被験者1 「フリーター多奈川さんの場合5」
完全自給生活の政策が始まり、初めての給料日を多くの国民が迎えた。以前からの給料日の関係でまだ制度下初給料を貰っていない人もいるが私は早めに貰っていた。
多くの人が歓喜し街には高給だったであろう人が超機嫌よく歩いている。その反面と言って良いのかわからないが道端の縁石に座り頭を抱えている人も見受けられる。
給料日前までは道にゴミが落ちていたら拾うくらいのスタンスでごみを拾っていたが、給料日後はゴム手袋をして街指定のごみ袋各種を装備して生け垣の奥を覗き込んでまでごみを集めている人が見受けられるようになった。
ごみを拾うという善行を全ての人が本腰を入れてやりだしたのだ。他にも高齢者が大きな荷物を持って大変そうだったら『持ちましょうか?』といった声かけがされるようになった。
高齢者側として荷物を盗んだりした場合は評価に繋がるから安心して荷物を持って貰う事ができる。
だが、これも断られているのに無理やり奪うような親切の押し付けだった場合はマイナス方向に評価される。
何が正解かはわからないが、すべての人が目に見えた善行に励む事により善行の取り合いが始まっている。明らかな争いはないが水面下での戦いは繰り広げられている。
道にはもうごみは落ちてないし、困った顔をした人はすぐに誰かによって助けられているから善行はみるみる内に消費されていく。実際に私は給料日以降でごみも拾えてない。
確実に需要と供給のバランスが崩れ供給ばかりが余ってしまっている。
これは危険である。
自分が意識していた善行はどんどんとできなくなっていく。そうなると来月の給料が少なくなってしまう。
初給料でそこそこ貰ってしまったから、それより低いのは許されない気がする。私は様々な苦悩を抱えたまま、バイトに向かった。