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おんりーらぶ!?【第二部】  作者: コー
南の大陸『シリスティア』編
16/68

第27話『その、始まりは(中編)』

―――***―――


「ふふふ、うん、まあ、思ったよりは動きやすいわね。実はあたし、ローブってなんか煩わしいのかも、とか思ってたんだけど、……なによ、肩とか全然上がるじゃない。それに、軽いし。それなのに、それなのによ? 翻ったりしないんだから。やっぱり魔術師隊ともなればこうでなくちゃ」

「ほんっっっとうに嬉しそうだな。“ティア”」

「なーに言ってんのよ。あたしはエリにゃんだってば。まったくもう、しっかりしてよねっ」

「エリにゃんつったか今?」


 また得意げに、ふふふ、とエリー。

 まさしくティアのようにはしゃぐ彼女は―――はたしてどこまで上機嫌なのだろうか。

 アキラが呆れたように出した皮肉交じりの言葉にさして反発も見せず、風と戯れているようにくるくると回っている。


 夕方からの依頼が目前まで迫った、ガールスロの宿屋の庭。

 ゆっくりと沈んでいく太陽の光を横から浴び、エリーは満面の笑みを浮かべ続けていた。


 原因は、やはりその服装。

 どうやら今回の依頼では自分たちは旅の魔術師を装わなければならないらしい。先ほどエリーが行ってきたという事前の打ち合わせで受け取ったらしいその服は、高級感を思わせる漆黒の生地と、胸にオレンジのエンブレムがついた―――魔術師隊のローブだ。


 魔術師試験を受けるものならば誰もが憧れ、そして得難いその制服の魅力にやられたエリーは―――もうダメだとアキラは感じていた。


 かく言うアキラも同じく魔術師隊のローブを着用している。

 普段着の上からでも羽織れ、かつ着膨れしないこの服は、エリーではないが確かに着心地がいいと思えた。

 アキラもエリーも服の上から羽織っているのだが、重ね着特有のごわついた感覚がまるで無い。

 が、服装にはあまり関心の強くないアキラにとっては、その程度だ。

 一応僅かな期間、魔術師隊を目指したこともあったのだが、その服を着られたからといって風と戯れる気には流石になれない。


 いつもの通り背負った剣―――ローブの中に入れるのには無理があった―――がガシャリと無機質な音が響くも、エリーは変わらず上機嫌でアキラに話しかけてくる。


―――ただ、アキラは、極力視線を外していた。


 そして、頭を抱えながら切に祈る。


 早く。2人とも、早く来てくれ。


「まったく、サクさんもティアも遅いわねぇ。魔術師隊は時間厳守なのに」


 アキラの元に僅かな鼻歌まで聞こえてきた。

 今なら彼女に何をしても、笑って許されるような気さえしてくる。


 普段自分に魔術の講師として触れ、冷静な面をよく見ていた記憶があるのだが、やはりエリーも年相応の女の子。憧れた対象に触れれば、こうした一面も持っているのだろう。

 今もエリーは踊るようにはしゃぎながら『まだかなぁ、まだかなぁ』と呟き続けている。


「はあ……、サクは刀の手入れの片付け、ティアは思いっ切り寝てたんだろ? もう少しかかるって。大体、依頼の時間にはまだあるじゃねぇかよ」

「時間厳守、よ。そういうとこ、びしっとしていかないと」


 すっかり魔術師隊気取りである。

 エリーのその様子に、アキラは冷ややかな視線を向けることに抵抗を感じ、視線を逸らした。

 あまり見られないエリーのここまでの上機嫌に触れられ、アキラも内心気分のいいものを感じているのだが、庭の向こう、宿屋の門の前を時たま通る人々がちらほら視線を向けてきては―――これはもう、あれだ。ティアだ。


「お前な。経験者として言っておくけど、浮かれたあとに待ってるのは壮絶な自己嫌悪だからな」

「いいのよ。一回でいいから着てみたかったの。今はしゃがないでいつはしゃぐのよ?」


 正論のようで、何かがズレた言葉をエリーは返してきた。

 アキラはそれ以上の批判を止め、視線を宿屋の戸に向ける。

 両開きの扉は閉ざされ、当然無言。そういえばこの街で出会ったリンダという女性もこの宿に泊まっていたはずだが、もう行ってしまったのだろうか。

 アキラが何となく思考をリンダが運んでいた巨大な円柱に向けていると、宿屋の扉がゆっくりと開いた。


「待たせた。……が、まだ時間はあるか」


 同じく魔術師隊の漆黒のローブを羽織ったサクが姿を現した。

 いつもの紅い着物のような羽織りは脱いでいるのか、ローブはサクにぴったりと吸いつき、身体のラインが良く見える。そしてつい先ほどまで手入れをしていたらしい自慢の愛刀は、アキラと同じくローブの外に装着していた。


「おっそいわよ、サクさん。時間はまだって言っても護衛依頼。敵はいつ来るか分からないんだから」

「…………随分と上機嫌だな。どこかで見覚えある落ち着きのなさだが、誰だったか」

「ああ。若干俺も引き気味だ」

「まあ、いつもはお前たちがあそこにいて、私とエリーさんとが冷ややかな視線を向けているんだがな」

「え、マジで?」


 客観的に見ると、アキラはいつも今のエリーのような状態なのだろうか。

 浮かれたあとの自己嫌悪は、エリーよりも先にアキラに湧き上がってきた。


「それよりサク、そのティアは?」

「ああ。起きるなりローブを見て目を輝かせていたよ。私は逃げてきたが…………、耳栓でも用意しておくべきだったかな」


 今からあれがもう1人増えるのか。

 アキラは意味もなく庭をうろつき回っているエリーを見て、額に手を当てた。

 この“勇者様御一行”の、声の音量2トップが今から騒ぎ立てると思うと、今度こそ全員宿屋の店主に捕まり、依頼は遅刻するかもしれない。


 加えてティアは朝の鍛錬で魔力を使い果たし、精気をこの時間まで蓄えていた。

 新たな力を手に入れたというのに、本日の依頼に参加できないと思われたティアに全員が頭を抱えたが、どうやら“間に合ってしまった”ようだ。

 それはもう、見事な大爆発を見せてくれるかもしれない。


 アキラは僅かに背筋を震わせていると、背後の戸が、ゆっくりと開いた。

 さあ、来るぞ。


「……あのぅ」

「?」


 予想に反して、か細い声。

 アキラもサクも怪訝な視線を戸に向けると、予想通りの人間が予想外のテンションで現れた。


「……このローブって、サイズ固定なんですか? 何か裾が長くて……、あっし、ここに来るまで何回転んだことか……ぐすっ」

「お前もうそれ脱げ!! 民間人に偽装しろ!!」

「ひどっ!?」


――――――


 おんりーらぶ!?


――――――


 ガールスロの貴族、フォルスマン家が構える巨大な屋敷は、なるほど確かに貴族という地位に相応しいものだった。


 まず、門構え。

 純粋な銀でも使っているのか、両開きの重厚な門は夕日を浴びながらきらびやかに輝き、高さはアキラの背丈の倍ほどもある。

 それに連なり屋敷を囲うシミ一つない白い塀は右にずーっと、左にずーっと。児童でも分かるような表現を用いることこそが最適とでも思えるほど延々と敷地を形作っていた。

 比較的大きな町とはいえ、左右の角が透けかけて見えるというのだから最早笑うしかない。


 そして、その囲いの中。

 要塞のように佇む門や壁のせいで庭は見えないが、それでもでん、いや、ずぅぅぅん、と君臨する巨大な屋敷は否が応でも目に入る。

 シンメトリーに形作られた屋敷―――いや、最早宮殿だろうか―――は、夕日を浴びて赤く輝く窓ガラスが無数に張り付けられていた。


 まるでどこかのホテルのようだ。5階建ての四角形の巨大な建物。通常窓というものは、腰より高い位置についているものもあるべきなのだろうが、目の前の屋敷に張られた窓は総て足元から天井まで伸びる大窓だ。窓以外の壁は、周囲の塀と同じく純白に塗られている。

 窓から中を覗おうとしても、どうやら外からは覗けない仕組みになっているらしく、普段は周囲の塀や壁を反射して白く見えるのだろう。


 ガラスの館とでも形容すべきその建物は、今は紅く輝き、幻想的にさえ見える。


 宿屋からでも見えてはいたが、門の前で見るとここまで巨大だとは。

 金と言うのは、あるところにはあるものらしい。


「……この人、世界買えるんじゃね?」


 ガラスの館の前で呟いたアキラに、隣のサクが苦笑した。


「まあ、こういう水準の家は他にもないわけではない。ただ、この家は一部他の貴族にも公開されているらしくてな。今は時期が違うが……、あと少し経てば予約が入るようになるらしい」


 先ほどエリーがティアの面倒をみている間に宿屋の主人に聞いてきたらしい。サクは言葉通りこの巨大な屋敷に気圧されてはいないようだった。

 リンダの話では、フォルスマン家はこの街を栄えさせたこと以外何も行っていないそうだが、この屋敷を構えられる潤沢な資金は、他の貴族から流れてきたものらしい。


「ま、ここで突っ立っててもしょうがない。ほら、いけよ。『護衛任務のため参りました!!』って元気よく一発」

「止めて……、今は……無理。止めてぇ……」

「……ああ、今その時期か。安心しろ。もうしばらくすれば過去の自分を忘れられる」


 経験者として。アキラは隣で僅かに顔を伏せているエリーに助言を与えた。

 エリーの紅い後頭部を眺め、アキラはすぐに視線を外す。


 ひとしきり着心地を試したエリーの表情が落ち着きを取り戻したのはティアの服装を正し終えてからだった。

 目の前で動く数分前の自分の虚像に、エリーは何かを正しく理解し、そしてずっと顔を上げようとしない。


 対して、ティアは、


「えへへへ、えへへへへっ」


 超がつくほど上機嫌である。

 その喜びは、簡易的に裾を上げて転ばなくなったからか、それともエリーと同じ理由か。

 ともあれティアは、満面の、というよりは気恥しさの中に上機嫌を覗かせているような含み笑いを浮かべ続けている。


 この2人は、テンションの受け渡しでもしたのだろうか。


「これから、い、ら、い! 俺がこういうこと言うのは自分でもびっくりだよ!!」

「お前以上に、私が驚いている」


 唯一の頼りどころはサクだけか。

 アキラは他にも頼りのあてを求めて周囲を覗ったが、リンダも、あの鎧の男―――グリースも未だ現れていない。

 そろそろ依頼の時間だとは思うのだが、視界に映るのは遠くが透けるように続く巨大な塀だけだ。


「はあ……、まあいいか。よし、ティア。呼んでくれ」

「まっかせっんしゃいっ。たっ、のもーーーっ!!!!」


 魔術師隊に偽装している意味を完全に失うようなティアの大声が屋敷の前で響き渡り、それからほどなくして巨大な銀の門がゆっくりと開き始めた。


―――***―――


 プロセス1―――定義。

 脳に内在している情報を、“根底レベルから定義”。

 例えばジグソーパズルのピースなら、嵌る込む位置、その形状材質、絵が描かれていることによる厚みの凹凸に至るまで、徹底的なドリルダウンで分析を行う。


 プロセス2―――再定義。

 プロセス1の結果を元に、“時という巨大な影響を勘案して再定義”。

 例えばジグソーパズルのピースなら、時間の経過とともに摩耗する可能性を考慮し、本来収まるべき以外の場所に嵌り込む可能性、今後代替品としてパーツが増加する可能性、交換されたパーツはジグソーパズルとしてではなく極端に小さなメモ帳として使用されてしまう可能性、それら総てをパーツ一つ一つに対して見積もる。


 プロセス3―――整理。

 プロセス2の結果を元に、“総ての事象が最も自然に収まるよう整理”。

 例えばジグソーパズルのピースなら、壊れたピースは別の場所に嵌め込み、あるいは廃棄し、代替品として現れる新たなピースの形状は想像する―――“世界の在るべき姿”を軸として。


 プロセス3後。

 視えてくるのはプロセスを始める前とはまるで違った絵。しかしそれらは秩序を保って整列し、元の絵の面影を残している。


 見る人が見ればすぐにでも分かるこの絵は―――“未来”。


―――その、はずだった。


「はあ……、はあ……、はあ……、く」


 リンダ=リュースは頭の中で火花が散るのを感じた。

 極めてロジカルに設計が行われていたはずの目の前の絵が、バラバラと崩れていく。


 リンダは僅かに震えた手で肩から垂れさせている自分の髪をさすった。

 じっとりと汗ばんだ手のひらは、まるで海藻でも触っているような感触を届け、リンダは思わず纏った純白のローブで拭う。

 布越しに触った身体は、異常なほど熱かった。


「……、ふう……、ふう……」

 肩で息をし、のろのろと立ち上がる。


 自分が今まで座っていた宿屋の一室の中間から離れると、窓から夜風が漂ってきた。随分と長い間、自分は“向こう”を覗こうとしていたらしい。


 ベッド脇に置いてある水差しに近づき、コップにも移さずそのままぐびぐびと煽る。

 生ぬるい水だが、乾き切った喉を潤すには十分だった。


 空になった水差しを落とすようにベッドに置く。

 その隣にぼすんと座り込み、リンダは、奥歯を噛んで額に手を当てた。


―――“失敗だ”。


「リンダ!! おい、いるんだろ!?」


 部屋の外から、騒々しい男の声が聞こえた。ガンガンとドアが叩かれる。

 リンダは返答するのも億劫で、小さな咳払いだけを返した。

 冷えた飲み物でも持ってきているのであれば、開けてやらないこともないが。


「いるんじゃねぇか!! おい、開けろって!!」

「今私、汗だくでローブ透けてるんだけど、…………変態」


 ピタリ、とドアを叩く音が止んだ。

 リンダは満足し、ベッドに寝そべる。転がっていた水差しに背を打ったが、気にせず跳ね除け天井を仰ぐ。窓からの風は、やはり気持ちがいい。


 これで先ほどの“儀式”も成功していれば言うことはなかったのだが。


 おかしい。

 リンダはここ数ヶ月抱える自己への“異変”に、憤りを感じた。


 プロセス2までは、問題なく終了する。

 “定義”と“再定義”。リンダが持ち得ない情報ですら不思議と頭に湧き上がり、パズルのピースは今見える静的なものは、今後の変動を組み込んだ動的なものに変貌していく。

 “理論も何もなく”、世界総てが“次”へ向かうようにざわめくのだ。


 リンダは世界を最も表しているのは、地理学者の発表でも分厚い地理の本でもないと思っている。

 地理学者の発表は過去の洞察が大半であるし、分厚い地理の本は地理学者の発表をその時点で固定しているだけだ。


 世界を最も表しているもの―――それは、子供が遊ぶ世界地図のジグソーパズルだ。


 世界は刻一刻と姿を変えていく。秩序を保った完成形から、パズルのピースは動き続けるのだ。


 その点、子供は―――分かってはいないだろうが―――嵌らない場所に力ずくでピースをねじ込むことがある。

 気に入った1つのピースを大事に抱え込んだりすることもある。

 粗末に扱い、ピースを破損させたり紛失させたりすることすらある。


 残ったピースだけで強引に創る絵は、完成形とはほど遠いのだろうが―――それは世界が姿を変えていく様に似ていた。


 そして、リンダは。

 あたかもその子供の親のように、パズルのピースの行く末を察し、新たな玩具を考え始める。


 それこそが―――この“儀式”。

 だが、結果は失敗だ。


 何故か、“ノイズ”が混ざっている。


 親子以外の第三者が、パズルのピースを抜き取ったように、あるいは別のパズルのピースを混ぜ込ませたように―――絵は決して完成しない。


 一体、何故。


 リンダは一瞬思考を巡らせ、しかし“分かるはずもない”と自分で察して思考を止めた。

 プロセスは踏んでいるが、その根拠は自分には―――いや、恐らく誰にも分からない。


 あの、“儀式”。

 そのとき自分は、世界の裏側から得体の知れないものを呼び寄せ、理解もしていないのに押し進めているだけなのだから。


「…………お前。また“アレ”やってたのか」


 ドア越しの声が再開された。

 リンダは頭を振って虚ろな視線をドアに向ける。


「お前最近不調なんだろ? 原因とか分かったのか?」

「言ったところで分からないでしょう? 私が何をしようとして、何につまずいているのかを理解できる人間なんて……まずいない」

「一応調べるだけはできるかもしれないだろ。“みんな”に話せば、何かしら―――」

「グリース」


 リンダはドアの外の男―――グリースに冷たい声を返した。


「絶対に無理。“魔法を魔術に落とし込まなきゃ使えない人たち”と、私には決定的な差があるの。主に、“属性”とか。あとは、属性とか属性とか」


 リンダはそう言って、瞳を閉じた。

 誰にも分かるはずがない。先ほどのプロセスもそうだ。聞いて何の手順を踏んでいるのか分かる者など、余程“概念的”な話に慣れた者でも不可能に近い。


 あやふやなものを、あやふやなまま使用する。

 その、“あまりに希少な属性”は、悩みに直面しても、誰にも助けを求められない“呪い”のようなものなのだ。


「なあリンダ。……そろそろ時間だ」


 リンダははっと目を開けた。

 日はとっくに落ちている。グリースの言葉は急かせてはいないようだったが、明らかに依頼の時間は過ぎていた。


「私としたことが……!!」

「ゆっくりでいいさ。簡単な打ち合わせなら昼過ぎにしたし、な」


 あくまで落ち着いているグリースの声に、リンダはため息交じりに苦笑し、言葉を返した。


「気を使ってるつもり? グリースのくせに生意気ね」

「ぶっ殺すぞ、お前」


 いつもとは違う軽い言葉が聞こえ、リンダは視線を隅に置いてあるクローゼットに移した。


 半開きになった扉からは、漆黒のローブが姿を覗かせている。

 “儀式”を始める前、グリースが今日の依頼着だと言って渡してきたものだ。


 リンダはローブを取り出し、僅かに目を細めたあと、速やかに袖を通した。


―――***―――


 ああ、これが貴族か。


 アキラは目の前の中年の男を見て、素直に貴族という事実を受け止められた。

 お世辞にも中肉中背とは表現し難い恰幅のいいその男は、赤と金を基調とした分厚いローブに身を包んでおり、さらに膨れて見える。

 口元には大層立派なひげを蓄え、先端はナマズのように左右に伸びていた。

 髪の色は金。染めているのか地毛なのかは判断がつかなかったが、日が沈んだ今もなお照明灯の光を浴びて輝いて見えた。

 左右の手の指には、それぞれ3つずつ宝石の指輪が備わっている。


 この男が色彩を欠けば、確かに街中にあったあの不気味な銅像になるだろう。


 ここまでくると貴族というより成金にしか見えないその男が姿を現したのは、巨大な屋敷の門。

 ティアの大声で開いた門の奥―――屋敷から、エリーが出会ったという執事長のオベルト=ゴンドルフを引き連れ、今はアキラたち4人と向き合うように立っている。


 その男は、当然のように、サッシュ=フォルスマンと名乗った。


「遠路はるばるおいでいただいたようで、まことに感謝いたします。魔術師隊の皆さま」


 僅かに甲高い声。開いたサッシュの口はカエルのように横長く、中からは真っ白な歯を覗かせていた。

 想像以上に不気味な人物であったが、とりあえず―――裾がずり落ちてきたのか忙しなくローブを正すティアを見ても―――自分たちを魔術師隊と誤認してくれているようだ。


「オベルト。説明を」

「はい」


 サッシュとは違い、黒いスーツに身を包んだオベルトが1歩前へ出る。

 門を中間にして向き合っているというのも奇妙だと思ったが、アキラは“元の世界”の紅白歌合戦にでも出場できそうなサッシュの衣装から目が離せなかった。


「“事前にお知らせした通り”、実は昨日、我が主が妙な光を見たとおっしゃいまして」


 オベルトは僅かに視線をエリーに向けて説明を始めた。先ほどエリーにも聞いた話だ。

 中には通さず、本当にここで話すらしい。

 定刻に現れなかったのだから仕方ないとも思うが、リンダたちを待つこともせずオベルトは依頼を開始するようだ。


「方向はここから東。ご存じの通り、この街の唯一の入口とも言える、あの森林です」


 オベルトの淡白な説明が続く。

 その間サッシュは、きょろきょろと周囲をアキラたちに視線を走らせていた。旅の魔術師だとばれぬよう、アキラは姿勢をさらに正す。


「その奇妙な光、というのは、一体……?」


 そこで、サクが口を挟んだ。

 一応エリーから説明を受けたはずだが、彼女なりにもう1度情報を整理したいらしい。


「奇妙な光だった」


 口を開いたのはサッシュだ。しかし、何ら情報は増えない。

 サクが目を細めると、サッシュは体格のせいでのけ反ったような体勢のまま言葉を続ける。


「私が夜中目を覚ますと、チカリと森の中で何かが光ったんだ」


 サッシュは背後の巨大な屋敷の、その天辺。中央に伸びる高い高い塔を見上げた。あそこがサッシュの寝室なのだろうか。


「…………その光は、」

「魔力色……だろうか」


 サッシュは眉を潜め、当時の光景を思い起こすように目を閉じた。


「色は?」

「分からん……。だが、確かに光ったんだ。松明などでは断じてない」


 サッシュは要領の得ない答えを返してくる。

 確かに夜中にちらりと見た程度では詳細に覚えているのも無理な話だろう。


 だが、アキラは頭を抱えた。

 子供ではないのだから、夜中に奇妙な光が見えたくらいで騒ぎ立てないで欲しい。

 “反旅の魔術師運動”とやらで狙われる立場であっても、それだけで魔術師隊を動かそうとするのはあまりに不規律だ。


「それは、本当に魔力色だったのか? たまたま星が瞬いたとか……、そういう」

「魔力色……の可能性がある」


 今度は言い淀み、サッシュは顔を伏せた。

 これでは本当に子供の言い分だ。アキラは聞こえるかもしれないのに思わずため息を吐き出してしまった。何ら根拠がないというのに、多忙であろう魔術師隊を引っ張り出してくるとは。

 リンダはサッシュ=フォルスマンとオベルト=ゴンドルフに気をつけろ、と言っていたが、サッシュは虐められている子供のように俯き、オベルトはだらしない主人を憐れむように横目を向けている。


「相手に……、まあ、その、心当たりは? せめて相手の人数くらいは知りたいのだが」


 サクも辟易したように、質問を続ける。

 しかしサッシュは、この質問にも首を振った。


「……分からないんだ。だが、きっと、その、多くはないと思う」

「サッシュ様。私が説明した方が?」

「……頼む」


 この屋敷は実質オベルトが管理しているのかもしれない。

 見た目は派手だというのに感情が不安定なサッシュと、見た目そのままに理路整然としたオベルト。

 明らかに、手綱を担っている者が逆だ。


「恥を忍んで言いますが……、ご存知の方もいるでしょう。我が主は、旅の魔術師に否定的な意見をお持ちなのです」


 隣のエリーがピクリと震えた。

 アキラも連動して身体を震わす。質問したのはこちらだが、そういう言葉は、特にサッシュの前では暗黙の了解という位置に留めておくべきではないのだろうか。

 ただそういえば、とアキラは思い直す。

 自分たちは今、魔術師隊なのだ。魔術師隊も旅の魔術師を嫌っているのだから、整合性はとれているのかもしれない。

 一応最近の魔術師隊は、旅の魔術師を受け入れる体勢を構築しつつあるのだけど。


「ですので、“反貴族”の旅の魔術師一派かと。人数は、……申し訳ありませんが分かりかねます」


 あまり多くはないと信じたいですが、とオベルトは続けた。

 アキラの前に、驚くほど計画性のない依頼が広がっていく。


「敵も不確か。人数も分からない。おまけに本当に敵なのかどうかも、本日来るのかも分からない……か」


 サクは淡々と言葉を吐き出した。

 それは、目の前の2人に対しての言葉のようにも、自分の中の情報を整理するような言葉にも聞こえる。


「それでは対応しようがない。まさか敵が襲ってくるまで私たちにここにいろ、と言っているのか? それならば、街の魔術師に頼んでくれ。この街にもいるだろう?」

「街の魔術師には街の巡回強化を依頼しております。ですが例の魔族騒ぎで数名駆り出され……柔軟に対応できる遊撃がいないのです」

「戻ってくるのは?」

「早ければ明日、とのことです」


 もし本当に敵が襲ってくるのであれば、その隙を縫ったのかもしれない。

 本来街の魔術師が街の外に駆り出されることはないはずだが、このガールスロは“あの港町”の近隣の街だ。

 地形ゆえに守りが堅いこのガールスロから数名が派遣されたのだろう。

 アキラの中で、僅かに合点がいった。


「……今は、街中が不安な心境でね」


 ぽそり、とサッシュから声が漏れた。

 視線を向ければサッシュは、僅かに自虐的な笑みを浮かべている。


「“私がいるせいで”、みな毎日びくびくしている。それでも、この地形と街の魔術師隊お陰で何とか、ね。だが、あの“魔族”騒ぎだ」

 サッシュはぎゅっと拳を握った。


「近隣の街に魔族の出現。少なくなった街の護衛。こうなれば、誰もが不安になる。私はあくまで貴族だが、この街の治安には責任と誇りを持っているつもりだ」


 サッシュの視線が僅かに強くなり、僅かに東の方向を眺めた。その方向には、昨夜奇妙な光を見たという森林がある。


「見逃さないでよかった。僅かでも、“危険の可能性”を。あれはきっと、街に害を及ぼす。私のせいで、街に被害を与えるわけにはいかんのだよ。だから、」


 サッシュは―――たまたま正面にいたからか、属性のスキルが発動したからかは定かではないが―――アキラの瞳をまっすぐと見据えてきた。


「今日1日だけ。お力を、お貸し願いたい……!!」


 仰々しい衣服に反し、サッシュは頭を下げてきた。

 アキラは気圧され、口を開けない。


 この貴族が嫌っているのは、旅の魔術師。だが、それさえ除けば、願うのは街の平和なのだろう。

 あまりに真摯なサッシュの態度は、自分が旅の魔術師でさえなければ、きっと清々しかったはずだ。

 アキラはそれが、僅かに悔しいと感じた。


「…………それで、私たちは具体的には何をすればいいんだ?」


 サクは一拍置き、いつしか依頼への心構えを完了させていた。

 鋭いその瞳を受け、オベルトがゆっくりと口を開く。


「相手の規模は……、先ほども申しましたが、不明です。ですので、皆様には“囮役”をかっていただきたい」

「囮?」

「ええ」


 オベルトは視線を屋敷に移し、肩を落とした。


「実は今、皆様を立たせたままお話をさせていただいたのも……、この屋敷は現在“改造”されているからです。中には侵入者を逃がさぬよう、多種多様なトラップを仕掛けておきました」


 そう聞いても、アキラには目の前の屋敷がただ巨大であるということしか分からなかった。

 だが、改造という言葉を聞き、感覚的に屋敷の凄味が増したように感じる。


 それにしても、“トラップ”。

 アキラはその意図が分からず、オベルトに眉を潜めて顔を向けた。


「……私は反対したのですが、」

「オベルト」

「失礼いたしました」


 オベルトが思わず漏らしてしまった言葉に、サッシュが鋭く視線を走らせた。

 委縮したオベルトは、一歩下がる。


「賊は街に入ったのち、一直線にこの屋敷を目指すだろう。しかし入口からここへは大分距離がある。下手に迎え撃てば街に被害が及んでしまう」


 サッシュは険しい顔つきを作り、しかしすぐにイタズラを思いついた子供のような表情を浮かべた。

 不気味な姿のサッシュだったが、慣れからか、アキラには愛嬌のある姿に見えてくる。


「ならばいっそ、ここへ招いてしまおうというわけだ。私を狙う賊は屋敷に侵入。しかし、外へは出られない。魔術師隊の方々には、賊をこの場に上手く誘導してもらおうというわけだ」


 初めて具体的な話を聞けた。

 外に出られない仕掛けとやらの詳細は分からないが、とりあえず作戦は、この屋敷に敵を閉じ込めることらしい。

 街の入り口からここまでは大分距離がある。

 相手の人数いかんによっては、陽動は容易ではないだろうが、それでも街の中で戦闘を繰り広げるよりは遥かに安全だ。


「その上、私はこの屋敷ではなく離れた小屋に潜んでおく。これで賊は目的も果たせず、無人の屋敷に閉じ込められる。どうだ?」


 サッシュは目を輝かせ、アキラたちの顔を覗ってきた。

 確かに、この屋敷は目印になるだろう。成功率の高そうな作戦だ。


 しかしその後ろ、オベルトは、どこか暗い顔をしていた。


「サッシュ様……、この期に及んで、ですが……、やはり私は反対です。この屋敷は、フォルスマン家のシンボルとも言えるもの」

「そうだな。そして、このガールスロのシンボルでもある」

「……閉じ込められた中で賊が暴れれば、損害は免れません。やはり、森林で迎え撃っていただいた方が……」


 屋敷が辿る結末は見えている。

 閉じ込められれば、敵は屋敷の中で暴れ回るだろう。

 アキラはもう一度屋敷を眺めた。シンメトリーに形作られた、ガラスの館。他の貴族たちも泊まりに来るほどというこの場所は、まさしくガールスロのシンボルだ。

 それを投げ出せば、貴族としての顔に泥を塗ることになるかもしれない。

 僅かに街に被害の負担を配賦すれば、この屋敷を守り切ることもできるだろう。


 だが、アキラはどこか確信に満ちた視線をサッシュに送っていた。

 きっと、作戦は決行される。


 何故なら、サッシュはオベルトの言葉に、僅かにも日和らず、


「オベルトよ」


 今までで最も重い声を出した。


「だからお前は、“貴族の執事長止まり”なのだ」


 アキラはそこで、手綱を握っているのがサッシュであると確信した。

 オベルトは脳天を打ち抜かれたように目を開き、さらに一歩下がって首を垂れる。


 サッシュはオベルトに向けた強さそのままに、アキラたちに視線を移し、声を張った。


「4人、か。ならば2人は街の入り口で森林の監視。もう2人は屋敷に向かう途中のルートで待機。賊が現れたら、つかず離れずで屋敷に誘導していただきたい。それが作戦だ。よろしいか?」


 やはりこれは日輪属性のせいだ。

 サッシュの鋭い視線はアキラで止まり、アキラはこくりと頷いた。


「我々はこれより罠の調整を終えたのち、屋敷の外に身を隠す。場所は崖側の方にするつもりだが……、まあ、説明するより地図を渡しておこう。オベルト」

「はい」


 オベルトがアキラに歩み寄り、胸ポケットから折りたたまれた紙を渡してきた。

 開いてみると、どうやらそれは街の崖側の地図のようで、1ヶ所赤く塗られている地点があった。

 倉庫か何かなのか、民家と離れたそこは、あまり人が寄りつきそうにない。


「事が済んだら、呼びに来てくれ。では、頼む」


 いの一番にオベルトが頭を下げ、次にサッシュが頭を下げる。

 オベルトが頭を上げて門を閉めるまで、サッシュは頭を上げなかった。


「…………ま、組み分け、しよっか」

「え、ええ、そうね」


 アキラが最初に呟き、エリーがようやく口を開いた。

 結局貴族に気圧された形になったが、街を守るモチベーションは高まっている。


 敵が来るかは分からない。だが、その僅かな“危険の可能性”にさえ、注意を向けるべき事件なのかもしれなかった。


「手っ取り早くくじ引きとかでいいよな? とっとと入口見張らないと、さ。……ん?」


 とりあえずは移動しようとエリーとサクが歩き出した。

 アキラが追うように1歩踏み出そうとしたところで、羽織ったローブがつんと引かれた。

 振り返ればティアが、どこかぼうっとしたような表情を浮かべている。


「おお、ティア。よく騒がなかったな、偉いぞ」

「アッキー。今のお言葉、ちくっと胸に刺さりました。…………って、それはともかく、何なんでしょう……、なんか、変です」

「変? じゃあ、いつも通りだ」

「今度はぐさっとです」


 ティアはどこか腑に落ちない表情を浮かべ、首を傾ける。


「どうしたんだよ?」

「いえ…………、街を守るのは大歓迎なんですが、…………ちょっと気になるんですよ」


 ティアは眉を潜め、何かを思い出すような表情を浮かべた。


「お父さんとお母さんに聞いたんですけど、街の魔術師隊と国の魔術師隊って、全然違うんですよ。戦闘力はもちろん、その……言い方は悪いですけど、経験とか、能力とか」


 そういえばティアの両親は共にかつて魔術師隊だったらしい。

 断片的にしか聞いてはいないが、恐らくは国の魔術師隊に属していたようだった。


「極端に言えば、1つの街の魔術師隊の皆さんと、国の魔術師1人は等価とさえ言われてます。もちろん、配属されたばかりじゃ能力に差は無いんですけど」

「? ……えっと、つまり俺らが若すぎて国の魔術師に見えない、って話か?」

「いえ……、まあ、それもあるんですけど、……ここの街の魔術師隊の何人かは、今パックラーラに一時的に派遣されてるんですよね? すぐ近くの」


 話が見えてこない。

 アキラは結論を急かすように視線を送り、ティアの言葉を待った。

 サッシュの真摯な訴えを聞き、今すぐにでも配置につきたかったが、しかし、何故かティアの言葉は妙に耳に残る。


「だったら、国の魔術師をパックラーラに行かせて―――“派遣されている人たち呼び戻した方がよかったんじゃないですかね”? いや、国の魔術師に協力を断られたなら仕方ないですが」


 そもそも、待て。

 ティアの言葉で、アキラにも疑問が浮かんだ。


 自分たちは、サッシュに魔術師隊が到着したと思わせるためにこのローブを羽織っている。

 だがそもそも、サッシュは“どこから国の魔術師隊が現れたと思っているのか”。


 サッシュが奇妙な光とやらを見たのは昨夜の話だ。

 それから1日も経たないのに国から魔術師隊が派遣されてきていることになる。


 例の港町での“魔族”騒ぎを思い出す。

 あの緊急事態でさえ、魔道士隊や魔術師隊が出動するのは翌日の昼と言われていたのだ。到着はもっと遅くなる。


 理由は、連絡手段が限られている上に時間も深夜だったこと。

 それは、まさしく今の状況ではないだろうか。


 ならば、今魔道士隊や魔術師隊がひしめくパックラーラから来たと思っているのだろうか。

 だがそれならば、それこそティアの言うように、このガールスロの街の魔術師を呼び戻せばよい。

 この依頼は、そもそもその街の魔術師隊が手薄になったから発生したものなのだから。


「…………街の戦力、高い方がいいと思ったんだろ。貴族のコネとか使って、国の魔術師を呼んだつもりだったんじゃないか」

「……はっ、貴族ってやっぱり凄いんですね!!」


 ティアは納得したようだが、アキラは自分の言葉にまるで説得力がないことに気づいていた。

 魔術師隊の立場を考えてみればいい。

 奇妙な光を見た、という程度では、国の魔術師という戦力は“魔族”の調査に充てるべきなのだ。


 ここは―――どうせ人数稼ぎに駆り出されたのであろう―――街の魔術師の派遣を解き、このガールスロの街の魔術師を戻すとするのがしっくりくる。


 サッシュもその辺りは察するはずだろう。

 街を想うあまり気が回らなかったか、それともオベルトに上手く誤魔化されたのかもしれない。

 だがどの道、疑念は残る。


「……、あ、ほら!! 早く組み分けするわよ!!」


 アキラたちがついてこないことに気づいたエリーが、声を張り上げてきた。

 アキラは歩みを早めつつ、もう1度、巨大なガラスの館を見上げる。


 重く閉ざされた銀の扉の向こう、姿の見えないサッシュとオベルトを思い起こしたアキラに、リンダの注意が浮かび上がった。


 貴族は信用するな。


―――***―――


 男は、視線を走らせ隣の仲間と頷き合った。


 ガールスロの東に広がる森林。崖の上の街へ向かうその入口は、夜の深い闇に包まれていた。

 山道の傾斜が始まる辺りからうっそうと生え茂る木々は、月や星の光さえ遮断し、暗い。


 この場の樹木は古くから奇妙な力が宿っていると言い伝えられ、魔物が生息していないことで有名だった。

 有力な説としては樹木ではなくむしろこの山道の地中に魔力を放つ岩石が埋め込まれており、ある種巨大なマジックアイテムと化したこの森林が何らかの力場を発生させているというものがあるが―――ともかくとして、魔物はいない。


 だが、光を閉ざす木々の天井と、自己の鼓動すら聞こえる不気味な静けさが、かえって精神に揺さぶりを与えてくる。

 男は、誰かいると思い身体を震わせたが、それはただの大木から伸びる枝だった。


 息を潜め、慎重に登る。

 流石に必要である光源は、松明ではなく小ぢんまりとしたマジックアイテム。

 高価なその手のひらサイズの石は、淡く紅い光を漏らしていた。


 男は、ちらりと振り返る。

 見れば同じように自分の足元を照らす紅い光を持つ男が―――5人。

 自分を入れて6人が、この場の総戦力だ。


 誰の光も最小限であるし、誰も声一つ漏らさない。

 まだまだガールスロは先ではあるが、もしこの場で“戦闘”が始まれば、居場所を即座に特定されてしまう。


 慎重に、慎重に、しかし確実に。男たちは進んでいく。


 自分たちにとって、これは“大きなこと”なのだ。

 普段なら見向きもしない、高価な照明具にまで手を出してしまっている。後戻りは許されない。


 前へ、前へ、ただ前へ。


 男たちは、ガールスロへ進んでいく。


―――***―――


「ねえ、あんたさ。あたしのノート、どこまで読んだ?」


 ガールスロの入り口と、ガラスの館を直線で結んだそのほぼ中間。

 赤毛の少女は夜風に漆黒のローブを漂わせながら、街の各所に設置された照明灯の下で視線をアキラに送ってきた。


 先ほどのティア状態でも、自己嫌悪の状態でもなく、上の中と表現できる笑みを浮かべるのはエリーことエリサス=アーティ。くじ引きの結果、共にサクとティアをこの場で見送ることになったアキラのパートナーだ。


―――ただ、アキラは、極力視線を外していた。


「……まあ、そこそこ。ただ、お前から習わなかったことも書いてあったんだが」

「まとめて言ったら混乱するでしょ。……まあ、ノート渡してたら同じか。混乱した?」

「いや、どうやら俺はそこそこ頭が良くなってきたらしい」

「気のせいよ。心配しないで。大丈夫だから」

「別に俺馬鹿ってところに誇り持ってないからな!?」


 アキラの叫びを、エリーは聞き流したらしい。照明灯の下で、漆黒のローブが踊るように舞う。

 エリーはやはり、魔術師隊のローブに浮ついているようだ。


 アキラは僅かにむくれてエリーから視線を外した。


「……はあ」

 自分とエリーは、これから敵が来るまでここで待機だ。もし敵が来なければ、朝までここで立ちっぱなしになるかもしれない。

 アキラはこの待ち時間を“詠唱”に割り当てたいところだったが、ノートは宿に置いてきている。依頼前に魔力を消費するのも避けるべきだろう。


 代わりに、アキラは先ほどの貴族との面会を思い起こした。


 奇妙な点がある。

 言ってしまえばそれだけのことなのだが、一度浮かべると頭にこびりついてしまう。


 サッシュやオベルトに、疑念を抱いたわけではない。むしろ、嫌疑を抱くような事前情報があったにもかかわらず、好感を持ったほどだ。

 あの言葉に、嘘偽りがあったとは思えない。

 だが、面会のあとティアの疑問を聞き、そこから何かが膨らんでいく。


 何かが変だ、と。


 アキラは額に、拳を当てる。

 時間はあるはずだ。

 ならば、こういうときこそ最大のアドバンテージを使うべきかもしれない。


 “一週目”の記憶。

 最後に解けたのはあの港町―――パックラーラ。

 それ以降、記憶が薄いのか封が解ける感覚は訪れてはいない。


 だが、恐らく自分たちはこのガールスロに来ているはずなのだ。

 パックラーラからこのガールスロは、程よい距離にある。進行ペースからして、この街に来ている可能性は高い。


 この貴族がらみの事件に巻き込まれたかどうかは定かではないが、アキラは個人的に、これは経験している依頼と考えていた。

 事件の種という弾薬があり、自分というトリガーがこの地に訪れた。


 超常的な論理の飛躍ではあるが、それが当然のこととして起こるということを自分は何度も学んできている。


 だから、恐らく、敵は来るはずなのだ。

 それが特定の“刻”であるかは分からないが、“何か”は起こる。


 そうなると、やはり、疑念は膨らんでいった。


「……ねえ。あんたって、やっぱり考え事してると周り見えなくなるタイプ?」


 顔を上げると、エリーはアキラに背を向けていた。

 表情は見えない。

 しかし、ローブを何度も正しているところを見るに、未だ上機嫌のようだった。


「なんだよ?」

「んーん、何でもないわよ?」


 それきり、エリーはまたも沈黙した。

 わけが分からず、アキラは言葉を返さず、再び黙考する。


 記憶の封は、解けない。


「……………………“詠唱”は、順調?」


 再び思考の渦に飲まれていたアキラをエリーが呼び戻した。

 アキラは観念して考え事を止める。


「まあ、一応ルールみたいなのは分かった。でも、実際は、な」


 2人して黙り込んでいるのも妙な話だろう。

 どうせ単なる依頼だ。ただこなせばいい。

 アキラは割り切って、エリーに1歩近づいた。


「正直、ルールが分かってもどうしようもないんだよ。“詠唱は何だっていい”とか言われても、やっぱ、しっくりこない」

「そういうもの?」

「ああ、多分俺、ペット飼っても名前付けるの苦手だ」


 自由度が高すぎても困りものだ。

 日輪属性の教科書が無い以上、自分が納得できる“詠唱”を、自分が付けなければならない。

 そうなってくると、最早創作の域だ。


 元の世界でネット小説を何度も読んだアキラだが、自分で書くことはできなかった。

 一体何をすれば“想像”を“創造”に変える力が身につくのか。


 実際、アキラの使える魔術は、間近で見たものの模倣に過ぎない。

 そして正直、黒歴史になりかねないものを作り出すのにも抵抗があったりする。


「あんたいつも、あたしにふざけた妄想口走ってない?」

「あれはほとんど引用だ。ぶっちゃけ俺がゼロから作り上げたものなんて無いんだよ」

「ふーん……じゃあ、日記とか書いてみたら? 昼の話じゃないけど、“感想文”なんてのも悪くないかもね」

「“感想”、ね」


 アキラは昼と同じく自虐的に笑った。


「俺って、そんなに何考えてるか分からない奴か?」

「……“詠唱”と一緒かもね。分かりやすいようで、分かりにくい。何考えてるか口に出してくれないじゃない」

「わりとオープンなつもりなんだけどな」


 “隠し事”がある手前おかしな話だが、アキラは自分に正直に生きているつもりでもある。

 その場その場で思い浮かんだことをして、そして後で激しく悔恨の念に襲われているほどなのだから。


 そういう意味では、アキラにとってイメージを固める“詠唱”というのは相性が悪い。イメージが、絶えずぶれ続けているのだ。

 これでよく魔術が使えるようになったものだと思う。

 初めて魔術を使えたとき、一体自分は何を思い浮かべていただろうか。


「…………じゃあ、そのオープンなあんたに言っとくわ。あたしは今、ものすごく機嫌がいいです」

「…………ああ、そう見えるな」

「ううん、ほとんど見てない。特に、今のあたしの服装とか」


―――アキラは、極力視線を外していた。エリーが身に纏う、魔術師隊のローブから。


「…………分かりにくいんじゃなかったのか?」

「分かりやすいところもあるのよ。……覚えてるとは思ってたし」


 アキラは、エリーの顔から視線を落とした。

 視線の先には、エリーが1度でいいから着てみたかったと言う、漆黒のローブがやはり夜風に漂っている。溶け込むように。


「お前の夢ってさ、」

「うん、そう。今は止まってる」


 エリーは静かな笑みを携え、アキラにまっすぐに視線を送ってきていた。


「謝らないでね? “3回”も聞いたんだし。……それに、ちょっとやり方卑怯だった。あんたから話題ふってくれないかなぁ、なんて思ってさ」

「……はしゃいでたのは、演技か?」

「……え、えっと、まあ、そう、そうよ」


 かつて。

 この物語の開始時点。

 原因はともあれ―――


―――ヒダマリ=アキラは、エリサス=アーティの夢を壊した。


「…………まあ、はしゃいでたのは本当。でも、あんたのとこ行って気づいたのよ。あたし馬鹿だなぁ、って。掘り返しちゃった、って」


 エリーは僅かに俯いた。


「正直さ、あんたがこの世界に来たばかりのとき、あたし全部吐き出したけど……、やっぱりなんか、たまに思っちゃうのよ。もし魔術師隊に入ってたら、どうなってたかな、って」


 今より生活は充実していただろう。

 旅の魔術師の方が気楽と言えば気楽だが、アキラたちは世界を救う旅をしている。

 安定した収入があったであろうし、“魔族”に数人で挑むような危険もなかったかもしれない。


 そして何より、エリーは追いかけられたのだ。

 “世界最強の魔術師”―――彼女の、妹を。


「でもさ、こっちもいいかも、って思う」


 エリーは照明灯の下から離れ、ゆっくりとアキラに―――星明かりのみが照らす場所に、近づいてきた。


「あたしは今、機嫌がいいです」


 アキラの顔を下から覗き込むように腰をかがめ、エリーは視線を合わせてきた。


「だから、こういうこと言えるのかもね。浮ついてなきゃ多分無理。あたしはあんたに感謝はしてないけど、今は恨んでもいない。なんだかんだ言っても、旅、楽しいしね。きっといつか、あんたがあたしの“儀式”台無しにしたのも、笑い話になるわ。……………………あんたのこと嫌いって言ったのも、ね」

「……え、えっと?」

「さっ、この話題はおしまいおしまいっ。あんたと同じ組でよかったわ。サクさんたちいたら、多分こういう話できなかったし」


 エリーはくるりと背を向け、再びローブを正した。

 本当に、浮ついているようだ。


 アキラは目を細め、星空を見上げる。

 生憎月は見えないが、照明灯から離れたここも、十分明るい。


「なあ」

「……何よ? 話はおしまいよ」


 アキラは、解けようとする記憶の封を抑え込んでいた。

 背中越しのエリーの声だけに意識を向け、脳内の声を避け続ける。


 この時間だけは、どうしても、事前に知っていたくはなかった。


「そう言われるだけで、“ここ”を選んでよかったと思えるよ」

「…………また言ったわね、それ」


 顔が見えないエリーだったが、きっと微笑んでくれているとアキラは思う。


 “隠し事”があり、本心を言わないらしい自分だが。


 想いだけでも伝わっているだろうか。


―――***―――


「いいか、今は夜だ。周囲は民家。分かるな? 夜なんだ」

「分かってますよ!! だからわたしゃあ全力を尽くしますぜいっ!! そう、街の平和を守るために!!」


 全然、全く、微塵にも、僅かにも、サクの懸念をティアは分かっていなかった。まずは街の静寂を守ってもらいたい。


 日も沈んだガールスロ。

 響くティアの大声に、サクは虚ろな瞳で唇に指を当てた。ようやく気づいたティアはオーバーにも両手で自分の口を塞ぐ。

 この様子では、いつまた夕食時を過ぎた頃の街に騒音が響き渡るか分かったものではない。


 現在、2人は街外れにいた。

 いくつかの民家、魔物が出ないまでも一応は外と街を区切る意味で設置されている柵、そしてその向こうに広がる森林以外何もない辺ぴな場所。商店も見当たらない。

 この街は、やはりこの入口と間逆に位置する崖側に店が集中しているのだろう、とサクは思う。

 魔物が出ないと言ってもただの自然ならばシリスティアには溢れ返っている。森林側は、精々子供の遊び場であるのが関の山であろう。


 今宵は、下手をすれば戦場になり得る場所であるが。


「……、」


 サクは纏った漆黒のローブを揺すってみた。

 肌触りがよい。普段紅い着物のような服しか纏っていないサクにとっては、新鮮な衣装だ。

 ティアもエリーに裾を上げてもらって以降、普段以上の笑みを絶やさずローブの着心地を楽しんでいる。


 と言うより、彼女は彼女でこの服に思い入れがあるのかもしれない。

 彼女自身は目指していないようであるが、彼女の両親は、共に魔術師隊であったと聞く。

 そうでなくとも、魔術師隊というものは、子供の憧れのようなものなのかもしれない。


 もっとも、サクにとっては―――信じられない話だが、サクとティアの歳は1つ違いだ―――魔術師隊というものは、憧れる対象ではないのだが。


「来るんでしょうかねぇ……」


 ぽそり、とティアが言葉を漏らした。

 ティアは森林の漆黒の闇を―――その先の、来るかもしれない敵を眺めている。

 つい先ほどまで寝込んでおり、体力の方は万全のようだが、彼女にとって同じ場所でじっとしているのは調子が狂うのかもしれない。


「根拠はないが……、何となく、来るような気がしている」

「あはは、やっぱり、サッキュンもそう思いますか」


 ティアは振り返ってきた。しかし、恐らく彼女が見ているのは自分ではないだろう。

 サクもそれに倣って僅かに振り返る。


 ここと、巨大なガラスの屋敷を結ぶ、その中間。そこに、根拠のない確信を与える存在がいる。


「ちこっと羨ましかったりします。アッキー、退屈しないんじゃないですかね」


 根拠のない確信がある。

 その理由は最早、アキラがいるから、で十分だろう。


「……やるべきことも同時に増える。羨ましがってばかりいてもな」

「たはは、……そうですね。そう考えると、アッキー大変ですね。日輪属性、かぁ……。なんか、呪いのような気もしてきました」


 サクはふと、港町で出逢った大剣の男を思い出す。

 この目で見たわけではないが、彼もまた、日輪属性であったらしい。

 ざっと目を通した新聞では、彼を“勇者様”と崇める声もあったが、詳細は不明。アキラやティアからも大した情報は聞けなかった。


 だが、その、日輪属性の男。

 仮に、何かに巻き込まれる力を日輪属性が有しているとすれば、彼の周囲もまた何かが発生し続けるのだろう。


 彼と行動を共にしているらしい杖の男は、それを目当てに共にいると言っていたような気もする。


 トラブルを求めて遠巻きに見る者と、実際に巻き込まれ続ける者。

 果たしてどちらが羨ましい立場にいるだろう。


 “呪い”。

 上手い表現かもしれなかった。


「“日輪属性”って、どういう基準で選ばれるんでしょうね?」


 ティアの疑問は、サクに向けてではないように思えた。

 ただの、独り言だ。


 “日輪属性”。

 サクの中では、それはそのまま“勇者様”に直結する。

 魔王の落す闇を、日輪の如く払い討つ。


 だが、ヒダマリ=アキラという人間は、どういう存在だろうか。


 何でも知っているようで、何も知らない。

 何でもできるようで、何もできない。


 旅を通して成長してこそはいれ、それはあくまで日輪属性の力によるところが大きいようにも思える。


 仮に、日輪属性の者に“選ばれし者”という表現を使うのであれば、ヒダマリ=アキラという人間は完全に誤った選択肢だ。

 彼は元来、もっと、魔物から逃げ惑い、守られる立場にいるような存在なのだから。


 それなのに、彼は眼前に現れ続ける扉を開けることを迫られる。“刻”を刻むと、彼は言っていた。

 だが、そもそもその“刻”とやらは、一体どこから現れているのか。


 “呪い”。


「……まあ、今は依頼に集中しよう。貴族を守ることが、私たちの仕事だ」


 それを踏まえた上で、サクは注意を森林に向けた。

 陽動と言ってもつかれ離れずだ。ただ逃げるだけであれば圧勝する自信はあるが、相手の動きを誘導するとなると話は別である。何より今は、ティアもいる。頻繁に早朝の罰ゲームを受けている恩恵か、足は早いがサクには遠く及ばない。

 貴重な遠距離攻撃は誘導にも役立つ可能性があるために彼女との組は悪くはないが、それでも不安は尽きなかった。


「サッキュンは、真剣ですね。あっしも見習わないと」


 その不安材料は、分かっているのかどこか申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「実はですね……。私、今ものすっごい葛藤に襲われてるんですよ」

「?」

「今はばっちり回復して、それはもうニューティアにゃんですが……、相手、“人間”なんですよね」

「気になるか?」

「そりゃあもう。戦いたいけど、戦いたくない相手。私は今、ものすごく迷ってます」


 “人間相手”。

 サクは、そうした依頼を請けたことがないわけではない。

 人間は平等という“しきたり”が広まっているとはいえ、やはり人間の間でトラブルは発生するのだから。このシリスティアは、そうした人間のトラブルが発生する代表格だ。


 だがサクは、相手を気にしたことはない。

 敵が魔物か人間かによって、刃とみねを使い分けてはいるが、そもそもサクにとって、“見るべきものは相手ではないのだ”。


「私が真剣に見えるのであれば……、そうなりたいのであれば、簡単だ。仕える相手だけを見ればいい」

「仕える相手、ですか?」

「そうだ。今は依頼主の貴族。彼の安全だけを考えればいい。そうなれば敵の種類など関係ない」


 サクの中で、周囲の環境は2種類に分かれる。


 1つは、護衛対象。

 もう1つは、敵。

 “しきたり”に従うサクではあるが、結局のところその2つだ。敵が人間だとしても、それは変わらない。

 当然人を切るのは抵抗がある。だが、それはあくまで刀の切り替えまでの話。相手が襲ってくれば、人間相手の戦闘も止むを得ないと考えている。


「……でも、人を殺すのは、“しきたり”違反ですよ?」

「ああ、矛盾している。……前にそれで、酷い目にあったよ」


 “しきたり”の世界の分け方は、神族と、人間と、魔族の3種類。

 神族は別格として、人間を護衛対象、魔族を敵と考えれば、サクの区分けとそこまでの差はない。

 だが、その僅かな差。そこに付け込まれた事件があった。


 アイルーク大陸の、ウッドスクライナという小さな村。

 そこで自分は“囁き”を受け、一般人に手を出した。依頼の中であればある程度割り切れていたかもしれないが、相手は、一般人だったのだ。自己防衛のためとはいえ、錯乱したのを覚えている。


 そして、その結果。

 綺麗に2つに分かれていたサクの判別に、ノイズが混ざり始めてしまった。


「……サッキュン、一応聞きたいんですが、あっしがピンチになったら、助けてくれたりしますかね?」


 これだ。

 かつての1人旅の中、複数の魔術師と協力して護衛の依頼を請けたことはあった。

 協力している魔術師に危機が迫れば助けたが、それはあくまで護衛のための戦力を保つため。

 サクの視点は、常に護衛対象を中心に置かれている。


 だが、もし、今のティアが言ったように、“このメンバー”に危機が迫ったらどうだろう。

 極限状態で、護衛対象か“このメンバー”かの二者択一を迫られたとき、果たして自分はどう動くのだろう。


 今までなら、一介の旅の魔術師として、護衛を淡々とこなしていた。その期間だけは仕える対象が明確なのだから。

 今回の護衛対象は、あの貴族。“疑念を浮かべたとはいえ”、この依頼はすでに始まっているのだから守ることは決めている。疑うのは、守り切ったそのあとだ。


 だが今の自分は、旅の魔術師であり、“勇者様御一行”の一員であり、そして“教師”である。


 “あの件”が清算できなかったゆえに、いつしか自分の世界は形を変えていた。


「……窮地に陥らないよう、努力してもらいたい」

「……はっ!! そうですね、甘えてました」


 瞳に浮かんだ迷いは、瞼で閉じ込めた。


 今自分は、戦力面でこのメンバーを率いている。

 その責任が、なんとも重く感じた。

 率いる責任と、仕える責任。両者はまるで違うものなのだと、サクは再認識した。


「…………でも、サッキュンは、いつか誰かに仕え続けるんですか?」


 サクが瞳を開けると、ティアが澄んだ瞳で見上げてきていた。

 本当に、子供のような瞳。例えば、何故空が青いのかとでも聞いてきているような無垢な色。

 騙されやすいと言ってもいいが、護衛対象を信じることが最も得意そうなその瞳を見下ろして、サクは僅かに愁いを帯びた表情を浮かべた。


 論理的ではなく、感覚的に話す子供を相手にするのは、疲れを伴う。


「いや、なんかその日その日に相手が変わるのって……、微妙に寂しいような気がして」

「……私が飛び出した家は、仕える相手を決めて守り続ける。そんな家系だった」


 そんな相手だったからだろうか。

 自分にとって触れたくない話題を、サクは口にした。


「仕える相手を1人に決めると、楽になるよ。その人と、その人の世界を守ることだけ考えていればいい」


 ある種、ティアとは両極端。ティアは関わる人総てを救いたいと考えている。

 ここは決定的な差だ。

 そうだ、自分はやはり、率いる者ではない。


「楽、ですか。……そだ、さっき話に出ましたが、アッキーなんていかがです? あれですよ、“勇者様”ですよ?」

「いや、それはないな」

「即答ですか!?」


 ティアの大声をたしなめつつ、サクは肩を落とした。

 “勇者様”という、このメンバーを率いる大義名分を持つアキラ。

 確かに妙な―――運命とでも言うべき感覚を何故か覚えているが、彼に仕えるのは2つの意味であり得ない。


「そもそも、私とあの男は“決闘保留中”。今は打倒魔王を目指して旅をしてはいるが……、ずるずると決着を引き延ばされて……、もやもやする」

「もやもやですか」

「……もやもやだ」


 ティアと話して、自分にも彼女の口調がうつってしまったようだ。

 いつしかサクも、感覚的な言葉を口にしていた。


「私とあの男が決着をつけたら、妙な話になる。どちらが勝つにせよ、この旅の形は変わってしまうよ。“私はそう思う”。そもそもあの男は、教師としては哀しいことだが……、仕えるに値しないほど弱い」


 ティアは首を傾げ、そののち悩み始めた。

 だが、サクはある意味それ以上悩んでいる。


 自分は旅を通して、“ここ”の居心地の良さを知ってしまった。

 最大の敬意を払うべき“勇者様”がいるというのに、アキラのあの性格からか誰もが平等だ。

 元の自分の家でも、1人旅の中でも見なかった世界。

 清算出来ていない現状が、悪くないと思い始めてしまっている。

 だが仕えれば、平等ではなくなってしまう。


 ただ前へ進んできたつもりだったのに、いつしか身体の中は矛盾だらけだ。


 “決闘保留中”と、“居心地のいいこの環境”。

 だから、2つの意味で、アキラに仕えることはあり得ない。


 矛盾。

 人と関わると、世界はこんなにも難しい。


「なら、いつか見つかるといいですね」


 世界を知らない子供は澄んだ瞳を閉じて、


「仕えても、対等な相手が」


 子供ゆえの、言葉を出した。


「…………、そう、だな」

「あはは、でも、あっしもご協力しますよ? だってこの旅楽しい……、って、あれ? ローブが……なんかずり落ちてる!? あわわ、こっち押さえて……、おおっ!? 反対側も!? ……そうか!! ここをこうすれば……、いや、ダメです!! しっ、かーしっ、諦めない!! 思い出せぇっ、ティアにゃん。あのときエリにゃんは何をしたのか…………。……! そだっ!! ばっちり思い出しました。確かここをこうして……、そしてここをこうです!!……………………おおう、全部ほどけました。あっし、こけます。知ってます。裾、踏むんです」


 どうやらエリーの裾上げは、常にわさわさと動いているティア相手では不完全だったらしい。

 とりあえず、ローブの裾を上げる必要がありそうだ。


 本当に子供の相手は疲れる。

 だけど不思議なものだ。

 溜まった疲れが、癒されることもあるのだから。


―――***―――


「まあとりあえず、街の入り口見張ってる奴らが敵を陽動してここにくるから、リレー形式みたいにあの屋敷に誘導するんだ。街に被害がでないようにして」

「それが作戦? ふーん……、で、貴族はどこにいるのよ?」


 街の入り口と、貴族の屋敷を結んだその中間地点。

 リンダたちがこの場に姿を現したのは、アキラとエリーの話題が丁度尽きかけた頃だった。


 大名出勤を決め込んだリンダの姿は、やはりアキラたちと同様に魔術師隊のローブ。

 彼女もアキラたちと同様に普段着の上から羽織っているらしく、裾の辺りからは純白のローブが見え隠れている。


 今は、打ち合わせを欠席したリンダに、アキラが計画の説明を行っているところだ。

 リンダたちはここへ来る前、1度屋敷へ寄ったらしい。そこで執事長のオベルトから街の入口へ向かうように言われ、その途中でアキラたちに出会ったとのこと。

 できればオベルトに説明を行っておいて貰いたかったところだが、向こうも向こうで潜伏場所への移動やら何やらで忙しいのだろう。


 アキラは受け取ったガールスロの崖側の地図を取り出し、リンダに見せた。

 リンダは、貴族が隠れると言った印がついている位置を、頷きながら眺めて微笑んだ。


「うん、ありがとうアキラ。助かったわ。というか、来るかどうかも分からないのに依頼って……、はあ、貴族は貴族と言ったところかしら?」


 やはり彼女は貴族を嫌っているようだ。

 あの打ち合わせに出れば貴族の想いを感じとれたかもしれないが、アキラはその件に触れなかった。

 アキラの口から言ったところで、恐らく、『騙されている』の一点張りだろう。

 自分も疑念を抱いてしまっているのだから、リンダを説得することは無理そうだ。


「でも、大丈夫なの? その入口の方にいる2人。相手が何人か分からないんでしょ?」

「ああ、多分。洒落にならないほど速い奴と、騒がしい奴のペアだから」

「……えっと、構成要素に不備があるような気がするんだけど。主に、後半。あとは、後半とか後半とか」

「いやいや、考えてみ? 太鼓鳴らしながら走った方が効果的だろ?」

「…………速くて騒がしい人いなかったの?」


 ああ、と。アキラは該当する人物を思い浮かべて振り返った。


 が。


 むっっっすぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ、と、無言の圧力を感じた。


「…………なんだよ」

「別に」


 淡白な声。

 アキラは背筋に冷たいものを感じ、条件を満たすその人物―――エリーから視線を逸らした。


 その隣にはリンダと共に現れた鎧の男―――グリースが似たような表情で立っている。

 流石に鎧の上からローブを纏うことはできなかったのか、彼はローブをマントのように肩からかけているだけだった。

 それでもかなり様になっている。アキラは鎧を纏った魔術師隊を見たことはないが、もしいたとしたら、あれが正しい着用方法なのかもしれない。


 ただそれでも、眼力を感じる視線を送られていてはジロジロ見る気にはなれなかった。


「でも、奇妙な光? それは確かに気になるわね。まあ、嘘かもしれないけど」


 リンダは気にしていないのか、2人を一瞥もせずに眉を潜めた。


「嘘? そんなこと言って何になるんだよ?」

「だから気になるって言ってるのよ。ま、気にし過ぎ、かな。貴族が、だけど」

「気にし過ぎ、ってのは、まあ、分かる。でも、1つでも不安要素を消しときたいんだろ?」

「……もしかしてアキラ、私の言ったこと、覚えてない?」

「貴族には注意しろってやつか?」


 そこでリンダはコクリと頷く。表情は、どこか満足げだ。


「覚えててくれて嬉しいわ。特にサッシュ=フォルスマンとオベルト=ゴンドルフを前にしたときは簡単よ。あの2人の根底には、旅の魔術師批判がある。だから私たちを前にしたとき、絶対に真実なんて語らない。だから、話の内容が何であれ、信じない方がいい」


 ここまでとは相当なものだ。

 アキラはリンダに分からないように、小さなため息を吐いた。

 旅の魔術師批判はともかくとしても、誰しも多かれ少なかれ嘘を言うものではある。


「でも、身の危険を感じてるから、ってのは?」

「手段を選んでいられないって? でも、少なくとも私の認識では、奇妙な光を見た程度で旅の魔術師を呼ぶほど繊細な心の持ち主じゃないわよ」

「随分はっきり批判するよな」

「人は平等。その“しきたり”も守れないのに、何が貴族よ。人間は生まれた瞬間は平等なラインから始まらなきゃならない。そうすることで、人間はいい意味での競争ができて、発展していく。それなのに、過去の偉人の末裔ってだけで何の努力もしてないのに胡坐かかれてたら、その分世界は力を失うのよ」


 アキラは“しきたり”の授業を受けているような気になり、生徒のように頷いた。

 まるで教科書のような彼女の言葉には、随分と熱が入っている。


 確かに、聞いた限りでは貴族には生まれながらにしてアドバンテージがある。

 魔術の才能や魔力の量といった個人レベルでのアドバンテージではなく、富や権力といった家系レベルでのアドバンテージが。


 貴族以外の人からしてみれば、同じ能力だというのに、生まれた場所が違うだけで差が生まれてしまう。

 アキラの元の世界でも、そういった問題は確かにあった。


 だが、それはある種、割り切るべきことはないだろうか。


「だから、貴族は信用しない。これは私が決めていることだもの」

「リンダ」


 リンダがきっぱりと宣言したところで、エリーの隣に立っていたグリースが声を出した。

 鎧の男はリンダにつかつかと歩み寄り、そしてアキラに視線を走らせる。

 アキラより、僅かに背が高い。


「随分打ち解けてるな。珍しい。もしかして、前に会ったことでもあったのか?」

「いいえ、今日が初めてよ。お昼をご馳走してもらったって言わなかったかしら?」


 リンダはアキラに微笑みかけてきた。


「でも、何か話しやすいのよね」

「この人は、どっちかって言うと貴族側の意見っぽいだろ」

「それは他の大陸から来たばかりだからよ。その内分かるわ。シリスティアが」

「それが珍しいって言ってるんだよ。お前、そういう奴とはあんまり話さないだろ」


 アキラが目の前にいるのに、グリースは苛立ちを隠そうともしていなかった。

 日輪属性のスキルが発動しているというのに、この態度をするということは、アキラに対し何らかの“敵意”を持っているということになる。


 アキラは理由をおぼろげに察し、1歩下がった。


「それより、あんた。アキラって言ったか? 説明してくれたことには礼を言うけど、貴族は信用しない方がいい。リンダも言ってるけど、魔術師隊のローブを着てようやく話す気になるような連中だ」

「……グリースも、懐柔されてたじゃない」

「…………俺は違う。それに、俺が話したのは執事長だ。貴族じゃない」

「まだ言ってるの!? この期に及んでびっくりだわ」


 グリースはエリーと共に事前の討ち合せに参加したと聞く。

 どうやらそこで、エリー程とはいかないまでも今回の依頼に参加する動機を刷り込まれたようだ。

 いや、刷り込まれたという表現は適切であるかどうか分からない。貴族は貴族で街を想っているかもしれないのだから。


 しかしそれでも、やはり疑念は尽きない。


 今回の依頼は、わけの分からないことだらけだ。


「なあ、魔術師隊のローブって、やっぱり憧れなのか?」


 アキラは何となく、グリースの肩にかかっているマントを眺めてみた。

 貴族の交渉力はともかくとして、この魔術師隊のローブはグリースが懐柔とやらをされた要因の1つなのかもしれない。


 何となく出した声に、グリースはふと虚を突かれたような表情を浮かべた。

 一瞬、敵意を向けられていたことを忘れていたアキラは思わず口を噤んだが、グリースは差して気にした様子もなく、普通の声を出す。


「憧れ……、か。まあ、確かに憧れ、なのか。俺は魔術師隊の試験を受けたことないけど」


 思った以上に短絡的な性格なのかもしれない。

 自分のことを棚に上げ、アキラはグリースにそんな評価を下した。


「俺たちみたいな根なし草と違って、ちゃんとした給料も出る。魔物相手と言っても必ず数人で行動するらしいから旅の魔術師よりは危険も少ないし……、国所属じゃ多忙になるだろうけど、割かし安全な街の魔術師隊とかって理想の職業でもあるな。その分入口は厳しいが……って、そんなことは知ってるか」

「……あ、ああ。でも俺、鎧の上からマントみたいにローブ羽織った奴は初めて見たよ」

「ほとんどいないからな、鎧を着ているような奴。でも、装着方法は合ってるはずだぞ」


 やはりそれが正しい装着方法らしい。そして、魔術師隊はやはり人気の職業であるようだ。

 アキラは何となく自分が鎧を装着している図を想像してみたが、描けた絵は残念なことに似合っていなかった。

 どうやら中途半端に華奢な体格が鎧の装着を許さないようだ。


「でも、鎧の上に羽織ると……、正直ナルシストにしか見えないわ」

「ぶっ殺すぞてめぇ」

「アキラもそう思わない? 何気取ってんの、って感じ」

「あ……、えっと、……コメントは控えとく」

「いや、てめぇらだ!! 脱ぎゃあいいんだろ、脱ぎゃあっ!!」

「あらあらグリース。今は依頼中よ。あんたには足りないものがあるわ。主に、協調性とか。あとは、協調性とか協調性とか」

「ああ、確かに」

「ほんとだお前ら協調性がある!!」


 と、そこで。

 アキラは僅かに感動を覚えた。


 この世界に来て以来、同年代の同性と話した記憶がほとんどない。

 つい数日前に出逢ったと言えば出逢ったが、会話となると成立していたかどうかには疑問が残ってしまう。

 幸運なことに見目麗しい女性に囲まれたこの旅も悪くないどころか最高ではあるのだが、時には自分が同性との会話を忘れてしまっているような錯覚に陥ることもしばしばある。


 久しぶりの感覚だ。

 リンダと共にぎゃあぎゃあと騒いでいるグリースに視線を移し、アキラは僅かに安堵のため息を吐いた。


「はあ、まあ、とにかく、とにかくだ」


 言われたことを気にしたのか、グリースは僅かに羽織ったローブを着崩し、アキラに向き合った。

 彼もなかなか、ユニークな性格をしているらしい。


「貴族には気をつけろってのは間違ってない。そもそも魔術師試験が厳しいのも……、…………まあ、これはいいか」

「?」


 グリースは、そこで口を噤んだ。


「グリース。微妙に着崩したせいで、別のベクトルに何かが上がったわ。キモ…………、いや、変人になった」

「キモいって言いかけたんだからそっちでいってくれた方がましだ!! 言い換えるなら言葉を選べよ!!」

「キモい。尋常じゃなく」

「おーし、勝負だ始めるぞ」

「私なりにベストセレクションだったんだけど、今の言葉」

「いいから構えろよぉっ!!」

「あらやだ。夜に女の子を襲うなんてっ」


 この2人は、ずっと、こうして旅をしてきたのだろうか。

 微笑ましいものを感じ、アキラはふっと笑う。


 様々な人に出会えるというのも、旅をすることの1つの特権だ。


 と、そこに。


「説明は終わったんでしょ?」


 上目使いでも睨まれれば相当な威力がある。

 いつしか歩み寄り、待ち構えていたのか。完全に蚊帳の外だったエリーは口元をぴくぴくと痙攣させながら、相当な眼力をアキラに放っていた。


「……なんだよ」

「別に、って言ったでしょ? ただ、これから依頼よ? あたし言ったわよね、びしっといくって。話し込んでる暇あったら、こことサクさんたちのとこを往復でもして欲しいもんだわ。ダッシュで」

「これから依頼って聞こえた気がしたのは俺の耳が異常なのか?」


 先ほどまで自分と話し込んでいた当人が何を言う、ともアキラは思ったが、その無駄口はエリーの言葉で封じられた。


「神経張り詰めてなさい。もしかしたら敵をサクさんたちが見逃しちゃって、もう街の中にいるかもしれないのよ?」


 サクが見張っている以上、それはない。

 エリーの現実味のない話に、アキラは辟易した。


「でももし、ティアに気をとられた隙に突破されてたら?」


 途端、現実味を帯びた。

 アキラは、思わず街の入口に視線を走らせてしまい、ティアに心の中だけで謝る。


「まったく、しっかりしてよね。護衛対象が貴族って言っても、あたしたちは“しきたり”通りに。平等に守らなきゃダメ」

「“しきたり”……、か。どんだけ数あるんだよそれ」

「ん? 聞きたい? あたしいろいろ知ってるわよ? 名目的な文章だけじゃなくて、その内容や論拠も」


 魔術師試験。“しきたり”はその試験科目の1つだと聞く。

 アキラが確信を持って知っているのは、『神に自分の1番目を捧げる儀式』の中で、嘘は許されないというこの物語の根底部分の“しきたり”だけだ。


「ま、とりあえず、人間は平等。そういう“しきたり”があるわ。生まれながらにアドバンテージのある人は、サボってないで活かさなきゃ世界が発展しない。別に魔力が強い人が魔術師隊に入らなきゃいけない、ってわけじゃないけど……、まあとりあえず、貴族っていうのは本来言語道断のはずなのよ」


 エリーは、先ほどアキラがリンダから受けた説明を―――彼女が言うところの、話し込んでいる暇がある状況だ―――言葉を変えて始めた。

 自らが学んだことを人に話すのは気分がいいのか、エリーは先ほどのリンダのような得意げな表情を浮かべている。


 それにしても皮肉な話だ。

 過去の偉人の末裔が“しきたり”に反し、アウトローな旅の魔術師が“しきたり”に則し、両者は反発している。

 あくまで旅の魔術師側は自分に降りかかる火の粉を払いたいだけであろうが、結果として、ちぐはぐな立ち位置を築いている。


 そんなシリスティアで、ヒダマリ=アキラという“勇者様”は何ができるのだろう。

 ただともあれ、少なくともこの場は、身の危険が迫っている人間を守るべきだと感じてはいるのだが。

 リンダも、依頼を請けてこの場にいる以上は、貴族を守ってくれていると信じたい。


「お前はそれで、よくこの依頼を請けたな」

「……言ったでしょ? あたしたちの手にはシリスティアの未来がかかってるのよ」

「……またそれか」


 なんだかんだ言っても、エリーの義務感は相当強いらしい。

 今さらだが、彼女が参加したというオベルトとの打ち合わせを傍聴したいとすら思った。


「まあ、それに、さ」

「?」


 エリーは僅かに言い淀み、言葉を続けた。


「いくら“しきたり”違反でも、……成功させたいわ、この依頼。だってあたし、この服着るの初めてなのよ?」


 と、まるで子供が初めて履いた長靴を楽しむような笑みを、エリーは浮かべる。

 僅かな影は、先ほどの自分たちの会話の一部を引き連れたものだろう。


 とどのつまり、エリーにとって今回の依頼は、それだけなのかもしれない。

 彼女はきっと、そういう女の子なのだろう。


 公務の辛さを知らぬがゆえかどうかは定かではないが、魔術師隊に憧れて、夢が破れても、今を楽しめる。

 後悔の念があったとしても、それがなりを潜めている浮かれた今は、現状を受け入れていく。


 気楽と言えば気楽な旅の魔術師。

 それは魔術師隊に入るより、自分の“キャラクター”を保つことができるのかもしれない。


 そんな彼女だから、多分、自分は、


「―――じゃあ、そろそろ」


 そこで、リンダが、背後で声を出した。

 振り返ればリンダは、どこか気合を入れ直したような表情を浮かべている。

 グリースは不満げだったが、とりあえず、折り合いはついたらしい。


「どうした?」

「ん? いや、別に。ただ、守りがここだけってのも不安よね。私たち、貴族の様子見に行くわ」

「貴族の様子って……、え、崖側?」

「そうよ。入口に2人、ここにも2人。それだけいるなら陽動は十分でしょ? もし4人で陽動できないようなら、危険なのは隠れてるとはいえ貴族じゃない」


 確かに、アキラもこの計画には不安を感じていた。

 敵を陽動するために人員を配置したが、肝心の貴族に護衛はついていない。

 街の反対側にいるとはいえ、本来その場の守りも欲しいところだ。

 貴族の計画には、含まれていない内容だった。


「行くのか?」

「ええ。私とグリースで。貴族は信用しない、って言ったでしょ? 作戦に穴があるかもしれないし」


 鎧の男がコクリと頷く。


「えっと、俺も行こうか? 正直、ここで突っ立ってるのも」

「ちょっと」

「いや、そうじゃなくて……、俺も行っていいか?」


 エリーをたしなめ、アキラはリンダに向かい合う。

 正直、敵も不安だが、貴族嫌いらしい2人を貴族の元へ行かせるのも何か危険な気がする。

 だが、リンダは首を振った。


「問題ないわ。大丈夫、全部」


 アキラが言外に持っていた思考をリンダは察しているのかもしれない。

 リンダは会話を切り、グリースと共に歩き出した。

 漆黒のローブの裾から、踏んづけてしまいそうなほど長い純白のローブが僅かに見える。


「―――そうだ、アキラ」

「ん?」


 リンダは一旦止まり、振り返った。


「“詠唱”って、何のことだか分かった?」

「……いや、悪い。調べきれなかった」

「そっか、残念。自分で調べてみるわ」


 それきり、リンダは振り返りもしなかった。

 リンダとグリースは夜の闇に溶けていく。


 ああ、そういえば、と。去りゆく背中に、アキラは忘れていたことを思い出す。


 また聞きそびれた。

 今は手ぶらなリンダ。


 結局、昼に見たあの2つの円柱は、何だったのだろう。


―――***―――


「……!」

「そうそう、冷たいものがががって食べると頭キーンってするじゃないですか、それって、……!」


 そろそろ日付が変わる頃だろうか。


 最初に、サク。次に、ティア。

 2人がほぼ同時に捉えたものは、闇に塗り潰された森林から僅かに漏れた淡い光だった。


 サクは慎重に腰を下ろし、念のために指を口に当てる。その仕草をするまでもなく、隣のティアは黙って神経を張り詰め始めた。

 随分と、切り替えが早くなったものだ。


「来た、のか」

「たまたま来た旅の魔術師とかじゃ……、ないですかね」


 確たる根拠はないが、恐らく違うだろうとサクは察していた。

 護衛の依頼があり、アキラがいて、そしてこのタイミング。

 例えアキラという要因があろうがなかろうが、今の光は、敵であると直感的に感じてしまう。

 何しろこの暗い闇で、あれだけ目立たない光源を使っているのだ。


 淡い光源はゆらゆらと近づいてくる。

 数は、5……、いや、6。


 サクが光源総てを捉えたところで、途端、光がふっと消えた。


「間違いないな。姿を消した」

「はい」


 小声で交わす会話。

 これから自分たちは、彼らの陽動を開始する。

 問題なのは、敵の攻撃方法。遠距離攻撃を行う魔術師がいた場合、街に被害を出さないことが途端に難しくなる。


 じっとりと汗が浮かぶ。

 彼らの狙いが貴族だとしても、その前にいる障害に攻撃してくる可能性はある。

 果たして、街が無傷なままで切り抜けられるだろうか。


「……おい、お前たち」


 森林の闇から、僅かに裏返った男の声が聞こえた。

 音源を察するに、光が消えた場所から移動している。向こうもこちらが敵であると認識しているのだろう。


 だが、声を出してくれたのは僥倖だ。

 会話の内容いかんによっては、より明確に、自分たちを追いかけさせることができるかもしれない。


「お前たち、“この街の魔術師隊の、隊長の名前は何だ”?」

「……?」


 進んだサクの思考に降りかかってきたのは、狙いが分からない問だった。


 この街の魔術師隊の、隊長の名前。

 そんなものを知って何になるというのか。

 狙いも分からないが、そもそもサクは、そんなものを知らない。

 隣のティアを見ても、やはり首を傾げて眉を寄せていた。


 いくら待っても、それ以降の言葉が相手から送られてこない。

 続く沈黙。このままでは、らちが明かない。


 サクは眉をひそめ、


「何を言ってい―――、―――!?」


 途端、足元がスカイブルーの一閃に削られた。


「こっ、攻撃!? いきなりですか!?」

「っ、行くぞ!! 依頼開始だ!!」


 サクは身をひるがえし、街に向かって駆け始めた。

 背後にはティアと、そして森林から駆け込んでくる数人の気配を感じる。


 顔だけ振り返らせ見てみれば、5、6人の男が見えた。

 拳にプロテクターを付けた岩石のような身体の男、その隣の双剣を腰に携えた背の高い男に視線を走らせたのち、サクは表情を険しくする。


 先頭の、薄い紺のローブを羽織った華奢な男。

 彼が先ほどの魔術を放った男だろう。

 魔力色からするに、ティアと同じく水曜属性。


 魔術師という表現が最も相応しい、魔術を司るその属性は―――街の中での相手としては最悪だ。


 なにせ、


「シュロート!!」

「あわわっ!?」


 再び、裏返ったような声。

 その有名な“詠唱”が、今度はティアの足元を削った。


 遠距離攻撃。

 逃げる背中に攻撃するにはうってつけだろう。何しろ、相手に追いつく必要がない。

 それだけに、適時射出される。


 ゆえに、街の家屋が損壊する可能性が、著しく高い。


 流石に、いるか。

 サクは自分の希望的観測を捨てた。


 魔術師に最も相応しい属性ゆえか、水曜属性の者は数が多い。魔術師隊として公務を果たすにも、旅をするのにも利便性が高く、魔術師を3人も集めればその中には水曜属性の者がいるとさえ言われている。

 魔道士の3分の1は水曜属性と聞いたこともあるほどだ。


 ティアの担う後方支援タイプならば助かったのだが、どうやらあの男は前線に立つタイプらしい。


 攻撃が、射出される。


「どっ、どうしま―――あうひゃっ!?」


 ティアの奇声が、後方から聞こえた。

 彼女の頭上を通ったスカイブルーの閃光は、そのまま上昇し夜空の彼方に消えていく。


 そこで、サクはぞっとした。


 敵の水曜属性。

 卓越した相手ならば、かえって楽に陽動できる可能性があったというのに―――あの華奢な男は、言ってしまえばノーコンだ。

 思えば最初の一撃、ただ立っていただけのサクに魔術を命中させることもできなかった。

 そんな男が走りながら魔術を放てば結果は見えている。


 無差別な攻撃が、街を襲い続けてしまう。


「―――、」


 街の曲がり角を曲がり、そこでサクは止まった。

 遅れて現れたティアを静止させる。


 そもそも計画に不備があった。

 このままの陽動は、街に損害を与えない限り不可能だ。


「はっ、はっ、なっ、何ですか!?」

「いいか、落ち着け。2つ、話すことがある」


 朝の鍛錬のたまものか、現れた敵に大きくリードを奪えたティアに、サクは早口で言葉をまくしたてる。


「1つ目。今からお前は、“私の直後を走れ”。速度を落とすから、絶対に離れるな。2つ目は、次に私が止まったときだ」

「は、はうえっ!? い、いや、分かりました!!」


 ティアは、サクの言葉を素直に受け取った。

 ティアにとって、攻撃のプレッシャーを背中から受けながらの逃亡は、朝のマラソン以上に消耗する。

 とにかく今は、サクの指示通りに動くべきだ。


「いくぞ!!」

「はい!!」


 敵の慌ただしい足音がすぐ傍に聞こえた。

 ティアは言われた通り、サクの背後を走る。


 すると、


「……?」


 ティアに、奇妙な感覚が走った。今まで以上に身体が前へ進む。

 最初、サクが先頭で風を切ってくれているお陰とも思ったが、何かが違う。


 足が上がり、1歩ごとに身体が疾風になっていくような感覚。

 駆けているのではなく、まるで前へ前へ跳んでいるような錯覚。


 身体が、軽い。


「……、」


 そんなティアに振り返りもせず、サクは額に汗を浮かばせながら思考を進めていた。

 見たところ、遠距離攻撃の使い手は先頭の華奢な男だけだ。


 彼の後ろで走る男たちは、みな武具を持ち、屈強なゆえに重い身体を揺らしている。

 あの男さえ倒せれば、安全に誘導できるだろう。


 アキラやエリーの場所までまだ距離があるのは幸いだ。もし合流し、標的が増えれば魔術が乱射される確率は格段に上がる。


 ゆえに。それまでには遠距離攻撃のあの水曜属性を行動不能にする必要がある。


 2度ほど角を曲がったところで、サクは再び足を止めた。

 背後のティアが予想通り止まり切れずに跳びかかって来たのを身体で受け止め、息を殺す。


 ここは、街の広場のような場所だった。

 十字路の中央には貴族のサッシュ=フォルスマンを模した不気味な銅像が素知らぬ顔で立っている。

 十分に広い。


 ここでなら、始められるだろう。


「いいか、2つ目だ。このままの陽動は無理。あの遠距離攻撃の男を倒すぞ」

「戦闘、ですか……!?」

「ああ、私があの集団に飛び込み、気を失わせる。あとは陽動の再開だ」

「え、え、でも、サッキュンだけで、跳び込むんですか!?」

「問題ない。最悪逃げ出すことぐらいは容易だ」


 現に、あの男たちは自分たちに追いつけていない。

 人数は多いが、水曜属性の男の“デキ”を見るに、魔術師としての能力は中の下。


 動きが鈍い集団に飛び込み、華奢な男の意識を刈り取るくらいはできるだろう。

 何より、他に選択肢が無い。


「わ、私は何をすれば!?」

「あのコントロールできる魔術で牽制してくれ。人を狙うことに抵抗があるかもしれないが、そもそも相手も防御膜を張っている。まず死にはしない」

「…………は、はい」

「街を壊すなよ」


 サクはそう言って、十字路に飛び出し銅像に隠れた。ティアも角の闇に腰を落とし、身を潜ませる。


 遠くからバタバタと男たちが近づいてきた。


 サクは鞘ごと刀を裏返し、構える。


「はつ、はっ、……い、いないぞ!?」

「くそっ、見失った、か……!?」


 銅像の向こう、男たちの足が止まる。潜むサクには気づいていない。

 このまま大人しく屋敷に向かってもらうことが最良だったのだが、どうやら彼らの標的は完全に自分たちに切り替わったようだ。


 ふと顔を上げると、近くの建物の窓に人影が見えた。

 この場の住民たちは何が起こっているのかは知らない。遅ければ遅いだけ、騒ぎになる。

 いや、自分たちが駆けてきた付近は、とっくに騒動になっているだろう。


「そうだ。お前あんな攻撃して、」

「街はある程度破壊するのも止むを得ない。俺はそう聞いたぞ」


 男たちは誰かから指示でも受けたようだ。

 華奢な男が視線を強め、裏返ったような声を出している。


 男たちは小休止でもしているのか、銅像付近から動かない。


 サクは銅像からティアに視線を送り、頷く。ティアも頷き返してきた。


 いくぞ。


―――***―――


 絶対行った。間違いなく行った。結局行った。


 エリーことエリサス=アーティは、1人、不機嫌さを隠しもせずに、ローブをバサバサと揺らしていた。

 魔術師隊のローブに対してぞんざいな扱いをしていても、それを見咎める者はここにはいない。


 あの2人―――リンダとグリースがこの場を去ってから数時間後、ヒダマリ=アキラは、姿を消した。


 用を足しにいくと言ってはいたが、あの男は明らかにリンダたちを追っていったのだ。


 来るかもしれない敵の人数にもよるが、高が数人程度なら、確かにこの場に2人もの人間が常に張り付いている必要はないかもしれない。

 時には休憩も必要であろうし、その意味も兼ねて各所に2人という計画なのだろうから、アキラが離れることに強く反発はできなかった。


 が、ものすごく、むかむかする。


 折角、ようやく、やっと、自分たちは和解できたのだ。

 この先過去を振り返ることがないとは言い切れないが、きっと後悔の時間は減って、笑い話にできる気がしていた。


 アキラもアキラで、そう願っていたようにも思える。


 それなのに、ここにきて、これだ。

 あの男が何を考えているのか分からない。


 確かに、リンダやグリースの様子には気になるものがあった。

 リンダはサッシュやオベルトの根底には旅の魔術師批判なるものがある、と言っていたが、リンダとグリースにこそ、根底に貴族批判があったようにも思える。

 それだと言うのに、彼らは、この貴族護衛の依頼を請けていた。


 怪しいと言えば怪しい。不自然と言えば不自然。


 この依頼への疑惑は、エリーも僅かに感じていた。

 自分が気づいたということは、サクも気づいているであろう。

 アキラも何かを考えていたようであるし、その前にティアとそんな話を屋敷の前でしていた。


 疑念に満ちた依頼と、疑念に満ちた引受人。

 様子が気になるのは、確かに分かる。


 だが、あの男が、今リンダの元に向かっているのは、果たしてその疑念だけだろうか。


 リンダの容姿が頭に浮かぶ。

 線の細い顔立ちと、色白の肌。色彩が薄い髪を1本にまとめて肩から垂らしている姿は、どこか儚げで―――癪だが、綺麗だった。

 そして見た目とは裏腹に、明るい性格をしている。はしゃぐように笑っていたし、くりりとした瞳は輝いていた。


 そんな相手が目の前にいて、しかも積極的に話しかけてくるのであれば、あの“勇者様”は歓喜するだろう。

 しかし、その直前まで自分と話していたのに、あの態度は―――本当に、分からない。


「はあ……、ほんっと信じらんない」


 やはりあのときの自分は浮かれていたようだ。

 僅かに落ち着いてきた今、あのとき自分が吐き出した言葉総てを消し去ってしまいと感じる。


 自分の言葉に彼は、“ここ”を選んで良かったとだけ返してきた。


 あの男の本音は、あれだけ想いを吐き出して、たった一言しか聞けないというのだろうか。

 割に合わな過ぎる。


 いや、例え、一言だっていい。

 もっと、自分に分かる言葉で、分かりやすく、伝えて欲しい。


 彼は、いつも、何を想っているというのか。


「……、」


 エリーは一瞬、周囲を見渡した。街に異変は起きていない。


 まだ僅かに浮ついている今が機会だ。普段聞けないことを聞けるかもしれない。


 サボった男を連れ戻すというのは、依頼達成のための大義名分だろう。


 エリーは僅かに小走りで、街の崖側に向かった。


―――***―――


 一方、アキラはいつしか全力で街の崖側に向かって走っていた。


 最初は、大してもよおしてもいないゆえに、用を足しに行くか否かを迷いながら歩いた。

 次は、リンダの別れ際の表情を思い起こし、頭痛と共に小走りになった。

 そして今は、全力で、走った。


 ヒダマリ=アキラは、今、全力で走っていた。


 “嫌な予感がする”。

 言ってしまえばあまりに陳腐で感覚的な思いつき。しかし強かな確信で、アキラはわき目も振らず、街の崖側に向かって走った。


“一週目”。

 自分は何を想って走っていただろう。多分、きっと、恐らくは、単純に、リンダという女性のことが気になったからだ。いや、グリースもだ。

 あのときの自分は、やはりまだまだこの世界のご都合主義的部分をふんだんに満喫し、数日前に“自分たちとは別のパーティ”の邂逅シーンに邂逅し、“確定している7人”を知らなかったがゆえに、同年代の旅の魔術師という存在に敏感になっていたのだろう。


 そこにきて、リンダやグリースといった、ユニークな人たちに出逢えた。

 彼らの属性を―――聞きそびれたことは、円柱以外にもあった―――知らなかったアキラは、ふと、それが気になったのだ。

 だから、軽い気分転換のつもりで、しかし、依頼をサボることのないよう大急ぎで。自分は崖側へ走った。


 だが、今は、違う。


「―――、」


 頭に響く僅かな痛み―――“記憶の解放”。

 完全には至らず、古びた映画のように荒れた画像が脳裏に浮かぶ。


 自分は、崖で、何かを見た。

 そしてそこでの出来事は―――ほとんど勘だが―――看過できないものであったはずだ。


 脳裏に浮かぶは、あまりに奇妙な感覚。

 自分は今、記憶に突き動かされている。だが、避けたいと思っていたその行動を、それこそ全力で走ってまでとりたいと感じるほどの義務感にも襲われていた。


 ふと思うのは、やはり、リンダたちとの別れ際。

 彼女は何故、あとは自分で調べるなどと―――もう出逢わないようなことを言ったのだろう。


 あらゆる不自然が整列している、この奇妙な依頼。

 そして自分という起爆剤を与えれば、恐らくあとは一直線だ。


 間違いなく、ここで、何かが起こる。


 時間は深夜。星は瞬き、風はない。

 アキラは漆黒のローブをひるがえし、全力で走っていた。


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