被験者1 「フリーター多奈川さんの場合3」
私が銀行に行くと同じように銀行に来ていた人達がキレイな列を作って並んでいた。列にキレイに並べないのは悪い事だとみんなが考えたのだろうか?制度が始まって初めての給料日となる人達からすればしっかりと給料が振り込まれているのか不安もあるようだ。私も列に並んで待っていると嬉しそうに帰る人や納得いかないと言った感じの人、明らかに肩を落としている人などが見られた。私が並んでいた列とは少しはなれた所で怒声が聞こえた。
その周囲が騒がしくなり警備員が走ってきて40代くらいの男性を無理矢理に連れて言った。周りから『あの人はきっと給料が少なかったんだな』『あれって悪循環じゃない?』『恥ずかしい』・・・などの声が聞こえてきた。
暴れたりするのは暴行傷害とかになる可能性があるし物が壊れたり誰かに暴言をはくのも時給ダウンに繋がる。
どんな理由があっても騒ぐ事はやめておこうと思った。
今日のためにATMも増やして対応していたようだがそれでも足りていないのか列の最後尾は遠くなるばかりだった。
時給のアップ・ダウンポイントの確認はできるが、最終的にいくら振り込まれるのかはその日にならないとわからないためワクワクもするし漠然とした不安がある事も否定できない。
今までの感じではバイトを4つかけ持ちしてほとんど休みもない状態で手取り20万超えれば良い方だった。
そんな私の番が近づいてきて心臓が緊張で早く脈打つのを感じる。私の番になりブレスレット認証・静脈認証・暗証番号認証の三度の確認をしていく。
ブレスレット認証は、国民がそれぞれつけているブレスレットに組み込まれたチップを認証する事により、その人の基本情報がATMに読み取られる。作業が終了すると情報の更新と共にATMに読み取られた情報は跡形もなく消去されるので、このATMから個人情報の流出が起こる事はあり得ない。
次に本人確認のための静脈認証をすませれば、とりあえず口座の確認をする事はできる。そこから入出金をする場合は暗証番号の入力が必要になる。生活費が必要なので暗証番号の入力をして明細書を受け取る設定にしてからとりあえずお金を下ろした。
私は財布に金を入れて明細書を受け取り落ち着ける場所でゆっくり確認するために取引を終了してデータ消去が終了した事を通知する画面にでた終了ボタンを押してATMの前からどいた。
今日下ろそうと思ってた15万円は問題なく下ろせたので、それ以上の給料が振り込まれていたの確かだった。