初めての出会い
ざわざわと音が聞こえる。
静かだった空間から一転物凄く騒がしい。
俺は再び目を開けてみると、先ほどまでいた自室とは比べ物にならない広さの洋風な城下町の広場に立っていた。
周りにいる人々も辺りをキョロキョロと見渡したり、単純に「すげー!」といったわかりやすい感想を述べている。
どうやらここがスタート地点のようだ。
皆これからどうするかの話し合いをしたりしている。一人で散策する人や、パーティを組んで一緒にゲームを進めようとする人等様々だ。
そんな中、俺は初めて目に入る光景に戸惑いを隠せなかった。
「これが空――。これが日の光――」
疑似的に作られた空間なのは理解しているものの、目の前に広がる光景、目を開いて動ける感動に自然と涙がこぼれていた――。
俺はしばらく辺りにある色々な物を見て回っていた。
ゲームを進めることよりも、初めて見るものばかりに目を奪われていた。
そんな時、近くの花を見ようと丁度しゃがみ込んだ瞬間に、一人の女性に話しかけられた。
「大丈夫……? 何か探してるの?」
栗色のボブヘアーがよく似合っている歳の近そうな女の子で、種族も俺と同じで人間タイプのようだ。
「あっ! ごめんね。急に話しかけて。ただ凄く気になっちゃって」
その容姿に加え、涙目で見上げたこともあり、初めて直視したその女性はキラキラしていて俺には女神のように見えた。
予想外のことに焦りまくる俺だが、慌てて立ち上がり答える。
「大丈夫、大丈夫! 心配ありがとう! えぇ……と、君は……?」
「私!? ……そうだよね。まだ名乗ってもなかったね。私は水原 愛華あなたは?」
「俺は深見駿。探しものじゃないんだ。」
「そうなの? 泣いてたみたいだし何か無くしたのかなって」
「格好悪いとこ見せちゃったな……」
一息ついてから答える。
「俺さ、生まれつき目が見えなくてね。このゲームをプレイしようと思った理由も自分の目で色々な物を見たかったからなんだ。ただ実際目にしたら感動しちゃってね……」
「ごめんなさい……! 私……」
「いいよいいよ! もう慣れっこだしさ。それに今はこうやって君を見ながらも話せてる。」
「そう言ってもらえると助かるかな」
愛華が胸を撫でおろした。
「ってタメ口きいちゃってたけど、年上とかだったらゴメン……!」
「全然大丈夫だよ。ちなみに私は今年高校一年生になったところかな。」
「そうなんだ! 俺も高一! 同い年だったんだね。水原さんは一人なの?」
「今は……一人かな。あ、同い年なら愛華でいいよ。私も駿君って呼んでもいいかな?」
「わかった。勿論大丈夫だよ。今はって、後で誰かと合流予定なの?」
「うん。お兄ちゃんと一緒に始める予定だったんだけど、さっきお風呂入り始めたところだから、あと一時間……じゃなくて四時間後くらいかな?」
「経過速度が四分の一だから一時間もずれるとなかなかだなぁ……」
「一緒に来たかったんだけど私が眠気に勝てなくて……あ、そうだ! 良ければなんだけど、お兄ちゃんが来るまでの間だけでもいいから私とパーティ組んでくれないかな?」
「え!?」
「私一人だと心細かったんだよね。駿君が良ければお願いしたいかな」
「俺でいいの!? むしろお願いします!」
「いいから頼んでるんだよー。よろしくね」
ニコッっと微笑む顔が可愛すぎた。
「こちらこそよろしく! ヒャッホー!」
「喜びすぎだよー。駿君っておもしろいね」
いやいや、こんな可愛い子とパーティ組めて喜ばないやつがいるわけがない。
さっきまでの涙が嘘のように吹っ飛んだ。
さて、これからどうしたものか。
「パーティ組んだのはいいけど、まずはどうしよっか?」
「駿君はチュートリアルは見た? 私はまだちょっとだけしか見てないんだけど」
「そーいえばゲームそっちのけだったから、俺も全然見てないや……」
「見方はわかる? こーやって中指と人差し指を立てて視界の右から左にスライドさせるんだけど」
「なるほど」
愛華のマネをしてやってみる。
「お、メニューが出た」
「下のほうにチュートリアルがあったよ」
「あったあった。えーと、まずはスキルを確認して、上げたいスキル対応の装備品、技とか魔法のスクロールを購入するみたいだね」
「うんうん。メニューに職業のリストがあるから、ここからなりたい職業に必要なスキルを把握しておくといいみたい」
「職業かぁ……何がいいかなぁ」
しばしの間二人で考え込む。
「私は魔法使ってみたいかも。全ての魔法を使える賢者になってみたいかな」
「いいね! それじゃあ俺は、パーティメンバーを守れるようなタンク職を目指そうかな」
「そうと決まれば、武器とか買いに行かないとね!」
「オッケー! まずは愛華の杖と魔法を覚えるためのスクロールを買いに行こう!」
「どこにあるのかなぁ? 広くて迷子になりそう……」
「視界の右上の方にMAPのアイコンがあるね」
俺はそう言いながらMAPを開くと、この広場の地図が表示されており、フレイン王国城下町中央区エルトゥス広場と書かれている。
俺はMAPをズームアウトし、位置関係を確かめる。
「あった、あった。ここからすぐのところみたいだ」
「それじゃあ、行こっか」
俺たちは魔法職専門の販売店に向かうことにした。
どうやら武具店と魔法スクロール店とで分かれているらしい。
「まずは装備からだね。色々あるなぁ」
愛華が店主と色々話している。
「うーん……スキルがまだ初期値でこれしか使えないし、ローブはお金が足りなくてまだ買えないみたい……。ざーんねん」
がっかりする愛華。そんな姿がまた可愛い……! って変態か俺はっ!
「気に入った装備を使えるように一緒にスキル上げとお金稼ぎ頑張ろう!」
「うん! すみませーん。この杖ください」
「三百ジェイルになります」
『ジェイル』というのは、このゲームの通貨でゲーム開始時から、みんな千ジェイルずつ所持しているみたいだ。
「次は魔法のスクロールを買わないとね」
隣の魔法スクロール店に行く。
「すごーい! いろんな魔法がある!」
愛華が大きな声で喜ぶ。
たしかに凄い量だ。種類も自然魔法、強化魔法、回復魔法、付与魔法、補助魔法、神聖魔法、暗黒魔法、召喚魔法があり、それぞれにスキル帯ごとで覚えられる魔法が複数あるようだ。中には複合魔法なんてのもあるみたいで、二つ以上の特定スキルを一定数値まで上げていないと使えない魔法もあるらしい。
「効果も書いてるし、これを見て自分に必要な魔法を覚えて行く感じだね」
「うーん……、とりあえず回復魔法と強化魔法を覚えようかな。一つ二百ジェイルだから三つしか買えない……少なすぎるよー」
またもがっかりする愛華だが、悩みながらも三つ選択し購入していた。
「おまたせー。あんなにいっぱいあるんだもん。迷っちゃうよー……」
「それで、結局何を買ったの?」
「えーと、HPを回復する魔法とSTを回復する魔法。あとは、防御力を上げる魔法だね。」
「さっそく覚えて使ってみようよ」
魔法というものがどんなものなのか気になり、促してみる。
「そうだね。私も早く使ってみたい!」
愛華はスクロールを開き、出てきた『使用しますか?』というメッセージウインドウの『Yes、No』のYesボタンを押す。
「これで、覚えられたのかな? なんかあんまり実感ないなぁ」
「何か呪文詠唱とかするの?」
「えーっとねぇ、魔法はアシスト機能が働いてるみたいで、魔法の名前を言うだけでとりあえずは使えるみたい」
「それは楽でいいね」
「ただ、メニュー画面の魔法リストに書いてある呪文を詠唱すると威力が三十パーセント上がるみたいなの」
「あぁ、じゃあ詠唱できる場面はなるべく詠唱した方がいい感じなんだね」
「うんうん。でも今は数が少ないからいいけど、あんなにいっぱい覚えられるかなぁ……」
たしかにあれだけの魔法一種類でも全部暗記は大変だなぁ……俺には向いてないな……。
「詠唱は12個ある魔法文字の組み合わせみたい。例えば防御力を上げる魔法は――」
愛華が杖を構えて、こちらに向ける。
「アイン、ウィータ、フィール……プロテクション!」
詠唱と同時に愛華の足元に魔法陣が浮かび上がり緑色の光を発している。
詠唱中から杖が輝きだし、詠唱後俺の方に魔法が飛んできた。
「うぉっ!」
思わず声がでる。
「どう? どんな感じ?」
「んー、いつもとあんまり変わらないかなぁ。いや、視界の左上にバフ(能力強化)アイコンが出てる。ちょっとその杖で俺のこと叩いてみて?」
「えぇっ! い、いいの……?」
と言って、思いっきり振りかぶる。
「ちょっ! 待って! まずは軽くだよ! 軽く! あと一応お尻とかにして!」
出会ってすぐの女の子に尻叩かせるとか、どんだけ変態だよ俺!
「あはは。冗談だよ冗談。それじゃあいくね」
愛華の杖がお尻にあたる瞬間、何か抵抗があったようで軽くはじかれる。
「わわっ」
愛華が驚いている様子。
「全然痛くなかった! 凄いな魔法!」
「ほんと。私の方がびっくりしちゃったよ」
「よし、それじゃあ今度は俺の武器とか見に行ってもいいかな?」
「勿論だよ。行こー行こー」
俺たちは戦闘職向けの武器屋を目指した。
「ここか。とりあえず武器と盾を買わないとなー」
「魔法もいっぱいあったけど武器もいっぱいあるねー」
「んー……盾はこの木の盾しかまだ装備出来てないみたいだけど、武器はどれを使うかなぁ」
「剣とか槍みたいな近距離の武器と、鎖鎌とか投擲武器みたいな中距離な武器、弓とか銃みたいな遠距離の武器があるみたいね」
「俺は近距離で使う武器がいいかな。それでも色々あるな……短剣、長剣、サイス、アックス、槍、棍棒、ハンマー……拳や蹴りの装備まであるな……。しかもそれぞれ使う武器で上がるスキルも違うみたいだ」
「ほんとこんなにいっぱいスキルの種類があると、誰も一緒の構成にならないかもしれないね」
「自分にあった物を探すのには骨を折りそうだ……」
武器の威力や重さ、攻撃速度などをみて俺はとりあえず長剣を選ぶことにした。
「この剣と盾をください!」
「合わせて五百ジェイルだ。坊主、防具はいいのかい?」
武器屋の巨体な店主が答える。
「欲しいところなんですけど、残りがもう五百ジェイルしかなくて……。これで足りる防具とかありますか?」
「新品でその額で出せるのはねーな、だがこいつなら五百ジェイルで売ってやってもいいぜ」
店主は少し使用形跡が残る革の鎧を出してくる。
「いいんですか!? 良ければ売ってほしいです!」
「オーケー。なら全部で千ジェイルだ」
「ありがとうございます! おじさん!」
「バカヤロー! 俺はまだおじさんじゃねーよ!」
俺は有り金をはたいて武器防具を揃えた。
「ん? 技買う金がねーーーー!」