新しい仲間
あれからひと月くらい経っただろうか――。
俺たちがメインに上げているスキル値はそれぞれ三百を超えていた。
DDOではメイン武器のスキル値が三百を超えるか、特定の複数スキルが三百を超えた場合、自動的に単独ジョブや複合ジョブが与えられる。
ジョブが与えられると常時発動するパッシブスキルというものが発動する。例えば単独ジョブである『剣士』になると、剣での攻撃速度が五パーセントアップしたり、複合ジョブである『騎士』になると、被ダメージを十パーセント軽減したりと効果は様々である。
スキル値が上がり五百を越えると中位職、八百を越えると上位職、千まで上がりきると最上位職となり、ジョブのランクが上がるに連れ、その効果は向上したり、追加されていったりする。
現在、俺のジョブは『騎士』になったところである。
愛華は魔法職を極めていくようで最上位職である『神域の大賢者』を目指して今は『賢者』に、ミズさんは刀の二刀流が好みらしく、まずは『刀・二刀流』というパッシブスキルが発動する中位職の『将軍』になるため『侍』になっており、全員複合ジョブを選択していた。
俺たちはいつも談話する際に利用する喫茶店で昼食を済ませていた。
「そーいや来週リクサール平原越えた先にある、ガラリム鉱山最奥で大規模ボス討伐戦があるらしいな」
ミズさんがホットドックを食べながら話を切り出した。
先日、攻略組と呼ばれるゲームクリアを目的とし、早期ダンジョン攻略等を進める部隊がボスモンスターを発見したのだ。
「聞きました、聞きました。なんでもオーク・ジャイアントとかいうのが出るとか」
言い終わると、俺はハンバーガーを頬張る。
「先遣隊の報告では、三十人いたパーティが全滅したらしく、メイン武器のスキル値が三百以上のやつらが六パーティ程、最低でも五十から六十人近くは必要だとさ」
「最低でも五十人……。そんなに強いんだ……。私たちも参加……する?」
愛華が手に持っていたサンドイッチを皿に戻し不安そうに聞いてくる。
「当然だろ。初めてのボス戦だぞ」
「ちょっと、お兄ちゃん食べながらしゃべらないで!」
ミズさんも興奮しているようだが、俺も初めてのボスにワクワクが止まらない。
「ボス攻略――。どんな感じなんだろう」
俺たちは今まで三人でしかモンスター討伐をしたことがなく、ボス攻略どころかフルパーティでの戦闘経験も無かった。
「よし! 参加するって決まったなら、当日までスキル上げと物資調達しようぜ」
「ボス戦となると今よりもっと強い装備が欲しいね」
「店売りだとあんまり性能が良くないし、良い鍛冶師の人がいてくれたらなぁ」
そんなことを嘆いていると、予期せぬ方向から大声が聞こえた。
「話は聞いたのだ! そこのお前たち!」
「ん!?」
俺たちは声をそろえて驚く。
「このフレイン王国一の鍛冶師と言えば、この私! アメリア・アシュレイなのだ! 名は轟いているだろう?」
振り返ると隣の席のイスに立ってこちらに胸を張っているオレンジ髪ツインテールの少女がいた。耳と尻尾の形的に種族は獣人の狐タイプだ。
「姉さん、恥ずかしいのです……」
同じような顔の、こちらはオレンジ髪セミロングな猫耳少女が恥ずかしそうに姉を静止している。こちらは獣人の猫タイプのようだ。
「知らん! まったく聞いたことがない」
ミズさんがばっさりと切り捨てる。
「お兄ちゃんひどいよ。ちょっと涙目になってるじゃない。確かに全然知らないけど……」
愛華よ、お前も追い打ちしてるぞ……。
「えーと、アメ……リアさん。鍛冶師ということだけど、もしよけれ……って全然聞いてないな……」
アメリアと名乗った女の子はその場でいじけていた。
「私今まで頑張ったのだぁ……お客さんにも良い出来だねって褒められたのだぁ……」
ぶつぶつと嘆く。
「しっかーし! そんなことで挫ける私ではないのだ!はっはっはっはー!」
「開き直るのはえーな!」
「不躾な姉で、すみませんのです……」
妹が頭を下げて謝る。
「いやいや、気にしなくていいよ。君も大変そうだね……」
「そこー! ボソボソとしゃべらないのだ!」
「えーと、それで鍛冶師ってことだけど、武器作ってもらえるの……かな?」
作ってもらえるなら誰でもありがたい。
「お前たちがどうしてもというなら仕方なく作ってやるのだ!」
「いや、別にお前じゃなく……」
「お兄ちゃん! あの……アメリアさん、是非お願いしたいのだけれど」
愛華がミズさんを制し、割って入る。
「そうだろそうだろ! そこまで言うならお前たちの武器、この私が作ってやるのだ!」
気分を良くしたらしく、胸を張って威張っている。
俺はそんな姿を見て、妹がいればこんな感じなのかなぁと少し可愛さを感じていた。
「ありがとう! そういえば自己紹介がまだだったね。俺は深見駿、ジョブは騎士」
「水原都嵩、侍だ」
「妹の愛華、賢者だよ」
「そうかそうか、私の名はアメリア・アシュレイ。マスタークラフターなのだ」
「私は妹のエリカ・アシュレイ。マスターコレクターなのです」
「え!? それって……」
マスタークラフターとマスターコレクターと言えば、クラフト系スキルを全職三百と採集系スキルを全職三百とってるサブ職特化のスキル構成だ。
「そうなのだ。鍛冶だけじゃなく、全ての生産を請け負えるのだ。ただな……今までは、制作代行をしたり、足りない材料を買い取って、制作したものを売ったりしてスキル上げをしていたのだが、全てのスキルを上げるとなると、売れ残りも多くなり、お金が掛かり過ぎて採算が取れないのだ……」
「私が素材を採ってきてあげたいのですが、私たち二人ともサブスキルに全て振っているので、素材のレア度が高くなると採集目標の近くに強いモンスターがいて、護衛が無いと採集出来ないのです……」
二人が嘆き、ため息を吐く。
「あ、だから私たちに声を?」
「そうなのです……。武器を制作する代わりと言ってはなんですが、私たちを護衛していただけないかと……」
水原兄妹を見るとOKの合図。
「もちろんいいよ! 今から物資調達にモンスター狩りに行くつもりだったし、一緒に行こうか!」
「いいのか!?」
「いいのですか!?」
アメリアとエリカが同時に声を上げて喜ぶ。
「二人はどこか行きたいところある?」
「ガラリム鉱山!」
声を揃えて答えた。
俺たちは早速、ガラリム鉱山に向かった。
愛華が移動速度アップの魔法をかけてくれたおかげで思いのほか早く到着することができた。
鉱山入り口でアメリアが口を開いた。
「お前たち、中々の働きなのだ! やはり私の目に狂いは無かったのだ!」
「どこ目線で話してんだよ……」
ミズさんがすかさず憎まれ口を叩く。それでも道中二人に襲い掛かったモンスターを、全て彼女たちに触れる前に討伐している辺りは流石だ。
「目的は鉄鉱石だから、坑道のもう少し先まで進まないとだね」
「来週はここの最奥でボス戦かぁ。討伐できるといいなぁ」
愛華が呟く。
「楽勝だろ。それくらいの自信持ってないでどうするよ」
「お兄ちゃんはポジティブすぎるのよ」
「二人は来週のボス戦どうする?」
アメリアとエリカに尋ねた。
「戦闘スキルが無いのだぞ。行くわけが無いのだ」
二人が首を横に振って答える。
「ボスや、その護衛モンスターから良い素材が手に入るかもれないよ?」
「むむむ……素材は欲しいが、戦闘手段が無いからどうしようもないのだ……」
「アメリアはマスタークラフターで修理が出来るだろ? エリカはマスターコレクターで重量が多くて、たくさん物が持てるし、解体のスキルもある」
「確かにそうなのだ。だが、それがどうしたのだ?」
「そこで相談なんだけど、俺たちの専任修理屋と予備武器持ちやドロップアイテム回収役として一緒のパーティで参加しないか?」
「え!?」
アメリアとエリカが同時に反応する。
水原兄妹の方にも目を遣ると、構わないといった様子だった。
「いいから聞いてるんだよ。ダメか?」
「私たちは戦闘のイベントには縁が無いと思っていたのだ……」
「本当にいいのですか……?」
「よろしくお願いするよ。ボスから手に入った素材とかで武器とか作ってもらえたら、俺たちにもかなりのメリットがあるしね」
「よろしくね。頼りにしてるよ! 二人とも!」
「まぁ俺のパシリとしてしっかり働けよ」
「誰がパシリか! ミズこそ私のパシリとしてしっかり護衛するのだ!」
「姉さんっ!……皆さんよろしくお願いしますです」
緊張感の無い会話で盛り上がった後、俺たちは目的地を目指し、歩みを進めた。