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おんりーらぶ!?【第二部】  作者: コー
東の大陸『アイルーク』編2
42/68

第48話『別の世界の物語(承)』

―――***―――


 力いっぱいに斬りかかったら、空を切った。

 泳いだ身体を強引に引き戻すと、今しがた攻撃を放ったはずの正面から、一撃、二撃と鋭い斬撃が飛んでくる。

 魔術を発動。身体能力を極限にまで上げ、力強く地を蹴って背後へ離脱した。

 すると、読まれていたかのように追撃が来る。

 ならばこちらもと攻撃の軌道を読み、迎え撃つように斬撃を見舞った。


 バヂン、と歪な音が響き、相手の武器が宙を舞う。

 好機と思った瞬間、違和感が脳裏をよぎる。

 悪寒を強引にもみ消し、僅かも硬直せずに追撃を放つべく前へ出る。


 その瞬間、足が払われた。

 再び泳ぐ身体が、背後の相手が再び武器を手にした感覚を拾った。


「私の勝ちでいいか?」


 ピタリと首筋に充てられる木刀。

 実戦ならば命を刈り取られていただろう。


 ミツルギ=サクラのその言葉に、ヒダマリ=アキラはゆっくりと頷いた。


「……お前が武器を手放すとはな。軽すぎたよ」

「誰の影響かな。ただ、反撃してくるとは思わなくてな。もし力を込めていたら、手が使い物にならなくなっていたかもしれない」

「大丈夫だったか?」

「まあ、ギリギリだ。少し痺れている」


 本気で切り上げた奴が言うのもどうかと思ったが、悪かったとだけ呟き、アキラは離れ、再び構えを取る。


「もう少し付き合えるか?」

「……いいぞ。ただ、武器は変えた方がいい」


 サクはしびれを取るように手の様子を確かめると、新品の木刀を取りに歩いていく。

 使っていた木刀は、いつの間にかひしゃげていた。


 日も昇っていない、早朝。いや、深夜と言った方が近いかもしれない。

 アキラたちはヘヴンズゲートの広場にいた。

 周囲は商店が囲んでいるが、どうやら民家ではないらしい。魔術師隊の見回りに何度か声をかけられたが、騒ぎを起こしても問題はないようだ。


 この町に来た目的である、アルティア=ウィン=クーデフォンの両親に会う用事は、昨日達成できた。

 ティアの両親に会い、旅の話を語らい、夕食を振る舞ってもらった。

 多分自分は、うまく笑えていたと思う。

 そしてティアを一旦家に預け、翌日の合流場所を伝え、自分たちは再び宿に戻って寝た。


 だが、身体の奥で蠢く何かが、夜明けまで何もせずにいることを許さなかった。


「ほら、アキラ」

「ああ、ありがとう」


 ティアの両親は武器屋を営んでいる。サクは鍛錬用にいくつか木刀を購入していた。

 受け取った木刀は、またすぐにでも破損しそうなほど、弱々しく感じた。


「アキラ。本気で私に勝つつもりか?」

「ああ」


 この時間は普段、流石のサクも眠っているらしい。

 だが、不穏なことに自分には交代制で見張りがついていた。今日はサクの番だった。彼女が忠実にもアキラの部屋の前で座り込んでいるのを見たときは度肝を抜かれたが、無性に身体がざわついた。

 彼女はアキラの従者であり、そして剣の師でもある。


「言っては何だが、これは私に有利すぎるぞ」


 サクに頼んだのは、魔術ありの実戦形式の鍛錬だった。

 常識外れの時間だったが、彼女は深く聞くことなく頷いてくれた。

 宿からこの広場に来るまでの間も、何も、聞かないでいてくれた。


「アキラ。私は対人戦なら基本的に負けない」


 サクは鋭く言う。

 彼女の言葉は、アキラの目の前に高い壁を作るようだった。


「剣技と速度。僅かにでも隙があれば急所を切り裂ける。対してお前は武器がそれでは本気で魔術を発動できない。―――さあ、どうする?」


 アキラは無言で木刀を構える。

 不可能だ。

 頭で計算すればすぐに分かる。


 サクの言った通り、この戦いは彼女の土俵だ。

 アキラの勝ち目など万にひとつもないだろう。


 だがサクは、諦めろとは言わなかった。

 無理難題を押し付けて、それでもなお、彼女は退路に目を向けさせない。


「キャラ・ライトグリーン」


 魔術で身体を強化し、アキラは突撃する。

 サクの身体が僅かに引いたと思った瞬間、目の前から木刀が鋭く飛んでくる。


 彼女は速く、鋭く、強かった。

 辛うじて防ぐも、その一手二手がアキラに隙を作るよう計算されている。

 いたるところから飛び続ける鋭い斬撃に、アキラの選択肢が急激に狭まっていくのを感じた。

 打破しようと離脱すれば、それこそ彼女の言う隙を生じることになるのだろう。


 何が足りない。

 木刀を振り、アキラは冷めた瞳で前を睨んだ。


 自分は、この世界に来て、ほとんど毎日、こうして鍛錬を続けている。

 マメを何度も潰すほど必死で剣を振るい、倒れ込むほど走り続け、激闘も潜り抜けてきた。世界中で勇者ともてはやされていることは気恥ずかしいが、それに見合うほどの道を歩んで来たという僅かばかりの自信もある。


 だが、足りていない。届いていない。そう断じる確たる理由がある。


 その背中が、まるで見えない。


「っう!?」


 読みが当たった。

 繰り出されたら最も苦しいと思った位置に強引に木刀を振ったら、バチリと鈍い音が響く。木刀は宙を舞わず、彼女の手に留まっている。衝撃は響いたはずだ。

 少しでも衝撃を受け流すためか、くるりと回ったサクに接近しようとし、慌てて背後へ離脱する。

 悪寒の通り、サクは回りながら左手に持ち替え、アキラの接近を目論んでいた。


「はっ、はっ、はっ」

「……それでいい」


 右手を振りながら、サクは静かに微笑んだ。

 アキラは息を切らせながら、木刀を下ろす。


「不穏なものを感じたらすぐにでも離脱しろ。お前も実戦を通して、そういう勘を養ってこられているんだ」


 こちらを見通すようなことを言うサクは、ゆっくりと歩み寄ってきた。


「休憩にしよう。まだ日も昇っていないのに疲れ果てるのもどうかと思うしな」

「少し休んだらまた頼む」


 どかりと座り込み、アキラはそれでも、木刀を強く握った。

 数度打ち合っただけの木刀は、何とも頼りなく感じられた。


 サクは隣に腰を下ろし、丁寧に木刀を脇に置く。


「ふ」

「何がおかしい」

「いや、昨日の話を思い出してな。私たちが最初に逢ったときのことだ。見違えるほどだよ、アキラ。お前は随分と強くなった」

「俺はまだまだなんだろ」

「ああ、そうだな。だけど、その成長を認めないわけにもいかないさ」


 彼女は深くは聞いてこない。

 ただ隣にあり、そしてアキラの目の前に広がる道を共に見ているような瞳を浮かべる。


「エリーさんから魔術を、私から剣技を。お前はなんだかんだ言いながらも着実にこなし、成長している。まあ、突然いなくなるのは昨日で最後にしてもらいたいが」


 昨日はサクたちから突然離れたことで、大目玉を食らったことを覚えている。

 ティアの家でなんとか合流できたときには大騒ぎで、両親との感動の再会に水を差してしまった。

 もっともそんな騒ぎが起こったことが、ティアとの出来事らしくて少し笑ってしまった。

 ああ、なんだ。ちゃんと自分は笑えていた。


「魔力も、体力も、そして、気力も。当時とは比べものにならない。きっとお前は、まだまだ成長していくんだろうな」

「随分持ち上げるじゃないか。調子に乗るぞ、俺は」

「そうだな、私にしては少し言い過ぎたかもしれない。だが事実だよ。そして、それで怠けることももうしないだろう」


 なら、何が足りない。何が、届いていない。

 何を間違えたのか。


 何も聞いてこないのに、サクはアキラの壁が見えているようだった。

 彼女の肩は小さく、しかし頼もしく感じた。


 剣の師は、まっすぐな瞳で前を見ていた。


「お前の言葉を返すようだがな。お前は、確実なものを築き上げてきているよ。だから、そんなに焦るな」


 その言葉はジンと心の中に落ちていった。

 しかしそれは、黒い何かに呑まれ、すぐに見えなくなっていく。

 この黒い感情は、いつまでも心の中に蠢き続けている。


「ん。それとだ」

「?」

「せめて今だけは集中して私を見ろ。怪我をしても知らないぞ」


 サクが立ち上がり、距離を取った。


 そろそろ月が沈み、そして日が昇るだろう。


 アキラは緩慢な動作で構えを取った。

 この黒い感情が、汗と共に少しでも流れ出てくれることを祈って。


 ヘヴンズゲートに到着してから3日目。


 2週間後に、魔術師隊が計画している魔門破壊が行われるらしい。


――――――


 おんりーらぶ!?


――――――


 リリル=サース=ロングトン。

 昨日出逢ったばかりの少女で、そして、ヒダマリ=アキラ、スライク=キース=ガイロードと並ぶ勇者として、世界中へ話題を提供している。


 あの劣悪で凶悪な“北の大陸”モルオール出身で、生まれ育った村は魔族の被害を受けて滅んだという。

 それからの足取りは不明だが、ここ最近、目立って活躍するようになってきている。


 どうやらこの世界では、事件が起こると数段階に分類されているようだ。


 ひとつは一般クラス。

 国同士の政治的な問題や、商品技術の公表だ。

 この手の情報は出回るのが酷く遅い。

 何度見返しても昨日の日付の新聞なのに、載っている情報は古いものでは半年前の内容だったりする。

 同じ大陸の内容でも、知るのに数週間はかかるそうだ。


 次は襲撃情報。

 ほぼすべての出来事がここに分類される。“知恵持ち”や“言葉持ち”レベルの魔物の出

現や、大規模な町村の破壊などが挙げられる。

 アイルークのリビリスアークの壊滅や、クロンクランの出来事もこのレベルに該当した。

 情報の出回りはある程度早いが、同じような事件が頻発してすぐに流れていってしまう。

 また、原因不明の被害が出た場合も、一応このレベルで発信されているらしい。


 そして、滅多に起こらない神話レベル。

 シリスティアの誘拐事件、タンガタンザの百年戦争、そしてモルオールの魔門破壊。魔族の出現情報もこれに該当する。

 奇跡と言う他ない大事件の解決は、襲撃情報クラスに比べて広まるのは僅かばかり早い。

 また、当然のことながら延々と紙面を飾り続ける。

 未だに大樹海の事件を取り上げられている紙面があることには少なからず驚いたが、匹敵するものがあろうがなかろうが、広く世界に周知されるべき出来事なのだろう。


 最後に、最も早く出回り、世界に轟くのが、神族の行動だ。

 最近ここではないどこかの神門が襲撃に遭ったらしいが、神の奇跡と言わんばかりに魔物はすべて滅されているらしい。


 アキラはふと、空を見上げる。

 建物が邪魔でここからは神門がある岩山は見えなかった。心地よく思える。


 アキラは珍しくも勤勉に、図書館に来ていた。元の世界では図書館には足を運んだことも無く、なんとなく暗いイメージを持っていたのだが、ここは妙に洒落ていて、テラスのような読書スペースがあった。

 サクとの鍛錬後、宿に戻って軽く汗を流し、そのまま何も言わずに宿を出た。

 昨日の今日でこれだ。あとで色々言われるだろう。だが、集合場所は決めてあるし、なにより少しでもひとりになりたかった。


 未来で起こることを経験している、ホンジョウ=イオリとは、昨日以降、まともに会話をしていない。


「……これもか」


 まったく外の情勢に触れていなかったアキラは、目に留まった限りの新聞を持ち出し、内容を飛ばしながら読んでいた。

 確かに随所随所に自分の名が出てきているようだ。そして、スライク=キース=ガイロードも登場してくる。

 そして、次に目を引く名前は、リリル=サース=ロングトンだった。


 イオリが前に言っていた通り、この3人が、世界中から注目を浴びる存在となっているのは間違いなかった。


 リリルは主に、襲撃情報レベルのニュースによく名が出てくる。世界平和への貢献度合いが強く感じられた。

 その部分に関して、ほとんど神話クラスにしか名が出てこないスライクには見習って欲しい。

 ただ、リリルも神話クラスの事件を何度か解決しているようだ。


 そして今、彼女はこのアイルークのこの町にいる。

 アキラたちがこの大陸に来た理由でもある巨大マーチュは、彼女が撃破した。

 見返すと、彼女は世界各地の大規模な被害にすぐにでも駆け付けている。

 そして、その原因を下し、少しでも平和をもたらせていた。


 流されるままに巨大な事件に巻き込まれているアキラとも、目的以外のものには何の興味も抱かないスライクとも違う、平和のために活動的な勇者。


 そんな印象を受けた。


「月輪の魔術師……か」


 彼女に出逢ったとき、自分は爆発物でも押し付けられたように距離を取ろうとした。

 下手に“二週目”で出逢っていたからだろう、何らかの火種のような気がして警戒心を露わにしたのだ。

 だがもし、“一週目”だったらどうだったか。


 “今”のアキラにとって、月輪の魔術師は“例の彼女”以外にあり得ないと強く思っている。一刻も早く逢いたいと願う。


 だがそれが無かったとき、自分は何を思うだろうか。

 その問いに、遠く離れた場所に立つ、自分の背中は答えてはくれなかった。


 イオリは言った。

 1週間後に計画されている魔門破壊は失敗すると。

 そしてその過程で、ヒダマリ=アキラの月輪の魔術師―――リリル=サース=ロングトンは命を落とす、と。


 魔門破壊などという厄介事を持ち込んできた魔導士―――アラスール=デミオンには返事をしていない。会ってさえいなかった。

 現在、自分にはこの町をすぐにでも立ち去る権利がある。

 だが“一週目”。ヒダマリ=アキラは協力することを選んだ。

 そしてその結果、リリルは犠牲者となった。


 “一週目”の出来事には可能な限り則った方がいいはずだ。

 それが物語の在るべき姿のはずなのだから。


 だが、高がその程度のために、リリルという世界の希望を犠牲に出来るのか。

 自分にそれを選べるのか。


 イオリは自分に強く問うてきた。

 犠牲を選べるか、と。


「……くそ」


 借り物なのに、新聞を握り締めていた。


 イオリは、リリルの命を考えて、この事件そのものをアキラの耳に入れないようにしていたのだろう。それを自分は、話してくれないイオリに業を煮やし、心の中で酷く非難していたのだ。

 自分が選んだ道だ、どれほどの苦難があろうともそれに挑み、それを乗り越えるつもりだった。だからこそ、圧倒的優位な情報を持ちながら理由をつけてはそれを隠すイオリに憤りを感じた。

 彼女の眼前に広がっているものなど何ひとつ考えようとしないまま、半ば強引に背中を押していたのだ。


 なんてことだ。

 自分は、イオリの悩みを、苦しみを、その半分どころか微塵にも理解していなかった。

 彼女のことを知りたいと、思い続けていたはずだったのに。


「こ、こほり」


 背後でわざとらしい咳払いがした。

 新聞を握り締めたことを咎められたと思い、慌てて手を離すと、咳払いの主はまっすぐにアキラの正面の席に回り、ぎこちなく微笑んだ。

 衝撃を受けた。


「ご、ごきげんよう、です。こちらの席、よろしいですか?」


 オレンジのローブに真っ白な肌を覗かせて、リリル=サース=ロングトンが目の前に現れた。


「リ、リリル」

「あ、はい、リリルです。昨日は、その、ええと、すみませんでした」

「……具合が悪かったなら仕方ないし、俺は何もしてないよ」

「そうではなくてですね、あの」

「とりあえず、座ってくれ」

「は、はい!」


 図書館にしては元気な返事が聞こえた。

 丁寧に椅子を引き、背筋を立たせたまま、静かに腰を下ろす。

 カラクリのような動きだった。


「し、新聞ですか? 勤勉ですね」

「いや、そういうわけじゃないんだけど、リリルは何をしにここへ来たんだ?」

「実は私も、その世界情勢を知るために……。ですが、すべて貸し出されていたので」


 悪いことをした。

 アキラは無遠慮に手あたり次第持ってきたのだが、マナー違反だったのかもしれない。


「いえ、いえ。いいんです。お、お読みになっていただいたあとで」

「?」


 新聞を差し出したら、腕をピンと伸ばして首を振ってきた。

 挙動がおかしい。昨日の病を引きずっているようにも見える。顔色を覗こうと首を傾げたら、彼女はその白い頬をローブですっぽりと隠してしまった。


「……そういえば昨日は悪かった。隠そうとしていたわけじゃないんだけど」

「あれはこちらが悪かったと思っています。お話を聞きもせず、強引に」

「それでもだ。自己紹介ってのは、結構慣れてなくて」


 ポーズで新聞をまくってみたが、まるで頭に入ってこなかった。

 爆弾、再び、か。

 彼女とこれ以上関わりを持つべきか、否か。

 判断しようにも、アキラの頭は正解を導き出せなかった。


 ただ、これ以上妙な誤解を生まないためにも、下手な嘘は吐かないことにした。


「改めて。俺はヒダマリ=アキラ。勇者をやっている」

「はい。存じ上げています。私はリリル=サース=ロングトン、です。同じく勇者を務めています」


 冗談交じりに、姿勢を正してリリルは笑った。

 アキラも釣られて表情が柔らかくなるのを感じた。

 神聖な雰囲気を宿しながらも、それを壊すことをいとわずにリリルは明るく笑う。

 この世界で初めて逢った、まともに会話が成立する同等の存在。

 一応ライバルということになるのであろうが、彼女の様子にまるで棘は感じられなかった。


 アキラは新聞をかさりと鳴らした。


「名前、結構見たよ。本当にいろんな人を救っているんだな」

「はい。ただ、本当は何かが起こる前に私がいられれば良かったんですが。それが救いになっているかは分かりませんが、少なくともそのお手伝いができていれば幸いです」


 模範のような回答だった。

 その返答には卑屈さも感じず、まっすぐな意思を感じる。

 心の底から思っていなければ出ないような声色だった。


「でも、それはアキラさんも同じですよね。ううん、それ以上の……。ええ、私も頑張らなければならないと思っています」

「俺は……、そう、かもな」


 リリルと違って、言葉を濁すことしかできなかった。

 平和。希望。夢。

 自分がそうでなければ、勇者とはそういう存在だと思っていただろう。

 だが、今の自分は果たしてそうだろうか。


 自分の旅は、自分の意思が強く反映された、自分勝手なものだと思っている。

 そしてそんな旅についてきてくれている彼女たちに報いなければならないのだと。


「……リリルはひとり旅なんだよな。色々大変じゃないか?」


 “二週目”に彼女と話したときも、そんなことを聞いた覚えがある。

 確か、あのときも彼女は得意げになって、微笑んでいたように思う。


「ええ。ですが、月輪の勇者レミリア様のように誠心誠意、頑張ります。……あ、そういえばご存知ですか? レミリア様を」


 アキラを知っていたとなると、異世界来訪者であることも知っているのだろう。

 何かの新聞にもそう書かれていたと思う。

 下手に嘘は吐かず、アキラは首を振った。


「レミリア様……、レミリア=ニギル様は、初代勇者様、そして、二代目勇者ラグリオ=フォルス=ゴード様に次いだ、三代目勇者です。証も何もなく、ひとり魔王を討ったお方です」

「それは、凄いな」


 前にも聞いた覚えがある。

 ひとりで魔王を討った、レミリア=ニギル。

 旅の辛さを知り、仲間に頼りきりのアキラからすれば、常軌を逸した存在のように思える。それは勿論、目の前のリリルに対しても思うことだが。


 アキラの視線を受け、しばらくすると、しかしリリルは口をもごもご動かして、我慢できないといった様子で息を吐いた。


「……その、一応、説明はさせてください。誤解は作りたくないんです」

「?」


 リリルはこほりと咳払いをした。


「レミリア様は、その名を広く知られている方です。……史上最低の勇者として」

「は?」


 リリルはまるで我が事のように、暗い表情になった。

 本当に表情がころころ変わる。


「当時のことは詳しく分かりませんが、最高峰の魔術師の結集と言われた初代、圧倒的な速度と最小限の被害で魔王を撃破した二代目と違い、レミリア様は、魔王の被害が世界中に広がり、あわや人間界の壊滅寸前と言ったところで、辛うじて魔王を討った方だったと言われています」


 なんと。

 この世界は1度滅びかけていたとは。

 平穏なアイルークにいる今、にわかに想像し難い。


「旅の道中、数多の方が犠牲になったそうです。仲間を得ては、失い。守るべきものも守れず、それでも、前へ進み続け、魔王の元に辿り着いたときには、最早すべてを失ったあとだったと聞きます。最終的にレミリア様は、失うことを恐れ、友を得ることすらできなくなっていたそうです」

「……それは」

「あ、それでも私は尊敬しています。レミリア様を」


 はっと気づいたように、リリルは両手を振った。


「レミリア様は、どれほど自分が疲弊していても、被害を受けたあらゆる町や村を訪れては、多くの方を救おうとしたそうです。あるときは何ひとつ救えず、あるときは敗れ、あるときは囚われ、それでも、決して諦めずに世界のすべてに救いの手を伸ばそうと奔走したお方です。その姿が勇者でなくて何なのでしょうか」


 以前、スライクが世界の裏には手を伸ばせないというようなことを言っていた気がする。

 アキラもそう思うし、今こうしている間にもどこかで誰かが被害を受けているだろう。

 それに救いの手を伸ばすことは、不可能だ。

 だがレミリアとやらは、それをやろうとしたらしい。

 話だけ聞いていると恐ろしく要領の悪い女性のようだが、誰もが思い描く勇者とは、きっと、そういう存在のはずだった。


 すべてを救おうとした結果、世界が壊滅しかけたレミリア=ニギル。

 己が思うまま進み、迅速に魔王を撃破したラグリオ=フォルス=ゴード。


 偉大なる先輩たちは、それぞれが自分のやり方で世界を救ったらしい。

 そうなると、気になってきた。


 自分と同じ系統の勇者―――初代勇者とは、どのような人物だったのだろうか。


「ですから、ですね」


 リリルが、熱が籠った声を出した。

 顔が赤くなっている。気が高ぶっているときは分かりやすい。


「私もそうありたい。いえ、世界を滅ぼしかけたいわけではないですが、世界のすべてを救いたい。先を見ていないと言われようとも、目の前のことに自分のすべてを注ぎたい。そうすることで、誰かが救えると信じて疑わない人でありたいです」


 熱弁だった。

 言葉以上に、彼女の感情を強く感じた。

 彼女のまっすぐな誠意が伝わってくる。


 レミリア=ニギルもリリルのような人物だったのだろうか。

 史上最低の勇者と言われているらしいが、それは埃を被った資料を見ただけの何も知らない歴史学者が、ただ被害数で言っただけなのだろう。

 腹が立った。


 そして、拳を握ってまで理想を追うリリルを見る。

 もし自分が、“例の彼女”に逢う前に、リリルとこうして話をしていたら、この口は何と言っていただろう。

 彼女はひたむきで、まっすぐに前を見ている。

 自分たちと同じ志のリリルに対し、自分は、共に旅をしたいと思ったのではないだろうか。


「……あ! す、すみません。私ばかり話して」

「いや。色々知れたよ、ありがとう。……なあ、リリル。昨日の話だけど、魔門破壊は、」

「え? はい。協力しますよ」


 なんてことのないように彼女は言った。

 求めれば、ためらうことなく応じる。

 そのまっすぐな姿に、アキラは心の濁りが強くなるのを感じた。

 運命が、彼女の行く末を力強く決定付けているようだった。


 そして彼女の大きな瞳が、あなたも当然参加するのだろうしという善意の黒みを帯びて、アキラを捉えてくる。


「こ、こほり」


 握った拳を口元に持ってきて、また、わざとらしく咳払いをした。


「では、私の話はここまでとして……。あの、で……、……できたらアキラさんのお話を聞かせてくれませんか? あの、私も勉強させていただきたくて、ですね」


 自分の経験から勉強することなど何もないのだが、リリルは強い興味があるらしい。

 新聞のことなどもう目に入ってはいないようだ。

 話すのは別に構わないが、しかし、時間がそれを許さなかった。


「悪い。俺、そろそろ戻らないといけないんだ」

「え」


 待ち合わせの時間が迫っている。

 丁度、リリルと同じようなことを考えている“彼女”を迎えに行かなければならないのだ。

 名残惜しいが、昨日の今日で行かなかったら何を言われるか分かったものではない。


「新聞、読むんだろ? いくつかは残した方がいいか?」

「また……やって……しまった…………」

「リリル?」

「ふえ? あ、はい。そのままで結構です……、私が使いますので……」


 全身が透けて見えるほどリリルが気落ちしていた。

 色々教えてもらったのに、こちらから何も話さないのも悪い気がする。


 ひと回りもふた回りも小さく見えるリリルの姿を見て、アキラは思考を働かせようとした。


「明日」

「え?」

「明日も、会えないか? そのとき今日のお礼をしたいんだけど」


 結論を出す前に、口が動いていた。

 沈んでいたリリルが飛び上がったかと錯覚するほど明るくなっていく。


 しまった、と思った。

 それと同時に、まあいいか、とも思った。


「で、で、では、ど、どちらにお迎えに行けばいいですか?」

「ここでいいよ。時間は作れると思う」

「はい! では、お待ちしています」


 これ以上ここにいると妙な気に捉われるかもしれない。明日合う約束をするあたり、もう手遅れかもしれないが。

 アキラはできるだけ簡素に手を振り、背を向けて歩き出す。


 アキラ自身、失礼ではあるが爆弾だと思っているリリルと、明日も会う約束をしてしまった。

 よく言われるし、自覚もしているが。


 自分が何をやっているのかのか分からなかった。


―――***―――


「え、めんどくさいわね」


 ホンジョウ=イオリが小さな賭けでもするつもりで説明したら、目の前の女性は大きな欠伸を返してきた。

 ここは宿から離れた喫茶店。

 時間は外れているようで、店内には自分たちしかいないようだ。

 合流時間までは未だ時がある。

 その前に、最も難を示すと思われた人物に声をかけたのだが、感触は思った以上に悪かった。


「ったく。珍しくあんたが私に声かけてきたと思ったら魔門破壊ですって? そんな面倒な……。それで、アキラ君はその話知ってるの?」


 エレナ=ファンツェルン。

 仲間内に向ける口調とは裏腹に、顔立ちもスタイルもすべての女性の理想と表現できる彼女は、頼んだお茶のカップをさも面白くなさそうに指でこすっていた。


「ああ。昨日その場にいたよ。それで、エレナはどう思う。正直、今の僕たちの戦力でも成功するかどうか」

「それであの正妻ちゃんやアキラの従者には知らせずに私に、ってこと。そうね。無理でしょうね」


 人智を遥かに凌駕する力を持つエレナは、容易くそう告げた。


「戦力うんぬんはどうでもいいとして。魔門なら私も見たことあるけど、あれは破壊するとかそういう感じじゃないわ。中から何が出てきてもぶっ殺してやるけど、そうね、空気みたいなもんよ。空気を壊せ、って言われてもね」


 乱暴なことを言うが、言っていることは正しい。

 魔術師試験や魔導士試験をパスしたイオリには分かる。

 魔門はガスのようなものだ。消し飛ばそうにもただ漂う。

 それを破壊とは、まさしく概念に対する挑戦だ。


「で、そう言ったらアキラ君は諦めたの?」

「返事は保留中だよ」


 痛いところを突いてくる。

 エレナなら、強引にでもこの町を離れてくれそうな期待もあったのだが、やはり賭けには負けそうだった。


「それに。ヨーテンガースの魔導士が破壊するって言ってんならある程度算段があるんでしょ? 大方魔門流しの応用ってとこかしら?」


 また痛いところを突かれた。

 まともに魔術を習っていないはずなのに、戦闘経験からか天性のものからか、エレナにはそういう感性がある。

 下手に隠し立てしてもこれ以上に機嫌が悪くなるだけだ。


「ああ。魔門流しは決して中を刺激しないように微弱な魔力を当てて規模を縮小させるんだけど、計画している魔門破壊はまるで逆だ。魔門はある程度魔術に近しいところがあるみたいでね。強烈な魔力を押し当てて、魔門の細部に至るまで術式を分解する」

「あら。そんなことしたら」

「そうだね。中から何が出てくるか分かったもんじゃない」


 魔門流しは、細心の注意を払った脳手術のようなものだ。

 難解な手順で、魔門の形式を維持したまま規模だけを縮小させることを狙う。

 僅かでも誤れば攻撃行為とみなされ、中から良くて魔界クラスの魔物の群れ、悪ければ複数の魔族が出現する可能性すらある。

 そんなものに対して強烈な魔力を流すのは脳みそに直にメスを投げ入れるようなものだ。

 地獄の門を力強く叩くことになる。成功しようが失敗しようが、大勢の何かが出迎えてくれるだろう。


「は、あのガキを届けに来ただけでこんなことになるなんてね。流石ねアキラ君。ほんっきで力いっぱい抱き絞めてあげたいわ」

「エレナはやる気なのかな」

「まあいいわよ。“あの場所”へ行く前にいくらか修羅場くぐってないと甘すぎると思ってたくらいだし」


 賭けには負けた。妙にエレナがやる気なのは誤算だった。

 こうなると、“あれ”が決定事項と言うことになる。

 イオリは気づかれないように拳を握った。


「あんたは否定派なの?」

「……そうだね。専門家の立場から言わせてもらうと、死ねと言われているようなものだよ。まだ魔族討伐の方が現実味はある」

「悲観的ね。まあ、あんたみたいなのがこの連中の中にいると分かっただけでも収穫だわ。楽天的な奴だらけだし」


 恐らく皆からは、エレナの方が楽天的だと思われているだろう。

 イオリはため息ひとつ吐き、握った拳をほどいた。

 どうにでもなれ。


「それで。その強烈な魔力ってのは? ヨーテンガースの魔導士がやるの?」

「いや、彼女が準備してきた。魔力の原石を使う」


 エレナの眉がピクリと動いた。


「何? 原石でどうするって?」

「彼女が用意してきたのは魔力の原石というより……魔力の秘石だ。ある意味、本当の意味でのそれだけど」


 魔力の原石とは、魔力を蓄え魔術を弾く性質を持つ。

 アキラの剣にも同じ素材が使われている。

 そしてその名は、最初に発見されたとき、無限とも思える魔力を蓄えていたため、すべての魔力の源とさえ思われたために付けられたのだ。

 近年、同じ性質を持つ材質は、魔力が蓄えられておらずとも同様の名で呼ばれているが、発見された当時のように、膨大な魔力を宿したままのそれは、あえて魔力の秘石と呼ばれていた。

 目の前のエレナ=ファンツェルンには、深い縁のある品でもある。


「困ったわ。盗んで売って、とっととこの町を離れてしまいたくなる」

「それならそれで、僕は君を咎めないさ」


 心の平穏のためにはそれが最も良い展開だと思う。

 しかし、エレナの言う通り、この面々はアイルークのぬるま湯に浸かり過ぎているようにも感じる。

 旅のプロセスとして、修羅場はいくつかくぐる必要があるのだろう。


 だが。


「それで、その秘石。今どこにあるの?」

「アラスールが肌身離さず持っているよ。盗むのかな? だけど、実はそうもいかない」


 運命の流れが強すぎる。

 イオリは諦めたように懐を探った。

 ミツルギ=サクラに無理を言って借り受けてきたものだ。


「…………それ、何でここにあるの?」

「訳は話さないけど、正規の手順でここにあるものだ。邪推はしないでくれるかな」

「話さないときたか。まあいいわ、想像はつくし」


 イオリが取り出したのは茶色の小箱だった。

 妙に高級感を漂わせる造りのそれの正体を、エレナは良く知っているはずだ。


 箱を開けると、宝石店のようなケースが現れ、見るも鮮やかな拳大の宝石がはめ込まれていた。

 イエロー、そしてグレー。

 サクの話によると、モルオールを離れる前には3つあったそうだ。

 事情を察したイオリは、紛失の原因の容疑者とされた涙目の少女を庇ったのを覚えている。

 かつて、シリスティアからの献品として受け取ったものの中に混ぜられていた、ファンツェルン家の宝だ。


「結構減ってるみたいだけど……、まあ、弾はまだまだあるってことね。いいわ、分かった。じゃあ余ったらそれ、私に頂戴」


 ぜひ渡したいところだったが、イオリは眉を潜めるだけに留めた。知らないふりは慣れている。


「まだやるとは言っていないよ」

「そんなものまで持ち出しておいて? あんた何がしたいのよ」

「エレナと話をしたかった、じゃ駄目かな」

「気持ち悪いわよあんた」


 思われたことは多いだろうが、直接言われたことはなかった。

 酷いことを言う。


 だが、何がしたいか、か。

 それはとっくに見失ってしまった。

 職業柄、リスクを常に考えてしまう。

 どう転んでも最悪の事態を避けるために、成功したときと失敗したときの両方を考慮し、そしてそもそも実行したときとしないときの両方を検討する。

 無限に分岐する道に、自分は立っている。

 道を選ぶ権利は自分にはない。だから自分は、強く背中を押されるのを待っているのかもしれない。


「はっ、なんだかんだ言っても、勇者様ってのは必要ね。アキラ君がやると言えばやるんでしょう」

「……そうかもね」


 集団行動には、船頭が必要だ。

 その決断に考慮がかけていたとしても、それは他の者が補えばいい。

 必要なのは、決める力だ。

 運命に翻弄されながらも、やるぞ、と言える存在が不可欠なのだ。


 だから自分は、彼が何を求めても応じられるようにすべての手筈を整えておこうとした。

 それなのにここ最近、自分は自分の意思が反映されるように舵を操作しようとしていたのだろう。

 その結果、昨日の口論だ。いざとなったら彼に責任を押し付けるようなことを言ったようにも思う。

 悪いことをした。


 ヒダマリ=アキラ。

 信用はできるが、信頼はできないと自分は言った。

 現に今も、彼が今回の件を乗り切る姿を想像できない。


 駄目だ。どうも前々回の彼と比べてしまう。


「じゃあ、私も同じでいいわ」

「エレナ?」

「アキラ君待ち。彼がやると言ったらやってあげる。弾が残れば豪遊し放題よ」


 サクが管理しているこの面々の財は相当あることに、エレナなら察しがついていそうだが、彼女は何も言わなかった。

 自分も、何も言わず、彼の結論を待つことにしよう。可能な限りの準備をして。


 例えそれが、彼にとって、最も辛い出来事と結びついたとしても。


―――***―――


「俺はちゃんと向かっていた。ただ、迷っただけなんだ」

「私はアキラが見当外れの方向に歩いているのを見て、連れてきた」

「すまない、少し魔術師隊の支部に寄ったら長引いてしまって」

「え? まだ集合時間じゃないでしょ?」

「サクさんありがとうイオリさんお疲れさまですあんたとエレナさんはちょっとこっち来て」


 集合時間を過ぎた、集合場所。

 正午にヘヴンズゲートの東部にある広場の前に集合と決めたら、酷い有様になった。


 エリサス=アーティは頭を抱えながら問題のふたりを招き寄せると、疲労困憊の笑みを浮かべた。


「なに。私の誠意が足りなかったの? もっと頭を下げて、地面に擦り付けるまでして集まってくださいお願いしますって言わなければ時間を守ってくれないの?」

「何言ってんだよ。俺はちゃんと来ようとしたんだって」

「え? これ何の話? 今回は早目に来たわよ?」

「これはあれね。誠意が足りなかったのね。ごめんねこんなあたしで」

「また壊れてるわね……。あら。あのガキは? いないじゃない」


 エリーが涙目で訴えても、目の前のふたりの態度は変わらなかった。

 アキラを怒鳴りつけるのが先かエレナに本当の集合時間を教えるのが先か迷ったが、どちらも無駄そうなので、さらなる絶望に目を向けることにした。


「そう、いないのよ。もういいかな、何も考えなくて」


 わざわざ回りくどく集合としたのは、この町に実家のあるアルティア=ウィン=クーデフォンの提案によるものだった。

 旅の慰安に、今日はティアがこの町を案内すると言い放ち、全員をこの場所に集めたのだ。

 家の場所は昨日も行ったし、エリーは迎えに行くと提案したのだが、それだと家族の前で格好がつかないとかなんとかぬかしやがった。

 そんなわけで、観光スポットであるらしい噴水のあるこの広場を集合場所として指定し、昨日は元気よく手を振っていた。


 そしてガイドが来なかった。


 噴水でも見てぼうっとしていたい。しかしそれは、誰もいなかったこの場所で、先ほどもやったことだった。


「エリーさん、どうする? 迎えに行くか」

「何言ってんだよサク。こういうときは下手に動かない方がいいんだぞ」

「お前は未だ迷子の気分でいるのか」


 適当な会話が聞こえてくるが、すべて無視した。

 最近、怒りやら絶望やら何やらいろいろな感情が混ざり込んで浮かび、何をしていいか分からなくなるときがある。

 偏頭痛や情緒不安定を患わないか不安でならない。


 はてさてこれからどうしたものか。

 ガイドを買って出ようとしたほどだ、流石に地元民のティアは迷子というわけではないだろう。

 広場の入り口を眺めてみても、彼女の元気な駆け足は聞こえてこなかった。


 手持ち無沙汰に今度は面々を眺めてみる。

 同じように退屈に立っているように見えるが、アキラとイオリの目が合い、少しだけ神妙な顔つきになったのをエリーは見逃さなかった。

 あれは。


「……じゃあこうしよう、俺が見てくるよ。どうせその辺りで転んでいるんだろ」


 じっと見続けていたせいか、アキラが息を吐き出すように提案した。

 酷いことを言っているようだが、無くはない。

 頭をガシガシとかきながら歩き出そうとしたアキラを、エリーは止めた。


「あんたは単独行動禁止よ。昨日の今日でこれだもん」

「だから俺は……、まあいいや。お前も来るか?」


 振り返ると、イオリは完全に背を向けてサクと話していた。

 サクの表情に妙な違和感を覚えるも、とりあえずあのふたりがいればエレナが好き勝手することもないだろう。


「仕方ないなあ、もう。さっさと捕まえてきましょうか」


 簡単に声をかけ、アキラと共にティアを探しに歩き出した。

 広場を抜けると路地に入る。

 大通りに面していない広場は比較的静かで、涼し気だったが、向うに見える通りから人の熱気が伝わってきた。


「で。何があったの?」


 囁くように、顔も向けずに呟いた。

 聞こえなかったならそれはそれで構わない。


「あった。つうか、起きてる」


 隣から、意外にも素直な返答が来た。

 エリーは口を開こうとしたが、複雑な感情のせいでそのまま無言で歩く。


「聞かないのか」

「聞きたいわ、凄く。でも、話せる範囲でしか話せないんでしょう。なら整理するまで待つわ。ティアがすぐに見つかるとは思えないしね」


 路地を抜けると、昨日も通った大通りに出た。

 囁き声は隣にだって届かない。

 エリーは人の波に気を付けながら、聞き耳を立て続けた。


「……今、魔術師隊がでかい計画をしている」

「そう」

「驚かないのかよ」

「わあびっくり、って言ってもいいけどね。今更よ」


 彼といると、危機への感度が鈍くなる。

 たった今、巨竜が町を襲撃しても、驚きこそすれこの足はすくまないだろう。


 何が起きても当然。この旅を通して、骨身に刻まれていた。


「で、何するのよ」

「まだ俺が参加するか分からないけどな」

「そうなの?」

「ああ、一応魔術師隊からの依頼ってことになっているんだろうな……。“魔門破壊”だ」


 流石に眉を潜めた。

 以前、モルオールでそれが成功したと聞いた覚えがある。

 今それが、このアイルークで計画されているらしい。

 わあびっくり、だ。


「イオリさんは知ってるのよね」

「昨日イオリと魔術師隊の支部で聞いたんだ」

「で、なんて」

「……乗る気じゃなかった」


 話の流れが見えてきた。

 それであの雰囲気だったのだろう。

 エリーが横顔を伺うと、アキラの表情はよく見るものだった。


「で、どうするの」


 聞こえなかったのかもしれない。アキラの表情は変わらないままだった。

 エリーは一応道の隅々まで目を通しながら、小柄な少女を探す。

 このままだと彼女の家についてしまうだろうから、迷子ではないようだ。

 迷子なら隣にいる。


「成功しなかったらあたしたち全滅するのかしらね」

「簡単に言うなよ、洒落にならない大事らしいぞ。それに、返事はまだしていない」

「分かってるわよ」


 エリーは含み笑いをした。

 そして少しだけ、怒りの感情が浮かぶ。

 彼にも、そして、自分にも。


「で、何があったのよ」


 アキラの顔が向いたのが分かった。

 エリーはぐっと息を呑むと、視線を合わせた。


「何を悩んでんのよ。正直、参加することになった、とかいう事後報告するのがあんたじゃない。返事はしてないとか。魔門破壊よりびっくりよ」


 以前、彼に対して、危険に飛び込まないでくれと言った覚えがある。

 あらゆる事件を引き寄せる彼には、しかし、それに慣れて欲しくないと感じたのだ。

 だが今、そうではない彼に、強い違和感と苛立ちを覚えてしまう。自分にも、だ。

 いろいろな感情が混ざり込んで浮かび、本当に、自分を見失いそうだった。

 だが、せめて今この場で自分だけはそうなるわけにはいかなかった。


「何で分かるんだろうな、お前らは」

「どれだけ一緒にいると……お前ら? むう……。で、何なのよ。何を迷ってるのよ」

「……お前らが危険だ」

「いつものことでしょ」

「…………魔王討伐と、直接関係ない」

「寄り道も同じくよ」

「成功するかどうか分からないんだぞ」

「それを言い出すなら魔王討伐って同じでしょう」


 楽観的に、そう言った。彼ならそう言う。

 だから、それが彼の本音でないことは分かった。

 アキラは、観念したように、拳を握って震わせた。


「犠牲になるかもしれない奴がいるんだ」


 彼は、犠牲というものを、酷く嫌う。

 それを迫られたとき、彼は震えるように声を出し、瞳は、過去を追うように深くなる。

 “何か”を知っている、彼。

 彼の恐怖は、すべてそこに繋がっているような気がした。


「俺が参加するって言ったら、間違いなく魔門破壊は実行される。そうなったら、そいつは」

「じゃあ、参加しなければ?」

「……いや、それでも魔門破壊が行われる可能性が高い。そして、そいつはもう、参加することになっていた」


 その犠牲が、確定しているようなことを言う。彼がたまに口にする言い方だった。


 しかしそうなると、彼の立つ分岐点は、酷く脆い道に見えた。

 どちらに進もうとも、足元が崩れ去る。それゆえに、足を踏み出すことを躊躇してしまう。

 同調はできた。同情もできた。

 だけど、エリーはその感情を表に出さなかった。


「じゃあ、やろうよ」

「……おい」

「あたしが言ったの、やろうって。それで、あんたはどうするの?」


 彼の中の答えは決まっているように思えた。

 犠牲になるかもしれない存在がいるのなら、彼は自分の預かり知らぬところでそうなることを嫌うはずだ。

 それでも今、脆い選択肢が見えているせいで、その足が踏み出せない。

 それなら自分が踏み出そう、踏み抜こう。


「ふ。失敗したら、あたしのせいだね」


 難色を示したらしいイオリには悪いことをした。

 だが、何も知らないからといって、軽々しく言い放ったわけじゃない。

 選ぶ権利は彼にある。だから自分は、その選ぶ負担を、苦悩を、分かち合おう。

 選んだ道の責任は、自分もしっかり取ればいいのだ。

 彼が道を選ぶことを、少しで楽にしてあげたい。


「……お前は」

「なにか?」

「…………は」


 やっと、笑ってくれた。

 彼がそうあり続けられるためなら、自分は誠意を尽くそうではないか。


「……あれ。そういえば犠牲になるかもしれない人って……誰?」

「お前は知ってると思うぞ。リリル=サース=ロングトンって奴を」

「……は?」

「お前って新聞読んでなかったっけ。リリルも昨日、魔術師隊の支部に、い……て……」


 もちろん知っている。リリル=サース=ロングトンは有名人だ。

 自分から笑顔が消えたのが分かった。

 悟られないようにしてみたが、硬直したアキラの顔を見るに失敗しているらしい。


「返して」

「なんだって?」

「いろいろ返して。もう、なんか分かんないけど」

「何言ってんのか俺も分かんないんだけど……」


 大きく息を吸った。

 人のざわめきが可愛く見える。

 予感と自信があった。今声を出したらすべてを塗り潰せるだろうと。


 悲鳴に似た声ともならない叫びになりそうだが、とにかく今は、何も考えずにそうしたかった。


 そして。


「あんっ」

「あああああっ!!!! アッキーーーーーーッッッ!!!! エリにゃーーーーーーんっッッ!!!!! たいっへんですっっっ!!!!!!!!」


 完全に力負けした。

 自分の全身全霊を込めた一撃が、真上から叩き潰されたのだ。

 自信は砕かれたが、まるで心は痛まない。

 爆撃音とも見舞うような大声の主など、考えるまでもない。


 見れば我らがアルティア=ウィン=クーデフォンが、人ごみに紛れながら全力で駆け寄ってきていた。


「最早テロだろあれ」

「あ、でも気にもしてない人多いわね」


 地元では周知の事実なのかもしれない。

 露店の主人など、人ごみに揉まれて息も絶え絶えになりながらかけ続けるティアに微笑ましく手を振っていた。


「げは、ごほごほっ、あのっ、ごほっ」


 ようやく自分たちの元に辿り着いたティアは、満身創痍といった様子でむせ返っていた。

 ただ事ではない様子だ。

 だが、彼女の場合、ただ事である可能性があるので、エリーは静かに息が落ち着くのを待っていた。


「どうしたティア。水でも飲むか? さっきの広場に浴びるほどあったぞ、みんなもいる」

「冗談言っている場合じゃないです!! お父さんが、ああ、あっしはどうしたら!?」


 頭を抱えて混乱気味のティアの言葉の節々から、怪訝なものを感じた。

 本当にただ事ではないらしい。


「お父さんに何があったの?」

「喧嘩!! 喧嘩です!! 止めようとしたんですけど、聞く耳持ってくれなくて、その上追い出されて、」


 ピクリとアキラが動いた。

 色々と要点がつかめないが、騒ぎが起こっているらしい。

 エリーはしばし考え、そういうことなら男手の方がいいだろうと決断を下した。


「家で起こってるの? じゃああんたは先にティアと行ってて。あたしはみんなを連れてくる」

「ああ、分かった」


 短い返答と同時に、彼は駆け出した。

 ティアがすぐにアキラを追っていく。


 今日は慰安でのんびりとする予定だったが、上手くいかないらしい。

 これも彼の運命によるトラブルか。

 巻き込まれる自分たち以上に彼を不憫に思ったが、また自分の知らぬところで女性と関わりを持っていたことは、忘れてやらないことにした。


―――***―――


 アルティア=ウィン=クーデフォンの実家は、武器屋を営んでいる。

 サクが言うに、中々に上質な武具を取り扱っているらしい。

 奥には工房もあり、店の看板には鉄槌と剣がその存在を物語っている。


 そして今、昨日も見たその看板は、中からけ破られたようにひしゃげ、その正面に、門番のように店の主人が息を荒げて立っていた。


 グラウス=クーデフォン。

 無精ひげに煤で汚れた灰色の服から隆々とした筋肉を覗かせている、ティアの伯父であり、育ての親である。


「まだ何か用があんのか?」


 殺気を孕んだ台詞を、恐らくは喧嘩相手だろう目の前に座り込んでいる男に吐いた。

 座り込んでいる男は、口元を拳で拭いながら黙ってグラウスを見上げている。

 アキラが目を見開いたのは、座り込んでいる男の服装だった。

 紺を基調としたその服は、魔術師の資格を物語っている。


 その異様な光景に、通行人は足を止めかけるも、グラウスの睨みですぐに立ち去っていく。

 そそくさと足早にすれ違っていく人の気配が消えたころ、アキラはようやく、魔術師が昨日会った魔術師隊の支部長であることに気づいた。


「……何があった」


 背中に隠れるようにしがみついているティアをそのままに、アキラは神妙に声を出した。

 グラウスは殺気交じりの瞳のまま、睨むようにアキラを見てくる。

 アキラに気づいても、その瞳の強さは変わらなかった。


 昨日、この店を訪れたときも、彼はアキラを下手に敬おうとはしなかったのを覚えている。


「ルーフに聞け。この馬鹿が、馬鹿げたことをぬかしやがっただけだ」


 魔術師隊の男はルーフというらしい。

 アキラをちらりと見ると、やはり態度を変えずにグラウスの前に立った。

 この男がいるということは、もしかしたら。


「何度でも言う。グラウス。協力を仰ぎたい。武具が必要だ。可能な限り」

「駄目だね」


 グラウスはにらみを利かせたまま、胸を叩いた。


「俺は覚えてるぞ。俺たちが生きている間は、もう二度と、魔門には手を出さないって言ったよな。それでなんだ、お前は何を言ったんだっけ?」

「金は払う。客としてな。魔門を破壊するために」

「はっ」


 話にならないと言わんばかりにグラウスは鼻で笑った。


「金か。ありがたいな。10年前と同じだ。商品を根こそぎ持っていって、あいつらもいなくなって、空っぽの店に馬鹿げた量の金だけ残った。てめぇはそのとき約束したな。忘れたとは言わせねぇぞ」


 アキラの背中で何かが震えた。

 それが父の怒気によるものだけではないことが、アキラには分かった。


「答えろ。お前は何のために偉くなったんだ。そうならないために隊長になったんじゃねぇのかよ。それとも何か。このままぶちのめせば、隊長不在で中止になってくれんのか?」

「……すでに決定事項だ。中止にはならない」


 拳が飛んだ。

 耳を塞ぎたくなるような音が聞こえる。ティアが短い悲鳴を上げる。

 アキラが動こうとしたら、ルーフとやらは首を振ってそれを制した。


「だからこそ、お前の協力が必要なんだ。今この町で、最高の武具はここにある。魔術師隊の支給品なんかより、よっぽど頼りになるものが」

「笑わせんな。そいつを使ってさえ、結局どうなったか覚えてないわけじゃないだろう」


 アキラは口を挟めなかった。

 結局魔術師隊では、魔門破壊の実行が決定されたらしい。


「お父さん、あの、ですね、私、」

「アルティア。お前はとっとと出かけろって言っただろ。何戻ってきてんだ」

「ひっ」


 一瞬だけ頭を出したティアは、すぐにひっこめた。

 怖いもの知らずと思っていたが、父の怒りは怖いらしい。


 しかし、彼女の本当の父は、魔門の怒りに触れたのだ。


「頼むグラウス。協力してくれ」


 あのアラスールという魔導士に指示された結果だろう。

 だがそんな事情など、ルーフは一言も口にせずに頭を下げる。

 その誠意は、グラウスには届いていないのだろうか。

 だが、グラウスも分かっているはずだ。協力を拒もうが、向かえる未来は変わらない。


「……ティア。お前、どこまで知っている」


 アキラは、小さく呟いた。

 グラウスも聞き逃さず、ギロリと睨んでくる。

 ティアは、おずおずと身体を離し、隣に立って肩を下げた。


「事情は、分かりました。魔門、ってあれですよね。あの」


 ぼそぼそと、聞き取りにくい声だった。

 フォール=リナ=クーデフォンとルーシャ=クーデフォン。

 彼女の本当の両親は、10年前の魔門流しで命を落としたという。


「アッキーは知っていたんですか? 魔門流しのこと、とか」


 頷いた。

 視線はグラウスに向けたままだ。


 ルーフは、そこでアキラとティアの顔を見比べ、目を見開いた。

 まさか、といった表情を見るに、アキラの旅の小さな同行者を知らなかったらしい。


「…………。私も決めました。あはは、頑張りましょう」


 参加することが決まっているようなことを言う。

 アキラなど、未だ迷っているというのに。

 魔門のせいで自分の両親を失ったというのに、彼女は関わることをいとわない。


 何故だ。

 エリーも、ティアも、そしてリリルも、どうしてそう在れるのだろう。

 目の前にあるものは、とてつもなく巨大なものであるのに。


 このヒダマリ=アキラという存在は、それほどのものを預けられるように見えるのだろうか。

 自分ではまるで分からない。


 今まで経験していた事件は、すべて、過去に通り過ぎていたものだという確信があった。

 それゆえに、自分は軽はずみに足を踏み入れてこられたのだろう。


 ティアの台詞を聞いて、グラウスの怒りが爆発した。


「アルティアッッッ!!」

「ひぅっ」


 ビリリと棘のような空気が身体中に突き刺さった。

 地を踏み砕くほどの勢いで、グラウスが詰め寄ってくる。

 アキラは一歩も動けなかった。いや多分、動いてはいけない気がした。

 辛うじて、ティアを庇うように身をよじった。


「お前いい加減にしておけよ。旅をするくらいならともかく、魔門に関わって何が起きたか忘れたか」

「お、覚えてます。1日だって、忘れたことなんてありません」


 グラウスの顔が見られなかった。

 世界中からアキラが勇者と認識されていても、グラウスにとっては所詮自分の娘が共に旅をしている仲間でしかないのだろう。

 想像だけで持ち上げる人々とは違う。グラウスは、自分と会って、話をした人物なのだ。

 不安は尽きないだろう。


 グラウスの怒気に、ティアは震えながらも、アキラの裏から顔を出して、しっかりと親の目を見ていった。


「こういうときのために、色々頑張ってきたんです。犠牲を出さないように、って。……だ、大丈夫です、皆さんと一緒なら」


 彼女にも彼女なりの理由があるのだろう。単なる親への反発ではない声色だった。

 身体中が凍り付く。

 いつもであれば気力が高ぶるはずの期待が、身体中を縛り付けた。


 確実に分かっていることがある。

 この魔門破壊は失敗し、リリルは命を落とした未来が存在する。

 その事実が目の前にぶら下がっているのに、それに足を踏み入れられるのか。

 自分が犠牲になるだけならともかく、リリルの命も、そしてティアの想いも失うことになる。


 アキラは旅というものが途端に怖くなった。


 知っていることは得なことばかりではない。

 イオリの言葉が蘇った。


 一部の未来を知っている自分は、どれほど危険な事件でもためらわず足を踏み出し、結果として世界を救う英雄としてもてはやされている。

 命からがらに付いてきてくれた皆は、それを乗り越える力を身に着けているのだろうが、アキラ自身には宿っていないようだ。

 唇が震えた。

 自分は今まで、こんな気持ちを皆に味合わせていたのか。

 皆は、こんな自分の後に続いて、それで何が起きても後悔などないと思っていたのだろうか。

 全員を乗せて、欠陥だらけの舵を切っていた自分は、彼女たちに何を思われていただろうか。


「……俺は」


 ひとつだけ、思ったことがある。

 エリーの言葉で、感じた素直な感情だ。


 自分は、犠牲を、絶対に出したくはない。


 自分が何をしようが、リリルは魔門破壊に参加するだろう。

 そしてその運命は、何もしなければ変わらない。


 ならば最初から答えはひとつだった。


 だけど自分は、その危険に、皆を連れて飛び込むことを思い悩んでいた。

 自分ひとりが参加しても何もできないというのに、周囲を巻き込むことをためらっていた。

 こんなにも頼りにならない自分の背中に、着いてきてくれと胸を張って言えなかった。


 だけど。


「―――“俺たちは”」


 グラウスの目が見開いたのが分かった。ルーフの耳にも届くだろう、もう後戻りはできない。


「魔門破壊に参加する」


 リリルを救うために、そして、それ以上に、共に旅を続けるために。

 今、この瞬間に、焦がれるほどに欲するものがある。


 それは彼女たちが、自分に着いてきて微塵にも後悔しないようなもの。

 それは彼女たちから向けられる期待に、誠意をもって応えられるもの。 そしてそれは、きっと世界の希望となり得るもの。


 アキラはグラウスをまっすぐ見て、力強く言った。


「―――俺を信頼して欲しい。犠牲は出さない」


 グラウスの目が怒気を孕んだのが見えた。

 今現在、当然の評価だ。娘を預けている親としての、不安や疑念が入り混じった、至極当然の評価だ。


 だが、それだからこそ、そのすべてを自分はまっすぐに受け止めなければならない。

 自分の中の不安や、疑問は乗り越えて、この目を逸らしてはならないのだ。


 “一週目”の自分が達成できなかったことを今、乗り越える。


「俺は止めたぞ」


 ギリと奥歯を噛んで。吐き捨てるようにそう言って。グラウスは店に戻っていった。

 手でも上げられそうだったが、一応は勇者である自分の顔を立ててくれたのだろうか。


「ルーフさん、だよな。魔門破壊、やるんだよな」

「……ええ。助かりました。夜にでも支部に来てください。私はもう少し、グラウスに頼んでみます」


 アキラは頷き、息を吸って振り返った。

 後を追ってきた皆が到着していたことは、とっくに気づいていた。


 これが最後だ。

 今信頼されていない自分が言う、信頼されるための最後のわがままだ。


「やるぞ。魔門破壊」


―――***―――


 蠢くそれは、闇だった。

 蠢くそれは、混沌だった。

 蠢くそれは、始まりだった。


 そして、蠢くそれは、終わりでもあった。


 人の誰かがそう言った。おそらくその言葉が、最も“それ”を正しく表現している。


 人とは分からないものだ。

 無力無知であるにもかかわらず、時折、答えに辿り着いてしまうことがある。

 その先は、人の得意分野だ。

 ある者はそれを解明し、ある者はそれを改良する。


 最初のきっかけさえあれば、後は時代の流れに乗せ、形を成し、鋭く敏くすることができる。

 そしてその粋を極めたものを、自分はたまらなく愛おしく思う。


 重要なのは最初のきっかけだ。

 後は勝手に、自分の最愛の何かを形作ってくれるのだ。


 だからこそ、自分はきっかけを与え続けよう。


「ふ」


 首を振った。

 そしてすぐに気を静める。


 高ぶるな。冷静になれ。今自分が辿り着いている真理を疎かにするな。


 そうでなければ自分はまた、全てを失ってしまう。


 だがやはり、どうしようもなく、期待してしまう。


 この大陸中に配置した自分の配下からは、蜘蛛の糸を伝うように情報が入ってくる。

 その中に、極上の獲物がかかったのだ。


 見込み違いであったとしても、問題はない。

 いつものように、問えばいいのだ。


 だからこそ。


 目の前の“それ”に押さえつけるような眼光を浴びせ、重々しく呟いた。


「魔門よ。余計なことをしてくれるなよ」


―――***―――


「きゃあきゃあきゃあ」

「え、えっと?」

「ううん、何でもなーい。ああ、ごめんねイオリちゃん、話の腰折っちゃって」


 夕刻。

 言われた通りに魔術師隊の支部を訪れたアキラたちは、昨日の会議室に通され、支部長のルーフとイオリから魔門破壊の説明を受けていた。

 淡々と説明を続けるイオリに、アキラは口を挟めなかった。

 彼女があれだけ反対した魔門破壊に、自分のエゴで巻き込んでしまったのだ。彼女の胸中は知れないが、自分が酷く悪いことをしているような感覚に陥っていた。


 外出していたらしいモルオールの魔導士、アラスール=デミオンが現れたのは、そんな苦い毒が心を犯し始めていたときだった。


「あらあら。勢揃いじゃないの」


 重苦しい会議室を軽々しく歩き回り、アラスールは奥の椅子に腰を下ろした。

 そしてにっこりと笑顔を浮かべる。


「ねえ」


 隣のエリーが小声でささやいてきた。

 ここに来てからエリーの声を初めて聞いた。魔術師隊の支部だから緊張でもしていたのだろう。


「あの人が魔導士の?」

「ああ、さっき言ってたろ、アラスールってモルオールの魔導士がいるって」

「……そ、そう。あ、あたし何かしちゃったかな……」


 エリーの心拍数が上がったのが隣にいても分かった。

 魔導士に対するあこがれが並々ならぬエリーに、アラスールの笑みがまっすぐに向けられていては仕方がないのかもしれない。


「ああ、私はアラスール=デミオンよ。みんなは……、ま、追々聞くとして。ごめんね、遅れちゃって。話なら一緒にした方がいいって思って、ばったり会った子を連れてきたのよ」


 ドアを見れば、リリル=サース=ロングトンが凛として立っていた。


「リリルも来たのか」

「はい。魔門破壊の話ですよね、私もお聞きします」


 リリルは周囲を見渡して、ゆっくりと手ごろな席に座った。

 そして真摯な顔つきでルーフとアラスールをまっすぐに見る。我が物顔で座り込んだアラスールとは対極的だった。

 昼とは様子が随分と違う。仕事のときは、ああした様子なのかもしれない。


 そんな様子を見ていたら、隣から小さく唸り声が聞こえた。


「あの、それで私たちは何をすればいいんですか?」


 魔門破壊の主要メンバーが揃ったところで、エレナがか細い声でそう言った。

 可愛らしい挙動に引っかかったのは、どうやらこの部屋では硬直したルーフだけだったようだ。


「イオリちゃん、どこまで話したの?」

「秘石を使うところまでは」

「なら、その先は私が引き継ぐわ。一応この作戦のリーダーを任されているわけだし」


 アラスールはわざとらしく咳払いをして、面々を見渡した。

 そして小さく頷く。


「アイルークの魔門があるのはここから北東にあるマースル地方の大樹海。周辺が岩山に囲まれていてね。普段は閉鎖されているし、民間には伏せられているから興味本位で近づく人もいない。思いっきり暴れられるわ」


 随分と野蛮なことを言う。

 そう思ったが、アラスールは次に首を振った。


「ま、はっきり言って暴れる予定なんかないけど。作戦はいたってシンプルよ。魔門に察知されないギリギリから、一気に接近し、膨大な魔力を押し当てる。ある意味魔門流しより楽かもね。特別な術式を瞬時に組み立てる必要もないらしいから」


 そこでサクから手が上がった。


「膨大な魔力、というのは、先ほどイオリさんが言っていた秘石とやらを使うのか? 詳しくは知らないが、それだけなら今までやらなかった理由は何なんだ」


 アラスールの言った作戦は単純で、ともすれば稚拙だった。

 それを試した古人がいなかったと思えないほどに。

 アラスールは肩を落とした。


「やらなかった理由? そうね、私も聞いた限りは分からないわ。だけど想像は付く。もし、私が“あの出来事”を知らなったとしたら、そんなことやろうとする奴はぶん殴ってでも止めるわ」


 アラスールの隣のルーフが表情を暗くした。

 まったくと言っていいほど未知の魔門。

 触れることすら許されないその存在に、そんな暴挙を犯したらまさしく何が起こるか分かったものではない。


「だけど、それをやった奴がいる、ってことか」


 アキラはごくりと空気を飲み込んだ。


「結局、モルオールでは何が起こったんだ? あいつも、スライクも同じことをしたのか?」

「その事件、どこまで民間に伝わっているの?」

「今日見た限りじゃ、モルオールが平和に一歩近づいたとかなんとか。具体的な方法については何もなかったよ。だったよな、リリル」


 ピンとリリルの背筋がさらに伸びた。


「は、はい。私も知っているのはそのくらいです。ですが、脚色されているのかは分かりませんが、スライク=キース=ガイロードは魔術師隊の制止も聞かずに危険地帯に飛び込んでいったらしく、魔門の周囲は地獄絵図になったとか」


 アキラがアラスールに視線を向けると、彼女は何も語らなかった。

 どうやらリリルの補足に間違いはなく、そして情報はそこで打ち止めらしい。


「……明日もう少し調べてみますか?」

「いや、魔術師隊が知らないってことはそれだけなんだろう」

「……そう、ですね」


 こんなことならあの雪山であの男に会ったときに詳しく聞いておくべきだったかもしれない。

 ただいずれにせよ確かなことは、魔門が破壊できるという事実。

 未知の魔門さえ、あの剣からは逃れられなかったということだけだ。


「はあ、もういいわ。結論からいきましょうよ。“弾”は何がいくつあるの?」


 エレナが脱力して苛立った声を出した。

 どうやら会議に飽きてきたようだ。ルーフとリリルがびくりとしたが、エレナは構わずアラスールに視線を投げる。


「秘石を使うわけだから、属性を合わせる必要がある。どうせそいつら以外は邪魔をさせないように魔門のエリアで雑魚狩りってとこでしょう」

「あら、話が早くて助かるわね。そうね、私が用意してきたのは水曜の秘石よ」


 ガタっと椅子が倒れる音が会議室に響いた。

 振り返ればティアが勢い良く拳を天井に突き出している。


「なんと、なんと、これは、遂に、来ましたか……!!」

「ティ、ティアちゃん、」


 感涙しているティアに、ルーフが青い顔で近づいていった。

 しかしティアは構わず、震えた声で続ける。


「こ、これはあっしの出番だということですね? ふっふっふ。この日をいつから待ち望んでいたことか。お任せください、このティアにゃんが、見事魔門を、」

「あの、話の流れで分かると思うけど、秘石を使うのは私よ。水曜属性なの」

「……ほう」


 水をかけられたようにティアは座り込んだ。

 彼女も複雑な思いがあるだろうが、いつもの調子なのか空元気なのか判断がつかない。

 だが、アキラは小さな違和感を覚えた。

 普段のティアなら、もっと粘りそうなものだが、あっさりと引き下がるとは。


「ま、万一失敗しても、幸運なことに……イオリちゃん」

「ああ、参加する以上、こちらも協力するよ。実は他にも秘石がある。持っているのは、金曜と土曜だ」


 イオリは懐から見覚えのある石を取り出し、机に置いた。

 美しい石だ、隣のエリーも身を乗り出している。

 問いただす気も起きず、アキラは静かにサクとイオリの顔を見た。


「だけど残念ながら、土曜の秘石は使用するよ。作戦はこうだ。当日。ラッキーで高速接近して魔門に魔力を叩きつける。あとは高速離脱。この人数をラッキーに乗せるとなると、魔力が足りないからね」


 アキラは部屋を見渡した。

 この面々で魔門に接近することになるのだろう。

 マースル地方の大樹海とやらがどれだけの規模かは知らないが、イオリの召喚獣のラッキーは戦闘向きだ。

 モルオールで見たカイラ=キッド=ウルグスの召喚獣と異なり、移動に特化しているわけではない。

 この人数で魔門に接近し、離脱するには何らかの補助が必要なのだろう。


「作戦というにはシンプル過ぎるが、相手は未知だ。シンプルな方が臨機応変に動けるだろう。アラスール、サクラ、そして秘石の余力があれば僕が魔門の破壊を狙う。他のみんなは、トラブルの対処や退路の確保をお願いしたい」

「トラブル?」


 思わず口を挟んでしまった。

 全員の顔が向いたが、アキラは構わず続けた。


「そもそも、魔門を攻撃すると何が起こるんだ? 魔物の大群でも現れるのかよ?」


 アキラの言葉に、イオリは力なく笑った。その笑みに応じるように、アラスールも頭をかいて苦笑いをする。


「そうね、具体的な話をしていなかったわね。でもごめんなさい、具体的な話はできないの」


 アラスールは記憶を辿るように天井を仰ぐと、確認を取るようにルーフに視線を投げた。


「そうね、例えばこのアイルークでは何が起こったことがあるのかしら」

「……私が知っている限りでは、『魔物の大群』、……それと、『毒性のある瘴気の発生』ですね」

「あら、優しいものね。『魔族の出現』は無かったみたいね。あと、『大規模爆発』も」


 ティアの身体が震えたのが分かった。

 瘴気の発生が、彼女の両親の命を奪った出来事なのだろうか。

 神妙な顔つきのルーフは元より、あっけらかんとした態度のアラスールも声色は変わっていた。


「……予測は不可能よ」


 アラスールは諦めたように瞳を閉じた。


「魔門への攻撃……それどころか刺激が引き起こすのは、まったくのランダム。過去の事象を見ても、傾向すらつかめない。一応極秘だけどね、一説には魔門は魔界の決まった場所と通じているわけじゃない。魔界にある魔門の出口は移動しているのではないか、と言われているわ」


 魔門は魔界を移動している。

 釈然としないが、発生する事象を見るにそう考える者もいるのだろう。

 だがそれならば、存在するかは定かではないが、魔界でも比較的安全な場所に通じていれば、脅威ではないのだろうか。それならば、運が良ければ何も起こらないかもしれない。

 そう考えて、自分を戒めた。こんなことを考える奴がいるから、極秘なのだろう。


「だけど比較的、分かりやすい“敵”の出現が大多数よ。その場合の対処をお願いすることになるわ」

「あ、の」


 再び苛立った声をエレナが上げた。

 苛つきを微塵にも隠さず、アラスールを睨むように視線を投げる。


「まあぶっちゃけ、なんかが出てくるなら蹴散らしてやるけど……でもね。聞いている限り、私ら頼り過ぎな気がするんだけど、魔術師隊の方々は何をするおつもりで?」

「あら、言われているわよ支部長さん。……って、私もか。魔術師隊の面々には普段の魔門流し通りに行動してもらうわ。つまりは退路の確保と伝令係。そして、万が一に備えてその“危機”が大陸に広がらないように徹底防衛」


 エレナの舌打ちと、アラスールが言葉を続けたのは同時だった。


「でもね、今あるリソースを考えれば、成功率が最も高いのはこの方法なのよ。今、この大陸にいる、各属性の最強の魔術師は、ヒダマリ=アキラの七曜の魔術師なんだから」


 堂々とした声だった。世辞のようにも称賛のようにも思えるその言葉は、その声色からか骨身に染みるように感じる。

 エレナも目を細めた。


「もちろん私も責任は持つわ。ティアちゃんだっけ、ごめんね、水曜の秘石は私が使う。だから、イオリちゃん、もしものときはお願いね」

「……もしも、とは」

「分かってるくせに。私が失敗したら作戦は終わり。そしたら多分私死んじゃってるから、作戦リーダーはイオリちゃんになりまーす」


 明るく、普段通りの口調で、アラスールは当たり前のように言った。決して冗談の類ではない。

 ゾッとする。

 恐怖を感じたのは、魔門の脅威にか、はたまた死との隣接が日常であるかのようなアラスールの態度にか。


「一撃離脱よ」


 アラスールは懐から、スカイブルーに輝く石を取り出した。


「弾は、秘石は、このたったひとつ。イオリちゃんの協力はありがたいけど、私の想定では移動以外に使うつもりはないわ。予備というか、存在しないと思っていていい。失敗したら、後のことは任せるわ。何事にもとらわれず、常に臨機応変に。何事も気を抜かず、常に真摯に。そうじゃなきゃ、簡単に死んじゃうから」


 アラスールは最後の全員を見渡して、自然に微笑んだ。

 それが激励のようにも、威圧のようにも見える彼女は、普段、何を見ているのだろうか。


「それじゃみんな、よろしくね」


―――***―――


 それからの2週間は、取り立てて大きな出来事もなく、平穏無事に過ぎ去ったと思う。


 魔術師隊の支部で作戦を立てて以降、魔術師隊の介入もなく、アキラたちはヘヴンズゲートで日々を過ごした。

 時折依頼を受け、依頼の無い日は、リリルとよく話をしたと思う。


 エリーやエレナにはよく買い物に付き合わされたが、いよいよ休まりたくなるとティアの実家にお邪魔して、図書館と見紛うようなティアの部屋で漫画を一緒に読んだ。

 不安で押し潰されそうなのは自分だけなのか、ティアはいつのも調子で元気に笑っていた。

 ティアに案内してもらって、共に両親の墓前に立ったときも、彼女は、笑っていた。


 グラウスとは別段話をすることはなかった。ただ、あの支部長のルーフにこっそりと話を聞いたところ、グラウスの協力は得られたそうだ。ティアと過ごしているときも、鉄火場から音が響いていたのを覚えている。


 イオリとは顔を合わせ辛かったのだが、日が経つにつれてお互いいつもの調子に戻れたと思う。

 魔術師隊の支部でリリルと過ごしていたときも、よく現れてはいつものように冷静に作戦の復習をしてくれた。

 イオリには、自分以上に、リリルへ思い入れがあるのかもしれない。


 いたって平和な生活を起ってはいたが、日々激しさを増すサクとの鍛錬が精神の状態を常に高ぶらせてくれた。

 日輪属性とは便利なものだ。身体中に青あざができても、簡単な治癒魔術で元に戻る。

 それを知ったからか、サクの攻撃は鋭さを増し、試しに数えてみたら1回の鍛錬で10は死んでいた。

 念のための秘石の係を任されたこともあり、使い方を聞いているのか、イオリと共にいるのもよく見かけるようになった。

 真面目な彼女は、過ごす日々そのすべてに緊張感をもって取り組んでいるのだろう。


 緊張感という意味では、エレナも妙にやる気を出していたようだ。

 普段は遊び惚けているように見えるが、姿が見えないときには依頼を受けに行っているようだ。

 ただの暇潰しなのかもしれないが、エレナの力でそれをやられると、依頼が根こそぎ消滅し、ヘヴンズゲートの人々の生態系を崩すようなものだった。

 自重を促そうにも、勤勉に働いているだけの彼女は責められない。依頼の報酬が、遊ぶ金としてあっという間に消えていっているのは、ある意味経済を潤滑にしているのかもしれない。


 街でたまにすれ違うアラスールには、また違う女性を連れているとよくからかわれた気がする。

 エリーといるときが最もしつこかったが、大抵はこちらが何かを言い出す前にどこかへ行ってしまう。


 しかし、その去り際に、彼女は必ず言うのだ。自分たちが非日常にいることを、忘れさせないように。

 最後に聞いたのは3日前。


 あと3日、と。


 そして、“その日”。

 現場の指揮を執るアラスールが最初に下した命令は―――


―――魔門破壊の中止だった。


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