被害者を正気に戻すなどカイラにとっては容易くできる。

 問題は、その範囲だが。


「バーディング・レプルス」


 カイラは再び魔術を放った。

 不気味な月光が降り注ぐ樹海を洗う雨のように、青の粒子は降り注ぐ。

 この魔術は、人の精神を落ち着かせる、治癒魔術の亜種である。理由はあえて言わないが、ストレス解消とリラックスの効果があるこの魔術を、カイラはよく自分にかけている。


 カイラはそれを分散させ、大雑把に樹海中に散乱させていた。

 ここまで拡散させるとなると、サーシャのように人を意のままに操るどころか、ほんの少し被害者たちに我に返る切っ掛けを与えるだけに過ぎないだろう。

 だがそれで充分だ。


 ただ、神に仕える自分が、こんな風に対象も定めず、乱雑に魔術を撒き散らすとはなんてはしたない。

 ワイズに乗って注目を集めながらやる羽目になるこの魔術は、本当に恥ずかしくて嫌いだった。


「なら止めちゃえば?」

「……!」


 ワイズの正面に、浮かぶ月輪と見紛うような輝く銀の存在が現れた。

 サーシャ=クロライン。

 夜空に浮かぶ絶世の美女の姿をしているその魔族に僅か見惚れそうになるものの、カイラは冷たい目つきを返した。


「お戻りですか。どこかへ行ってしまわれたのではないのですか?」

「あら冷たいわね。頑張っているようだから見に来てあげたのに」


 ワイズに乗るカイラと違い、サーシャは幻想的にも優雅に浮かぶ。

 月輪属性の魔族。

 カイラの仲間にも月輪属性はいるが、その力には多くの謎が隠されている。


「残念ですが貴女の魔術はわたくしが解除しますよ」

「あらそう。恥ずかしいの我慢してでも?」


 カイラはギロリとサーシャを睨んだ。

 軽口を叩きながら、こちらの心を読んでいることを露骨に伝えてくる。

 それが挑発だと気付いても、目の前の存在に対する嫌悪を抑えられなかった。

 先ほどまで、噂に聞く占いなるものをしてもらい、気分が高まっていた自分が恥ずかしい。相手が魔族だと知っていたら、口も利かなかっただろうに。


「交渉しない? それ、止めて欲しいんだけど。死にたくないでしょ? 私もあまり派手にやるなって言われているし。ねえ。ただで占いしてあげたじゃない」

「そんな話をするために来たんですか?」


 サーシャはサルドゥの民を正気に戻すのを止めろと言いにきたのだろうか、銀に輝く目の前の存在の本心は分からなかった。

 仲間のマルド=サダル=ソーグの言うように、サーシャたち魔王一派も派手に行動したくないというのは本当なのだろうか。

 だが、カイラには不快な感情しか浮かんでこない。


「生憎と、その占いのおかげで思い出せたんですよ、この方法を」

「アリハ=ルビス=ヒードスト?」


 その名を聞いて、自分でも驚くほど強い激情が胸に押し寄せた。

 失った大切な友人を、サーシャは自分の心から読み取ったらしい。

 サーシャはにやりと笑う。

 カイラがアリハを思い浮かべた瞬間、何かが掠め取られた不気味な感触が胸を襲った。


「『ねえカイラ、見つからないならさ、せめて諦めないように応援すればいいんじゃないかな』」

「……っ」

「『そうだ、ワイズに乗ってさ、逸れた辺りに治癒魔術とかを滅茶苦茶に降らせれば、とりあえず生きていてもらえるよ』」


 目の前の口が、その声を発した。

 数多くの遭難者が出た修道院でのある日のこと。何名かはワイズに乗って発見できたものの、未だ雪山の中にいる数多くの遭難者に対し、あのアリハが、珍しくもまともな案を出したのだ。


「『ははは、良かった良かった。みんな助かったじゃん。でもカイラ、ぷぷ、ワイズに乗って攻撃でも撒き散らしてるのかと思ったよ、私笑っちゃって笑っちゃって』」

「―――シュロート!!」


 激昂に身を任せ、カイラは目の前の害悪に魔術を鋭く放った。

 アリハのことを思い浮かべれば思い浮かべるほど、サーシャはそれを読み取り、その口から吐き出してくる。

 サーシャは優雅にカイラの攻撃を回避すると、そのままゆったりと浮かびながら妖しく微笑んだ。


「これ以上の侮辱は許せません……!!」

「あら。怒らないでよ。大切なお友達のことを思い出させてあげたのに。それにしても、珍しくよ? 私が心底同情するわ、アリハとかいう子の末路。あの変態魔族に誘拐されるなんてね」

「っ……」

「すぐに死ねたかしら? それともまだ生きている? まあ、まだ生きていたら死んでいた方がマシだろうけど」

「あ、ああああああーーーっ!!!!」


 叫び、カイラはサーシャに突撃した。

 ワイズは攻撃に適した召喚獣ではない。だが、抑えられなかった。

 サーシャは身体を浮かせ、樹海の空を飛び回る。

 猛撃するカイラだったが、サーシャの言葉だけは、この暴風の中でも確かに聞こえてきた。


「『立派になったねカイラ。すごいよ、世界を救う旅なんて』」


 記憶にない、しかし、彼女が言いそうな言葉が、彼女の声で聞こえてくる。


「『雪山で人助けしてたんだもん、カイラには向いてるよ。でも、やっぱり心配になるな』」


 あったかもしれない未来で、アリハは語りかけてきた。

 目の前のサーシャが演じているのか、自分の記憶の彼女が囁いてくれているのか、カイラには分からなくなってきた。


「『だってさ、カイラ、ちゃんとしているようで、抜けてるし。真面目にやろうとしても、実は大雑把だって私には分かってるんだよ? だってさ、』」


 前方を飛ぶサーシャが突然止まり、ゆっくりと振り返る。

 その口元は、優しささえ感じるほど柔らかく微笑んでいた。


「『私のこと、見殺しにするし』」

「――――――っ」


 我が目を疑った。

 目の前にアリハがいる。

 いつものようにいい加減に、軽口で、残酷なことを口にした。

 自分が今まで何を追っていたのかすら、カイラには分からなくなった。


「カイラ!! 魔術を止めるな!!」

「ちっ」


 一体いつの間に自分は動きを止めていたのだろう。

 ワイズの上でカイラは我に返り、頭を振る。

 覚醒した頭は、自分が樹海から離れ、遥か上空の暴風に身を晒していたことに気づいた。


「あらマルド=サダル=ソーグ。何をしにきたのかしら?」


 サーシャの銀に向かっていく別の銀を見た。

 樹海の中で別れたマルドは、自らも魔法を使ってこの空の世界に訪れたらしい。


「マルド……わたくしは、」

「カイラは早く魔術を再開してくれ!! またサーシャが魔法を使ってる!!」


 マルドは叫び、サーシャと対峙する。

 カイラはようやく事態が飲み込めた。

 自分はサーシャの口車に乗って、樹海への魔術をいつしか止めていたようだ。

 サーシャの、目論見通りに。


「ぐっ!!」

「なによ、いい夢見れたでしょ?」

「とんでもない悪夢です!! 貴女は―――」

「……キュール!!」


 憎たらしく笑うサーシャに向かってなお突撃しようとした瞬間、目の前で銀の光が弾けた。

 眼前に浮かぶのは仲間の小さな少女キュール=マグウェル。どうやら自分はサーシャに攻撃されたようだ。一体いつ攻撃されたのか訳も分からないが、マルドと共に来たこの『盾』の少女に救われたらしい。


「ってキュール!? 何をしているんですか、こんな危険なところで!! マルドと一緒に樹海で皆さんを、」

「カイラ、悪いが後にしてくれ。ヒダマリ=アキラの一派に合流できたんだ。今樹海じゃ手分けしてサルドゥの民を連れ戻している。俺とキュールはこいつの足止めだ。カイラが魔術を止めたら、せっかく救ったサルドゥの民がまたバラバラになっちまう」


 マルドは額に汗を浮かべながらサーシャに対峙する。

 今樹海では事態は終息に向かっているらしい。

 だがそれもサーシャが手を加えれば再び振り出しだ。自分の役割は、サーシャの魔法を徹底して妨害し続けることなのだろう。

 カイラは拳を痛いほど握った。


「マルド、お任せします。わたくしはすぐに戻って皆様をお助けします。……キュールも、気をつけて」


 魔族という途方もない相手がいるのに、キュールを残すなど気が狂いそうだった。

 だが、彼女の力は認識している。魔族相手となると不可欠な存在であるとも。

 しかしそれ以上に、この場を離れるために歯を食いしばらなければならない理由があった。


「あら、いいのかしら? キュールを残していって。仮にも私は魔族よ? 死んじゃうでしょうね、アリハみたいに」

「耳を貸すなカイラ。適当に相手するだけだ」


 サーシャのカイラを引き止めるような言葉には、マルドが挑発を返した。

 サーシャから殺気が漏れたのを感じる。どうやらマルドを排除する敵として認識したようだ。


 だがカイラは、最後にあえてサーシャの言葉に乗った。

 サーシャに背を向けたワイズの上で振り返り、震える唇を強引に開く。

 ぐいと拭った目元には、いつしか涙が浮かんでいた。


「サーシャ=クロライン」


 キュールがいるというのに、これは、教育上大変よろしくない。

 だが言わざるを得なかった。


「貴女に天罰があらんことを」


―――***―――


 ホンジョウ=イオリは千載一遇のチャンスを、冷ややかに眺めていた。


 ここは“召喚獣”ルシルの体内。目の前に存在するのは諸悪の根源―――“魔王”ジゴエイル。

 自分が得た様々な情報を勘案すると、魔王の死と共にルシルが世界規模の爆発を起こす可能性は低いと思われた。


 自身も使役する召喚獣というものについての仕組みを改めて調べ直したところ、召喚術師によって召喚方法が異なるらしい。

 イオリのように、召喚するたびに完全な状態で現出するタイプが最も多いが、中には前回現出していたときの状態を引き継いで召喚するタイプもいるそうだ。

 前者は使役者が力を増すことによってのみ召喚獣の力が上がるが、後者はそれに加え、召喚獣自体も成長するらしい。

 その分、召喚獣が負傷した場合、治癒する時間が必要であるが、成長速度は突出しており、使いこなせれば強力無比な召喚方法である。


 魔王ジゴエイルの召喚獣―――ルシルは、成長型の召喚獣だ。

 世界規模の爆発を起こす魔力を体内のどこかに圧縮して保持し、今なお成長を続けている。

 だが今、ルシルは身体の一部を現出する“部分召喚“で呼ばれている。その爆弾とも言える箇所は、“ここではないどこか”に残り、この世界には存在しないのだ。


 故に今、目の前の魔王を撃破することは、世界の消失に繋がらない。

 “あの死地”に乗り込まずとも、今、ここで、すべての決着を付けられる。


 その好機に、感情が沸き立つはずだった。

 だが、同じく事情を知っているはずの男は、底冷えするほどの殺気をまとい、静かに立っている。


「……アキラ。君は、」


 声を出したと思ったのだが、口がパクパクと動くだけだった。

 この空間は外の樹海のように魔力の流れが極端に鈍い。しかし、この何も感じない空間で、ヒダマリ=アキラの周囲に妙な気流が生まれている。

 見知った顔が、別人のように思え、イオリは震えた。


 これが、


「キャラ・ブレイド。それがリイザスを撃破した魔術……魔法か。ようやくやる気を出したようだね、アキラ君」


 ブロンドの髪を軽くかき分け、魔王は配下を下された魔法を冷静に眺める。

 イオリにとって初めて見る魔王の姿は、なんとも辺鄙で、まるで人間のようだった。殺気を撒き散らし、狩猟動物のように対峙するアキラと、どちらが人外か判断ができなかった。


 そして。


「―――、」


 アキラの足元が爆発したかのように思えた。

 剣を掲げ、鋭く走るその姿はイオリが今まで見てきた彼の姿とはまるで異なり、凶暴性を露わにした野獣のような動きだった。


「ふ」


 その獣に、ジゴエイルは手をかざした。

 魔力の気配の鈍さに慣れていないイオリが、それが攻撃であると気付いた瞬間、獣に向かってオレンジの魔力が連続で射出される。

 思わず息を呑むほど美しい魔術の軌道は、走るアキラを目掛け狂いなく走る。


 直撃。

 そう思った直後、アキラは魔術に身体をかすめさせるほど小さく身を捩り、そのままジゴエイルへ向かって突撃する。

 もしここに魔術の鞭をとったことのある者がいれば怒鳴りつけるほど危険なその行動は、しかし、アキラの身体を迷いなく魔王へ運ぶ。


「……死ぬ気か?」

「殺す気だ」


 ジゴエイルの呟きに返したのは、もう1匹の猛獣だった。

 アキラに追従するように、あるいはそれを追い越すように、魔王という獲物を我が物にせんとばかりに駆けるひとりの大男―――スライク=キース=ガイロード。

 アキラと同じように、あるいは、アキラ以上に魔王の魔術をやり過ごし、猫のような眼と巨大すぎる剣を光源の乏しい闇の中でギラつかせる。


 ほぼ直進するふたつのオレンジの光を、無数の同色の魔術が狙うが、ふたりの速度はまるで落ちない。


 側から見ているイオリにも分かった。ふたりには回避する気がない。

 受けたら受けたで良いと思っているのだ。

 戦闘が佳境に入り、勝ち目がないと悟り、それでも、僅かな可能性に掛けた捨て身のような行動を、このふたりは当然のように遂行する。

 魔導士となって戦場を幾度も経験してきた。だが、イオリは、初めて目の前の狂者たちの行動に、背筋が震えた。


「―――ぐっ!!」


 魔王の攻撃がついにアキラを捉えた。

 剣が弾かれ、身体が泳ぐ。正確な攻撃の嵐の中、許されない僅かな隙が生まれ、アキラはその光弾に身を晒す。


 だが、イオリは見た。

 アキラの惨状にまるで興味を示さず、それでもなお駆け続けたスライクが、ついに魔王に辿り着いたのを。


「ほう、想定外だ。もう辿り着けたのか。想像の範疇だがね」

「はっ、―――遺言はそれだけか?」


 その狂気の一刀が魔王を脳天から引き裂いた。

 地面ごと叩き割らんかという雷撃の一閃が、何も感じない空間で暴風を巻き起こす。

 しかしその次の瞬間、イオリは再び目を疑った。

 スライクが撃破したかと思われた魔王は、オレンジの光の粒子になって溶けていく。


「ち、面倒くせぇなぁ、おい。殺したら死ねよ」

「だから言っただろう。下らないゲームだと」


 魔王の声は、離れた地点から、脳に響くように聞こえた。

 ぼんやりと照らされるジゴエイルのその姿は、なんら損傷を負っていない。


 イオリはその様子を注視すると、アキラに向かって駆け寄った。

 足止めをくらい、その場で光弾の処理をせざるを得なかったアキラは、やはり別人のような顔つきで、再び現れた魔王を睨んでいる。


「アキラ、無事か!?」

「……離れてろイオリ。奴を殺さなきゃなんねぇんだ」

「……アキラ?」


 目立った負傷は負っていないようだった。

 身体を纏う魔力も―――この距離なら感じられる―――煮え滾るように溢れている。

 この魔術は、あのスライク=キース=ガイロードの模倣だ。

 リイザス=ガーディランの死闘で手に入れた―――いや、自分自身を捨て去った前々回のアキラが操る、敵を殲滅するためだけの魔術だ。

 イオリは拳を握り、感情を殺した。


「アキラ、あれが魔王の基本戦術か?」

「らしいな。だが問題ない。次は俺が斬り殺す」


 射殺すように魔王を睨みつけるその瞳を見て、イオリはより背筋が冷えた。

 ずっと近くで見続けていたアキラの姿だ。

 信頼はできても、信用はできなかったアキラのひとつの可能性だ。


 だが何故か、イオリは悪寒とも言える違和感を覚えた。

 迷いなく魔王を睨みつけているはずのその瞳が、一体何を捉えているのか分からなくなった。


「殺さなきゃ何ねぇんだよ。俺は、魔王を」


 なら何故だ。

 何故アキラは自分に言い聞かせるように呟くのか。


「キャラ・ブレイド……!!」


 何かを押し潰すように、あるいは、祈りを込めるように、その魔術を発動させるのか。


「ジゴエイル!!」

「また繰り返しだ。だが、宣言しよう。今度は到達できない」


 再び見た光景が展開された。

 アキラとスライクが魔王目掛け、光弾をその身に浴びんばかりに突撃する。

 魔王の宣言は当たった。

 最早確率の問題だろう、捨て身な故に当然リスクは高く、ふたりともほとんど近づけないまま光弾の処理を強要された。

 そして魔王が強く手を突き出す。

 突如としてふたりを襲った暴風は、アキラとスライクを元の位置まで吹き飛ばした。


「……」


 アキラの様子が気がかりだが、イオリは冷静にその戦闘を眺めていた。

 幾度となく繰り返される光景。

 あるときは到達し、あるときは到達できず、しかしいずれも魔王との距離が開いた状態で戦闘が開始される。

 スライクもそうなのだろう、剣だけを攻撃手段とするふたりにとって、あれほど正確な魔術を操る魔王は天敵にも等しい。

 そして決定的にまずいのは到達できても魔王に攻撃が通用しないことだった。


 だからイオリはひたすらに様子を伺い続ける。

 自分も参戦すれば、魔王に辿り着ける確率は飛躍的に上がるだろう。


 だが、延々と続く同じ光景。

 こちらの勝利条件が見出せない。


 自分は今、それを見出すことに全神経を使うべきなのだ。


「……!」


 今度はアキラの剣が魔王を捉えた。

 再び光の粒子となる魔王を見て、イオリははたと気付く。

 幻想的な演出のようで、しかし確かに見覚えがある。それは、今まで自分が幾度となく見ていた光景だった。


「ふたりとも、“そいつじゃない”!! ―――メティルザ!!」


 イオリは叫び、駆け出した。

 足止めを食っていたふたりの前に盾を展開すると、魔王の光弾を弾き飛ばす。

 流石に魔族の攻撃か、呼吸が止まるほどの衝撃を受けながら、イオリはすべてをやり過ごした。

 暴風の魔術が放たれるが、殺傷能力は低いと判断してその身を委ねる。


「イオリ、どうした……?」


 同じく飛ばされたアキラの姿を見て、イオリは顔をしかめた。

 すでに幾度か魔術をその身に浴び、破れた服の下は簡易な防具が陥没し、露出した肌は赤とも黒ともつかない色に染まっている。

 肩で息をしながら魔術を保っているが、体力が尽きかけているのは見て取れた。


 イオリが睨むと、ジゴエイルはなんとも静かな表情で遠方に立っていた。


「想定通りこの回で気付いたか。このくだらないチェスゲームのカラクリに」

「…………」


 イオリは静かに睨み続けた。

 自分の行動も、ジゴエイルにとっては予想できていたらしい。

 だが、勝利条件はようやく見つけた。


「ふたりとも聞いてくれ。“あれはジゴエイルじゃない。ルシルだ”。粒子になって溶けていく……あれは召喚獣が消滅するときの光景だ」


 ギロリと、殺気だった視線が周囲を索敵した。

 スライクは立ち上がると、剣を地面に突き刺す。


「は、なるほどな。道理で同じ硬さなわけだ」


 これほど巨大なルシルを操るジゴエイルは、イオリにしてみれば召喚獣のエキスパートだ。

 自分が想定する限界をひとつ上げれば、答えは分かりやすくぶら下がっていた。


 部分召喚されたルシルは、そのはずなのにあまりに巨大。

 山をひとつ押し潰し、ヨーテンガースを囲っていた岩山を海岸に変えたほどだ。

 そのスケールに感度が鈍くなっていたが、魔導士隊に属していたときの自分の上司は、召喚獣を何体も現出させていたことを思い出した。

 召喚獣はひとりにつき1体。その原則を捻じ曲げるような召喚方法ではあるが、しかしそれは例外ではなく、あくまで1体の召喚獣を分裂させているに過ぎないのだ。

 それはある意味、召喚獣が自分の分身を召喚しているようなもので、性質の全く異なる分身を生み出すことはできないが、独立して動く兵隊としては活用できる。

 そしてその分身は、本体の魔力が尽きぬ限り、延々と生み出すことができるという。


 つまり、今自分たちが飛び込んでいるこの空間がルシルの本体。遠方、静かに立つジゴエイルの姿をした存在が、ルシルの分身だ。


 となればこの戦いの勝利条件は、ジゴエイルの本体を見つけ出し、撃破することになる。


「なら魔王はどこだ。ルシルの中にいるんだろうな」

「ああ、いるはずさ。召喚術師は召喚獣からそれほど距離を取れない。いるなら外じゃなくて中だよ」


 魔王が存在しうる、最も安全な場所はルシルの体内だ。

 召喚獣をコントロールもしながら戦闘を行うとなると、この戦いが見える位置にいなければならない。

 オレンジの明かりで薄ぼんやりと光るこの空間のどこかに、魔王は静かに佇んでいるのだろう。

 この魔力の気配を感じにくい空間は、魔王が自身の姿を隠す上でも好都合だ。


「……当たりはついてるぜ」


 スライクは薄ぼんやりと照らされる広間のその先を睨んでいた。

 イオリの話を聞き、その狩猟動物のような嗅覚が、何かを拾っているようだ。


「魔導士の女。よくやった。つまりこういうことだろう……、これまで奴が魔術を放たなかった方向に野郎がいるってな」

「お前、分かるのかよ」


 イオリは頷き、スライクの視線を追う。

 一応イオリも今までの戦いの位置どりは把握していたが、スライクの方が情報が多いようだ。

 一定の方向だけを睨んでいる。

 そこで、ルシルの一部が手を叩いた。


「そうだ、いいぞ。その通りだ」

「あん……? 移動する時間稼ぎか?」


 ジゴエイルの姿をしたそれは、首を振った。

 ジゴエイルが操るそれは、あるいはジゴエイルそのものなのかもしれないが。


「いや、動かんよ。そういうゲームとしたのだから。だが、君たちは真理に辿り着いた。繰り返される魔王と勇者の戦い。だがそれに本当の意味で終止符を打つには、チェスボードを破壊するか、駒を配置する者を破壊することだ。分かるだろう、どれだけ突撃しようが、どれだけ策を弄そうが、結局は破壊でしかこの下らないゲームの幕を下ろせない」


 ジゴエイルは、愉快そうに言った。

 だが、もし目の前の、ジゴエイルですらないルシルの一部が人間だとすると、なんともつまらなそうな表情を浮かべているのか。


「アキラ君。そういえばまだ、何故私が魔王だと分かったのかを聞いていなかったね」

「……!」


 ジゴエイルの言葉に、イオリはどきりとした。

 やはりこの戦い、魔王に自分たちの警戒が察し取られたから始まったようだ。


「正直に言っておこうか。サーシャが読み取れたのはそこまでだ。だが何故君は私と戦うことを躊躇する」

「どうでもいいじゃなかったのか」

「そのつもりだったが、やはり興が乗った。もし私の想像の内のひとつ、“最も可能性が低い自体が起こっていたとしても”、君が私を討つことを躊躇する理由がないのだよ―――“今なお”、ね」


 アキラは何も答えなかった。だがイオリは、アキラが拳を強く握ったのを見逃さなかった。

 魔王の言葉は、自分たちの旅の核心を突いてくる。だがその危機感を、アキラと自分が共通認識を持っていないような、漠然とした恐怖が勝った。


 ジゴエイルに下手な小細工で探ってくる様子はない。

 イオリが知る、この旅の核心すらを飛び越えて、堂々とアキラと向き合っている。

 すべての記憶を保有する自分が初めて覚える疎外感。

 アキラの姿が、ずっと遠くにあるような錯覚を起こした。


「アキラ君。私はね、飽きてしまったよ。自らの“破壊欲”にすら。だからこそ目を輝かせざるを得ないんだ、君という存在に。私の想像の外にあるのならそれを知りたい。そしてそれを……破壊したいと思うのだよ」


 アキラは、ジゴエイルの姿から目を切った。

 そしてスライクと共に並び立つ。

 その言葉を本当に発している本体を捉えるために。


「イオリ。俺は魔王を殺す」


 彼は何度その言葉を呟いただろう。

 勇者としての使命を果たす決意の現れのようにも聞こえるそれは、やはり、祈りの言葉のようにも聞こえる。


「……」


 イオリには分かった。

 同じだ。

 前々回で、何度も聞いたあの冷たい声だ。


 すべてを投げ捨てたいと思っている声だ。


 アイルークの魔門破壊で乗り越えたと思っていたのに―――また彼は、取り込まれつつある。


 ジゴエイルが言う、アキラの躊躇。

 それが、この悪寒の正体なのだろうか。


「キャラ・ブレイド!!」


 そして彼は、その躊躇を塗り潰すように、狂者となって駆け出した。


―――***―――


「あの……、えっと、起きましょう!! 朝で……、その、朝ではないですが、えっと、危ないですよ、こんなところで!! あ、ああ、良かった、お気づきになったみたいで、こっちに来てください。エレお姉さま、そっちはどうです、……ってぎゃーっ!? またやってる!?」


 エリサス=アーティは、樹海の中でとんでもないものを目撃した。

 魔力の流れが鈍い樹海の中、神経を尖らせて進んできたら、夢遊病者のように歩くサルドゥの民に対し、丁寧に話しかけて覚醒させるティアとは対照的に、迷うことなく当身を喰らわせ大人しくさせているエレナの犯行現場に出くわした。


「あら、正妻ちゃんじゃない。ちょうど良かったわ、人手不足よ」


 気絶したサルドゥの民の男を肩に担ぎ上げ、エレナは事も無げに言う。

 人をまるで荷物のように扱うエレナの表情からは、いつも以上の機嫌の悪さが見て取れた。


「エレナさん、何してるんですか!?」

「何って護衛任務よ。こいつらこうでもしないとうろつき回るんだもの。それと、私の言いつけを無視した罰ね」


 エレナは担いでいる男と知り合いなのだろうか。

 殺気混じりのエレナの様子に、ティアが覚醒させた男も凍りついている。

 依頼主に対する行動ではないが、目を瞑らざるを得ない状況だということはエリーも把握していた。


「事情は後で話すわ。とにかくこいつら広場に運ぶわよ」

「事情ならなんとなく把握してます。さっきマルドさんに会って」


 エリーは表情を正し、夜空を見上げた。

 最も目立つのはあのカイラが操る召喚獣ワイズが樹海の空を旋回するように飛び、雨のようにも雪のようにも見える魔術を降らせている光景だ。

 しかしその向こう、さらに上空に、銀に輝く複数の飛行物体が激しくぶつかり合っている。


 サーシャ=クロライン。


 あの魔族がこの樹海に来ているらしい。

 マルドはサルドゥの民を探すようにだけ伝えると、小さな少女と共に空へ向かって行ってしまった。

 人手がいると判断してエレナを呼びに西部の護衛地点へ向かっていたのだが、まさかティアまでいるとは。


「なら話は早いわ。飛んでる召喚獣のお陰かしらね、もう何人かは正気に戻ってるけど、特にサルドゥの民は“かかり”が深いわ。……ねえ」

「ま、待ってくれ、俺たちはただ、儀式のために見回りを―――ぎっ」


 マルドの話では、サルドゥの民たちの儀式にかける想いを利用して思考を捻じ曲げているらしい。

 エレナは事情を把握しているのか、あるいはすでに見つけたサルドゥの民たちの様子を見た経験則か、サーシャの影響が深いと思われる者たちは気絶させた方が早いと判断しているようだ。

 せっかくティアが叫んで正気に戻そうとしていたというのに、エレナは迷うことなく腹部に拳を叩き込んでいた。


「こっちは私ひとりでいいわ。南の方はまだ行けてない。あんたらふたりで行って来なさい」


 エレナはふたり目を軽々と担ぎ上げ、顎で南を指し、中央の広場へ向かって駆けていってしまった。

 カイラのお陰のようだが、サーシャの影響は軽減されている。

 この先彼女が見つけるサルドゥの民たちが、影響が深いとエレナに疑われるようなことを口走らないことを祈った。


「エリにゃん、急ぎましょう。後少しのはずです!」

「え、ええ」


 民間人に当たり前のように手をあげる光景のショックは未だ拭い切れないが、今は有事と自分に言い聞かせ、ティアを追って走った。

 手段はどうあれあのエレナが勤勉に働いているのだ。ここで遅れを取るわけにはいかない。


「ねえティア、サルドゥの人たちは中央の広場にいたのよね? 中央で何があったの?」

「……うう、気づいたらみんないなくなっちゃってたんです……」

「みんな!? 護衛の人たちも!? ティアは大丈夫だったの?」

「……あっしは眠ちゃってました」


 さも申し訳なさそうに、その身をさらに竦ませながら駆けるティアに、エリーは半ば呆れ、しかし思い直す。

 あのサーシャ=クロラインが来ているのだ。

 ティアも何らかの影響を受けての行動だったのかもしれない。


「でも、今のところ皆さん無事です。護衛の方々も今中央でサルドゥの民たちを守ってくれています。何人かは口も利けない状態ですが……」


 それは無事というのだろうか。エレナの被害者たちだろう。あるいは魔物に襲われていた方がマシだったかもしれない。

 魔族が襲って来たのだから仕方がないかも知れないが、バオールの儀式とやらの実行がさらに危ぶまれた。


「カーリャンほどとはいかなくても、あっし、魔術で目を覚まさせるつもりだったんです。でも、エレお姉さまがやったら殺すとまで言ってきました……」


 本気で睨まれたのだろう。ティアはカタカタ震えている。

 しかしエレナの判断は正しいと思う。彼女は当初の作戦通り、ティアの魔力を徹底的に温存しながら事態を対処しようとしているのだ。


 空を見上げる。

 夜空ではまるで異次元に迷い込んだかのような光景が広がっていた。


 カイラは変わらずこの樹海に恵みをもたらすかのように魔術を振りまき、銀の飛行物体たちはどうやら拮抗しているらしい。あのキュールの防ぐ力は魔族相手にすら通用する。

 壮絶な状況だが、この感度を鈍らせる樹海のお陰で、エリーはかえって状況を冷静に把握できた。

 適材適所とでもいうように、皆の行動がぴたりとはまっているようで、あのサーシャ=クロラインの攻撃を防げているのだ。


 だからこそ、エリーの不安は強くなる。

 あれほど分かりやすくサーシャが襲いかかって来ているというのに、“あの男”が行動を起こさないのは不自然だ。

 絶対に何かに巻き込まれている。


「エリにゃんたちはアッキー探してたんですよね? 見つかりましたか? 」

「見つからなかった。そうだ、サクさんとイオリさんには会った? こういうの、サクさんの方が得意だと思うけど」

「サッキュンには会いましたよ。サッキュンやっぱりめっちゃ早いですよ。マルドンにも会ってたらしくて、あっという間に東の方を制圧していました」


 酷い表現だが、エリーの心労が少しだけ晴れた。

 不特定多数の探索となるとサクは圧倒的なパフォーマンスを出すだろう。

 マルドやエレナたちと出会い、すでに探索でも成果を上げているらしい。ひとつ年下らしいのに、自分の方が彼女の行動の後追いをしているみたいだった。

 こうなってくると、ヨーテンガースの樹海を非武装でうろつくという危険極まりない行動をさせられていたサルドゥの民たちは極めて安全に思えた。

 下手をしたら自分たちが向かっている南側すら、サクが探索を終え、すでにサルドゥの民たちは全員揃っているかもしれない。

 まさに適材適所だ。


 “だからこそ、エリーは震える”。


「……いいティア。絶対に魔力を使わないで」

「…………はい」


 神妙に言うと、ティアは素直に頷いた。

 彼女も分かっている。


 所在の知れないこちらの主要戦力は、3人の勇者とホンジョウ=イオリだけだ。

 “もうひとりの男“の方は知らないが、残りは異常があれば絶対に行動を起こす。


 適材適所という言葉を使うのであれば、彼らは、“サーシャすら問題にならない脅威”を担当している可能性がある。


「あと、ひとつお願いがあるの」

「?」


 エリーは目を細めながら、暗い樹海を駆け続ける。

 これは、あくまで念のためだ。

 エリーは握った自分の拳を見つめ、呟く。

 あの“魔門破壊”を乗り越えたあと、ヨーテンガースの魔導士―――アラスールに教わったことがある。


「あいつとあたし。もしもどちらかしか治せないときが来たら―――あいつを治して」


―――***―――


 スライクが睨んだ場所は、確か最初にジゴエイルが歩み寄って来た通路のような場所だった。

 今は通路の明かりは落ち、漆黒の闇を蓄えている。


 あの通路の先に本物のジゴエイルがいる。

 そう思うとアキラの身体は喜びに震えた。


 ようやく、終わらせられる。


「さて。君らが察知した場所は正解かな。飛び込んでみるといい。どの道、私の想像の範疇に収まってしまうのだろうが」


 耳障りな雑音が、ジゴエイルの姿をしたルシルから聞こえた。

 その想像とやらはどこまでだろう。

 ジゴエイル本体の所在は正解か、不正解か。正解だとして、自分たちの剣はジゴエイルに届くか、届かないか。勇者が魔王を下せるか、敗れるか。

 そのすべてが想像の範疇とやらなのかも知れない。


 不毛だった。

 ジゴエイルはなんとも退屈そうな瞳の色を浮かべていた。言った本人も、雑音だと思っている。

 起こる事実だけを並べ立てれば、所詮、勇者が魔王に挑むという物語が繰り返されているに過ぎない。

 あるときは勇者が敗れ、あるときは魔王が敗れ、そして、再び勇者と魔王が現れる。

 永遠に繰り返されるチェスゲーム。


 魔法があり、魔物がいて、勇者がいて、夢と希望に溢れた、この素晴らしくもお約束の世界は、それ故に、同じことが起こり続ける。


「―――キャラ・ブレイド!!」


 すべてを振り払うように、アキラは魔術とともに駆け出した。

 目指すは通路。

 頭では判断できている。

 もし本当にあの奥にジゴエイルがいたら何が起こるか。


 通路の先はどうなっているか分からないが、少なくとも細く長い通路だ。

 眼前から魔術を放たれれば回避する術は無い。


 だが向かわずにはいられなかった。

 今駆け出さなければ、自分の足は地面に張り付いたように動かなくなる気がした。


「ふ―――」


 背後のジゴエイルが嗤ったのを感じた。

 顔だけ振り返れば複数の光弾がアキラを撃ち抜こうと高速で接近してくる。

 あくまで今はチェスボードの上。対戦相手の駒は、ジゴエイルの姿をしたルシルだということか。


 だが、アキラは止まらなかった。

 億劫だ。光弾を対処するより、このまま駆け続けていたかった。


「勇者!! てめぇが殺してこい!!」


 自棄になっていることを自覚したとき、背後から爆音が聞こえた。

 振り返りもせず、アキラは辿り着いた通路に突入する。

 薄ぼんやりとしたオレンジの灯りが途切れ、アキラの身体は漆黒の闇に吸い込まれる。


 視界が塞がり、速度が緩む。

 それでももがくように足を動かした。


 感覚が鈍い。

 それは、この空間が特別なせいだけでは無いと分かった。

 あれだけ切望していた魔王を討つ今、結局自分は、自分の感情を殺さなければ前に進めないのだと分かった。

 自分が旅の道中に覚えた感情や感動を、不要なものとして扱わないと、ヒダマリ=アキラは魔王に立ち向かえないのだと悟らされた。

 戦力だけの問題ではない。この、自分自身を諦めた象徴の魔術を使わなければ、魔王を前に、この足は前に進まないのだ。


「……!」


 だから、進み続けた闇の先に、自分と同じように小さく光るオレンジの人影を見つけたときも、感動ではなく、やっぱりか、という感想しか浮かんでこなかった。


「―――、」


 がくんと速度が下がる。頭痛が酷くなった。

 それが魔力切れの症状だとはすぐに気づけた。


 この魔術は周囲の魔力を取り込み、アキラが本来持つ魔力を超えて魔術を発動させ続けるはずだ。

 しかし、この空間は、魔力の流れが鈍いらしい。その影響か、周囲からほとんど魔力を取り込めていないようだ。

 同様の仕組みを操るスライクも、もしかしたら限界が近いかも知れない。


 その危機をも、アキラには他人事のように感じた。


「……この感覚か」


 それは、ジゴエイルの謀なのかも知れなかった。

 魔術の質は高いが、淡白なだけの、なんら面白みのない戦場を用意したのも、何かの暗喩のようにそれを繰り返させたのも、もしかしたら奴は、自分と同じ感覚を味わってもらいたかったからなのかも知れない。


 スライク=キース=ガイロードが眩しい光を放っているのを見て、なおそう思う。自分とは熱量が違うと。


 ヒダマリ=アキラという主人公は、異世界から現れた勇者であり、物語はループする。

 そして勇者は、魔王を討つ。


 それだけのあらすじしか残らない、さもつまらない物語。


 下らない世界。


 自分はたった3度繰り返しただけだ。

 ジゴエイルがいつ生まれたのかは知らないが、勇者が魔王を討つという下らない物語を、一体何度見てきたのだろう。


 「正解だよ。私はここにいる」


 オレンジに光る人影が、淡白にそう言った。

 そして手をかざしてくる。

 それが攻撃行動だと察知したが、アキラは漫然と足を動かし前へ進むだけだった。


 きっと直撃する。

 狭い通路では回避する術はない。

 動きを止めて対処すれば狙い撃ち。

 魔力も底を尽きかけている。


 絶対的な危機を前に、しかしアキラの脳裏には、先ほどのジゴエイルの言葉が蘇ってきた。


 “それがどうしたのだと”。


 光弾が、射出される。


「―――メティルザ!!」


 漫然と突撃していたアキラは、正面から壁に激突した。


 勢いを殺せず転がるように倒れたアキラの目には、狭い通路で両手を突き出すイオリの姿が飛び込んできた。


「イオ……リ?」

「アキラ、伏せろ!!」


 鋭い視線を真っ直ぐにジゴエイルに向け、飛来してくる光弾をグレーの盾で防ぎ切る。

 爆撃の光弾で時折通路の闇が払われ、アキラにもジゴエイルの姿がはっきりと見えた。

 どうやらこの通路は袋小路になっているらしく、ジゴエイルはその最奥に、偽物と同じ姿をして立っていた。


「……アキラ、少しは落ち着け!! 僕が時間を稼ぐ!!」


 怒鳴られて、アキラは自分の魔法が切れかけていることに気づいた。

 身体も全身痺れ始めている。

 イオリが時間を稼いでくれている間に、整えなければ。


 しかし、荒い呼吸を繰り返し、立ち上がろうとすると、イオリが静かな声で言った


「―――引こう」


 イオリから、ギリ、と歯を食いしばる音が聞こえた。

 魔王の攻撃を一手に引き受けたイオリは、魔王を睨みながら苦い表情を浮かべていた。


「なに言ってんだ!! 魔王はすぐそこだぞ!!」

「ああそうだ!! だけど、君は今戦うべきじゃない!!」


 光弾が飛来するたびに、イオリの身体が大きく揺れる。

 振り返ることなく、魔王だけを睨んでいる。


「ここで引いてどうすんだ!! 俺は勇者だ、勇者が魔王を倒すとこだぞ!!」


 一時光弾が止んだ。

 次に放たれたのは暴風の魔術だろうか。

 イオリは盾を展開したままそれを抑え込む。

 魔術の影響を受けにくい土曜属性の術者でも、魔王の力をいつまでも正面から浴び続けることなどできない。

 しかし、イオリは両手をかざし続ける。


 風が止んだのか、イオリは盾を解除した。

 痺れた手を庇うように下げ、肩で呼吸を整える。

 魔王に意識を向けたまま、イオリは小さく振り返った。


「僕は構わない。今ここじゃなくたって」


 この世界の旅を3度も繰り返す彼女にとって、魔王討伐は悲願だろう。

 今も、切実な表情を魔王へ向けている。

 しかしそれを押し潰し、イオリは震えた声で言った。


「君は感情が乗るからね。すぐに分かるよ、何か理由があるんだろう。魔王の言うように、何か迷いがあるんだろう」


 魔王の言葉はイオリにも当然届いていた。

 感じ取られてしまったのかもしれない。

 彼女にも話していない。この物語を描くために、ヒダマリ=アキラが払った代償を。


「今話さなくてもいい。だけど、そんなやる気もないまま行っても蜂の巣だ―――メティルザ!!」


 再び光弾が飛来する。

 オレンジの魔術は、花火のように破裂し、イオリの身体を揺さぶった。


「……冷静じゃなかったのは認める」


 アキラは頭を振った。

 イオリだからこそ、今の自分が過去と重なって見えていたのだろうか。

 信頼はできても信用はできない“一週目”の自分と。

 見ている側にとっては、どうしようもなく不安に駆られるあの存在と。


 危なかった。ティアにもあれだけ散々言われたのに。

 また繰り返す気だったのか自分は。


「助かったイオリ。だけどもう大丈夫だ、下がっててくれ。迷いも―――ない」


 一瞬光弾が止む。

 アキラは落ち着きを取り戻し、静かにジゴエイルを睨んだ。視界はクリアになり、敵との距離がより明確になった。

 この距離ならば、やりようによっては光弾を耐え切って接近が可能だ。

 イオリが割って入って休まったからか、ほんの少しだけ魔力が高まったのを感じた。

 今なら、いける。


「それは」


 だが、イオリは道を譲ってはくれなかった。


「君が、君じゃないからだろう」


 これ以上会話を続けることは危険だと、アキラは直感的に思った。


「やっと言えた。前々回からずっとそうだ。君は、迷わないためにしか、その魔法を使わない……!!」


 魔王の光弾が再び放たれる。

 イオリは盾でその全てを受け止めながら、怒りにも似た瞳でアキラを睨んだ。


 冷静に、冷静に魔法を維持する。

 やはり彼女と話すのは危険だった。最も言われたくない言葉を言われた気がした。


「君の意思なら尊重する。どんな危険な賭けだって、いくらでも協力できる。だからこそ聞きたい。今ここで、魔王を討ちたいのかと」


 討つべきだと、言おうとした。

 だがそれが答えになっていないことも同時に分かった。


 しかし自分の本心など、微塵にも出せないようにすり潰す他なかった。

 そんなものは勇者じゃない。

 世界中の、そして彼女たちの期待に応えられる存在とは程遠い。


 そもそもリイザスのときとは状況が違う。これは確定している犠牲だ。

 いくら自分が必死に抗っても、今度こそどうしようもない事実なのだ。

 だからこそ心を殺し、機械的に敵を討つべきだと、アキラは判断したのだ。


 それなのに、イオリはヒダマリ=アキラの答えを求めている。


「迷いはないって? 僕が君を何度見てきたと思っているんだ。君が迷いなく勇敢に戦ったことなんて、ただの一度もなかったよ」


 ヒダマリ=アキラは。

 迷っていてもいいのだろうか。

 迷い続けていてもいいのだろうか。


 誰から見ても眩いばかりの勇者でなくとも、いいのだろうか。


 君が君であることの証明に―――


 イオリは、そう言った。


「……なあ。お前、“一週目”の俺のこと嫌いだったろ」

「まさか。使える仲間だったよ」


 口に出すことは控えたが、小さくイオリに頭を下げた。

 最後のその瞬間まで、自分は自分でいられるらしい。

 身体の痺れは、取れた。


「キャラ・ライトグリーン!!」


 魔術に切り替えたと同時、抑え込んでいた感情が爆発しそうになった。

 アキラは歯を食いしばり、真っ直ぐに顔を上げる。


「イオリ、協力してくれ。光弾が止んだら俺は行く」


 勇猛果敢である勇者は、こんな苦悶の表情を浮かべはしないだろう。

 神話のページには決して描けはしないだろう。


 だが―――この決断には意思がある。


「倒してくるよ―――魔王を」

「……ああ」


 イオリの柔らかい声が聞こえて、顔は見せられなかった。

 だけどそのおかげで、地面に張り付きそうだった足が少し、軽くなった。


「―――む」


 光弾が止んだ瞬間、アキラは駆け出した。

 極限にまで身体能力を高めた木曜属性の魔術の再現。

 先ほどよりも速く、ジゴエイルめがけてひた走る。

 暴風の魔術には、魔術を切り替えるせいか、僅かなラグがある。その一瞬を駆け抜ける。


 光弾の数は先ほど戦っていたときよりも少なくなっているように感じた。

 スライクが今も広間で戦っている影響だろう、召喚獣を操りながらとなると、同時に放てる魔術の限界数に制限がかかるようだ。


 問題は、次に放たれるであろう暴風の魔術だが―――


「―――っは!!」

「イオリ!!」


 正面から暴風が襲ってくる刹那、背後から指笛の音が響く。

 アキラは身をかがめて衝撃に備えた。


「ラッキー!!」


 容易く暴風に吹き飛ばされたアキラは、即座に背後の障害物に衝突した。

 狭い通路を埋め尽くすように現れたホンジョウ=イオリの召喚獣に、アキラは身体ごと衝突し、さらに暴風に押し潰される。

 人間を軽々と吹き飛ばす暴風だ。狭い空間で逃げ場を失った風は圧縮され、骨が軋むほどアキラの身体を襲う。


「がっ、っは」


 呻き声を上げながら悶え、それでも歯を食いしばり、ジゴエイルが距離を取らせるために放った魔術を凌ぎきった。


 認められていなかった。

 この物語は、バッドエンドだ。ヒダマリ=アキラはエピローグには辿り着けない。

 ひとりの馬鹿な男が、勝手に世界をかき回して、そして勝手に死ぬ物語。


 だから心を乾かせた。

 達観した風に装って、ただそれだけのことだと思うようにした。

 その方が、辛くないから。


「っ」


 拳で地面を叩き、強引に身体を起こす。

 足に力を入れて踏ん張ると、再びジゴエイルに向かって駆け出した。


「速いな―――想像の範疇だがね」


 身体中が悲鳴を上げている。

 息もまともにできない。

 足を踏み出すたびに、意識が刈り取られそうになるほど辛い。

 だが目前に迫ったジゴエイルを捉えて、アキラは笑った。


 自分は―――この痛みも知らないまま逝くところだった。

 アキラにとって、彼女たちにそんな顔をさせる方がよっぽど辛いのだと、分かりもしなかった。


「ジゴエイル」


 下らない世界。


 こいつはこの物語をそう言った。ジゴエイルにしてみればそうだろう。

 起こることが分かっていて、事実その通りになる。全てのあらすじを事前に伝えられた物語など、読むに値しない。

 だから改めて思う。この魔族は、不憫だ。

 世界全てが色褪せて見えるだろう。


 喜びも悲しみもないことは、語るに及ばないほど物悲しい。

 こんな思考にすら、辿り尽くしてしまったのだとしたら始末に負えない。

 気が狂いそうになるだろう。だからこそ、ジゴエイルは自分が望む望まないに関わらず、想像の外にあるものを反射的に求めてしまうのかもしれない。


 だからせめて、最後にその想像外とやらを起こしてやろう。


「ふ―――」


 ジゴエイルが光弾の魔術を構える。

 剣の射程外。

 射出は十分に間に合う。


 だがアキラは、剣を掲げた。


 挿絵でよく見る、魔王に挑む勇者の姿。

 雄々しく叫び、勇敢に巨悪に挑む勇者の姿は、どこからどう見ても見飽きた光景だった。


 だがその次のページでは。


「キャラ・スカーレット!!」

「!?」


 勇者は魔王に―――“剣を投げつけた”。


「づ―――がっ、あああ!!」


 もしサクがこの場にいたら迷わず殴りかかってくるだろう。

 破壊の魔術を発動させた剣が、光弾を放とうとした魔王に向かって鋭く投げ付けられた。

 ほとんど運任せに近い攻撃は、狭い通路での回避を許さず魔王の胸元に突き刺さる。


 ジゴエイルは目を見開いていた。

 それがジゴエイルの想像のうちなのかは分からない。

 だがアキラは、そのまま詰め寄ると、突き刺さった剣を両手で乱暴に掴む。


 血が滴り、魔王の鼓動を確かに感じる。

 今度こそ偽物ではない。本物のジゴエイルだ。


「―――、」


 剣を掴んだ瞬間、アキラは走馬灯のようなものを見た。

 それはあまりに明確で、“ここではないどこか”の気配を色濃く感じた。


 “確定”、なのだろう。

 現実感のなかったこの物語の代償が、確かな存在を訴えてくるかのようだった。


 脳裏に移される光景は、誰の視点なのか、自分自身すら登場している。

 鮮明な光景なのに、表情は、何故か見えなかった。


「っ」


 ジゴエイルに言わせれば、勇者の旅などいくらでも見てきたもので、いくらでも予想できる下らないものだろう。

 しかし、ジゴエイルからすれば些細なことであっても、自分にとってはそうではないと感じられた。

 最後にいいものが見えて、良かった。


「ジゴエイル。お前が嫌いなこの世界、俺は好きなんだよ」


 不敵に笑ってやろうとしたが、できなかった。


 やるんじゃなかった。死にたくない。もっとずっと、旅を続けたい。

 もっと賢いやり方があったはずだ。

 大義など知ったことか。勇者など放り出して、気ままに暮らしたい。

 いっそ全員に事情を話して、自分の死を回避する方法を一緒に探してもらいたい。

 今すぐにでも“彼女”に会って、助けて貰えば良かった。

 もう一度でいいからみんなに会いたい。


 後悔だらけだ。恐怖しかない。死後の世界など、考えただけで身体が震える。

 イオリは言った。魔王討伐はここでなくともいいと。

 それに甘えれば良かったではないか。

 今、どうしようもなく辛い。


「勇者が俺で悪かったな」


 本当にジゴエイルが不憫だ。

 魔王に挑む勇者は、自らの使命に実直で、迷いなく魔王を討つのだろう。


 スライク=キース=ガイロードや、リリル=サース=ロングトンのように、自らの意思に迷いなく身を委ねられる存在たちは、はたから見ていてもキラキラと輝いている。

 それなのに、よりにもよってヒダマリ=アキラとは。


 だが、自分は一生変われないらしい。

 どれだけの決意をしようが、ほんの僅かに時間が経てば薄れてしまう。

 ジゴエイルも魔王の器ではないと言っていたが、アキラも勇者の器ではないのだ。


 だから、自分は、せめて最後まで自分らしく。


「本当に嫌だけどな、お詫びに―――」


 この迷いと共に行こう。


「―――俺も一緒に逝ってやる……!!」

「ギ―――ぐ、まっ」


 アキラは剣を、振り抜いた。


「キャラ・スカーレット」


―――***―――


「!」


 マルド=サダル=ソーグは明確に戦況が変わったのを感じた。


 あまりに頼りない自分の浮遊魔法を用いたサーシャ=クロラインとの空中戦は、つい先ほどまで辛うじて食い下がれていた。

 カイラの魔術の防止を狙うサーシャは、空中戦が可能なマルドから撃破すべきと判断し、魔族の戦闘力をそのまま自分たちへ向けてきたのだ。

 魔法の時間制限もあるがそれ以上に魔族との戦闘は想像以上にマルドの魔力を蝕み、限界が近い。

 甘いとは思っていなかったが、キュールがいなければ何度即死したか分からなかった。


 なんとか凌ぎ続けてきたものの、今にも落下しそうになった頃、サーシャがふいに攻撃を止めたのだ。


「……?」


 同じ月輪属性から見れば惚れ惚れするような浮遊魔法を操るサーシャは、空中でピタリと止まり、西の樹海の先を呆然と眺める。

 あの方向は、確かホンジョウ=イオリが飛んでいった方向だ。


「……マルド?」

「しっ」


 サーシャの挙動に眉をひそめたキュールを嗜める。

 何かの作戦かもしれない。ここで感情が表に出るような表情は浮かべられない。

 表面上だけでも、こちらの限界が近いことを悟られないようにしておかなければ。


「……?」


 だが、マルドもつい眼下の樹海に視線を落としてしまった。

 気のせいだろうか。

 ほんの僅かだが、樹海から何かの気配を感じる。

 一体何の気配なのか。


「!」


 いや、問題はそこではない。“感じる”のだ、魔力の気配を。

 普段よりも圧倒的に鈍いとはいえ、今まで切り取られるように遮断されていた樹海からの気配が、何故か蘇っている。


「ぇ……」


 声が漏れた。

 目を離しすぎたと思い、マルドは動揺しながらサーシャに視線を向ける。


 しかしサーシャは、やはり空中でピタリと止まったまま、じっと西を眺めたままだった。


 そして、次の瞬間、サーシャが発光した。


「っ―――」


 目を焼かれるかのような閃光に、キュールは慌てて盾を展開した。

 攻撃なのだろうか。

 マルドは強引に光の強さを選択遮断すると、すぐさまサーシャを視界に収めようと目をこじ開ける。

 しかし、次の瞬間サーシャの姿が空の世界から消えていた。


「見失った!!」

「いや……いない。引いた、のか?」


 キュールが騒ぐが、今度こそサーシャの気配は感じない。

 口数の多い魔族のことだから、去り際も何か嫌味でも言って消えると思っていただけに、マルドも怪訝な表情を崩せなかった。

 気配を感じるようになりつつある樹海といい、下で何か起こったというのだろうか。それも、サーシャが即座に行動するような何かが。


「……勝ったの?」


 キュールの問いには答えられなかった。

 聞きたいのはこっちの方だ。


 樹海ではヒダマリ=アキラの一派がサルドゥの民を救い終えている頃だろう。

 遠方に飛ぶカイラも、こちらの様子に気づいたのかゆっくりと近づいてきている。

 彼女の方も魔力を使いすぎたのか、ふらついているようにも見えるが、立派に役割を全うしたようだ。


 釈然としない幕引きだが、どうやらサーシャの攻撃は凌ぎ切ったらしい。

 今この瞬間だけで言えば、こちらの勝利なのかもしれない。


 だが。


「……降りよう。そろそろ限界だ」


 底を尽きかけた魔力をなんとか維持しながら、ゆっくりと、樹海に降下していく。

 魔力切れの頭痛と共に、嫌な予感が頭の中で鈍い痛みを発していた。

 降りる途中でカイラの召喚獣に乗せてもらいながら、マルドは険しい表情のまま空を見上げる。


 空には、不気味なほど巨大な満月が浮かんでいる―――それだけの、はずだった。


―――***―――


 波の音が聞こえる。


「…………?」


 息苦しさに身体を起こした。

 立ち上がろうとしたが、力が入らなかった。


 地べたに座り込んだまま、ぼうっと前だけを見ていると、次第に視界がクリアになっていく。

 どうやらここは樹海のようだ。


 今度こそ立ち上がろうとした。

 すると多少は感覚が戻ってきたのか、鋭い痛みが身体中に走る。


 驚いた。死後の世界でも痛みは感じるのか。


「あ……れ」


 ヒダマリ=アキラは自分がヨーテンガースの樹海の茂みに寝転がっていることに気づいた。

 意識してしまえば息苦しい、鈍い流れの空気が鼻孔をくすぐり、呼吸感が圧迫されているような重苦しさを覚える。

 もがくようにして立ち上がると、ジン、と頭が鈍い痛みを発していた。この度で何度も経験した、魔力切れの症状だ。


「アキラ。よかった、気づいたみたいだね」


 反射的に振り返ろうとしたら、足元が崩れた。

 再び倒れそうになるが、身体を支えられる。

 肩を貸してもらい、頭を振ると、ようやく隣にいるのがイオリだということに気づいた。


「イオリ……? 俺は……?」

「あの野郎はどうなりやがった」


 鈍い空気の向こうから、今度は男の声が聞こえた。

 その大剣を握り締めたまま、スライクはゆっくりと歩み寄ってくる。


 つい先ほどまで、魔王の召喚獣ルシルの体内に入っていた3人は、いつの間にか外の樹海に放り出されていたようだ。


「アキラ、魔王は?」

「……いや、分からない。確かに斬り裂いたと思ったんだけど……」


 感触は未だこの手に残っている。

 そして、感覚的にだが、あれが本物の魔王であったという実感もある。


 だが、それなら何故、自分は。いや、となると。


「……悪い。逃げられた」


 アキラはようやく、しっかりと顔を上げられた。


 眼前には、信じがたい光景が広がっている。

 樹海の木々はなぎ倒され、ヨーテンガースを囲う岩山が削り取られ、月光に照らされた大海原が波を揺らしていた。

 ここにルシルの一部が横たわっていたのだろう。


 アキラは想像しようとして、止めた。

 それよりも、自分の矮小さが目立ってしょうがない。


「は、はは。悪いなスライク。譲ってもらって取り逃した」

「ち。まあいい。だが勇者。多少は気が変わったぞ。次にあの野郎が目に止まったら殺す」


 スライクは剣を地面に突き立ててどかりと座った。魔力を周囲から取り込むスライクも、この魔力の流れが鈍い空間ではまともに供給できていない。彼も限界が近いようだ。


 アキラは肩を落とす。

 この今にも魔王を追いそうな凶暴な男が、魔王に興味を向けてしまったのはアキラにとっては誤算だったが、少しだけ心が軽くなる。


「まあ、もともと様子見のつもりだったんだろうね。惜しくはあったんだろうけど、いつでも離脱できるように用意していたのかもしれない」


 アキラの知る、ジゴエイルの目的からすれば当然の立ち回りだろう。

 イオリが冷静に言い、アキラはやはり、自分の矮小さを笑った。


 仮にも勇者だというのに、魔王を逃した悔しさより、自分が生きていることの喜びの方が大きいのだから。


「アキラ、随分機嫌がいいね」

「そう見えるか?」


 イオリは頷いた。

 また、自分の矮小さが目立つ。


 惨めで、恥ずべきことで、消えてしまいたいと思う。

 だけど、それでいいと思えた。


「なあイオリ。俺は今、迷っているか?」

「……あれ。さっきの根に持ってる? いいじゃないかもう」


 イオリが顔を背けた。

 照れくさいのは自分も同じだ。


「責めてるじゃない。……感謝してるんだよ」


 小さく呟いた。肩が触れているこの距離なら、聞こえてしまったかもしれない。


 自分はヒダマリ=アキラだ。

 この矮小さも、迷いも、恐怖も、すべて自分の中にある。


 それを認めてまっすぐに前を見れるのなら苦労はしない。

 いくら自覚していようが、一生認められもせず、克服もできない自分の弱さだ。

 だが、多少は向き合えたような気がした。


 だからアキラは、安心して、笑った。


「悪いなスライク。……先に魔王を殺すのは、俺だ」


 こんな自分でも、迷いながらでも、ヒダマリ=アキラとして、その決断ができるのだと。


「……はあ。さて、ふたりとも。とにかく近くの護衛地点に戻って治療しよう。仮にもヨーテンガースの樹海なんだ。“ヨーテンガースの洗礼”って知っているだろう? 並みの魔物でも要注意だってね」

「洗礼なら今どっぷりと浴びたよ。お前がいりゃ大丈夫だ。魔王とやりあってピンピンしてる」


 無慈悲にも預かっていてもらった肩を落とされた。

 イオリはブンブンと腕を振り、アキラを見下すように睨んでくる。

 非難するように見上げていると、月下の中、イオリは、柔らかく笑ってくれた。


「ああ、やっとアキラだ」


 静かな樹海で、シンと時が止まったような気がした。

 ルシルの影響が色濃く残った樹海の中、少しだけ、心地よい風を感じる。


 彼女は、アキラにとって、自分を見返す機会を与えてくれる女性なのだと、そんなことを思った。


「じゃあ、僕はひらけた場所を探してくるよ。ラッキーが出せそうなね」

「ああ、頼……む、……?」


 見上げたイオリの肩越し。

 空には不気味なほど巨大な満月が浮かんでいる。

 月と星だけが支配する空間。


 しかし、あれはなんだろう。

 逆光でぼやける視界の先、満月の中。


 “黒点”が、浮かんでいた。


「―――っ」

「……は……?」


 何が起こったのか分からなかった。

 何かが光った。それだけは分かった。

 だが、それだけだ。


 それだけなのに、何故、イオリの胸に―――“光の矢が突き刺さっているのか”。


「……お、い、」


 倒れてきたイオリを力なく支えると、血が、止めどなく流れてくる。

 一言も発さないイオリの身体は、随分と軽かった。


「かっ!!」


 スライクが吠えた。

 理解がまるで追いつかない。

 思わずイオリに突き刺さった矢をつかもうとすると、光の粒子となって消えていく。


 魔術攻撃。


 そう判断するまで、アキラはただ呆然としていることしかできなかった。


「イ、イオリ!? おい、イオリ!!」


 ピクリとも動かないイオリの胸からは、なおも血が溢れてくる。

 必死抑えてみても、何も変わらない。

 混乱する頭は、ただ純粋な怒りを、夜空に向けさせた。


「何やってんだてめぇ!!」


 それは。

 確実に人間ではなかった。


 巨大な捻れた角を生やし。

 漆黒の髭が顔中を支配し。

 巨大な眼は片方は赤く、片方は青く、怪しく光っている。


 獣をそのまま人型にすればそのような容姿になるだろう。

 上半身は隆々とした筋肉が鎧のように纏われており、3メートルはあるであろう巨体が、野生そのものの威圧感を放ってくる。

 しかし、獣であるはずのそれは、その手に、身の丈はあろうかという巨大な棍棒を握りしめていた。


「相変わらずうぜぇタイミングで現れやがんな―――『光の創め』。よりによっててめぇかよ」


 ふらつきながら、それでも剣を構えたスライクは、苦々しげに呟いた。


「『杖』のグログオン……!!」


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