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05 9月15日 笹尾山、石田三成本陣 未〈ひつじ〉の刻(午後2時ごろ)

誤字のご連絡、毎回ありがとうございます。

これからもよろしくおねがいします。

各隊に炊きたての飯と汁を届け終えて自陣に戻ってきた。

自陣では蒲生郷舎と交代した島左近も戻って遅い昼飯を食っている。


「ご苦労だったな、左近。細川は死に狂いして()ったであろう。」


「なに、戦場(いくさば)で狂わねば狂う時が御座らぬ。この左近など、敵味方両方に『死ねや死ねや』と喚いてござるわっ、はっはっはっ。」


「左近らしいな。だが先は長い、兵は労ってやろうぞ。」


「誠に。帰陣してすぐに温かい飯が有るのは良いですな。干し(いい)では今ひとつ力も湧きませぬ。」


「やはりな。中島殿が首を縦に振ってくれたので助かった。で、今は黒田が寄せてきているのだろうが、細川勢はどの程度削れたかの?」


「槍合わせでは、双方大した損害は有りませぬな。坂も有り、穂先が相手に届くほど深くは双方寄せませぬので、槍同士が派手にぶつかるだけで御座るわ。されど、不意に出てきて撃つ鉄砲で確実に損害はふえまする。三百ほどは削れたかと。」


「まずまずと言った(ところ)か。ちと、角度が悪くて見通しにくいが、小西殿、そして宇喜多殿の向こうの大谷殿はどうなっておる?左近なら見えるか?」


「小西殿は良く見えますぞ。今は…田中吉政と交代で寺沢広高が取り付いて居るようですが、此処と似た感じの様子ですな。正面しか槍合わせ出来ぬので小西殿も余裕がありそうですぞ。」


史実では開始早々苦戦を強いられた小西行長隊だが、宇喜多隊などを北側に寄せたため小西隊の戦闘正面が東側しかない。兵の密度も高くなっているのでこの世界での小西隊の位置はかなり余裕がありそうだ。


「それは良かった。しかし、田中吉政か。」


「仕方ありますまい。福島正則が敵になっては岡崎は孤立します故。」


「まあいい。市松(福島正則)の阿呆はそのうち目を()まさせてやる。」


「?…っと大谷殿でしたな。宇喜多勢の向こうでなかなか見にくく御座るが…お、まさにその福島正則が中山道側に回り込んで大谷殿と槍合わせしておる様子。」


「福島正則が?か。では宇喜多隊の正面は誰が支えておるのだ?」


「宇喜多隊の正面、東は井伊が当たっておりますな。京極も加わって居るようですぞ。」


防御陣形の宇喜多を避けて側面の大谷隊に当たるか。粗暴なだけの猪だが勘所(かんどころ)だけは相変わらず良いな、市松は。あるいは抜け駆けした井伊が不愉快で、宇喜多正面は井伊に押し付けたか。


「国友藤二郎!出来ておるか?」


「はっ、御申しつけ通り、2門用意しました。1門は少な目の火薬、2門めは通常量の火薬で御座れば、1門目の具合を見て、2門目を打つかどうか決めたく。」


「おお、よく気が付いた。流石だな。」


国友藤二郎が少し意外そうだ。あぁ、オリジナルの三成だと


”そんな事は当たり前だ。”


という感じだったのだろうか。


「では早速試し打ちに行くぞ。相手は福島の猪だ。此処は頼んだぞ、左近。」


「はっ。殿もお気をつけて。」


小西隊の後方を通るついでに島津隊にも挨拶の伝令を出して、福島正則を懲らしめる事を伝えておく。次の宇喜多隊にも同じく伝えながら大谷隊の本陣へ向かう。

帰ってきた伝令がなにか言いたそうなので()いてみる。


「どうした、上機嫌だな。」


「は、ははっ。実は、宇喜多様が随分と殿を褒めておられまして。」


「ん?どのように云われたのだ?」


「は。その、殿の事を”この大戦(おおいくさ)で少しは変わったようだな。”と上機嫌であらせられました。」


それは誉めているのか?水面下だった評価が水平線まで戻っただけ程度のようだが。まあいい。大谷隊の本陣に着いた。


「入るぞ、紀之介。」


「おお、佐吉か。飯は助かったぞ。よく気が付いたな。」


「なに、これからは儂が出来る事をする事にしたのだ。」


「………ほぅ………。」


「で、もう一つ出来る事が有るので此処(ここ)に来た。市松を一発張り倒してやろうと思うが、良いな。」


「?何をする気だ?」


「これよ。」


国友藤二郎が進み出て抱え筒を見せるが、目の見えない吉継は(そば)付きの湯浅五助から説明を受けている。


「大筒か………まあ、やってみろ。市松は戦場(いくさば)での筋は良い。撃つ前に突っ込まれないように注意せよ。」


「わかった、気を付けよう。」


あまり期待していないな。通常弾と思っているから仕方ない。


「藤二郎、槍合わせしている最前列の隙間から撃つぞ。撃てるようになり次第、敵陣で一番目立っている相手にむけて撃て。」


頷いて藤二郎が火縄を再確認している。藤二郎と共に最前列に出るとすぐに、やたら大声で喚いている男が目に入る。


”奴が福島正則か………”


「おい、なぜあ奴を撃たぬのだ?」


近くの大谷勢の兵を捕まえて尋ねる。


「え?あっ、はっ。幾度も撃って居るのですが、常に不規則に動き回りますので、当たらぬのです。」


なるほど。市松の粗忽(そこつ)さが幸いするか。運の良い奴は得だな。


が、その時、


ゴウ………ズァーーー


まるで(ひょう)だな。横殴りに葡萄玉の散弾が大男周辺一帯に叩きつけられる。


”お、やったか?”


大男の周囲の武者がしゃがみ込んだりのたうち回っている。即死とは行かなかったようだ。大男が馬の首に突っ伏して下がって行く。


”成功だが、威力不足か…”


ガウ………ズァーー


先ほどより一段と荒々しい音と共に第二射が打ち出される。途端に直撃を受けた数人が薙ぎ倒され、今度は動かない。即死のようだ。流れ弾があたった周辺の武者も転げまわっている。


「やったな、藤二郎。」


微笑む藤二郎も満足そうだ。これで大筒の野戦使用も目途が立った。大谷吉継に会ってから帰ろう。


「紀之介、今は此処までしか出来ぬ。退けたが打ち取れていない。」


「いや、見事…だが何をした?」


「弾に細工した。小石や屑鉄の破片を詰めて打ち出しただけだ。」


「小石や屑鉄…そうか、考えたな…。」


「今夜軍議になるだろう。軍議の後で話がしたい。」


「判った。………佐吉………変わったな。」


やはりバレたか。唯一といえる親友だ。中身が変化した事はすぐに気が付いただろう。

別人が憑依しているとまでは思わないだろうが。


「………まあな。藤二郎、戻る。」


わざとあっさりと引き上げる。長居すると全部見透かされそうだ。



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[一言] ミツナリの好感度が20→40に成った。
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