01 9月15日早朝、笹尾山三成本陣
ここは? まさか、此処って………
《 気が付いたか。 》
「なっ、歴史の爺神!」
《 光秀ではうまく切り抜け居ったのう。ちと楽すぎたか。 》
「なんで良いとこで呼び戻すんだよ、俺の、じゃない、亀寿の膝枕返せ!」
《 呼び戻さにゃ、あそこで死ぬからのう。 》
「え?そうなの?」
《 という訳で、次の試練じゃ。 》
早くも周囲が光りだしている。
「ま、まて!」
《 待ったは反則じゃ。知らんのか? 》
「いや、せめて次はもっと若い奴で!」
《 前より若いから安心せい… 》
聞き終わる前に意識が混濁して………
……
…
………うう、くそっ。あの糞爺全く話を聞かねえ。
寒むっ…うわ、濡れ鼠じゃないか。
ガチャ、ガチャ、ガチャ………
あぁ、この聞き慣れた音。具足の音だ。だが目の前が真っ白な霧に閉ざされていてなにも見えない。周囲もびしょ濡れで雨上がりの早朝だな。雨の中の野陣だったから全身ずぶ濡れなのか。
オー……ぶおぉ~………
遠くで喊声やら法螺の音がする。すでに戦が始まっているようだ。
「治部少輔様、宇喜多様が敵勢と接触された模様!」
早朝で霧の中でズブ濡れ。そして宇喜多勢が開戦。で俺は治部少輔…ね。関ケ原の戦い当日の石田三成に憑依させられた訳だ。って、無茶苦茶ピンチじゃないか。大急ぎで手をうたないと。と、とにかく急ぐのは…
「使番!、大谷隊、と宇喜多隊に伝令だっ!」
即座に二名の伝令が来る。ったく三成のヘボ野郎。伝令一人ずつだけで届かなかったらどうする。
「これからは常に異なる経路で2名ずつ出す。急げ。」
慌てて二名追加で出てきて四名が揃う。
「両隊に連絡。『中山道は抑える必要無し、陣を北に移動しつつ集中されよ。中山道には毛利元康、立花宗茂両隊が来援しつつあり。』だ。大谷隊へは続きがある。」
宇喜多隊への伝令2名が先に駆け出してゆく。
「『小川、朽木、脇坂、赤座の四隊は小早川隊の前衛として残置すべし。』だ。『意味はすぐに判る。』とも付け加えよ。」
宇喜多隊は福島勢を抜け駆けした井伊直政(松平忠吉、徳川家康の4男…も同陣)が取り付いているはずだが、一番槍をつけるだけの狙いなので程なく下がるはずだ。一息入れる事はできるだろう。
大谷吉継は三成を信用してくれる唯一の盟友なので、いきなりの要請に疑問を感じつつも従ってくれるはずだ。すぐに小早川から離れさせないと危険で今にも小早川が襲いかねない。が、指示どおり小早川前衛に小川、朽木、脇坂、赤座の四隊を配置すれば、裏切り予定者同士の同士討ちになるので小早川が動かない可能性がでてくる。尤も、小早川は黒田長政の調略、4人衆は藤堂高虎の調略でお互いが内通していると知らないかも知れない。その場合でも、内通者同士で相打ちさせられるので史実よりずいぶんマシになる。
「大筒の…ぶ、奉行をこれに!」
くそ、役職名が不明だ。意味は通るはずだが、どうだ?
「国友藤二郎これに。」
ああ、成る程。鉄砲で有名な國友村の一族だな…そういえば三成が国友村を差配していたはずだ。
「藤二郎、葡萄弾はいけるか?」
「?はて。葡萄弾?とは、どのような玉でござろう?」
くそっ。三成の軍事音痴めぇ。野戦なら散弾が必要な事ぐらい想像できなかったのかよ…
「むっ、指示を忘れて居たようだ。許せ。通常弾で良い。これから左近が突撃して敵を追い散らすが二度ほど追い返したら、左近が居る位置の北側の山裾に向けて大筒を射て。二射で良い。左近への合図だ。抜かるなよ。」
「はっ、しかと。」
よし。次は
「左近、郷舎!」
「はっ。」
主力となる島清興と蒲生郷舎 だ。
「左近は敵が寄せてきたなら撃退せよ。ただし、大筒の合図があれば必ず引け。伏兵が居る。郷舎は左近がでた後の此の陣を支えよ。儂は兵庫を連れて島津殿に会いにゆく。」
兵庫とは舞兵庫。左近、郷舎と同じく三成が自身の貧弱な武力を補うべく招聘した猛将だ。手勢約千を率いている。
「?島津殿…でござるか?」
左近が訝しがる。
島津義弘と島津豊久が石田隊の南に布陣しているはずだ。だが、本国の島津義久がこの戦いに消極的で、わずか千五百しか兵が無い。これでは如何に勇猛無比の島津勢でも満足な戦いは出来ないのでなんとかしたい。だがそれ以前の話、家康着陣を受けての軍議で島津義弘提案の赤坂(家康の着陣した地点)夜襲を却下して心証を害しているのだが…
「うむ。先日は島津殿に配慮が足らなんだ。今からでも埋め合わせをしようと思う。」
「は?今からで御座るか?」
「無理は承知。だがこの戦、島津殿抜きでは決して勝てぬ。」
これまでにも思い付きで行動する事が度々有った三成だ。さほど可怪しくもないはずだ…それに左近とて、この三成に戦の現場での用兵の妙など期待していないだろう。
「されば、我ら両名で此の陣はお守り致しましょう。」
「すまぬな。頼む。」
さて、機嫌をすでに損ねている島津義弘をなんとかしないと。
しかし、うう…腹痛え………。そう言えば当時三成は腹痛起こしていたんだった………




