11 9月16日 北天満山、中島氏種陣中 卯〈う〉の刻下(午前7時ごろ)
誤字のご連絡、いつもありがとうございます。
急に冷えました今朝は、ちょっと鼻水が。
おわぁ~~………パーン………パパーン………わぁ~~
諸方から喚声や銃声が聞こえてくる。今や西軍陣地の全方面で戦闘たけなわだ。
その中で家康本軍は高みの見物。秀吉と多かれ少なかれ関係が有った連中同士噛み合わせて良いご身分だな。
結局、豊臣恩顧と謂えどもこの程度の連中が殆どなのだ。
最後まで秀頼を支える気が有るのは、俺(三成)と刑部、宇喜多、小西、それに文官だが長束正家。そして真田。あとは誰が本当の敵かすら判らぬ阿呆の市松(福島正則)に両加藤。…まあ、虎(加藤清正)は家康の会津(上杉景勝)攻撃に反対しただけマシだが。他はこのザマだ。
………いや。もう一人居たな。岩村城4万石の小身代ながら節を曲げなかった田丸直昌。今も西軍の旗を掲げて孤立している。
岩村城は名にし負う堅城だ。まともに力攻めすれば寄せ方大敗が見えているだけに今回も家康に放置されている。東軍諸将も攻城に名乗りを上げる者はいなかったのだろう。
田丸も両軍から忘れられている一人だな。何れ働いてもらう場面が出るやもしれぬ。連絡しておきたいが、風魔待ちだな。
秀吉もおかしい。家康が伏敵と判っていたなら、徳川と犬猿の仲の真田を加増すれば良かったのだ。あるいは毒を以て毒を制す、黒田如水と家康で関東を折半しても良かった。両雄並び立たず、早晩相打ちになっただろう。わざわざ東西に面倒事の種を蒔いてどうする。
ドズ~ン………
「治部殿。東軍も猛攻してきておりますが、お味方も善戦ですな。しかし流石島津様。絶妙の間合いで大筒を使って小早川の勢いを制されて居りますぞ。」
「松尾山を回り込んで長曾我部殿が参戦するまで、あと半時(約1時間)といったところか。」
「そうですな、それぐらいは必要でしょう…おお、東では左近殿が田中吉政勢を追い散らしましたぞ!」
左近が出たか。大丈夫か?狙撃されなければよいが………
「左近は………深入りせず引いたようだな。」
「ですな。半円を描くように小西殿の陣へ戻られる様子。」
昨日北の山陰から狙撃されている。今日は見通しの良い中央側に戻ったのか。
福島・細川の合計約1万が下がっているのも有って昨日よりは安心して見ていられる。浅野も特に弱い兵ではないが、狂気を宿した細川忠興勢よりは、常識的な強さだ。
「中島殿、長曾我部殿が掛かられれば島津殿も突撃されましょう。この方面は短時間である程度の形勢が定まり余裕が出るはず。その時に差し入れできるように、そろそろ準備を始めましょう。」
「なるほど、朝は摂ったと云え軽いですからな。」
南東の戦場では小早川の大軍勢を大谷隊と宇喜多の右備えで支えている。人数差が有る上に接敵面が広く、かなり苦しい感じだが、後方で待機している島津勢はまだ動かない。
ドズ~ン………
危ないな…と思った頃合いに、大筒が轟き小早川勢が隊列を組み直すため少し下がる。長槍兵の列に穴が有ると隊列内に切り込まれる。槍襖を突破されると長槍は無力なので再編成が必要だ。
「上手いものだな…」
「島津様ですから。島津勢も九州では兵数で劣勢でしたが、大友や竜造寺を破って居られます。わざと危なそうに見せかけて居られるだけかも知れませぬ。」
紀之介は無策で普通に対応しているだけだ。だが島津義弘が支援のタイミングを調整する事で、結果的に少しずつ誘い込んでは削っているのか。
「お、あれはっ、”七ッ片喰”!!」
七ッ片喰は長曾我部氏だけが用いたと云われている。漸く長曾我部勢六千六百が陽の目を見たか。
真後ろにいきなり敵が現れて小早川勢が混乱している。小早川勢が突撃を止めて後ろに備えを造りかけた、その時、
ブォ~~ブォ~~
満を持して島津勢の突撃が始まる。
「治部殿、これは決まりで…ん!?あれは!」
「丸に三つ葵………家康では無かろう。松平忠吉か。だが先鋒は井伊直政のはずだ。わざと徳川の旗を押し立てて士気を立て直す気だな。」
「くっ、その井伊が長曾我部勢と噛み合いますぞ! これでは小早川勢をみすみす逃がして………え?」
大谷隊に掛かっていた小早川勢の右半分が島津勢に食い千切られつつある。小早川勢は後陣の一瞬の乱れを突かれたまま、混乱を回復しきれていない。
「…さ、流石島津様。あの一時の乱れを突き、小早川勢の立て直しを許されておりませぬぞ。」
「確かに。いや…小勢だが、もう一手また来たぞ。」
「…治部殿、あれは小早川勢の両側に分かれた四将のうちの二人…脇坂と赤座のようです…が…双方合わせても千ちょっと程でしょうか。」
「だが裏切り者にしては勇猛だな。流石の島津殿も勢いが鈍って居るようだ…。お、おい、中島殿、あれを!!」
「丸に抱き花杏葉 !!」
「………立花宗茂…殿か。早い。」
立花、毛利(元康)両隊の着陣は午後と予想していた。…大筒か。大筒の音が届き激戦になっていると悟って立花隊四千が先行して来てくれたのか。




